幕前:西雲隼人

 

 都内某所の高層ビル、そこでは二人の人物が何やら話をしていた。

「社長、このデータをご覧ください…」

 秘書と思わしき男性が社長にある書類を渡した。

「西雲隼人(にしぐも・はやと)か…」

 渡された書類には西雲隼人に関する無数のデータが書かれていたのである。

 

 西雲隼人、男性、12月25日生まれ、血液型は不明、身長175CM、体重推定70Kg…都内のゲームメーカーA社に在籍。大学時代に後の全てにおける音楽ゲームの基礎を生み出したとして注目を浴び、A社にスカウトされ、現在に至る。自身でも作曲活動をしており、自身の誕生日と同じタイトルの12月25日が空前のヒットとなった。この曲が収録された音楽ゲームのアルバムは12月発売週のCDチャートアルバム部門で1位を獲得する。しかし、この曲とアルバム未収録のアレンジ版を収録したシングル版は5位という結果になった。その当時にチャートの1位になったのは、現在は解散しているグループGという女性アイドルグループのCDで4位までを違う曲をA面に変更しただけのCDで独占された。それが影響したのかどうかは不明だが、グループGの商法に対して日本経済をバブル化させる原因として名指しで批判を行った…。

「その後は、既にご存知の通りです。彼が音楽業界に大鉈を振るい、グループGを始めとした商法に対して改善命令を出し、現在に至ります。グループGの商法に関しては、未だに逃げ道を作るような形で生き延びているのは事実であり、それらも根絶しないことには再び日本経済はバブル崩壊と同じ現実に直面する事になります…」

 秘書は社長に提言する。音楽業界を再び変革させなければ、音楽業界だけではなく被害は他の業界にも影響し、グループGバブルが崩壊したような悲劇は繰り返される…と。

「君にはこの会社の動向を探ってもらおうかと思っているのだが…」

 社長が秘書に渡したのは、あるゲームメーカーのゲーム企画書なのだが…。

「これは…!」

 秘書は驚く。これが、もしも本当だとしたら、音楽ゲームはグループGバブルの悲劇と同じ道をたどる事になる…と。

「今、政府が水面下で音楽業界の意識改革を進める為の準備をしている。しかし、それが実行される前に色々な会社が、駆け込み需要で色々なアイドルグループに声をかけているらしいと言う話を聞く。中には、レコード会社が宣伝の為に億単位で資金を動かしているらしいという話も聞く。君には、それが真実なのかを含めて確かめてもらいたいと思う」

 今回の任務は、あるゲームメーカーで開発が進められている音楽ゲームでレコード会社のPR用に作られているらしいという噂を事実かどうか確かめる事だった。そして、秘書はある書類を受け取り、社長室を後にした。

「我々としても、1組のアイドルグループが全ての国民を独占するような状態は作って欲しくないのだ。複数のアイドルグループが競い合う事が正しい事を証明しなければ…」

 社長は思う。1組のアイドルだけが人気を保ち、他のグループは注目もされないまま消えていく…。どのテレビを回しても同じアイドルしか出てこないのは、芸能事務所の社長としては苦痛なのかもしれない。

「かつて、西雲隼人は言った…」

 

『競い合う相手がいてこそ、成立をする世界もある。1人が全てを掌握するような世界は自分にとっては退屈だ…』

 西雲隼人は、自分と競い合える相手を探しているのかもしれない。