6:次のステージへ

 

 昨日の事件は予想 通りに大きく取り上げられる事になり、ミュージックバースト及びアヴェンジャーの存在を全く知らなかった市民等にも知られる結果となった。これによって情 報を知りたいと思う人々が週刊誌を買うと言う流れとなり、アヴェンジャー特需ともいえる状況となった。

「本当に、これで良 かったのか…。大きな軌道修正をする必要も、もしかしたらあるのかもしれない―」

 シオンは一連のテ レビを見て、そんな事を思っていた。朝の情報バラエティーも特集によっては視聴率がグルメ特集等をやっている時よりも10%以上も変わると言う展開にな り、遂には週刊視聴率で情報バラエティーがベスト10を独占する流れにもなった。

「結局、あの事件で 一部のマスコミや芸能事務所に存在を知られてしまった以上、別の手段で音楽業界を変える必要もあるか―」

 シオンは、どんな 形であってもマスコミや芸能事務所が必要以上に介入し、自分達の宣伝材料や合法的な超有名アイドル商法を推し進める為の基礎を築く事も考えられる。

「イザナギ…ネット 上では、それらしい記述は特に見られなかったが、あの技術は何処から手に入れたのか―」

 あの技術が流出す るとは考えられない。独学で到達したのか、それとも…とシオンはイザナギに搭載されていた技術について疑問に思っていた。

「どちらにしても、 超有名アイドル復活を考えるアヴェンジャー、ミュージックユニオンとも違う存在が音楽業界を変えようと動いていると言う事か―」

 

『これからの音楽業 界、どうなるだろうか』

『イザナギが遂に表 舞台に出た事が意味する物は、非常に重いと思う』

『イザナギは音楽業 界が権利や利益、特定アイドルの宣伝だけで動いているような部分に猛反対していたからな―』

『どの番組とは言わ ないが、超有名アイドルを出演させた事で、本来とは違う特番を見ているような錯覚をした番組もあった位に宣伝乙とか―そんな気配がした位だからな』

『何を訴えているか 分からない番組が多かった感想も多かったな。一つの例えだが、終戦番組なのに終戦をメインにせず、超有名アイドルばかりに注目させているとか…24時間と か長時間を使ってアイドル宣伝番組とか…視聴者をだませると思ったら大間違いだ―と言いたい所だな』

『イザナギが訴えた いのは、そんな小手先だけの手法を変えただけのアイドルが再び現れては超有名アイドル商法規制法案も作っただけで、一部芸能事務所が抜け道を使っているの では…と言う事か』

『ミュージックユニ オンは、視聴率を気にせずに番組を作っているから、その点は問題ないが…問題はけが人が出ないかと言う―』

『けが人に関して は、バラエティー番組では色々と言われている部分だろう。低レベルの視聴率稼ぎで無茶をさせるとか…ミュージックユニオンに限った訳ではないが、利益や視 聴率等も絡むと、どう考えても視聴者が置き去りになってしまう部分が多い。視聴者目線の作品は、超有名アイドル規制法案が引き金で色々な規制法案が出ない 限りは無理なのでは…と思ってしまう』

『規制をしなくては 暴走すると言うケースが多くて、別の意味で涙目だな―。ここまで禁止にしなければ止める事は出来ないのか…』

 ネット上では、今 回の事件をきっかけにして色々な所で大幅な規制をするべき…という議論が加速していた。最終的には全てにおいて免許制を導入等…どう考えても反対意見が相 次ぐような意見まで飛び出した。

 

        6―2

 

 一連の事件が起き たのが5月31日だった事もあってか、予選に影響する範囲が限定的だったのは不幸中の幸いだった…と関係者は口をそろえた。

「予備予選は明日に も予定されていた。それを考えれば…被害が小さくて助かったと言うべきだろうか」

 あの時に北千住へ 集まった人物は、6月1日に予選へ出場するメンバーのみだったと言う。あの文章の真意は不明だが、どういった経緯でミュージックユニオンの参加者を北千住 へ呼んでアヴェンジャーと激突させるという流れを作ったのだろうか?

『やはり、あの舞台 を作ったのはイザナギ自身だったのか、それとも別の芸能事務所が売名行為としてミュージックユニオンを利用したとか…』

『アヴェンジャー側 は、市役所に許可を得た上でデジタルクリーチャーを呼び出したという話だ。市役所に書類を出しているアンノウンと思われる人物の目撃情報を見ると、間違い ないようだ』

『そうなると、わざ わざ市役所に許可を出してアヴェンジャーは動いていたという事か』

『全ての元凶だっ た、あの事件はどうだろうか。あれは市役所に許可が出されていたとか…そう言う類ではないはずだが―』

 全ての元凶、草加 市内だけではなく都内にも出現した大量のデジタルクリーチャー…こちらに関しては許可が出たような形跡は存在せず、事実上のアヴェンジャーによる犯行とみ て間違いのない事件だった。

『北千住の一件に裏 があるのか、全ての元凶こそがアヴェンジャーとは別組織の犯行だったのか…謎は深まるばかりだ』

 

 6月1日、予備予 選2日目にセナの姿があった。いつものスーツよりも軽量化、機動力を重視したような装備に加え、ガンビットと言う新武装を兼ねたウイングを装備する等の変 更点が見られる。

「今度こそ…勝ち進 まないと」

 優勝は二の次、ま ずはファイナリストになる事が優先だと―セナは思う。勝ち残れなければミュージックバーストを手にする事はかなわないのだから。

 

「音楽業界が変わる 為に出来る事―」

 会場で背広姿の男 性が予備予選を観戦していた。彼はミュージックユニオン自体には興味はないのだが、音楽業界の未来を考えて行動する人物を見つける為に活動を続けているの だと言う…。

「私が願うのは、音 楽が全てのユーザーに楽しいと言ってもらえるような…そんな音楽を伝えられる世界―」