8:そして、決着へ…    七那の独立宣言を受けた翌日の朝、政府は大慌てになっていた。深夜の法案審議の後で疲れを見せていた総理に、多数の記者が詰め寄り、一時はパニック状態になった。 「総理、ホーリーフォース事務所襲撃の指示を出したというのは本当ですか?」 「ラクシュミ商法を保護する為に、他の大物アーティストに解散の指示をしたのは―」 「総理、ラクシュミ商法を特許申請して海外へ売り出す際に莫大な特許料を徴収して、それを赤字国債償却に割り当てるという―」 「超有名アイドル以外のCD対して消費税100%を課税すると言う話は―」  次か次へと、自分が他に話していないような事に関しての質問が飛び交った。事務所襲撃に関しては、警察にも黙殺するように指示を出したはず…。 「一体、何がどうなっている?」  何とか記者を振り切って会議室へと入った総理だったが、多数の記者の次は覆面をした集団が待っていようとは誰が予想したのだろうか。しかも、この覆面集団は背広に議員バッチをしており、国会議員である事は間違いのない事実だった。 「先ほど、ホーリーフォースへの資金援助打ち切り法案が深夜に可決されたという話を聞きました―」 「それは昨日の内に既に用意し、総理大臣権限で深夜に強行採決に踏み切ったという話も他の議員から聞きました―。これをどう説明するつもりでしょうか?」 「それに加えて、ラクシュミに関する権限拡大及び該当芸能事務所への優遇を含めた法案も我々が不在のままで強行採決―」 「これらが意味する物は、ラクシュミの芸能事務所から賄賂を受け取っている事を自ら証明したと同じ事―」  ライオン、鷲、チーター、フクロウの覆面をした議員が順番に総理へ質問をする。しかし、この部屋は本来であれば与党の議員しか入られないようにセキュリティをかけてあるはずである。 「総理、大変です。ラクシュミの所属事務所が警察の家宅捜索を受けているとの事―」  秘書が急ぎで総理大臣に伝えた情報は、総理大臣にとっては悪いニュースだった。 「家宅捜索ですか―これは好都合ですね。身の潔白を証明されるのでしたら、事務所から密会のメモが見つからない事を祈るしかないでしょう―」  覆面議員達の中央にいたのは、狼の覆面をした女性だった。声を聞いた総理は、脅えるようにこの場から逃げようとしていた。 「これで、あなたの時代も終わりですね。総理―次の総理は、音楽業界等にも精通した人物が選ばれる事を祈っていますよ」  次の総理…と言った次の瞬間に狼の覆面を取ったのは瀬川だった。覆面議員は全て野党側の議員であり、今回の情報を含めたラクシュミ関連の情報は、全て野党議員等からもたらされた物だったのである。 「そして、既に警察もこちらに向かっているという情報もあります。あなたの時代は、まもなく終わる事でしょう」  秘書は懐から虎の覆面を取りだした。この覆面は、元々は総理がスパイ活動用として使用していた覆面である。これが、何らかの理由で秘書の手に渡り、最終的には自らの総理の座を失うきっかけになろうとは、本人も予想もしていなかった。 「まさか、記者が言っていた事は…」  総理は思った。記者が聞いていた質問は全て極秘扱いとして外部から漏れないように国会とは別の所に保管していた物である。 「その通りです。昨日の音楽管理システム掌握の一件は、一連の噂が確実な物である証拠が欲しかった為に実行した物。まさか、不正楽曲データの中に隠してあるとは予想外でしたが―」  総理の目の前に現れたのは、メガネをかけた美青年にも見える人物だった。彼の手にはドラゴンの覆面がある。どうやら、彼がドラゴンの覆面の正体らしい。 「あなたの一言によって解散に追いやられたグループやバンドの中には、音楽に希望を見出せなくなり、最終的には音楽そのものを捨てた人までいます。ラクシュミ商法で苦しんだ国民も多くいるでしょう。そんな国民の中にはラクシュミ商法自体に―」  ドラゴンの覆面は語り続けるが、それを止めたのは意外な事に瀬川だった。 「彼は元々、中堅バンドとしてCDもミリオンを出す位に人気があったボーカルだった人物よ―。彼の気持ちを全て分かって欲しいとは言わないけど、ラクシュミ商法をノーリスクハイリターンと疑わずに日本全域に広めてしまった事…それは国民全てに謝罪すべきだと思う―」  バンドは解散し、メンバーとは離れ離れになった彼は、音楽業界正常化を訴えて選挙に初当選、後にラクシュミ商法に関して廃止を訴えるグループに入り、ドラゴンの覆面を被って復讐の機会をうかがっていたのである。 「そうか、あの時の…。すまなかった―」  総理はドラゴンの覆面に対して土下座をして謝った。それだけで彼の怒りがおさまらないのは分かっているが、今は、それしか方法が思いつかなかったのである。  総理の逮捕から数時間後、ラクシュミの芸能事務所から与党議員数人との食事会、総理大臣への賄賂を含めた数多くの証拠が押収され、これらの事実が判明した中でラクシュミの活動を続けるのは困難と判断、芸能事務所側は家宅捜索を受けた事も踏まえてラクシュミを解散させる事を決定した。更には野党側が提出した総理大臣が今まで隠していたラクシュミ商法を続ける為に行った不正行為を含めた全てが公になった事に加え、総理大臣が逮捕された事も決定打となり、現在の与党で構成された内閣は総辞職し、国会は一時的な無政府状態となった。 「今回の一件を受けて、ホーリーフォース計画及びラクシュミに関する全てのプロジェクトに関して解体を行う事を―」  午後には、臨時の官房長官がホーリーフォース計画の凍結とラクシュミに関する全プロジェクトの解体が発表され、一連の事件に関する総理大臣の辞任及び内閣総辞職に関して謝罪をするという結果となった。本来であればこの場では総理が謝罪するべきはずだったのだが、会見が行われている頃にはパトカーで警察へ送られている途中だった為に、総理自身が謝罪を行う事は出来なかった。 『これでラクシュミも終わりか―』 『CDの売り上げがチャートを見てもおかしいと思ったら、そんなからくりがあったとは予想外だったな―』 『過去にも同じようなグループが楽曲の盗作疑惑で解散になったが、ラクシュミも原因は違うが同じ道をたどった事になると思うと残念だ』  今回の会見を受けて、ネット上では様々な意見が飛び交った。中にはラクシュミ解散をCDヒットチャートの活性化が進むのでは…と歓迎する流れがある一方で、今回の一件が音楽業界に少なからずダメージを与えるのは間違いないと指摘する専門家も何人かいた。   会見から1週間後、専門家が指摘した事態はすぐに起こった。夕方に発表されたウィークリーCDチャートを確認した元ラクシュミファンが実際のチャートに衝撃を受けた。 『何だ、このチャート…』  いつものCDチャートと違い、自分達には見覚えのないアーティスト名ばかりが並んでいる。中には演歌歌手やベテラン歌手の曲も入っているのだが、半数以上は同人作品や音楽ゲームのサントラと言ったような作品がランクインしていたのである。1位も普段はラクシュミの定位置なのだが、今回に限っては違っていた事が、普段は見る事の出来ない光景である事は間違いない。  この状況を重く見たリボルバーは、ラクシュミ解散の影響が想像以上だった現実を目の当たりにした。これはサウンドランナー事件の時以上に深刻な物である。 「このままでは、音楽業界その物が終わってしまう―何とかしないと」  音楽業界にはコネがないリボルバーには有効な対策と言えるような物が立てられる気配はない。ならば、ホーリーフォースで何とか出来れば…と考えた。  ラクシュミの解散で音楽業界はバブルがはじけた後のような状態になっていた。それは音楽ゲームや同人楽曲が上位を占めるCDチャートだけではなく、カラオケでも音楽ゲーム楽曲を積極的に導入、ゲーセンで設置される音楽ゲームでもライセンス系楽曲を一切なしにした音楽ゲーム楽曲だけの作品が脚光を浴び、多彩なアーティストの楽曲が音楽雑誌やテレビ番組でも取り上げられた。 彼らは芸能事務所には所属せず、自分のやりたい音楽を作り上げる―そんな彼らの意思は楽曲の中にも間違いなく存在し、ファンの支持を得ていたのである。ラクシュミのような利益を上げる為だけに作られたテンプレの音楽よりも多くの反響を生み、遂にはライブが開かれるまでに至った。  この現象は、今までラクシュミ1組だけの特集や企画等を利益が上がると言う理由だけで組んできた雑誌社やテレビ局、芸能事務所等に対する警告のようにも見て取れた。税金の減額という餌をちらつかせてラクシュミ商法を推奨してきた政府のやり方にも問題があるだろう。特定のアイドルを頂点に立たせて無限の利益を上げるシステムを作り上げたピラミッド型の音楽業界ビジネスモデルは、こうして崩壊していったのである。 「これで頭を冷やすかどうかは、政府やファン等の態度次第という事か―」  文章を打ちながら、リボルバーは色々と考えていた。本当の意味での音楽をいつの時代から忘れてしまったのだろう、利益優先で生まれたアイドルは長続きするはずもないと言うのに、どうして政府はそれを長年にわたって推奨したのか―。単純に赤字国債を償却する為だけではないのは分かっているが、どうしても政府のやり方に納得できない自分がいたのである。 「政府にラクシュミのテストケースとして利用された事実は消えないだろう。そして、今回の一件でも―」  リボルバーは原稿を打ちつつ、もう一人の自分と苦闘していた。  ある日の日曜、ホームページ更新作業を終えたリボルバーは事務所で朝を迎えた。 「もう、朝か―」  連日のホームページ更新準備を徹夜でやっていた為か、若干だが時間の感覚がおかしくなっている…と思った。 「ホームページの方は、無事に更新されているか―」  徹夜が続いた為か、いつのタイミングで更新したのか…と言うのも忘れているが土曜日深夜には無事にホームページは更新されている。 「寝ぼけていてリンク先等が間違っていなければいいが…」  連日の徹夜と突貫作業と言うのもあってミスが目立つのではないかと不安があったが…特に目立った不具合などは報告されていないようだ。 『これ、リボルバーのホームページか?』 『最初に見た時は何がどうなっているのかと思ったが…』  ホームページを見に来たユーザーの大半がホームページの変わりように驚いていた。今まではラクシュミに対して批判的な記事等がメインだったのだが、それらの記事に変わって追加されたのはホーリーフォース関連の記事だったのである。 『どうやら、ホームページ上にはラクシュミの記事関連は残っていないようだな―』  何人かのユーザーがラクシュミ関連の記事が残っていないか検索をしたが、ホームページ上には残っていないようだ。ただ、データのキャッシュを専門としているサイトにはラクシュミ関連の記事は残っている為、記事に関しては見ようと思えば見る事は出来るだろう。しかし、それを今のリボルバーが望んでいるのかに関しては不明である。 『まさか、リボルバーもホーリーフォースだったとは知らなかったな―』 『リボルバーが開発に関係していた地点で他にも関わっているとは噂されていたが、まさか初代ダークネスレインボーだったとは―』  衝撃的だったのは、タイトルに【大事なお知らせ】と書かれていた文章だった。そこには、今回のホーリーフォースに関する一連の事件に関して自分が無関係ではない事、今までホーリーフォースの公式ホームページでは未記載のままだった初代のダークネスレインボーが自分である事、一連のラクシュミ商法がホーリーフォースにも伸びていた事等を例に出した。 それ以外にもさまざまな事が書かれているのだが、ユーザー向けと言うよりはホーリーフォースのスタッフやナンバー候補生、ホーリーフォースの現メンバーにあてたメッセージという意味合いが強い物だった。 『ラクシュミ商法に関して、絶対に続くはずはない…という思いから一連のラクシュミ商法に関するデータをチェックしていた所、その中にラクシュミ商法のテストケースに利用されている事業や企画等のリストを発見しました。自分でも薄々気付いていた事は事実だったという事をここで初めて知りました―これは自分の心の中にしまっておこうとも考えていました。しかし、ある時にフリーズから全ナンバーをラクシュミメンバーに固めるらしいという計画を耳にしました。これは政府の罠とも考えました。しかし、全員をラクシュミメンバーに変えると言う事は、ホーリーフォースがテストケースとしてはなく、普通に成功をしている証拠でもありました。その時からです。自分がラクシュミに対して金の亡者という認識しか抱かなくなったのは―』  そして、ナンバー9がステージに乱入したあの日―リボルバーの計画通りに全ての物事が進むと思っていた。しかし、退院時期が早い事等を不審に思った政府は3人のホーリーフォースに自分の抹殺を依頼、最終的には七那が新たなダークネスレインボーになったのである。 『計画では七那にもホーリーフォースの推薦状が届く予定で、そこからナンバー8かナンバー10を与えるつもりでした。しかし、それ以上に政府の反応が早く、自分の手元にしまって置く予定だったブレスレットを七那に託す事に―』  そこからは事細かくスタッフやミカド等に当てたメッセージとなっている。それ以外にもファンに当てたメッセージもそこには書かれていた。 『今回のラクシュミ解散を含めた一連の騒動で、日本政府が音楽業界を利用して赤字国債を償却していた仕組みを色々と理解できたのだと思います。確かに借りたお金は必ず返さなくてはなりません。しかし、日本政府はその手段をラクシュミや一部のアーティストの売り上げの一部で返そうとしていました。これが正しい借金の返し方と言えるのでしょうか? ラクシュミ商法のカラクリに関しては自分では理解できない箇所もありました。中には、オークションを利用した転売やCDの複数購入等のような常識では考えられないような方法が多数存在し、それらが放置されてきた事実も、今回のCDチャートに現れたのかもしれません。音楽業界が変わらなくてはいけない現実が―』  ユーザーの大半が最近のラクシュミ商法が露骨になってきた事に疑問を持ち、ニュースで赤字国債が月に10兆円規模で減っているという話を聞いて夢のような話だ…と思った者もいたと言う。 『今こそ、音楽業界と言うか自分達が変わらなければいけない―おそらくは、同じ事の繰り返しになるかもしれない。それでも団結出来れば乗り越えられると信じている―』  ラクシュミが解散しても違うアイドルグループが同じような商法を展開するのは明らかである。それでも、ユーザー一人ひとりが声を上げてラクシュミ商法に対してNOを突きつける事が大事なのでは…とリボルバーのメッセージは続く。  リボルバーのページには、ホーリーフォースの公式サイトへのリンクも存在していた。 『まさか、これって…』  ユーザーが驚いたのは、ホーリーフォースの公式サイトで告知されていたスペシャルステージ開催のお知らせだった。  リボルバーのホームページリニューアルから一週間、ホーリーフォースにも衝撃が走ったスペシャルステージ開催の告知―事務所にいたスタッフやミカドは使用可能な場所の捜索に大慌ての様子だった。 「結局、ナンバー3、8、10の3人は資格をはく奪。家宅捜索時に負傷したナンバー2も一緒に資格のはく奪になるのか、それが心配だけど―」  ラクシュミメンバーだったナンバー3を含めた3名は事務所の家宅捜索時に捜査妨害をした事で逮捕される結果となり、ホーリーフォースの資格も逮捕と同時にはく奪される事になった。そして、フリーズは捜査妨害を何とかして止めようとしたナンバー2に対して同情をしていた。 「彼女は六本木の一件に関しては事務所の指示を聞いていたが、あの時はどうして事務所を裏切る事をしたのだろうか?」  ロックはナンバー2の取った行動に関して疑問を持っていた。 「それに加えて、欠番になったナンバーの補充と言ってもすぐに起用できる候補生は誰もいない。この状況をどうすればいいのか心配だ」  ミカドは欠番となったナンバーの変わりがすぐには補充出来ない事を心配していた。リボルバーが提案したステージには12人全員が揃う事が条件だからだ。 「はい、ホーリーフォース事務局―」  電話対応したスタッフがミカドに受話器を渡す。どうやら、直接伝えたい事があると言う人物からだが―。 「その声は…瀬川か?」  電話の主は瀬川だった。そして、ミカドに自分の知り合いを臨時でホーリーフォースに組み込めないかを提案、更にメールで送信したURLにプロフィールがあるのでチェックして欲しいとの事だった。 「ちょっと待て、この人物は―」  URLにあったプロフィールを見たミカドをはじめとしたメンバーが瀬川の紹介する代理メンバーに驚いた。 「誰かと思えば、動画サイトで有名な大物コスプレイヤー2名じゃないか―」  ショットが驚くのも無理はない、瀬川が代理メンバーとして指名した2名は動画サイト内でもファンが多数いると言われている超有名コスプレイヤーである。瀬川は過去に彼女達と共にチームを組んでいた事があり、その縁があってのゲスト出演となった。 「次にナンバー12の強化型装甲、あれのダメージは非常に高い物だと言う事が専門家の調査で分かった。これをどうするべきか―」  ミカドは万全の状態でスペシャルステージを行いたいと言う思いがあった。人員がクリア出来たとしても、次はアンノウンが大破させたナンバー12の強化型装甲である。そんな中、1通のメールが事務所に届いた。差出人はリボルバーである。 『ラクシュミ側に気付かれず保管していた強化型装甲の新型をナンバー12の強化型装甲の修理に使うといいわ―』  リボルバーからのメールには、隠し続けていた新型の強化型装甲の事と保管場所の地図ファイルが添付されていた。それを見たミカドも残るは空席となったナンバーの2名を残すのみになっていた。  リボルバーのメールが届いてから数分、事務所に来客が現れた。メイド服姿のナンバー12に引っ張られる形で姿を見せたのは、セーラー服姿のほむらだった。 「ナンバー2、どうしてここに来た?」  ショットが護身用で持っていたアサルトライフルをほむらに向ける。ラクシュミは解散し、その復讐に来たのか…と。 「彼女は既にラクシュミのメンバーではありません。家宅捜索を受ける前にラクシュミを辞めています―」  攻撃態勢を取っていたショットに対して銃を下すように説得をするナンバー12が、ミカドやこの場にいるメンバーに事情説明を始めた。 「どういう心境の変化なのか説明をして欲しい所だが―」  ミカドは、ほむら自身に今回の事情説明を求めた。 「それについては、私が説明します」  次に現れたのはアリサだった。過去に彼女を説得して、あの時は失敗したのだが―。 「ラクシュミの事務所が家宅捜索を受けたという話は、皆さんもご存じですね。そこで家宅捜索を前に妨害工作が行われて―」  妨害工作という言葉を聞いて、ロックが疑問に思った。新聞では普通に妨害もなく行われていたと書かれていたはずでは…と。 「おそらくは、警察としても大きく取り上げれば音楽業界にも影響を及ぼすと判断して掲載を見送るように指示をしたのでしょう。一部の週刊誌は売上目的で警察を無視して情報を掲載したようですが―」  アリサの手元にあった週刊誌によると、ナンバー8、ナンバー3、ナンバー10の3人がナンバー11と戦っていたのである。ナンバー11の目的は偵察だったのだが、その途中で3人に発見されたという―。 「ナンバー11がピンチになった場面を救ったのがほむらでした。しかし、この行動に激怒した3人がほむらを集中的に攻撃し、彼女の強化型装甲を破壊するまでダメージを与えた。その結果が―」  ほむらの顔を良く見ると、戦闘中に受けたと思われる生々しい傷が左の頬に今も残っている。どうやら、その時に受けた傷が影響して今まで以上に人を警戒するようになってしまったのである。 「ナンバー11の方は無傷でしたが、逆に集中的に攻撃を受けたほむらは強化型装甲の大破に加えて、右腕の骨折、顔に傷、一時は重傷とまで言われていました。今は骨折なども回復はしていますが、心のケアが必要だと医者に判断されて―」  ナンバー12は、そんな彼女を助けたいと思い、以前に彼女を説得していたアリサを訪ねていたのである。アリサもホーリーフォースの事務所に用事がある為、一緒に立ち寄った…と言う事である。 「自分にも出来る事があれば…手伝います」  ほむらがミカドに伝えた。ミカドは怪我の状態によってはほむらもステージに出す事を彼女に伝えるのだが―。 「また元ラクシュミで商法の道具にホーリーフォースが利用されるのは―」  ショットが反発をするが、それと同時に七那が事務所に現れる。 「それを言うなら、瀬川さんも元ラクシュミメンバーのはず―」  ほむらも元ラクシュミメンバーだが瀬川はそれより以前にラクシュミに在籍していた経歴がある。商法に利用されるのであれば瀬川がいる地点で利用されてもおかしくはないはず…と七那はショットに反論した。 「確かに、瀬川はラクシュミ第1期リーダーを務めていた程の人物―それが何かの理由でラクシュミを脱退した事はニュースでも大きく取り上げられた。今更、元ラクシュミのメンバーが増えた所で変わりはないか―」  ミカドはほむらの起用を一応認める事にした。瀬川が呼んでくる予定のゲストを含めても1名の席が足りない状況は続く。 『先ほど、ラクシュミの芸能事務所が芸能界で優位に立つ為、複数の政治家に賄賂を送っていたという事実が判明しました―』  BGM代わりにしていたテレビから、大きなニュースが報じられた。どうやら、ラクシュミ商法を法律で正当化しようと政治家に賄賂を送っていた事実が遂に明らかになったようだ。このニュースには続きがあり―。 『今回の家宅捜索で、ファンクラブ会員によるCD複数枚購入でのCDチャートの操作指示、オークションでの転売利益を事務所に送る事で本来であれば転売禁止の出品を認めたりする等の不正行為が明らかとなり、政府の音楽業界管理が悪い方向へと―』  更に明らかになったのは、その昔に同じような商法を展開していたアイドルグループで起こっていた事が、ラクシュミでもそのまま行われ、更にはその事実を政府が音楽業界の管理という理由で外部へ漏れる事を封じていたという事だった。 「どうやら、政府が赤字国債を償却する為に手段を選ばないと言うのは本当だったようだな―」  これでは音楽業界が完全に衰退してもおかしくはない―周囲にいた他のメンバーもミカドと同じ事を思っていた。 「だからと言って、完全に終わらせる事は間違っています。ラクシュミ商法が悪いと言うだけで終わってしまう音楽業界なんて―」  七那は何とかして音楽業界を再び活性化しなくてはいけない―そう思っていた。 「確かに、音楽ゲーム楽曲や同人音楽等に押されっぱなしというのも考え物だからな―」  ショットはラクシュミ商法が音楽業界に悪影響を及ぼしたのは事実だが、それだけで他のジャンルも含めて音楽業界を終わらせてしまう事は避けなくてはいけない―と。 「今度は、自分達が音楽業界を立て直す番ですね。音楽を愛する心が同じならば―」  フリーズは思う。ホーリーフォースは音楽業界とは違うジャンルに位置するが、ライブCD等も出しているので、決して無関係とは言えないだろう。 「音楽業界再建―これは先が長そうな予感がするが―」  ロックは思う。長い道のりだとしても、きっと再生は出来る。『創造の為の破壊』とはよく言われる事だが、音楽業界もその曲がり角に来ているのかもしれない―。 「今、音楽業界も芸能界も別のジャンルから学ぶべき物がたくさんあるはずです。利益至上主義が生みだしてしまった、ラクシュミの失敗を教訓にするべきだと―」  アリサは芸能界も音楽業界も利益至上主義化した事が今回のラクシュミにつながったのではないか…と思う。今回の失敗を教訓に別ジャンルの成功例を上手く吸収できれば早い段階で音楽業界を立て直す事も可能だと。  他のスタッフやホーリーフォースメンバーも同じ思いだった。自分達が音楽業界を立て直すという意思が強ければ、きっとファンも応えてくれるのでは…と。 「ありがとう…」  ミカドは、この場で初めて男泣きと言う物を経験した。  誓いを立てた翌日、朝に事務所を訪れる人物がいた。打ち合わせの為にやってきた瀬川である。 「今回は知り合いを二人連れて来たわ―」  瀬川の隣には、魔法少女のコスチュームをしたまどかとメガネをかけて髪を三つ編みにした作業着のような服を着た飛翔の2人がいたのである。 「今回は瀬川さんがどうしてもと言うので」 「アスナの頼みだったし、それに以前の一件を解決するのにも協力してくれたし―」  アスナと言ったまどかに対し、慌てだした瀬川。どうやら瀬川の名前はアスナと言うらしいのだが…。 「そういえば、週刊誌の記事でも瀬川の名前は公表されてなかったな。ラクシュミのサイトにあったのは偽名と言うか…芸名なのか」  ミカドもさらりと流す。どうやら、ラクシュミ時代に名乗っていた名前は芸名だったらしい。 「これはどういう事なの?」  瀬川に呼ばれるような形で事務所に現れたのはリボルバーだった。瀬川はメンバー欠員に関して事前に情報を手に入れ、リボルバーにもホーリーフォースのステージへ参加するように声をかけていたのである。ただ、リボルバーは今回のスペシャルステージに関しての仕掛け人と言う事もあって参加出来ないとは瀬川に連絡をしていたのだが―。 「結局、ナンバー3の穴だけが埋められなかったという事―」  瀬川がリボルバーにも分かるように事情を説明する。ゲストの2人はナンバー8とナンバー10を担当する為、ラクシュミメンバーが担当していたナンバー3が空白になってしまう。その為、リボルバーにナンバー3の代わりをやって欲しいと依頼したのだが、最初の答えはNOだった。 「やはり、12人揃わないとホーリーフォースとしては成立しない、と言う事か―」  覚悟を決めたリボルバーはナンバー3の代打を受ける事をミカドと瀬川に伝えた。  午後5時ごろ、事務所地下の研究室ではスペシャルステージの仕込みを急ピッチで進めていた。 「まさか、本当に強化型装甲の新プランを開発していたとは―」  ミカドは、改めてリボルバーが隠していた強化型装甲の新型を見て驚いていた。こちらに関しては既にデザインは完成しており、イメージ力である程度のデザインを決めるようなタイプではない。 「新型と言うよりは、ナンバー3、ナンバー8、ナンバー10、ナンバー2で使われていた簡易型を発展させただけですが…」  リボルバーが簡易型と言ったのを聞いてフリーズと瀬川が驚く。 「とりあえず、これに大破した強化型装甲を上手く融合させた物をスペシャルステージで使用する予定です」  そして、ステージ当日、秋葉原の街は異常な盛り上がりを見せていた。 「ここまで到達するのに、非常に長い道のりでした―」  ドラゴンの覆面と呼ばれていた男性の目には涙がこぼれていた。 「瀬川…僕はあなたを信じていた」  ステージ開始を待つことなく、彼は秋葉原を後にしていた。  その一方、草加市の動画サイトのビルではヒーロー&ヒロイン祭りにホーリーフォースの技術を取り入れては…という意見を討論する生会議が行われていた。スタジオには、半蔵と司会進行の女性アナウンサー、スペシャルゲストとして呼ばれていた本郷カズヤの姿があった。 『ラクシュミ事件と同じ事が起こるのではないか…』 『サウンドランナーも含めて、トラブルや事件は避けては通れない。ノーリスクを求めていた結果がラクシュミの事件なのでは―』  さまざまな意見が画面上に流れる。リスクなしで大きな利益を得られると言う物は存在しない…そして、カズヤは次の宣言をする。 「これが、後のイベントに生かされる事を祈るばかりである―」