0:サウンドサテライト完成式典

 都内某所、巨大な音楽複合施設として建設されたサウンドサテライトの完成式典が始まるのを前に、大勢の観客が特設ステージで何かを始まるのを待ちわびていた。

「さて、何から話せば…」

 上から下までファストファッションで着込んだ青年がステージに現れた。観客達は彼の現れるのを心待ちにしていたらしく…一斉に拍手をして彼を迎えた。

「あれは今から1週間前の出来事か。このサウンドサテライトでとある重大な事件が起こった。その事件の中心にいたのは―」

 青年は何かを思い出そうとしていた。そして、閃いたかのように指を鳴らす。次の瞬間には、彼の後ろにある大型スクリーンにSFに出てきそうなデザインをしたパワードスーツを着た人物の画像が映し出されていた。

「ヴァルキリー、確かそんな名前だった―」

 彼の説明の後には、ヴァルキリーがサウンドサテライトでウイルスを次々と撃破していく様子が動画として流されていた。

「そして、最終的に事件は予想外の展開を見せる事になった。まさか、このような展開になるとは誰が予想していただろうか…」

 青年は語り続けた。その背後では、ヴァルキリーの戦闘シーンや中央ビルへ突入する様子等が流れている。

「遂に龍の覆面をした人物を追い詰めたのだが…彼はビルにあるメインセキュリティシステムをデリートしようと最終制御装置のボタンを押したのだ。ヴァルキリーが向かったのでは間に合わない。そんな状況で―」

 次に映像が切り替わり、黒いパワードスーツの人物が映し出された。外見こそはヴァルキリーと酷似するが、各種アーマーの形状や武装等が異なる。

「彼女が現れた。彼女の名は、スラッシャーという…」

 スラッシャーは元々、ヴァルキリーと対となった計画に採用予定だったのだが―。

「そして、彼女達の活躍でサウンドサテライトは無事にオープン出来るまでに至った―」

 彼のスピーチが終了後、司会者の紹介でさまざまな人物が呼ばれ、挨拶や電報等が読まれ、最後にはある人物の名前が呼ばれた。

『最後に西雲隼人様の―』

 しかし、この場には西雲隼人(にしぐも・はやと)の姿は何処にもなかった。諸事情によって欠席をしているようだ。

『それでは、サウンドサテライトのテープカットをメタトロン様に―』

 司会に呼ばれる形で現れたのは先程のスピーチを行った青年である。そして、彼がテープカットをする事でオープンを迎えたのである。

「これが、新たな音楽業界…音楽ゲームの架け橋になる事を祈る…」

 彼は何を思い式典に参加したのか…。