6:プロジェクトの裏側
中央ビル内部へと突入したヴァルキリーを待ち受けていたのは今まで見た事のないようなエイリアンタイプのウイルスだった。しかも、ウイルスには触れるだけでエネルギーを吸収すると言う能力まである。
「この手の敵にはお約束…という事ですか」
ウイルスを効率よく撃破する為にもヴァルキリーがサウンドウェポンに読み込ませたディスクは…。
「さあ、始めますわ!」
曲のジャンルとしてはテクノに該当するような流れだが、出だしの破壊的イメージ、ノイズ交じりの意味深な歌詞、随所に見られる発狂をしたかのような曲展開に加えて、曲の速さを現すBPMは300を超えて350というスピードである。
BPMを基準としてウイルスのスピードも変化する為、かなりのハイスピードで正確な射撃能力が求められるのだが…。
『スターゲイザー…』
最初の歌詞にもあるスターゲイザー、それがこの曲のタイトルである。
ヴァルキリーは今までの戦闘では見せなかったような俊敏な動きでウイルスを次々と撃破する。しかも、今回に限って言えば今までの戦闘以上にサウンドウェポンの能力を最大限に発揮している。
『スターゲイザー…全てを―』
無言で現れるウイルスを撃破していくヴァルキリー。その様子は、この曲が使われた音楽ゲームのPVに出てくる破壊神を連想させた。曲が終わる頃、ヴァルキリーの目の前にはビル中心部エリアのゲートが見えた。
「この奥に…真の敵が…」
ゲートを開いた先にいたのは、龍の覆面をした人物だった。スーツ姿に斬馬刀を思わせるような大型の刀型サウンドウェポンという姿は…異様とも言える姿である。
「ようこそ、と言いたい所だが…この場には私のみ。残念だが、不死鳥は別の作戦でこの場にはいない…」
不死鳥はビルを出た後だった。だが、目の前には全ての元凶とも言える龍がいる。彼を何とか倒す事ができれば、ウイルスを止める事も可能だろう。
『ヴァルキリー、龍の覆面を倒す事は君の実力では不可能だろう。あの斬馬刀型サウンドウェポンは、本来であれば別の人物が使う予定だった物を彼が譲り受けたと聞く。今の君では勝ち目はないだろう。引き返せ!』
突如、指令の声が聞こえた。この状態で引き返す事は不可能なのに引き返せ…と。
「この状態で引き返せ…と言われても引き返せません!」
ヴァルキリーは指令の指示を無視して龍に立ち向かおうとしていた。
「では、仕方がないな…」
突如、何処かで聞き覚えのある声が背後から聞こえた。まさか、と思い振り返ると不死鳥の覆面をした人物がいた。
「まさか…?」
今まで通信で指示を出していた指令の正体は、何と不死鳥の覆面だったのである。理由は不明だが、ヴァルキリーを中央ビルまで手引きしたのは全て彼だったようだ。真の敵は味方の振りをしていたとは…ヴァルキリーは驚く事しかできなかった。
「そして、嶋社長もお疲れ様でした…と」
不死鳥の口から嶋社長という言葉が出た事にヴァルキリーは驚きを隠せなかった。
「嶋社長…ガールズグレートやグループ50の総合プロデュースを担当している、あのプロダクションの社長兼プロデューサー…」
ヴァルキリーの驚き方を見ると、大体の正体予想に関しては出来ていたように見える。
「まさか、こちらも味方に裏切られるとは予想外の結果にはなったが…」
嶋は龍の覆面に手をかけたが自分から外す事はしなかった。そして、斬馬刀を不死鳥に向けて投げ飛ばす…。しかし、不死鳥は余裕の表情で斬馬刀を片手で受け止めた。片手と言うよりは、厳密に言えば大型のロボットアームである。
「本来であれば、自分は完全な裏方で手を出さないで置こうとは思ったのですが…仕方がありませんね」
ロボットアーム型サウンドウェポンと思われていた物は、大型のパワードスーツだったのである。これもサウンドウェポンなのだろうか。そして、受け止めた斬馬刀を嶋に向かって投げ返す。
「それが君の答えだったという事か…」
斬馬刀を上手く受け止めた嶋だったが、その衝撃で龍の覆面は割れて、嶋社長の顔が現れた。
「本来であ れば、初登場曲の殆どが潰しあってくれれば都合が良かったが…色々と上手く行かなくて困ったよ。特にライオンの覆面が単独行動を取り出した辺りは、正直な 事を言うと困っていた。丁度、誰かと入れ替わってくれて都合が良かったのだが…逆に警察に今回の作戦が知られてしまうきっかけが出来た事に関しては失敗と 言うべきか―」
「そこまで知っているという事は、あなたの目的は一体…?」
不死鳥はライオンの覆面が飛鳥と入れ替わっていると言う事実を知っていた。それを踏まえてヴァルキリーは不死鳥に目的を問いかける。
「ウイルス と対ウイルスプログラムは、元々は自社製品である目的を達成させる為に制作していた。そのトライアルをする為にサウンドサテライトを利用した。オープン前 のサウンドサテライトならば、他の会場よりも潜入しやすいと言う事もあった。潜入後は色々と小細工をして一部のメンバーのみが中央ビルに来るようにコース 等を暗号化した。その後は…ヴァルキリーも知っての通りの状況になった。ニュースではウイルスとは報道していないが、しばらくすれば警察がライオンの覆面 から得た情報でここに来るのも時間の問題だろう…」
「トライアルだと…!」
嶋が不死鳥の目的を聞いて驚く。元々はウイルスも対抗プログラムも自分の会社で作り出した物だと。
「当初はトライアルでは別のパワードスーツを採用する予定だったが、クライアントの指示でヴァルキリーとスラッシャーを使う事になった。まさか、それが裏目になった結果とも言うべきか…」
別のパワードスーツという彼の発言には若干引っかかる物があったが、ヴァルキリーが今回のトライアルに使われたのは間違いのない事実のようだ。
「一体、何が目的でこんなばかげた事を…」
ヴァルキリーは自分でも、こんな事を起こす不死鳥の思考を理解できなかった。下手をすれば怪我人が出ると言う問題ではないだろう。何故、彼はそれほどに…。
「簡単に言えば、音楽が…厳密に言えば音楽ゲームの存在が許せなかった事だ」
不死鳥から意外な発言が飛び出した。何故に音楽ゲームが許せないのか…。
「これ以上は話をしていても無駄だ。まもなく警察も到着する…警察にこちらの本来の目的を知られる訳には行かない以上、2人には一緒に消えてもらう事になる!」
自分の正体を知られる前にヴァルキリーと嶋の二人を何とか片付けようと不死鳥は動き出した。
「曲に関しては、この曲だ。2対1でもこの大型サウンドウェポンにとってはハンデにもならないと思うが…」
不死鳥が以前にライオンが使っていたウイルスと専用のボクサーや空手家などの形をしたウイルスを同時に召喚する。
「この場は一時休戦するぞ…」
嶋が斬馬刀を構え、不死鳥の召喚したウイルスを次々となぎ払っていく。
「確かに、事務所の違い等で争っている暇も…ないようね」
ヴァルキリーは嶋と事務所的には敵同士なのだが内輪もめをしている時ではないと判断し、嶋の休戦を受け入れる事にした。
『ミュージック、スタート!』
システム ボイスと共に、音楽ゲームでは普段は収録されていないような曲調に二人は違和感を持った。まるで、別のジャンルのゲームであれば収録されていそうな気配の するテンポ、曲調、雰囲気の曲…。仮に収録されるとしたらアクション物か…と。ウイルスの動きは曲に沿った物ではなく、不安定でありパターンを読むのも苦 戦すると思われる。
「相手はプログラムの開発者だ…。どんな仕掛けがあるのか分からない」
嶋の不安 は見事に適中する。ヴァルキリーが背後から現れたプロレスラー型ウイルスにパイルドライバーを掛けられ、その衝撃でメットが外れてしまった。それに加え て、両肩のアーマーとブレストプレートも固定パーツが破損し、体勢を立て直したと同時に外れてしまった。それだけ技の威力が強いと言う証拠だろう…。
「まさか…!」
その正体に驚いたのは嶋ではなく、不死鳥の方だった。ヴァルキリーの正体は嶋の事務所とライバル関係にある事務所のアイドルである皆本だったのだ。
「大体の予想は出来ていたが、そういう事だったのか…」
嶋の方はさほど驚きを見せていなかった。皆本は先程『事務所の違い』と嶋に言っていたのである。その為、嶋には正体が大体把握出来ていたのである。
「こちらの資料では、別のアイドル…グループ50のメンバーと聞いていたのに―」
どうやら、今回の番狂わせは何者かが当初の目的を完全に書き換えた物だと思われる。
「これで、大体の事が把握出来たような気配がします…。ヴァルキリープロジェクトの本来の目的はグループ50の楽曲を宣伝する為のPRだった。それに便乗して複数の企業が自社製品を宣伝する為に必要だった舞台、それがサウンドサテライトだった…」
『本来であ れば、主導するのは嶋社長ではなく別の人物だったが、嶋社長が例の掲示板に書かれていた計画書に気付いた事により、例のスレを立てた。賛同した数人のメン バーに関しては嶋社長の指示ではなく…不死鳥の指示を受けるはずだった。ヴァルキリーの適合者がグループ50のメンバーになる予定が皆本に変わっていたの は、計画を全く知らなかった人物が皆本の写真集を見て変更した物だろう―』
メインモニターに映し出されたのは、飛鳥だった。不死鳥は、飛鳥がサウンドサテライトに来ていた事を知らず、驚きを隠せずに動揺する。
「まさか、音楽意識改革委員会にも計画は全て見抜かれていたのか…」
不死鳥の問いに、飛鳥は『全部ではない』と思わせるような表情をした。
『ヴァルキ リーの件に関しては推測だが、スレに関しては警察の方に裏づけを取った後だ…。そして、今回のウイルスは本来であれば軍事目的に転用しようと密かに開発さ れていた物だと言う事も分かった。まさか、サウンドウェポンと同規格で調整されていたウイルスを見た時は、正直に言うと軍事目的に転用不可能だと思ってい たが―』
「貴様の目的は一体…!」
飛鳥の説明を聞き、嶋も怒りを隠せない。当初は自分が計画したPRと思っていた物が別人の作り上げていた物だったとは…。
「目的…。さっきの曲をきけば、大まかの理由は分かるはずだ―」
『まさか、そっち方面のプレイヤーだったとは予想外―』
飛鳥の『そっち方面』と言う言葉に嶋はピンと来なかったが、皆本にはそれが何なのかすぐに分かった。
「あなたの正体は、対戦格闘ゲームの―」
皆本が名前を言おうとした、その時…嶋が斬馬刀の一閃で不死鳥のサウンドウェポンを一刀両断にした。
「ゲーセンの一時代は我々が作り出したと言うのに…どうして、時代は変わってしまったのだ。西雲隼人、そして…」
不死鳥の断末魔と共にサウンドウェポンは砕け散った。不死鳥は生きていると思われるが…気絶していて起き上がる気配はない。
「音楽業界を変えるべく、西雲が音楽ゲームという手段を使っていたのは知っていた。自分は過去の先人達以上のアイドルを生み出して業界を変えようとした…。その結果は、西雲が言っていた通りの物だったのかもしれない…」
嶋は自分 のやってきた事は何処かで歯車が狂いだし、最終的にはガールズグレートやグループ50のような例を生み出してしまったのかもしれない。あのPRをしていた 時に何処かで、誰かに自分の過ちを指摘してもらいたかった…心の中ではそう思っていたのかもしれない。西雲がライバルの存在を欲しがっていた時と同じよう に…。
『これで全ては終わったか…?』
飛鳥が不死鳥の撃破と共に全ての一件は解決したと思っていたのだが…突然出現した画面表示に―。
『メインコンピュータシステムの非常事態を感知、全プログラムのデリートを開始いたします―』
画面に現れたのはタイムリミット10分の表示とメインシステムのデリート開始を告げる警告メッセージだった。
「まさか、ここまで下準備をしていたとは…最後まで、自分は操り人形だったという事なのか」
嶋が再び怒りを顔に見せる。そして、飛鳥はサウンドサテライトのマップからプログラムを停止する為のサブルームの場所を割り出して皆本に指示を出す。
『10分では隣のビルにあるサブルームまで間に合うかどうか分からない。早く中央ビルからは避難―』
避難しろ…と言おうとした飛鳥だったがノイズが激しくなり、通信が切れてしまった。
「周囲は壁とウイルスに囲まれ…脱出すら困難になったか」
嶋と皆本の周囲には不死鳥が残していったと思われるウイルスと入り口付近には特殊な加工をした壁が行く手を塞ぐ。
「これを、使ってみますわ」
皆本がリニアレールのデータを読み込ませる。その後に放った一撃は、壁を貫通し周囲にいたウイルスを瞬時に消滅させた。
「まさか、これだけの火力を持っているデータだったとは…」
嶋も不死鳥が隠し持っていたデータを持っていたのだが、皆本が使ったリニアレールはそれを超える威力を持っていた事に驚いた。
皆本と嶋は隣のビルへ急いで向かうが、残り時間は5分を切っていた。中央ビルからの脱出には成功しているが、隣のビルまでは走っても1分はかかる距離にある。
「アレは一体…」
嶋が指差す方向には、スラッシャーの姿があった。向かう先はビル内部にあるサブルーム…。
「何とか間に合ったか…」
スラッシャーは急いである人物から託された緊急用のディスクをコンピュータに読み込ませる。しばらくして、プログラムの作動を確認したが、カウントが止まる気配はない。
「プログラムが動き出すのに時間がかかるのか、それともプログラム自体を無効化する対策が組み込まれていたか…」
スラッシャーがプログラムの起動を待っているその時、嶋と皆本が姿を現した。カウントは残り3分―。
「スラッシャー、何を考えている?」
嶋の質問に答える気配はない。そして、床に置いていたガンランスを握り…。
「プログラムが起動するまでに若干の時間がかかるが…こちらの目的を邪魔すると言うのならば、容赦はしない!」
そして、スラッシャーが嶋と皆本に攻撃を仕掛けてきた。彼女の決心は決まったのだろうか…その動きには迷いがない。
『ミュージック、スタート!』
スラッシャーが攻撃を仕掛けたと同時にサウンドウェポンが起動した。どうやら、選曲はスラッシャーの物らしいのだが…。
「この選曲は…スラッシャーが選曲した物ではなく、別の場所からの曲だ」
嶋がスラッシャーのサウンドウェポンの起動状態から、選曲はサブルームのコンピュータが行った物である事が判明する。
「緊急用として渡された、このディスク自体がサウンドウェポン用の物―」
スラッシャーも渡されたディスクがサウンドウェポン用という事は聞かされていなかった。曲に関しては、読み込み中なのかは不明だが無音のままで進行を続けている。
『万が一、サウンドサテライトで非常システムが起動するような事があれば、このディスクをサブルームで起動させないと…』
スラッシャーとディスクを彼女に託した人物は、そんな事を言っていた。
「さて、後は自分達の曲が流れれば…」
嶋と皆本はスラッシャーの台詞に違和感を覚えた。まさか、スラッシャーの正体はグループ50のメンバーなのだろうか…と。
「まだ曲がかからないという事は、起動に時間がかかっているのか、それとも…」
皆本は残り時間が2分30秒という状況にも関わらず、システムナレーションのコール後に曲が流れない事に違和感を持った。嶋も同じ事を思っているのだが、曲の読み込みが長いのか、それとも…?
『偽者のスラッシャーにはお勤めご苦労…というべき所か?』
サブコンピュータの画面に映し出されたのは不死鳥の覆面であった。あの時倒したはずなのに…と思ったが、これはディスクに記録された映像だろう。
「偽者…だと?」
嶋が目の前にいるスラッシャーが偽者と聞いて驚きを隠せない。アーマー等は本物と同じなのに、どうして『偽者』と不死鳥は言い切ったのか…。
『この場には、偽者のスラッシャー以外にも意識改革委員会のメンバー、嶋社長がいるという認識でこのメッセージを伝える。西雲隼人がこの場にいたとしたら、それはそれで大変な事になるのは目に見えているからな…』
何故、不死鳥が西雲隼人の名前を知っているのか…。ネットで検索すればすぐにでも分かる時代だが、この場にいる事を仮にでも考えている…と言う点に嶋は不信感を抱く。
『まず、サ ウンドサテライトでスラッシャーとヴァルキリーのトライアルを実施すると言う事は報道機関等の外部には秘密にする状態で進められていたのは事実だ。実際は トライアルの映像をオープン式典に使うつもりで下準備も進められていたのだが…本物のスラッシャーを演じる予定だったある人物とコンタクトが取れなくな り、別の人物を起用する事になった。それは、このディスクを持っている偽者とは違う事務所の人物―』
嶋は『違 う事務所』という表現に違和感を持った。本来の人物は誰かが分からないと全てが推測になってしまうのだが、Aという事務所のアイドルがスラッシャーを演じ る予定なのが、Bという事務所の人間を起用する予定だった―説明を聞く限りでは、そういった流れがあるように見える。そして、本物を演じる予定だったの は、この場にいる偽者とは違う事務所の人物だった―。
そして、ヴァルキリーとスラッシャーのトライアルも実は水面下で式典用のイベント映像として使う予定があった事と外部には秘密であった事も判明した。
『本来であ ればスラッシャーには紫羽翼を起用するつもりだった。しかし、彼女のスケジュールが合わない為に、翼と同じ事務所の皆本姫華にも声をかけたのだが、こちら も折り合いがつかなかった。それを知ってか、グループ50の事務所がスラッシャーのトライアル情報を何処からか入手、更にはトライアルには使用しない予定 だったサウンドウェポンのメインシステム及び別の会社が開発したコンピュータウイルス及び対ウイルスプログラムも投入した。これらは、全て偽者のスラッ シャーが仕掛けたという事で間違いはないだろう―』
スラッシャーには翼を起用すると言う事に加えて、皆本も起用予定だったという事実も明かされた。そして、皆本本人は驚く。
「私がヴァルキリープロジェクトに選ばれた理由って…」
『ヴァルキ リーに関しては、更に別のアイドルが担当する予定だった。そして、何の因果かは知らないが、スラッシャーの方を演じる予定だった皆本が選ばれたらしいと言 う話を何処からかのネット情報で確認した。それならば偽者を上手くおびき出して一網打尽に出来るだろう…そんな考えの下で、指令と不死鳥の覆面の1人2役 を演じる事にした。どちらにも気付かれないようにするのは非常に大変だったが、意識改革委員会が早期に手を打ってくれたおかげもあって、こちらも予想外の 収穫があって自分でも驚いた―』
指令と不死鳥の覆面を演じ分けていたのにはそれなりの理由があった。なのに、あんな事を…皆本は自分がやった事を悔やむ。
「収穫と言うのは、ダッシュのメンバー逮捕等のことだろう…」
嶋はダッシュのメンバー逮捕のニュースを見てまさか…とは思った。過去にダッシュはグループ50とシングルチャートを争った事も何度があったためだ。そんなメンバーが逮捕された事に何かの間違いと思いたかった面もあったようだ。
『ダッシュ の一件もそうだろうが、このメッセージを分割して録音している途中で面白いニュースが飛び込んできた。オークションでの転売で月に1億以上を稼いでいたメ ンバーが逮捕されたらしい。転売が絶対悪と決め付けるのは早計だが、これをきっかけに本当に正しい音楽流通が何なのかを考え直すきっかけを作って欲しいと 思う。残念ながら、そろそろディスクの容量もなくなってきそうだ。このメッセージとは別にさまざまな内部資料もディスクには入れてある。それらは、この ディスクデータの読み込みと同時に警察や音楽意識改革委員会本部、その他の関係各所に分離して配布するようにプログラムしてある―』
その場にいる三人は驚いた。このメッセージには、重要な意味があるのだ…と。嶋は不死鳥が席を外した少しの間にディスクとメッセージを吹き込んでいた事に驚き、皆本は紫苑が会う度に話をしていた1億を稼いでいる転売目的の人物が逮捕された事を彼が知っていた事に驚く。
「あのデータが警察に流れれば、間違いなくグループ50は音楽業界の黒歴史に…」
スラッシャーが慌ててプログラムを止めようとするが、止まる気配はなかった。
『止めようとすれば、こちらの防御策が自動的に起動する仕組みになっている。どんなシステムかは…このメッセージ終了後に分かる事だろう』
メッセージは、そこで終了した。サブコンピュータは停止し、カウントは1分の所で止まっていた。
『ディフェンスプログラム起動。ウイルスシステム及び対ウイルスプログラムを自動停止します―』
スラッシャーがプログラムを止めようとした影響で、ウイルスプログラムと対ウイルスプログラムの両方が強制的に停止した。
「そんな…」
その場で倒れるスラッシャー…。
「これで全ては終わったのだろうか…」
何とかサブルームに到着した飛鳥だったのだが、到着した頃には全てが終わっていた。
夕方頃に は警察も到着し、偽者のスラッシャーだったグループ50のメンバーが逮捕された。その後、警察等に謎のデータが届くのだが…届いてすぐにはファイルを開く 事ができなかった。ファイル自体にナンバリングがされており、そのナンバリングが全て揃わないとファイルを閲覧できないように不死鳥が設定していたのであ る。
「これで、全ては終わったのか…」
ニュースを見ている時に謎のファイルが西雲の元に届いたのだが…。
その一方、捕まった偽のスラッシャーとは別の本物のスラッシャーがサウンドサテライトのプリンセスエリア屋上から全てを見届けていた。どうやら、最初にヴァルキリーが遭遇したスラッシャーは本物だったのだが、サブルームで遭遇したのは偽物だったという流れらしい。
「皆本さんには、悪い事をしてしまったかしら…」
メットを外した翼は、警察が引き揚げるのと同時にサウンドサテライトを後にした。