6:全てが動き出す時  翌日、事態は急展開を見せていた。朝から多数のメディアがホーリーフォースの事務所に押し掛けているのである。主要スタッフは辛うじて裏口から事務所に入って難を逃れたのだが、候補生になろうとテストを受けようとした何人かが取材を受けると言う展開になっていた。 「これは、大変な事になったな…」  ミカドも頭を抱える状況、それはホーリーフォースの設立時にラクシュミの芸能事務所に接触し、ラクシュミメンバーをホーリーフォースに入れるように指示した政治家がいると言う事が報道された事である。しかも、リボルバーのホームページには密会の証拠となる写真も掲載されており、そこには中堅の与党議員数人が写真に写っていたのである。 「これは、国会も大変な事に―」  フリーズは事務所でも騒ぎになっている現状を見て、更に混乱していると思われる国会の方を心配していた。 「下手をすれば、ラクシュミが解散という状況になりかねないだろう。リボルバーの狙いは別の所にある可能性も―」  ミカドは考えていた。ホームページには密会をしている議員の写真だけではなく、強化型装甲の試作段階における欠陥も掲載されていた。それ以外にも、第3者から提供されたような痕跡のある情報も多数ある。 「これだけの情報をネットだけで見つけたとは到底思えません。これは、誰かが情報をリボルバーに提供―」  フリーズはリボルバーが第3者から得た情報をホームページに掲載していると考えていた。ミカドも、リボルバーが独自の情報を持っていたとしても、それを上回るような情報がホームページに公開されているのには裏があるのでは―と思っていた。  一方、ロックのいるゲーセンへ向かっていた七那だったが、ホーリーフォースの事務所近辺が騒がしいので少し様子を見る為に近くまで通りかかった。 「あれは…?」  テレビ局のアナウンサーや出版社の記者に混ざるような形で国会議員のバッチをした人物がいたのを七那は目撃した。彼は、一体何をしようとしているのか? 「貴様、何をする!」  七那が見つけた不審人物を取り押さえたのは、意外な事に瀬川だった。この人物は議員バッチを付けているが、実際は偽者の議員だったのだ。更には…。 「議員にしてはSP等を付けずに事務所に来ていたのが非常に不審だと思ったら―」  瀬川が取り押さえた人物のポケットから取り出したのは、意外な物だったのである。それはアイドルグループのファンクラブ証なのだが、そこに書かれていたアイドルグループ名は何と―。 「これは、どういう事でしょうか―」  テレビ局の様子も変わり、更には出版社の記者もカメラを瀬川と取り押さえた人物の写真を撮っていた。  10分後、駆けつけた警察によって偽議員は逮捕された。更には、彼の携帯電話の履歴からホーリーフォースの事務所襲撃計画が判明し、計画に関与した数十人が一斉に逮捕される流れになった。共通したのはリボルバーが発表した情報を見て、ホーリーフォース事務所襲撃を考えた―という箇所である。 計画に参加した人物の中には中学生も混ざっていたという事実は、事件が判明してから数時間後に携帯電話の履歴を調べていた警察が段階的に発表した物である。ネット上では警察が発表する前に事件を把握していたとする何者かが情報を流していたのだが…。 「まさか、ラクシュミのファンがここまでの事を計画するなんて…」  計画に関与したメンバーの中にはラクシュミとは違うアーティストのファンも何人か混ざっていたのだが、リボルバーに提供した情報がここまでの事件に発展した事は瀬川にとって非常にショックが大きかった。今までもラクシュミファンの暴走による事件は計り知れないものがあった。 事件の中には、無関係の人間に被害を及ぼすような許される事ではない事件にまで発展した物もある。握手会のチケットを偽造してオークションで売りさばき、実際のイベントを中止にまで追い込んだ例もある。 本当に、これがラクシュミファンのやる事なのか。これでは過去に同じような事件を起こしたアイドルグループの時と全く同じではないか…と。過ちは、再び繰り返されようとしているのか? 『これが、アイドルのあるべき姿のはずがない―』  瀬川の頭の中に誰かの声が聞こえる。誰の声かは確定できないが、小説か何かで聞いた事のあるようなセリフだった。 『これが現実。音楽業界は自分達の富と名声を得る為だけに都合のよいアイドル商法のテンプレートを作りだした。これが、今の音楽業界が抱えている問題―』  再び別の声が聞こえる。今度は男性の声のだ。何故、先ほどの声が女性で今の声が男性と理解できたのだろうか。瀬川には状況が飲み込めていなかった。 (音楽業界が抱えている問題は、自分達に多くの利益が得られるように都合よく作り出したアイドルが増えすぎた事が原因―)  犯人逮捕のお礼を言おうとしていた警官の前には既に瀬川の姿はなかった。テレビ局も出版社もインタビューを撮ろうと準備をしていたのだが無駄足に終わった。  偽議員によるホーリーフォース事務所襲撃に関しては、既に国会の方にも情報が伝わっていた。 「ラクシュミ商法に関して消費者やファンからも疑問が浮上している中で、このような事件が起こるとは、これは総理の判断ミスなのではないでしょうか?」  ラクシュミを政府公認アイドルにした事が予想外の事件を引き起こし、遂には国債発行を更に加速させかねないような展開が起ころうとしているのでは―と他の議員も総理大臣に対して意見する。 「ラクシュミが解散する事によって、新アイドル発掘に30兆円規模の国債を発行する事になるのは確実です。ここは、アイドル以外に国債を償却する手段を考えるべきだと思いますが―」  野党側の議員が追い打ちをかける。与党の多数決のみで成立した音楽業界の政府管理法案、それは一部アイドルグループが消費者を疲弊させるような商法を日本全土に広める結果になり、更には今まで支持されていた大物アーティストを次々と引退、もしくはグループの解散に追い込む等の結果を生み出していたのである。 野党としては、音楽業界がこれ以上悪化しないように食い止めたい所なのだが、赤字国債の償却にはラクシュミの芸能事務所から得ている税収が使われているのが現状である。 ここでラクシュミが解散となると税収の額も大幅に減る事になり、最終的には赤字国債が発行できなくなる恐れもある。国債が発行できなくなれば、他の事業にも悪影響を及ぼし、最終的には日本自体が世界から取り残される恐れも出ている。  緊急会議終了後、総理大臣は何人かの議員を会議室に召集した。議員の中には緊急で呼ばれた理由が分からないと反論した者もいたようだが―。 「君達には、残念だがプロジェクトから外れてもらいたい―」  プロジェクトが意味するのは、ホーリーフォースの事である。総理としてもラクシュミ解散という手段を取りたくない事が、今回の行動に出たと思われる。しかし、この件をいち早く察知した野党議員はトカゲの尻尾切りと今回の議員大量辞職を批判するコメントが続出していた。   議員召集からわずか30分後、会議室に招集した議員を辞職させた事が記者会見での官房長官の口から発表された。 「それは、週刊誌報道にあるラクシュミの芸能事務所との密会が原因でしょうか?」  記者が質問をするが、その質問に官房長官が答えるような気配はなかった。その後もラクシュミ関係の質問は上手い具合にスルーして記者会見は終了した。  今回の記者会見を見たファンはラクシュミがホーリーフォースとは無関係なのに、どうして一方的な悪者扱いされるのか―という意見が多数を占め、政府に有識者による委員会の設立を求める署名運動が行われるまでに至った。署名開始からわずか1週間で10万と言う数を集め、署名運動から2週間後というハイスピードで委員会によるホーリーフォースの今後を決める会議が行われる事になったのである。  しかし、肝心の委員会は有識者の中に与党の影響を強く受けている人物が数人存在した事、ラクシュミ存続を訴えるファン等が委員会のメンバーにまぎれていた事からラクシュミに関する一部の該当情報を削除し、第1次報告書提出という結果を生む事になった。中には、ラクシュミの芸能事務所とコンタクトを取ろうと考える議員が賄賂を渡すような場面も存在した。しかし、これらに関しては表に出る前にラクシュミ商法肯定派の息がかかった警察などによって阻止される事になったのだが…。 「やっぱり、こうなったのか…」  有識者会議の翌日、リボルバーの事務所に来ていたショットがテレビで今日のニュースを見ていた。ニュースの内容はホーリーフォースの今後を決める有識者会議の第1次報告書が国会に提出されたニュースだが…。 「ラクシュミ以外にも同じような商法をやっているアーティストにも影響する以上、こうなるのは予想できていた。まさか、ここまで手抜きにも程がある委員会が実在するとは予想外だった」  今ではラクシュミの展開している商法自体が当たり前になっており、この商法を展開せずに大ヒットを記録する事が至難の技になっている。ショットは、そんな状況になるまで放置されていた音楽業界を悲観していた。 「これを根本的になくすには…ラクシュミ商法自体をなくすか、それとも―」  他のチャンネルを回していると、情報番組に見覚えのある人物が写っている事にショットは気が付いた。良く見ると、瀬川がゲストコメンテーターとして出演をしていた。そこで取り上げられていたのは、ホーリーフォースの今後を決める有識者会議―先ほどのニュースでも触れていた話題である。 「遂にアレを暴露するのか…」  リボルバーは何かを知っているような口ぶりだったが、ショットには何の事だかさっぱり分からなかった。  午前10時頃、以前の怪我も完治したアリサは書店で知人に頼まれていた本を探していた。ブレザーの学生服という格好だが、不思議な事に誰もホーリーフォースのアリサだとは誰も気付いていない。 「この本って…」  アリサはとあるコーナーで足をとめた。そこには【音楽業界のあり方を考える書籍コーナー】というポップが飾られており、さまざまな本が陳列されていた。 「今、音楽業界が危ない―ラクシュミ商法の落日―…?」  手に取った本のタイトルを見て、アリサはふと疑問に思った。帯にはホーリーフォースについては全く触れてはいないのだが、ラクシュミ商法の欠点ばかりが帯に並べられているというベストセラー本とは思えない内容に驚いていた。数分後、この本をアリサは購入して書店を後にした。 『このニュース、どういう―』  ショットがテレビを見ている途中で、ロックから電話が入った。ロックは瀬川が出演している情報番組を見ているようだが、その内容を聞いて疑問に思っている事が多数あるらしい。 「瀬川の言っている事は事実だ。過去に知り合いから聞いた事のある話だが、ラクシュミとCDのリリース日が重なった大物アーティストがラクシュミのCDが売れなくなる事を理由に発売日をずらすように指示を受けたらしい。おそらく、CDチャートで1位を取る為に工作をしたような気配だが―」 『リボルバーのホームページに書いてある事は全て事実…?』 「全てが事実かどうかは政府が認めるかどうかにも関係しているが、少なくとも5年前から自分の誕生日にCDを出していたアーティストが、最近になってラクシュミのCD発売日とぶつかるという理由だけでシングルの発売が延期になったというのは当時のネットでも話題になっていたから、一部に関しては間違いないのだろう―」 『じゃあ、瀬川自身がナンバー1ではなくナンバー13を名乗っているのは…』  ロックから出た一言にショットは言葉を失った。瀬川がナンバー1ではなくナンバー13をテレビで名乗った事である。 「リボルバー、この事は最初から知っていたのか? 瀬川がナンバー13である事を…」  電話を切ったショットがリボルバーに質問をする。 「ナンバー13に関しては、ホーリーフォースにもしもの事があった場合に対処する為のシークレットナンバー、まさかあのような形で表にするとは予想外だったというか―」  リボルバーは今回の一件に関して政府も全く動かないと言う事はないだろう―そう判断して、ある人物に電話をかけた。 『私だ―』 「緊急招集を頼みたい。場所は…」  それを聞いたショットは、着ていた上着を脱ぎ、ビキニの水着でテレビ局へと急ぎ向かった。 「あと、もう一人に声をかけるか―」  リボルバーはホームページの更新作業の準備を始める。そして、あるメッセージをホームページのトップに書きこんだ。 【今、音楽業界の存亡をかけた戦いが幕を開ける―】    午前10時頃、瀬川の出演している情報番組を見た議員が眼の色を変えて総理大臣の元へ向かっていた。 「総理、これはどういう事でしょうか?」  今回の報告書に関しての情報を整理していた議員が偶然テレビを付けた所、瀬川が今回の一件に関して様々な情報を暴露していたのを目撃した。中には、一部議員しか知らない情報統制システムに関して、過去に起こったラクシュミと同じ商法を展開したアイドルの不祥事であるサウンドランナー事件、更には瀬川自身がナンバー13である事…。 「ナンバー13だと、確かに瀬川はナンバー13と言ったのだな?」  総理大臣は瀬川がナンバー13と言った事を議員に確認した。議員は確かにナンバー13とテレビで言ったのを確認した―と。 「どういう事だ? ナンバー13の事実は自分とリボルバー位しか事実は知らないはずなのだが―まさか!」  過去に瀬川を紹介したのは、間違いなく総理大臣である。当時は総理ではなかったのだが、前の総理大臣が音楽管理システムの不祥事と一連のサウンドランナー事件を理由に辞任し、その後に彼は総理大臣の座を手に入れた。瀬川は自分の過去に行った裏工作等を暴露して、総理大臣から引きずり降ろそうとしているのでは…と思った。 「ただちにこの番組を放送しているテレビ局に部隊を派遣し、瀬川を確保せよ!」  総理大臣の指示で政府の特殊部隊を含めた大軍が六本木のテレビ局へと向かっていた。  同時刻、テレビ局では瀬川の話は続いていた。既に瀬川のゲストコーナーが始まってから1時間は話しているだろうか。CMを数回はさんだのだが、視聴率的には20%台をキープし、テレビ局としても予想外の展開になっている。 「政府の税制優遇を受け、遂にはラクシュミと別のアーティストのシングルでも1000円以上の値段差が出来ました。それ程、政府は自分達に都合のよい芸能事務所を残し、それ以外の事務所は逆に増税でラクシュミと同じ商法を展開するまで増税を続ける…。この状況が、最近になってチャートをにぎわせている動画サイトのインディーズバンドや音楽ゲーム楽曲のサントラが急に売れ始めている一因を作ったのです。これらは政府の音楽管理システムとは全く違った独自のシステムを構築しており、過去にはサウンドランナー事件と呼ばれた―」  瀬川の話の途中だったが、別のカメラからの中継映像が入った。どうやら、政府が本腰を入れて瀬川を確保しようと動き出したらしい。中継映像と共に男性記者のレポートが入った。 『これは、新宿に現れた政府の特殊部隊と思われます。戦車等は確認できませんが、政府で試作段階の物が運用されている2足歩行型ロボットの姿も複数確認出来ます―』  ヘリ上空で監視に見つからないギリギリの距離から映し出されたのは、新宿に現れた政府の特殊部隊と2足歩行型ロボット数十体の姿だった。 「やはり、政府は本気で自分を消そうとしているようですね…」  瀬川がゲスト席を離れ、スタジオの外へと出る。どうやら、本気で大部隊に戦いを挑むらしい。 「確か、強化型装甲は該当する衣装ではないと装着されないと言う話を聞きましたが―」  メガネをかけた長身の男性司会者が瀬川に質問をするが、その質問に答える前にトライデントと合体したシールドと6枚の羽根のような物が転送されてきた。 「ナンバー13、ホーリーコントロールは最新型の強化型装甲を採用した物で、欠点は克服済みです。ただ、その影響で背広の重量が若干重くなっていますが―」  実は、瀬川の着ている背広自体が強化型装甲を装着する衣装その物だったのである。ナンバー1ではマジシャンの衣装だが、これはリバーシブルジャケットになっており、背広の裏がナンバー1のマジシャン衣装だったのである。 「ゲストも別の方が用意しているみたいですので、もうすぐ面白いステージが見られると思います―」  強化型装甲を装備した瀬川はスタジオを飛び出し、テレビ局の入り口で部隊の到着を待った。 「既に向こうは、テレビ局に向かっているのか―急がないと大変な事になる」  強化型装甲であるロボットで現場へと向かうショット。脚部の裏側にはローラーブレードが仕込まれており、最大で時速60キロのスピードを出す事が可能である。 「ショット…何処へ向かうつもりだ?」  コスチュームを着た状態でショットを待っていたのは、ロックだった。 「まさか、コスチュームを着た状態で新宿駅内を歩いていた訳では―」  ショットが軽い突っ込みを入れるが、ロックは軽く流した。 「公共の場でもビキニでいる貴女と比べたら…それ位は何とか」  もう一方、浜松町から六本木へ向かおうとしている人物がいた。既に政府の特別部隊と交戦し、それを撃破しつつ向かっている。 「確か、品川には既に特別部隊が…」  アリサは六本木に向かう途中でナンバー11とも合流したが、ナンバー10に遭遇してしまう。そこで、アリサを先に進める為にナンバー11は囮を自ら志願し、先へと急いでいたのだが…。 「あれは、確かナンバー2…!」  ナンバー10の次は、ナンバー2であるほむらと遭遇した。どうやら、ラクシュミメンバーおよび候補生はホーリーフォースと敵対するつもりらしい。それならば、事前情報ではナンバー7もラクシュミメンバーのはずなのだが、それらしい姿は目撃していない。 「例え、同じホーリーフォースのメンバーであろうと、この先を通しはしない!」  薙刀を振り回すほむらだが、その太刀筋からは若干の迷いが見える。これならば説得も可能なのでは…アリサは説得を試みようとするが、突如現れたナンバー8に邪魔をされて説得は上手くいかなかった。 「ラクシュミとしては、政府の方を支持する事が決まっている。裏切ると言う事は、ラクシュミを辞めると言う事だ。瀬川同様に―」  ほむらはナンバー8の言葉を聞いて迷いを振り払い、自分はラクシュミの為に戦う事を決心した。 「ラクシュミ、お前達だけは!」  アリサの背後から現れ、ナンバー8に一太刀を決めたのは、何と七那だった。既に大型ビームサーベルを構えて臨戦態勢を取っている。 「絶対に、六本木へ向かう。瀬川を助ける為にも―日本を救う為にも!」  七那の目には迷いはなかった。しかし、アリサは七那に先へ進むように指示した。七那にはどういう事か分からなかったが、六本木は間違いなく激戦区になる。ならば、足の速いメンバーが六本木へと向かうべきだ…とアリサは判断したのである。 「アリサ、無事を祈るよ」  七那はアリサを心配しつつも、六本木へとフルスピードで向かった。 「七那の機動力なら、十分に間に合う! 今は何としてもテレビ局が占拠される事態は防がないと…」  政府が瀬川を確保する理由は大体予測できていた。自分があの時に買った本を読んだ今ならば分かる気がした。 「自分が憧れていた芸能界は、もうそこにはなかった…。今は、全てが金を積んで買う時代になってしまった!」  アリサのほんわかとした表情が一変、芸能界への失意が彼女の怒りを買ってしまったのである。  渋谷から六本木へ直線で向かおうとしていたのはフリーズだった。追跡している部隊が追い付けない程のスピードで六本木へ向かって飛んでいるのだが、その途中で発見したのは、アンノウンとして何度も現れた事のあるダークネスレインボーだった。 「あのダークネスレインボーは…」  フリーズが追跡しようとしていたが、すぐに目視できる距離から離れてしまった為に見失う結果になった。しかし、彼女を追跡する時間があれば六本木へ向かう方が先であると判断し、追跡に関しては断念した。 (見つかっていたら、大変な事に―)  あのダークネスレインボーの人物は、他のメンバーに見つからないように六本木へと向かった。その目的は、残念ながら本人にしか分からない。  瀬川の出演している番組を国会の談話室で見ていたのは、ドラゴンの覆面だった。それ以外にも色々な覆面をした議員が多数いるようにも見える。 「我らのリーダーが動いたようです。我々も最後の大仕事と行こうではないですか」  ドラゴンの覆面が他のメンバーに指示を出していく。それらは、総理大臣を引きずり下ろす為に必要な重要任務だった。 「我々の敵は国会議事堂にあり!」  ドラゴンの覆面が周囲の議員を鼓舞する。 「遂にラクシュミ商法の化けの皮を剥ぐ時が来た!」 「今こそ、音楽業界を正常に戻す時!」 「ラクシュミ商法に終止符を!」  ライオン、熊、般若の覆面をした人物が声を上げる。今こそ、音楽業界を正常に戻す時は来た…と。 「政府は一連の動きを感知している可能性もあります。そして、更にはラクシュミ商法の保護法案等の単独採決も準備している事は間違いありません。ですが、我々には同志である瀬川さんがいます。彼女の思いを無駄にしてはいけません。今日は何としてもラクシュミ商法に終止符を打つ日とするのです!」  ドラゴンの覆面は拳を振り上げると、周囲からは大量の拍手が響き渡った。 「その為にも、まずは音楽管理システムを止めるのです!」  彼らの目的は、国会周辺の何処かにあると言われている音楽管理システムを扱うビルだったのである。  その一方で本郷カズヤ、飛翔、まどかと言った人物も密かに動き出していた。それだけではなく、今まで全てにおいて静観していた半蔵もラクシュミの動きに関して調べるようになり、超有名アイドルをめぐる動きは過去にサウンドランナー事件に関係した人物だけではなく、これからの未来を作ろうとしている者たちにとっても破壊すべき存在として注目されるようになっていた。 「アイドルと言う概念自体、全てリセットしなくてはいけなくなったと言う事か―」  半蔵は、とある衣装を用意していた。過去にサウンドランナー事件で使用していた忍者のコスチュームとは大きく異なり…。