1:サウンドウェポン

 

 新聞記事での衝撃発表や続報等が流れた数日後、政府から今回の新聞記事に関する件についての記者会見が行われた。分かりやすく簡単にまとめると、サウンドウェポンを使った対人戦バトルを年末近くに行うと言う物である。

「曲に関してはサウンドウェポンのシステムに異常を起こすような物でなければ、特に制限は設けない事にします…」

 サウンドウェポンに使う曲に関しては、Gユニゾンの同じ楽曲が他の対戦相手と被ろうが、CD未発表の楽曲を持ち出しても大丈夫のようだ。西雲のサウンドバーストシステムのような広範囲に被害が出るようなシステムの使用のみはNGとなっている。

「使用可能なサウンドウェポンは現在稼働中の物限定、カスタマイズは対戦相手のサウンドウェポンに直接的な障害を起こす、相手に怪我をさせるような仕様でなければ特に制限は設けません」

 カスタマイズや使用可能なサウンドウェポンに関しても特に制限はない。ただし、稼動予定の新型の導入、対戦相手に物理的な外傷を与えるような物に関しては認められない。以前に西雲の偽者が使っていたサウンドウェポンに関しては、その後の調査等で物理的外傷は与えていないと判明し、今回の大会には使えるようだ。

 

 この日、各地のゲーセンにもサウンドウェポン全国大会の告知ポスターが貼られた。これが経済に影響するかどうかは、今後の動向を見ないと不明だが、各地のゲーセンが今回の全国大会に便乗するかのようにサウンドウェポンを相次いで導入…という事はさすがにないようだ。中には、全国大会に便乗する形でサウンドウェポンを導入していない店舗でも導入を始めた場所もある。この辺りは月に生産出来る台数に限りがある事も影響しているのかもしれない。ただ、中にはサウンドウェポンを導入していないゲーセンもいくつか存在する。導入するにしても専用筐体の値段が高いというのもあるのだが、サウンドウェポンの大型筐体を置くスペース確保の問題がある。サウンドウェポンを置くよりもプライズゲームを1台置いた方が…と考えるゲーセンも少なくはない。

 

最終的には、全国大会の予選店舗募集告知までに7割の店舗がサウンドウェポンを導入したのだが、その内の6割近くが既に導入済の店舗であり、新規導入は1割と少しであった。

 

「…以上が、現状でのサウンドウェポン全国大会に関する周知状況になります」

 店舗募集告知から数日後に行われたGユニゾンの定例会議では、サウンドウェポン全国大会開催に関してのイベント進行状況説明がメインとなっていた。

「これが、全ての始まりとなるのか…」

「Gユニゾンの楽曲を使っているプレイヤーが勝利すれば、Gユニゾンの偉大さが少しでも理解される…かもしれません」

「しかし、この大会構想は西雲隼人も考えていたと言う話を聞いている。もしかすると…我々は西雲の手の中で踊らされているのかもしれない」

 他の議員も今回の件に関しては弱腰になっている者もいる。西雲隼人が所属している会社のHPにて政府のサウンドウェポン全国大会に関して触れた記事を公開しているからである。

「西雲本人もエントリーする事を十分考えると、こちらに勝算がないように見える。Gユニゾンのメンバーを参加させる案も西雲と対決する事を考えると…」

 一時は西雲を意図的に強プレイヤーと対戦させて消耗を狙う案やGユニゾンメンバーの対戦に限って不戦勝に…という案もあったのだが、それらを西雲がHPに記事を公開した事によって完全に封じられた格好となっている。

「ここは、Gユニゾンの楽曲で参加するプレイヤーにまかせるしか方法はないか…」

 サウンドウェポンのプレイヤーは5万人以上いると言われている。その中には、Gユニゾンの楽曲を得意とするプレイヤーも何人かいる。彼らが勝ち残ってくれれば勝算はあるかもしれない…。そう思われていた時もあった。しかし、それは予想もしないような展開によってあっさりと撃ち砕かれる事となる。

 

 最初の予選が終了し、その結果が速報と言う形でネットに発表されたのだが…。

「これは、どういうことだ!」

 政府は予選ベスト8に残ったプレイヤーの楽曲を見て驚く。使用楽曲にGユニゾンの曲が1曲もなかったからである。

「何と言うパーフェクト祭り!」

 実際に予選を見に行ったプレイヤーは揃ってこのように言う。

「予選動画はないのか…」

 地方のプレイヤーにも速報と言う形で速報スペースに流れるのだが、センタースクリーンを導入していない店舗では、予選のリプレイはチェックできないのである。その為、予選動画をネットで探すプレイヤーもいた。

「スーパープレイをこの目で見たかった…」

 センタースクリーンで予選動画を見たプレイヤーが揃って言う。ベスト8に残ったプレイヤー名を見ると、かなりの有名プレイヤーが集まっていた事になる。直接会える機会があった事を考えると、予選を会場で見たかったプレイヤーもいるだろう。

「最初の予選でこれだけのハイレベルプレイを見た後だと、今後の予選が色々な意味で不安になってくる…」

 最初の予選がサウンドウェポンの有名プレイヤーが集まるゲーセンで行われた事もあって、今後の予選がどうなるのか不安になっているプレイヤーもいた。

 

 その後も予選会ではGユニゾンの楽曲をもち曲としているプレイヤーは次々と予選落ちしていった。予選会の楽曲は1次予選に関してはフリーだが、2次予選以降は店舗によって対象曲が異なる。その為、2次予選ではGユニゾンの楽曲しかプレイしていないようなプレイヤーにとっては非常に不利になるのである。

Gユニゾンの楽曲は、サウンドウェポン初心者向けに譜面等が作成されている為、2次予選以降では店舗側でもスーパープレイを求めている客層に答える為に他の音楽ゲームでも人気のある曲や西雲の曲等を予選曲に選ぶ事が多いからである。

「これは…こちらの調整が甘かったのが裏目に出た結果になりますね」

 サウンドウェポンの仕様が把握できていなかった政府は、Gユニゾンの楽曲を入れる際にある注文をしていたのである。

『初心者でもクリアできるような難易度にして欲しい』

 まさか、この注文が今回の大会で足を引っ張る結果になろうとは…誰も予想していなかったのである。

 

 全ての予選が終わり、本選へ進む為の最終予選が行われようとしていた。このままではGユニゾンの楽曲を広める事ができないと判断した政府は、特別枠に南雲を追加したのである。南雲自身は予選会で準優勝だった事もあった為、特別枠に選ばれた事に関しては特に何も言われる事はなかった。

「君を特別枠に選んだ事の意味は、分かっているね?」

 南雲を会議室に呼んだのは、Gユニゾンの全てを仕切る委員会代表の議員だった。南雲としては最終予選に出る事、委員会としてはGユニゾンを更に広める為というお互いの利益の一致は取れたのだが…。

「最終予選では、この曲を使うといい…」

 議員がサウンドウェポン用のディスクを南雲に渡した。おそらくはGユニゾンの楽曲が収録されている物だろう…と南雲は思った。

 

 最終予選当日、会場は満員御礼状態になっていた。格闘ゲームのイベントでもこれだけの満員状態にはならなかった為、これはゲームのイベントとしては国際展示会に迫るほどの勢いがあった。

「これが、音楽ゲームのイベント…」

 イベント会場入り口の混雑具合を見て驚いていたのは、私服の明日香だった。

「でも、これだけの人数がいれば…かえって好都合ね」

 そして、彼女はプレイヤー用の入り口へ向かった。既に他の有名プレイヤーも続々と到着している。

 

 イベント会場内では、今回のイベントで使われる楽曲とイベント初公開のアレンジ版楽曲がプレイ出来るサウンドウェポン全機種が10台以上並び、イベント先行販売CD、サウンドウェポンのカスタマイズパーツ等が売られていた。それ以外にもイベントで使われる楽曲のPVが大型スクリーンに流れ、更にはサウンドウェポンに楽曲提供しているアーティストのトークライブ等も行われていた。

「音楽ゲームでここまでの規模のイベントが開かれるとは、自分も非常に驚いている。自分の音楽がどんな形であっても、周囲に影響を与えている証拠だろう…」

 トークライブで、あるアーティストは語った。自分の楽曲がこういった形でも周囲に影響を与え、最終的にはこれほどの大規模イベントを開催できるまでに至った…。うれしさのあまりに口が若干震えているように見えたのは気のせいだろうか。

 サウンドウェポン以外にも、現在稼動しているさまざまな音楽ゲームもフリープレイで解放されており、こちらにも多くのお客が列を作っていた。

「珍しい機種もあるものだな…」

 既に予選の受付を終わらせた西雲隼人が興味深そうに見ていたのは、バイク型の筐体をした音楽ゲームである。

「音楽ゲームの楽曲が使われたレーシングゲームは見たことがあるが、バイクに乗りながら音楽ゲームとは…正直言って発想の斜め上すぎるな」

 同じ筐体を見ていた南雲が西雲を発見し一言…。

「これで実際にレースをやったら、すごい事になるだろう…」

 西雲は思った。サウンドウェポンはアクション要素が非常に高い音楽ゲームに仕上がっているのだが、いつかは戦闘機に乗った状態でプレイする音楽ゲームがあってもいいのではないか…と。

「完全に周知されていませんが、レース自体は既に開催されています。サウンドウェポンほどの広まりはありませんが、これからブレイクしていくかも…」

 西雲と南雲が興味深そうに見ていた事を知ったコンパニオンが二人の元に駆け寄ってきた。彼女の話によると、実際にレース自体も規模は小さいながらも存在するらしい。

「海外では、既にサウンドウェポンをアレンジした格闘技大会も開催されているらしいからな…。日本としても負けられない所はあるだろう」

 南雲は言う。既に音楽ゲームは日本独自の物ではなく、海外にも広まりを見せている。それはサウンドウェポンも例外ではない。

「自分もサウンドウェポンは少ししか触った事はないですが、こうして世界に広まっていく事は決して悪い事ばかりではないと思います。音楽業界は暗いニュースばかりで目も当てられない現状ですが、音楽ゲームだけでも明るい話題を提供できれば…」

 コンパニオンを交えての三人の話が弾む。利益至上主義や、Gユニゾンなどに代表される一部アイドルが抱える問題等の話題はあるが、それを乗り越えて音楽業界は必ずかつての栄光を取り戻してくれる。それまでは音楽ゲームが音楽業界を引っ張っていこう…と。

 

「まもなく、サウンドウェポン最終予選を行います。該当する選手は…」

 アナウンスを聞き、それぞれの選手が最終予選会場へ向かう。音楽業界のこれからを考える者、音楽ゲームの楽曲を広めようと考える者、自分のプレイで観客を魅了させようと考える者、それぞれの考え、思いの中でサウンドウェポン最終予選が始まる。

 

 最終予選会場は、何とイベント会場の外にあった。まるで映画の撮影で使うような大規模のセットとも思えるような光景が選手達の目も前に広まっていた。

「これから、サウンドウェポン最終予選を始めるにいたって、何点か注意事項をお知らせしようと思います…」

 注意事項を簡潔にまとめると、プレイする2曲のスコア合計で争われる総当り型予選となる事、2曲を全てプレイしなくても端末に表示されるライフゲージが0になった者は予選落ちとなる。予選落ち人数が一定を超えた場合は2曲を無事にプレイしたもの全員が本選への切符を獲得し、予選落ちしたメンバーのみで残りの切符を賭けた1曲限定の特別予選が行われる。失格となる行為としては、明らかに意図的と判断可能なサウンドウェポンの回線遮断、プレイヤーを対象とした物理的攻撃、第3者プレイヤーとの談合による順位の操作行為、その他の妨害行為等が失格対象となる。その中でもアクシデントと判断できるものに関しては続行となるが、プレイヤーが負傷した場合にはプレイを中断する場合もある。

「1曲目に関しては、こちらが指定した楽曲で争ってもらい、2曲目はフリー選曲となります…」

 1曲目は会場の投票所で投票1位となった楽曲を対象とする事がこの場で発表された。どうやら、当初はGユニゾンの楽曲を1曲目にする予定だったのを変更したらしい。これは西雲が予選に出場する事を考慮しての現場判断と思われる。あるいは、八百長と言われない様にする為の苦肉の策か…。

「1位の楽曲は…この曲です!」

 予選会場を映していた大型スクリーンに映し出されたのは、ある曲のPVだった。

「予選1曲目は、シルバー・ミスリルブレードです」

 その後に発表されたチャート上位を見ると半数以上をサウンドウェポン楽曲が占める結果となった。ライセンス曲もチャートインしたのだが、Gユニゾンの楽曲は上位20曲以内にもランクインしない結果となった。西雲の楽曲も何曲かランクインしたが、上位3曲の中には入らなかった。

「2位にはジャスティス、3位はスターゲイザーか…固い結果だな。サウンドウェポンの全国選曲ランキングと同じような結果になると思ったが、向こうは難易度の高い曲ばかりが上位に入っているから、これはこれで妥当な結果か…」

 南雲が今回の選曲について分析する。ミスリルブレードはネット上でも人気はあるのだが、それでも今回の1位に入る程ではない。どうやら、それぞれが持っているサウンドウェポンに合わせて難易度を選んだ結果、ミスリルブレードになったのでは…と。ミスリルブレードは前半がファンタジーを思わせるPVとは裏腹に、楽曲はハンズアップというジャンルに該当している。3倍アイスクリームの空耳も動画内で有名になっており、該当部分には3倍アイスクリームの弾幕が飛ぶ事も名物となっている。

 

 予選の1曲目が決定した事は国会で中継画像を見ていた議員の耳にも届いていた。

「ここは、フリーにGユニゾンの楽曲が出るのを待つしかないのか…」

 観客動員は既に7万人を突破し、インターネットでも行われた投票もあわせると50万人が投票に参加したと思われる。組織票は無効という事が事前に発表されていた為か、Gユニゾンの楽曲の大半は組織票が発覚した地点で無効になっていた。その為、Gユニゾンの楽曲で有効票になったのは、ごくわずかだった。その為にランキング上位にもかすりもしない寂しい結果となった。

「まもなく、予選が始まりますが…」

 現状では南雲が勝ち残り、その時にGユニゾンの曲を使うのを彼らは祈るしかない。

「1曲目の投票に関して、西雲隼人が操作した形跡はあるのだろうか?」

 ある議員がそんな事を言った。しかし、西雲本人が操作するとしたら自身の楽曲の順位を下げる等の方法で操作するのでは…という事になり、西雲のランキング操作説は消える事になる。実際、西雲の楽曲はベスト10の中にも入っているが、投票数を考えても10万近い票数が入っている曲が上位から姿を消すようなチャートは…誰でも違和感を抱くはず…。

「自分の曲よりも、他の有望なアーティストの曲を推薦するのが彼のやり方…。ランキングを操作するなら、その路線を考えていたのだが…」

 

 各プレイヤーが東西南北それぞれに配置されたスタートエリアで準備を始めていた。

「まさか、あの店舗でプレイしているプレイヤーがここまで揃うとは…正直驚きだな」

 あるプレイヤーが周囲にいる顔ぶれを見て思った。弓使いのジョルジュ、指弾使いのハルカ、更には南雲の姿もあった。南エリアは別の意味での激戦区なのかもしれない。南雲は普段使用している槍ではなく、ロングソードを持っていたのだが、剣には蛇腹を思わせるような継ぎ目のようなものがあるのが気になる所ではある。

 

 西エリアには有名なネームドプレイヤーの姿は少ないのだが、そのメンバーの中には西雲隼人の姿があった。

「まさか、西雲隼人と同じエリアになるとは…予想外だったが、あのスーパープレイを間近で見られると思うと…胸が熱くなるな」

 西雲のプレイを近くで見られる事をうれしく思うプレイヤーもいれば、西雲と当たった事が不運と嘆く者もいた。

 

 東エリアは、集まっているプレイヤーの8割が銃タイプの使用者だった。その中には采音の姿もあった。更には銃剣の使い手であるセシル、明日香の姿もある。

「まさか…1曲目で明日香と当たる事になるとは…予想外だったわ」

 采音も銃タイプのプレイヤーが集中している事もあって銃剣のプレイヤーも何人か来るとは予想していたが、明日香といきなり当たることになるとは想定外だった。

 

 最後の北エリアには、想像を絶するプレイヤーの姿があった。西雲隼人やサウンドウェポンを熟知したゲームスタッフよりも当たりたくないと思う者も存在するプレイヤーである。

「まさか、あのフルフェイスは…リオンなのか?」

 あらゆる音楽ゲームに精通すると言われている音楽ゲームの為に生まれたのでは…とネットの掲示板や動画サイト等でも『神』と言われている人物。それが、フルフェイスの人物であるリオンである。この会場にも同じリオンの名前を持つプレイヤーはいるが、本物の実力を持っていると言われているのが、北エリアに現れたこの人物のみ…。

「アサルトライフル型サウンドウェポンに神話上の存在といわれる魔獣ケルベロスのステッカー…。間違いなく、奴はサウンドウェポンの総合1位プレイヤーのリオン…」

 他のプレイヤーはリオンに近づく事さえためらう中、リオンに近づくプレイヤーが1人いたのである。

「あいつは…確か、凄い勢いで上位に入ってきたミストじゃないのか?」

 リオンに近づいているプレイヤーは、何とミストだったのである。今は一時期使っていた短剣型ではなく、別のサウンドウェポンを所有していた。形からはショートソードに見えるが…。

「あなたが…サウンドウェポンでナンバーワンといわれているプレイヤー…」

 ミストがショートソードを構えてリオンに切りかかろうとしていた。それを見たスタッフがミストを止めようとしたが、それよりも速くリオンが取った行動は…。

「…まさか、こんな事が?」

 ミストは震えていた。周囲のプレイヤーもリオンの想像を絶する反応速度に驚くしかなかった。何と、ミストがショートソードを構えて切りかかろうとする前に、ミストの背後を既に取っていたのである。

「今は試合前、私に勝ちたいと思うのならばバトルで決着をつけるべきだ…」

 リオンの言う事も一理ある。試合前の騒動で大会が中止となってしまっては、ここまで足を運んだ観客も冷めてしまうだろう。それをリオンは分かっていた。

「分かった…。この決着は試合で付ける事にしよう」

 ミストも剣を下ろした。これを見ていた一部のプレイヤーも隙あればリオンを何とか脱落させようと考えた者もいたが、そんな事をしても自分の得にはならないと判断し、攻撃を中止した。

 

 全メンバーが配置に付いた所で、先ほどのミストの一件が他エリアのプレイヤーにも報告された。

「ミスト選手には、ペナルティとして他のプレイヤーよりも20秒後のスタートに…」

 先ほどの一件で、他のプレイヤーよりも20秒後にミストのプレイがスタートする処置が取られる事になった。1曲は全員が共通の曲の為、ミストが他のプレイヤーにスコア等で遅れるのは明白である。

その理由のひとつは出現するノーツの数にある。1曲のシルバー・ミスリルブレードは前奏に当たる10秒の出だしは全くノーツが出現しないが、その後には大量にノーツが出現する曲のひとつなのである。大量のノーツを速攻で片付けたとしても、曲のリズムに合わせないとミスにはならないが、パーフェクト判定が出ない為、ヒット判定的な意味でも獲得できるスコアが少なくなる。他の音楽ゲームと違い…判定ラインオーバーでのミスという概念がない、ノーツ自体がガンシューティングの敵キャラのように攻撃してくる、自分のライフがゼロになると演奏失敗となるサウンドウェポンでは非常に厳しい物になる。   

ノーツの出現数は曲や使用するサウンドウェポンによって多少のバラツキはあるが、遅れてスタートする事は序盤に敵を多く出現させる事に直結する。序盤から敵の猛攻を受ければ、相当のプレイヤーでない限りは即ゲームオーバーと言う状況になるのは確実。中には、ハンデ付きのバトルで10秒後スタートもあるが、これらのスタイルは公式による物ではない。

 

『ファーストステージ、シルバー・ミスリルブレード…スタート!』

 サウンドウェポンのプレイヤーにはおなじみのシステムナレーションでミストをのぞいた全プレイヤーが一斉にゴール地点である中央エリアへ向かって動き出した。

「今回は特別ルールで、出現するノーツは全サウンドウェポンで共通になっております。敵の数は不明ですが…出てくる敵全てを撃破してもパーフェクトにはなりません。敵を一定のノルマより撃破できていない場合、スコアによっては予選落ちも十分ありえます…」

 出現する敵の数は不明だが、最低でもノルマは達成しなければスコアが高くても予選落ちになる可能性があるらしい事が他のプレイヤーにも告げられた。敵の数も不明となっている以上はスコアのカンストによるパーフェクト判定も存在しない。

「まもなく、20秒と言うペナルティを背負ったミスト選手がスタートとなります…」

 既にミストがスタートする近辺には大量の敵の姿があった。しかし、ミストは怯む様なそぶりは見せない。

「ミスト選手のスタートです!」

 スタートと同時にミストは持っていた2本のソードと思われた物を合体させ、すぐに敵にめがけて勢いよく飛ばした。ミストのサウンドウェポンはブーメランだったのである。

「あれだけの数を一発で削れる物なのか…」

その光景を見ていた周囲のプレイヤーが驚く。観客もミストがあれだけの敵をブーメラン1回だけで撃破した事には、ただ驚くばかりである。

「確かに、ブーメランならば大量のノーツを上手く捌く事は出来るだろう。ただ、あれだけの数を正確に全て捌くとなると…相当な技術力を必要とする…」

 西雲も自分で作り出した物とはいえ、ミストのスーパープレイには驚く。

「まさか、あの一撃だけで20秒のハンデをあっという間に帳消しにするなんて…」

 他のプレイヤーもミストの潜在能力をおそれていた。だが、ノーツの判定的にはパーフェクト判定ではない為、相当な取りこぼしをしない限りは誰にでも勝機はある。

 

 1曲目中盤、ミストが猛チャージで他のプレイヤーのスコアを次々と塗り替えていくのだが、西雲、ジョルジュ、ハルカ、采音、明日香、リオンといった上位陣との差は広まっていくばかりである。やはり、20秒の出遅れというハンデとパーフェクト判定の少なさが影響している。そんな中でミストの暫定スコアを射程内に捉えた人物がいた。意外にもその人物は南雲であった。

「20秒のハンデがあるにも関わらず、順調にコンボ数を積み重ねてくるとは…」

 既に南雲の周囲には複数の敵の姿が…。このままではヒット判定に影響するレベルまで集まってくる…と思われたその時、南雲の剣が伸びたのである。伸びた剣は、周囲にいた敵を一瞬で消滅させ、倒した後にはコンボボーナスとなる回復アイテムが出現した。

「剣が伸びるなんて最新型サウンドウェポンなのか?」

 今回の大会では、今後に発売が予定されているサウンドウェポンの持込は禁止されている。一部の限られた人物しか存在を知らないサウンドウェポンを使って勝利したとしてもフェアと言えるのか…。それ以前にこの大会は新型のテスト会場として用意されたものではなく、あくまでも現状で存在するサウンドウェポンでの大会なのである。

「伸びる剣と言うよりは、あれは鞭じゃないのか?」

 鞭タイプのサウンドウェポンは開発時には存在はしていたが、振り回した時の安全性などを理由に実装はされていない。そうなると考えられる結論はひとつだけだった…。

「剣タイプでも使用プレイヤー数が非常に少ない、蛇腹剣か…」

 周囲のプレイヤーは南雲が蛇腹剣を使っていると結論を出した。ただ、この結論は周囲にとっては流れとして出してはいけなかった結論でもあった。その理由とは…。

「蛇腹剣で南雲といったら、剣タイプのポイント1位プレイヤーじゃないか…」

 南雲は西雲の偽物を演じていた時は試作型の槍型サウンドウェポンを実戦テストと言う理由で使っていたのだが、彼が本来使うサウンドウェポンは蛇腹剣なのである。Gユニゾン楽曲を広める為、政府が南雲に蛇腹剣の使用を許可したらしい。

「政府は、本当にGユニゾンの楽曲に世界を変えるような力があると考えているのか…」

 あるいは、政府がGユニゾンを錬金術か何かと勘違いしているのか…。南雲は予選中にも考えていたが、今はプレイに集中しなければ予選通過も実現しないだろう。

「これで、ラストだ!」

 南雲が最後の1体を撃破し、1曲目で出現した全ての敵が撃破された事が告げられた。それと同時に1曲目の楽曲も終了した。その間、わずか2分30秒の出来事である。

「1曲目、出現した全てのノーツは撃破されました。2曲目は曲選によって出現するノーツも変化する変動型になります。なお、曲選によってはプレイ状況が分かりにくいと考えられる事から、こちらで観客用に多機能プレイヤーを用意いたしました。ご利用はチケット代金に含まれていますので、特に追加料金が発生する事はありません。精密機械ですので取り扱いにはご注意ください…」

 1曲目は全て共通の曲だったので問題はなかったが、2曲目は曲選がフリーとなるために別プレイヤーの中継等を挟む際に複数の曲が何回も切り変わるという状況は音楽を楽しむと言う意味では楽しみが半減してしまう可能性がある。

中には、それさえも音MADとして楽しむ者もいるが、そういったスタイルを押し付けるような仕様にはしたくないという思いが今回の多機能プレイヤーにあるようだ。

このプレイヤーは、参加者のID番号を入力する事で、その参加者が現在プレイしている曲及び現在のプレイをチェックする事ができるという仕組みになっている。会場側でも複数の中継場所が存在するが、予選参加者の方が圧倒的に多い為に全参加者のプレイをフォローできない現状がある。その為に、音楽プレイヤー以外にもワンセグテレビも実装されている。

 

「向こう側には申し訳ないが…予選を通過する為にも、この曲を使うのは止むを得ない状況だな…。せめて、前半で上位10人に入ればよかったが…」

 前半までの上位10人の中には、西雲やリオン、ジョルジュ、ハルカ、セシル、采音と言ったネームドプレイヤーの名前が並んでいる。南雲は辛うじてベスト20には入っているものの、20人の中には銃剣で2位まで到達した明日香、ペナルティ20秒があったにも関わらず300体以上の敵を撃破してベスト10に滑り込んだミストの名前もある。下手をすればスコアの僅差で予選落ちする可能性も否定できない。状況が状況だけに南雲は自分の得意曲を選曲した。

「さっそく、2曲目が決定したプレイヤーがいるようです。蛇腹剣使いの南雲皐月、その選曲は…ミリオンダイスだ!」

 観客からは歓声が、そして、一部のプレイヤーからは驚きの声が聞こえた。

「ちょっと待て、南雲がミリオンダイスを選曲って…どう考えても上位メンバーを本気で倒すって事じゃないか。しかも、自身がハイスコア1位の曲を選曲するなんて…」

 他のプレイヤーが驚く理由、それは南雲がハイスコアを維持している楽曲であるミリオンダイスを選曲した事にある。ミリオンダイスの曲調としては、SFとファンタジーの世界をベースとしたトランスで、ジャンル名はSFファンタジートランス。未だに南雲のハイスコアを破ったものは存在していない。リオンもこの楽曲にトライしたがスコアは2位となっていることから、南雲のスコアの高さを物語る。この曲を選曲した理由は、本選へ進む為の上位30人の中に入る事…。その為には、手段を選ばず…という事だろうか。

 

「どうやら、南雲は我々の指示を無視しているようです。2曲目もGユニゾンの楽曲ではありません」

 予選を見ていた議員の中には、2曲目にGユニゾンの楽曲を流さなければ意味はない。議員の中には、裏切り行為とまで言う者も何人か出てきた。

「彼の1曲目の予選スコアを見れば分かるのだが、今のままでは南雲が予選を通過する可能性は非常に低いだろう。他プレイヤーのスーパープレイを見て分かった事だが、我々はサウンドウェポンを甘く見ていたのかもしれない。他の音楽ゲームでならばGユニゾンの楽曲も…とも考えたが、観客が求めている物と我々が求めている物では埋まらない溝があった…という事だろう」

 観客が求めるスーパープレイと議員たちが求めるGユニゾン楽曲のプレイ…。それは全くと言っていいほどに上手く噛み合わない。 

Gユニゾン楽曲でのスーパープレイも存在する事は存在するが、動画の再生数は思ったほどに伸びていない。原因はGユニゾン楽曲の難易度が低く設定されているのも最大の理由なのだろう。再生が伸びるスーパープレイの半数は楽曲がサウンドウェポンオリジナル楽曲、他の作品からのオリジナル楽曲移植が比較的に高い再生数を記録している。

 

「続いては…複数人が同じ曲を指定したようです。曲名は、ハデス!」

 こうなる事は予想されていたが、西雲の楽曲がフリーに選出された。選曲したのは合計8人で、その中には采音、ジョルジュ、明日香の名前があった。

 ハデスはハイスピードダークネスポップという異色のジャンルであり、実は女性ボーカル付きの曲でもある。西雲が作詞作曲を同時に行った数少ない楽曲であり、この曲を作詞したきっかけこそ、2年前にあった例のクロ歴史となった事件そのものである。采音と明日香は以前にこの曲が流れた会場にいた事がある。それがきっかけで選んだ訳ではないのだが…偶然にも選曲が被った事になる。

「まさか、こういう展開になるとは…」

 ハデスが選曲された事に驚いたのは、西雲ではなく南雲の方であった。

「Gユニゾン楽曲ではスコアが出ないのを見越しての選曲が…裏目に出たな」

 ハデスが選曲されるのであれば、Gユニゾン楽曲を選曲しておくべきだった…と。既に選曲済の曲の変更は現在の機種では楽曲が外された等、よほどの事情がない限りは変更が認められない。

「リオンのチョイスも決まったようだが、選曲基準はどうなっている…。この曲は他社の他機種移植組楽曲でも…」

 他の選手は驚く。リオンが選曲したのは下町ガバというジャンルが付いている『したまち2010』である。被りのプレイヤーは誰もいないのは、ある種の奇跡とも言える。この曲は元々、太鼓を使う音楽ゲームに収録されていた曲だが、西雲がサウンドウェポンに収録して欲しいと要望を出して収録が実現したものである。曲調は元々が太鼓に対応した物の為に太鼓音で構成されているが、ガバを忠実に再現した物となっている。要所で動画サイトでもネタにされる空耳があったりするのも人気のひとつだろうか。

「次にチョイスされたのは、向日葵の夏…まさかのライセンス曲だ!」

 アナウンスされた楽曲名を見て驚いたのは西雲だった。ここでGユニゾンの楽曲が出てくるなんて…と。

「ハデスが選曲された事に対しての対抗手段…とは考えにくいが…」

 数人の無名プレイヤーが予選落ちを覚悟してGユニゾンの楽曲をセレクトしたのか、それともGユニゾンファンに対する何かのメッセージでも送るのか…西雲はその動向を警戒していた。

Gユニゾンの楽曲は低難易度メインで、スコアアタック要素が高い予選ではリオン等のような1曲目上位10人の位置にいない限りはスコアが届かずに予選落ちになるのが目に見えている。もっとも、1曲目でノルマクリアしている状況ならば話は別になるが…。

「次は驚異的な追い上げを見せたミスト選手の選曲だが…。何と、曲被りが1名いる状況になっているぞ!」

 ミスト以外に1名と言うのが非常に気になっていた。リオンがしたまち2010を選曲した時は誰もいなかったのだが、それはしたまち2010の難易度が一番高いバージョンをセレクトしていたと言う事情があった。では、ミストが選曲した曲とは…。

『まさかの選曲です、ミスト選手が選曲したのはグラディウス。しかも、ミスト選手と同じ選曲をしたのは、西雲隼人です!』

 グラディウスは西雲が作曲をした楽曲ではないのだが、西雲が作曲者を絶賛していた事でも知られる謎の多い楽曲である。楽曲のジャンルもシューティングプログレで世界観としてはシューティングゲームをイメージしていると思われる。

その完成度はサウンドウェポンの収録楽曲の中では非常に高く、人気投票にも上位に入るほどの人気を持っている。しかし、あまりの初心者お断りの雰囲気が漂う難易度の高さと恐ろしいまでの楽曲完成度、もっと評価されるべきタグが動画サイトに貼られる等…無数の要素が重なった不運ともいえる楽曲なのである。何故、この曲をミストが選曲したのかは分からない。

「この曲に光を当てるとしたら、このチャンスしかない…」

 西雲は思う。ただ、この曲をミストが選曲した理由は謎のままだ。ハイスコアを狙うのであればハデス辺りの難易度の曲を選ぶはずである。なのに、異常な難易度を誇るグラディウスを選曲したのは何か特別な理由があるはずだ…。下手をすれば、初心者お断りの難易度の前に演奏失敗になる可能性もある。仮にスコアが出ない状況で演奏失敗でもすれば予選落ちは確定だろう。

「この曲ならば、被る可能性は少ないと思ったが…計算がずれたか」

 ミストは言う。どうやら、リオンがしたまち2010を選曲した事がひとつの原因らしい。確かにしたまちよりはグラディウスの方が難しく、スコアも狙える事は確かだが、グラディウスの難易度はサウンドウェポンの全楽曲の中でもトップクラスである。不動の1位となっている曲もあるが、この曲のみは予選での使用が禁止された。原因は難しすぎる難易度もそうだが…予選でこの曲が出てくる事は、逆にプレイヤーのやる気をそいでしまう可能性があったからである。

「次に選曲をしたのは、セシル選手…選曲したのは、アイプラスです」

 どう考えてもサウンドウェポンの予選で選曲するような曲ではないような楽曲をチョイスしたのはセシルだった。

 アイプラスはいわゆる恋愛シミュレーションゲームと呼ばれるジャンルなのだが、口コミやネット等で広まりを見せ、遂には実在の観光名所までゲーム中に出てくるまでになった作品である。実際、その観光名所ではイベントが行われ、大盛況の内に幕を閉じたと言う。

 アイプラスは西雲の所属しているゲーム会社が発売したもので、いわゆる同社コラボという形でサウンドウェポンに収録された。曲調としては、スローテンポであり、曲の途中には劇中の台詞パートまで存在するのだが…サウンドウェポンでこの曲をプレイするプレイヤーは数が少ないと言う…。

「そっちも取られた以上、選曲する曲はこれしかないか…」

 セシルが言うそっちとは、グラディウスの事である。西雲がグラディウスを選曲するのは予想できていて、西雲のみであれば勝機はあると踏んでいたのだが、そこに割り込みをする形でやってきたのがミストである。

「残るメンバーも、順当な楽曲を選曲している以上…自分がグラディウスで勝負に出る事もないみたいね…」

 グラディウスは選択した難易度や使用するサウンドウェポンにもよるが、配置が非常にやっかいな箇所がいくつも出てくる。下手にコンボを切る事やダメージを受ける事は予選のレベルを考えると、上位に残れない可能性もある。それらを考慮して、セシルはあえて勝負に出る事を止めたのである。中にはスコアの望めないGユニゾン楽曲をあえて選曲するプレイヤーもいる以上、自分の本選進出は相当なミスがない限りは保障されたと同然である。

 

 こうして、全ての2曲目に演奏する楽曲は決定した。最初にスタートしたのは選曲した楽曲が一番長いプレイヤーからである。どうやら、終了時間は全て同じに調整する為に長い楽曲を選んだプレイヤーから先にスタートと言う形をとるようだ。

「最初にスタートするのは、冥王星をセレクトした翼選手です」

 他のプレイヤーの先陣を切るのは、2曲目としては最長の2分40秒という曲を選んだ翼だった。使用するサウンドウェポンは日本刀の二刀流である。外見は日本刀を使う事から侍と思われたが、戦国時代と言うよりは別国の時代を思わせるような鎧を身にまとっていた。スーパーロボット等を連想させるような兜を装備している関係上で表情や翼の性別を確認する手段はないが、資料によるとサウンドウェポン以外にも音楽ゲームをプレイしている現役アイドルらしい…という記述があった。

ソングオブアイドルのキャストで音楽ゲームをプレイしている者が何人かいるらしいとネットで話題になった事があったので、ひょっとすると…その内の1人なのだろうか…と南雲は思った。しかし、今はこの予選に集中しなければ…と。

「1曲目のスコアが伸びなかった以上、この曲で何とか逆転を狙うしかない…」

 翼の刀が若干震えている。それを見ていた南雲は何かを懸念していた。

「自分も本来であれば、あんな迷いのあるようなプレイはしたくないが…これも向こうの為だ、仕方ない…」

 翼の次にスタートするのは、ミリオンダイスを選曲した南雲である。その後に同じ演奏時間の曲をプレイするリオン、全く別の曲をセレクトしたプレイヤーが5人と続く…。

「まさか、曲の時間が被るものを選んだとは…」

 別のプレイヤーがつぶやく。その他にも得意曲という事でミリオンダイスを選曲した者もいる。そのプレイヤーは、南雲が選んだのは百も承知で選曲したようだ。無謀な高難易度曲への突撃を回避し、得意な楽曲でスコアを何とか稼ごうと言う作戦である。

「ミリオンダイスは確かに南雲さんと選曲が被るけど、胸を借りるつもりで頑張らないと…」

高難易度曲はパーフェクト判定でのハイスコアが高い事やコンボボーナスの倍率も変化する等の一発逆転要素はあるのだが、中には敵のダメージを1回受けただけでライフゲージが半分減ってしまう、回復アイテムを入手する為の条件が厳しい曲も存在する。逆転を狙う為に高いリスクを取るよりも、安定したスコアを獲得できる方法を彼は選んだのである。

『セカンドステージ、冥王星…スタート!』

 セカンドステージを告げるシステムボイスと共に翼が他のメンバーの先人を切る形でスタートした。

 

「出だしは順調か…。冥王星は高難易度曲の上位だと言うのに、それを恐れずに選曲する勇気には拍手を送りたい物だ」

 選曲した曲の関係上で順番が大分後のほうになる選手が言う。

「確かに、自分も冥王星を選ぼうと考えていただけに選曲には若干の悔いが残りますね。ハデス自体は勝負曲であるのは間違いないのですが…」

 ジョルジュはハデスを選曲した事には悔いはないのだが、後のプレイヤーがセレクトした曲選を見てから実際の選択が正しかったのかを迷うようになった。特に、翼が冥王星を選んだ時にはその思いが顕著に出ていた。

「1曲だけ予選使用禁止曲が出たのは、間違いなく白昼夢だろう…。あの曲は難易度がサウンドウェポンの中でも異常すぎたからな」

 采音は使用禁止になった楽曲がどれであるかは既に特定できていた。白昼夢とは、稼動当時にはシークレット楽曲として条件を達成すれば出現していたのだが、サウンドウェポンとしては異常とも言える難しさから『訳の分からない物』と言われていた。しかし、その白昼夢も稼動から半年で遂にクリアするプレイヤーが出現したのである。その人物こそがリオン本人である。

「どんな曲でもクリア不可能と言うものは存在しない…という事をリオンは証明した」

 南雲は少し気になる話をしていた采音たちの会話の中に飛び入りした。

「あのリオンがいる以上は白昼夢の使用禁止は当然の流れだろうな。あれを選曲されたら…トップはリオンが確実だからな…」

 采音はそろそろ出番となる為、話の輪から外れた。話に飛び入りした南雲ももうすぐ出番である。

 

『セカンドステージ、したまち2010、ミリオンダイス、ブリザード、アイアンフォース・セカンド…スタート!』

 リオンと南雲を含めて7人のプレイヤーがスタートする。次にスタートするのは、ハデスを選曲したメンバーであるジョルジュ、采音、明日香たち、その後にセシルが続く。

「まさか、冥王星だけではなくグラディウスまで選曲されるとは…正直言って予想外だったな。まだ上位のメンバーがそのまま予選通過するとは限らない。最後まであがける所まではあがいてみせる…」

 無名のプレイヤーは言う。例え、今は無名であっても、この予選を通過すれば予選通過の称号が得られ、そこから知名度が上がる事もあるだろう。だからこそ、この予選は落とせない…と。

『セカンドステージ、ハデス、スターダストワールド…スタート!』

 ハデスを選曲したメンバーとスターダストワールドをセレクトした無名プレイヤーがスタートした。

 

 他のメンバーがスタートしていく中、最初にスタートした翼の順位はベスト50から一気に30位辺りまで上昇していた。ノルマはこの段階で既にクリアしており、後はスコア次第という事になった。

「思ったよりもスコアが上昇している…。これは本選通過のメンバーの顔ぶれにも若干影響するかな…」

 そろそろ出番となる西雲がスタートの準備をしていた。そして、同じ曲を選んだミスともスタート位置に着いた。

「この曲では…負けられない!」

 ミストは言う。そして、いよいよ…。

 

『セカンドステージ、グラディウス、スタート!』

 序盤から出現したノーツを次々と落としていく西雲とミスト。その様子はサバイバルゲームとも見て取れた。

「そろそろ、私の出番かな…」

 他のプレイヤーもいるようだが、ほとんどはGユニゾンの楽曲をセレクトしているプレイヤーである。上位に顔を見せているプレイヤーは全てスタート済である。

「これは…リニアレールガンだ。従来であれば戦艦等に搭載されるような武器だが、サウンドウェポンでは銃クラスの武器でもトップクラスの重量と破壊力を誇る…」

 彼は他のプレイヤーに自分のサウンドウェポンであるリニアレールガンの解説を旧に始めた。他のプレイヤーはビックリしたが…中には興味を持って聞いている者いる。

「小型のレールガンも存在するが、このリニアレールガンは稼動初期に存在した物で使用している物もごく小数となっている。おそらくはメンテナンスを面倒に思ったプレイヤーが使うのをやめてしまったのが有力かもしれない。私の選曲も…稼動初期当時の楽曲を選んでいるつもりだ。君達も最近の曲を追いかけるのもよいが、古い曲にも興味を持ってくれると…自分としてはありがたい。確かに最近の曲も良いものがあるとは思うが、過去のものにも高い評価を持った楽曲がある。音楽ゲームをきっかけに興味を持つのもひとつの手だと思う…。古きよき時代とも言うべきかな…全ての原点となった物を研究するのも悪くはないと思う。今の自分のように…」

 一通りの解説を終えると、彼はスタート地点へと向かった。

「私のプレイに興味を持ったのならば、参考にしてみるといい。ただ、あまりにも超越しすぎていて参考にならない場合も多いが…」

 そして、彼のプレイがスタートした。序盤から20以上出現したノーツを一発で全て撃ち落としたのは、リニアレールガンの貫通能力が影響しているからだろうか。

「リニアレールガンであれだけの高等テクニック…一体、何者だ…?」

 他のプレイヤーも彼のプレイには驚く事しかできなかった。上位プレイヤーのスーパープレイ以上に彼の動きが特殊すぎると言うのもあるのかもしれないが…。

「今、参加者リストを確認したが…」

 他のプレイヤーが予選の参加者リストから彼を見つけ出した。そして、名前を見て驚きを隠せなかった。

「プレイ暦がリオンより上のサウンドウェポン使いがいたなんて…」

 彼の名はメタトロン、サウンドウェポン稼動当時からプレイするプレイヤーである。

「サウンドウェポンって、まだ稼動してから5年はたっていないのに…」

 サウンドウェポンが出来たのは5年以上前だが、本格的に稼動したのは4年前、ブレイクし始めたのは3年前と音楽ゲームとしては歴史が浅い。対戦格闘は30年以上も歴史があるにも関わらず、音楽ゲームは対戦格闘の半分以上も歴史が浅いというハンデがある。

「もしかして、さっきのメタトロンの正体って…」

 彼らは思った。もしかすると、メタトロンの正体は…。

 

 全てのプレイヤーがスタートし、中盤となった頃、既に何人かのプレイヤーがライフ0になっていた。その中には有名プレイヤーは含まれていないが、上位陣に迫っていたプレイヤーも中には存在していた。

「これが、大会のプレッシャー…」

 南雲と同じミリオンダイスを選曲したプレイヤーは悔しい表情をしてその場から一歩も動けなかった。この曲ならば安定してスコアを出せるだろう…と思っていたが、一瞬の油断でライフが一気に削られ、予選終了となった。他にも何人かの無名プレイヤーがライフ0で予選を終了している。スコアの集計は最終結果と他のプレイヤーの結果待ちにはなるのだが…。

「まさか、こんな展開になるとは…」

 有名プレイヤーで先に演奏が終わったのは采音だった。明日香を意識していたのか、それとも油断があったのかは不明だが有名プレイヤーでは初のライフ0による予選終了となった。

 

 采音の脱落は周囲にも伝わった。動揺する者も何人かいたが、それを顔に出すものはいなかった。他のプレイヤーにとってはライバルが1人いなくなったと言う方が大きいのかもしれないが…。

「もうすぐ、ゴール…」

 演奏時間終了を待たずして、翼がゴールに到達し、ゴール1位で予選を終了した。既に体力と集中力は限界に達しており、今にも倒れそうな状態だった。そんな状態の翼を見て2位ゴールを決めたのは、何とメタトロンだったのである。メタトロンがスタートしたのは全メンバーから1分も後である。曲終了の時間はまだ30秒近くは余裕がある状態でのゴールは周囲を驚かせた。

「これは、最初の方で全力を出しすぎた…と言う状態だな。彼女を速く医務室へ…誰にも悟られないように…」

 メタトロンは医療スタッフに会場の誰にも悟られないように翼を医務室へ運ぶように指示した。

「一番いいスタッフを頼む」

 メタトロンの声で会場に聞こえたのはこの部分のみで、翼を医務室へ運ぶように指示した部分は会場には聞こえていない。その部分だけ音声をカットした物と思われる。翼が医務室に運ばれるシーンも会場には映されておらず、ゴールしてから選手用休憩室で座っている翼の姿が映し出されている。3番目にゴールしたのはジョルジュ、4番目は明日香とセシルが同着となった。

「速くゴールすれば、ゴールボーナスも加算されるルールだったな…2曲目のフリーは」

 メタトロンは言う。時間はまだ15秒ほどある。ゴールできなくても曲を完走すればライフ0による予選落ちはなくなるが、ゴールポイントによるスコアは全く加算されない。

「こういうのは最初からルールで言及されていれば良かったのですが…」

 ジョルジュは言う。ルールには2曲目は曲の完走及びゴール地点到達が目的とは書かれていたが…。この辺りは今後の課題になるだろう。今回の大会に関しては主催は西雲ではなく…あくまでも政府である。

「まもなく、曲終了まで10秒を切ります」

 カウントダウン開始とも取れる、アナウンスが周囲に聞こえる。駆け込みでゴールする者もいるのだが、その中に南雲、西雲、リオン、ミストの姿はない。南雲はゴールより若干遠いエリア、リオンはゴールよりも出現する敵の殲滅をした方がスコアを稼ぐ事のできる位置という10秒ではゴールが難しいエリアにいた。その中で、ゴールに最も近い位置にいたのは…。

「あと、いくつだ?」

 姿を見せたのはミストだったのである。彼女は他のゴールするプレイヤーをターゲットにしているノーツを集中的に撃破し、スコアを荒稼ぎしていたのである。それはゴールギリギリのタイムになっても同じだった。それに続くのは西雲である。

「先にゴールさせてもらう!」

 西雲がゴールエリアに到達した。時間はわずか3秒。次にミストもゴールに到達、タイムアウトギリギリでのゴールだった。

『セカンドステージ、タイムアウト』

 システムナレーションと共に予選が全て終了した。ライフ0で予選落ちをしたメンバーは参加者100人中、50人という数になったが、その中にはタイムアップでゴールにたどり着けなかった南雲とリオンの名前はなかった。つまり、彼ら2名は残りライフ的には生き残ったという事になる。

 

 スコアの集計中に奇妙なデータをスタッフが見つけた。画像を確認すると、Gユニゾンの楽曲でプレイしているプレイヤーのようだが…。

「このルートは確か、スタッフ専用のルートでプレイヤーの使用は禁止のはず…」

 スタッフが監視カメラで捕らえた画像を解析し、審判団に提出していた。

「これは、さすがに反則と判断せざるを得ないだろう…」

 そこに映っていたのは…。

「後は、Gユニゾンの楽曲を使っていたプレイヤーに奇妙な電波が確認できた。これも解析を急ぐ必要があるな…」

 審判団はGユニゾンの楽曲をプレイしていたプレイヤーを調査する事にした。

 

「予選の最終結果に関しては、現在審議中でございます。上位50名に関しては問題なしと判断されましたが、敗者復活戦を行うに当たって確認する事項があり…」

 審議中を伝えるアナウンスが流れ、周囲からは動揺のような物も感じ取れた。調査する事項はGユニゾンの楽曲を2曲目に選曲したプレイヤーに関しての審議らしいのだが…。

「あのディスク…まさか?」

 南雲には心当たりがあった。事前に議員から渡されていたディスクにはGユニゾンの楽曲が収録されていた。しかし、何か怪しい気配がした南雲はディスクを審判団に提出して解析を急がせていたのだが…。

「南雲皐月選手は、至急、スタッフルームへ来てください…」

 アナウンスがあった以上は、あのディスクがクロだった事は間違いない。南雲はスタッフルームへと急行した。

 

 スタッフルームに到着した南雲を待っていたのは審判団とメタトロン、翼だった。この場にメタトロンと翼のいる理由が予想できなかったが、ディスクの中身を考えると…。

「ディスクの解析が先ほど終わったが、これは非常に驚くべき内容だったよ…」

 審判団が驚くディスクの内容、それを話したのはメタトロンだった。

「あのディスクは西雲隼人が以前に使っていたサウンドバーストシステムをはるかに上回る代物だった事が判明した。むしろ、アレよりも性質がひどい…。あのディスクに収録されたGユニゾンの楽曲には、特定の周波数に対応した楽曲をプレイすると、自動的にスコアがこのディスクを使っているサウンドウェポンに加算される仕組みになっていた。その曲と言うのは、予選で禁止にしていた白昼夢だ…。その後は、大体予想できるだろう…」

 白昼夢と言われた地点で、大体のことが把握できた。もしも、リオンが白昼夢を選曲していた場合…そのスコアが特殊なディスクでプレイしているプレイヤーにも加算されると言う仕組みである。

「このディスクは政府の議員から渡された物だった。まさか、こんな手段で八百長を展開するつもりだったとは…」

 南雲は今回の事態を水際で止められなかった事に腹が立っていた。

「このディスクは使用したプレイヤーによると、議事堂近辺のゲームセンターで行われた大会でもらったと言っていた。まさか、こんなからくりがあるとは予想が出来ていなかった事もあって、今回の件は不問にする事にした。だが、このような事が水面下で行われていた以上、政府は本気で西雲隼人を潰そうとしているのは確かだ…」

 メタトロンは言う。政府はGユニゾンと言う錬金術を手放す気はなく、それを邪魔しようとしている西雲を表舞台から抹消しようとしているのだ…と。

「Gユニゾンは過去に歴史から抹消されたアイドルグループとは違い、歌唱力等でも上回っているのは間違いないだろう。しかし、今の彼女達はイベント商法や露骨なテレビ出演を撤廃しただけの劣化コピー…。あの商法そのものを変えない限りは音楽業界の未来はないだろう。それだけではなく、今の音楽業界が別の音楽業界にひっくり返される時が間違いなく来る…」

 メタトロンの言う『別の』音楽業界…と聞いて、南雲は思い当たる節を見つけた。月沢明日香が実現させようとしている事だ。

『私は、ウィザードに出会って全てが変わった…。今の音楽業界は、一部のカテゴリーを除いては再生不可能な所まで腐敗が進んでしまっている。だから、自分は別の音楽業界に救いを求めた!』

 予選中、南雲を偶然見つけた明日香はこんな事を言っていた。別の音楽業界とは南雲には大体予想が付いていた。

「全ては、政府のシナリオどおり…だったという事か…」

 もしも、今回のディスクを自分が使っていたとしたら…。確かに予選は首位通過が可能で本選にも進出は出来るだろう。しかし、サウンドウェポンでは絶対にやってはいけないとされている事が二つある。

ひとつはサウンドウェポンが音楽プレイヤー及び音楽ゲームの発展系であり、決して人を傷つけるような武器にしてはいけないという事。これは音波兵器やサウンドバーストシステムのような物も含まれる。西雲は、そういった事も可能では…という研究の過程でサウンドバーストシステムを生み出している。

もうひとつは、無敵のサウンドウェポンを作り出してはいけないという事である。無敵という定義は色々とあるが、敵の攻撃ダメージを受けない、1回の攻撃で複数の敵を一気に撃破出来る等のような物ではなく、もっと別の意味での無敵である。

「他人のスコアを自分のスコアに変換、全自動プレイ、一切のペナルティを受けない、レベルの低い曲のスコアレートを最高難易度曲のスコアレートにする…。例をあげればたくさん出てくるが、他人が対戦時にプレイしていてつまらなくなるようなチートプレイがその代表格だな…。今のGユニゾンも似たようなチートを使っている…そうは思わないか」

 メタトロンの言う事も一理ある。向かう所敵なしの政府公認アイドルであるGユニゾンも、政府公認でチートが行われているのでは…と。

「私はGユニゾンの楽曲を使っていたプレイヤーのディスクに何か違和感を感じて、メタトロンさんと一緒に囮作戦を決行しましたが…結果は、ご覧の通りでした」

 冥王星を選択した翼だったが、実際は白昼夢がキーとなっている楽曲だった為、ディスクの効果が発動する事はなかった。

「だが、これのおかげでディスクを配ったとされる議員の特定は出来た。先ほど、スタッフに変装して抜け道を案内していた議員を捕まえた所だ…」

 メタトロンの差し向けた刺客が議員を捕まえたという連絡が入り、早速メンバーは該当のエリアへと向かった。

 

「一足遅かったか…」

 メタトロンたちが到着した頃には議員の姿はなく、その後の連絡によると既に逃亡した後だと言う…。

「だが、これではっきりした事がある。サウンドウェポンを利用してGユニゾンの人気を上げようとしていたからくりが…」

 南雲は思う。今まで、こんな事のために西雲の偽物まで演じて危ない橋を渡っていたのか…と。

「とりあえず、今回はここまで…と。残りは数日後の本選になるだろう。その数日の間に政府も動くのは明らかだが…」

 メタトロンは、これ以上は南雲に聞いても何も出てこないと判断し、南雲を帰す事にした。

「メタトロンさん、あなたは一体…」

 南雲は言う。音楽業界の全てを知っているような口ぶりや彼の持っているサウンドウェポンも気になる。どう考えても彼が現在の人間とは考えにくい。

「私が未来から来た未来人とか…」

 冗談交じりにメタトロンは言うが、未来人であるという事をはっきりと否定した。

「私は音楽と言う物が好きだ。そして、今の音楽には魂が欠けていると思う…」

 メタトロンはつぶやいた。