4: 混乱の三つ巴戦

 

  午後1時の六本木周辺、ここでは既にナンバー11とナンバー12のステージが行われる予定だったが、ナンバー12が新聞報道等で復帰が絶 望的な為にナンバー11が不戦勝となった。

「こ れには納得がいかないが、アンノウンの正体は―」

  ナンバー11はアンノウンの正体が別のラクシュミメンバーなのではないかと若干だが疑っていた。あのホームページに書かれていた事を全面 的に信じた訳ではないのだが。

「私 も、本来であればステージで戦いたかったのですが、強化型装甲のない自分では勝負が見えています」

  メイド服姿のナンバー12がナンバー11に向かって謝る。

「ア リサとショット、フリーズ、七那は芸能事務所が違う。ゼロに関しては所属事務所なしと言う話を聞く。ショットは自分と同じ芸能事務所だっ たな―」

  ナンバー11は何かを思い出したかのように情報を整理していた。

「襲 撃されたのがラクシュミメンバーばかりだとしたら…狙う予定のなかったナンバーをアリバイ工作の為に襲撃する可能性もあるというのか?」

  ナンバー11はショットに連絡を取る為に電話をしたが、既にステージ開始時間が近い為に電波が入らないようになっている。

「こ ういう時に限って、電波遮断システムが邪魔になるとは…」

  盗撮関係を防ぐ為に存在する電波遮断システムだが、そのもう一つの役割と言うのは八百長防止対策である。最初はホーリーフォースがスポー ツではない為、八百長を意識するのはおかしいのではないかという意見もあった位である。

「仮 に、アリバイ工作として襲撃されるとしたら、どの試合が有力だと思う?」

  ナンバー11はナンバー12に質問した。

「私 でしたら、観客が最も多い方を襲撃した方がネットで情報を広げる等の観点から―」

  ナンバー12の回答を聞いて、ナンバー11は何かを確信した。狙われるステージは間違いなく―。

(リボルバーは、何を考えているのか?)

  ナンバー11は一連の事件がホーリーフォースを潰す為ではなく、別の目的があるとすれば…と思った。

 

  午後2時30分、新宿のビル街近辺には大勢の観客がステージの開演を心待ちにしていた。開始30分前だが、観客の多さに対応する為に予定 を早めての開場となった。

「ま さか、あのナンバー5とナンバー9の対決だからな。色々と期待だな―」

「ナ ンバー5は初戦で3人のホーリーフォース相手に勝利しているからな。最近もゼロに負けた位で勝率は比較的に高いからな―」

「フ リーズは、今の所は全勝か。これで勝てれば全勝記録の更新になるようだ」

  観客もステージ開演前から既にハイテンションになっている。

「ま さか、このタイミングで直接対決と言う流れになるとは…」

  メイド服姿のフリーズが入場準備を行っていて、七那の方も準備は終わっている。

「ナ ンバー9、フリーズ…」

  七那はフリーズをじっと見つめている。外見を見る限りでは、普通のコスプレイヤーに見えるのだが…。

 

  その一方、池袋では既にロックとショットのステージが始まっていた。

「ラ クシュミとか芸能事務所等は関係なしで正々堂々とステージを楽しもうじゃない」

  テンガロンハットにビキニの水着と言う違和感を持つようなコスチューム、体格もグラビアアイドルと言うよりはビーチバレー等の選手を思わ せる体格、彼女がロックの対戦相手であるナンバー7ことショットである。

彼女の強化型装甲は全身が銃火器及び武器で構成され たような2足歩行型ロボットなのだが、アリサやナンバー10等と同等のアーマーを装着するタイプではなく人工知能によって行動するタイプ になっている。ショットが搭乗する事も出来るが、基本的には人工知能がオートパイロットで動かしている事が多い。

「私 も…そう言った芸能事務所のくくりでステージに上がるのは嫌いだからね!」

  ショットのサブマシンガンを回避しつつロックがショットに宣言する。

  ショットが最初に使っていたサブマシンガンの弾薬が切れ、次に手にしたのは散弾型のショットガンである。他にも、リボルバーやビームライ フル、アサルトライフル、ロケット砲等の重火器やビームダガー、ロングソード等の剣類等も装備されている。内蔵されている武器の数は20 近くあるという話なのだが…実際はそれ以上あるのではないかと言う情報もある位だが―。

「で は、こちらも遠慮なしと言う事で―」

  ショットガンの弾が切れた所で、今度は強化型装甲のロボットが投げたビームライフルを受け取り、ロックに向けて放つ。この辺りのショット と強化型装甲のコンビネーションは非常に高い―とホームページの能力説明にも書かれている。

「じゃ あ、今回のアンノウンに関しては―」

  一方のロックは、SFに出てくる軍服にスカウター、キャプチャーシールドという軽量装備にショートレンジライフル2丁とメイン武装のロン グバレルランチャーのみというショットに比べると武装数では圧倒的に不利である。しかし、ロングバレルランチャーの威力は他のホーリー フォースが持っている武装に比べると比較的に高い能力を持っている。

「ア ンノウン自体、実はリボルバーのでっち上げ説がネットで有力になっている。ネットの住民は見たり聞いたりした事を調べずに鵜呑みし、それ をあたかも知ったような口調で情報を流す傾向もある。全てのネット住民がそういった単純な物ではない事も、また事実なのだが―」

  ショットの表情が変わった。ビームライフルのエネルギーが切れたのを確認し、今度は強化型装甲に固定されたバスターキャノンを放った。

「そ う言う事か。全て、リボルバーの筋書き通りにステージが動いている…と」

  ロックはギリギリのタイミングでキャプチャーシールドのアンカーをショットの強化型装甲に向けて発射し、バスターキャノンの軌道をそらし た。

「な かなかやるな。それだけの実力があるのに、別プロジェクトではなくてホーリーフォースを選んだ理由は何だ?」

  ショットもロックの動きや強化型装甲の使い方が他のアイドルと段違いな事に何か裏があるのではと気付き始めた。

「ホー リーフォースを選んだ理由は、芸能事務所の複数からラクシュミ絡みで異変が起きているので、真相を調べてもらいたい―といった所か。確か に、バイト先のゲーセンから応募して欲しいというお願いもあったのは事実だけど―」

  ロックもショットの目的には何か裏があるのでは…と思っていた。リボルバーの事を自分に伝えているかのような、仕組まれたステージなので は―。

「こ れで、決めさせてもらう!」

  ショットが立ち止った所にロングバレルの一発がクリティカルする。そして、ステージはあっさりと幕切れとなった。

『ス テージ終了。このステージでのベストオブアイドルは、ロック・スナイパーに決定しました!』

  ベストオブアイドルを告げるシステムボイスも、今回に限っては何か胸騒ぎを予感させる…そうロックは思っていた。

「会 場は新宿だ。急げば、間に合う可能性はあるだろう。ステージが始まっていれば、速報位は流れるだろう―」

  ショットはロックに伝えることだけを伝えて、何処かへと消えてしまった。既にショットの姿はレーダーでも捉えられない所まで行ってしまっ たようだ。

 

  新宿では、ロックとショットのステージ速報が流れ、そこでロックの1ラウンド勝利が伝えられた。

「ロッ クは隠れた強豪と言う気配だな。フリーズの全勝を止められるとすれば、彼女か七那…という具合だろう」

「あ れ…何だ?」

  観客の一人が、ビルの上にいる不審な人物に気付いた。これ以外にも同様の不審者を複数目撃されている。

「連 絡しようにも、電波状況が…」

  事務所に連絡をしようとするが、携帯電話や会話ツール等も全く使えない電波状況は非常事態が起こりかねない時に限っては非常に不便だと言 う事が分かる。

 

『ま もなく、ステージが開演します―』

  ステージ開演を告げるシステムボイスが流れ、ステージは始まった。

「七 那虹色、あなたの実力を見せてもらいます!」

  フリーズがマルチビットを展開し、対する七那は羽根型ザンバーを構え、フリーズに向かって突撃する。

「ま ずは、こいつらから!」

  七那がフリーズを素通りし、取材スペースに潜んでいた背広姿の何者かが持っていたライフルを破壊する。

「量 産型の強化型装甲とは若干違う、別プロジェクトの副産物か?」

  フリーズもマルチビットで撃ち落としたのは七那と同じ背広の人物の持っていたライフルだった。素材としては、強化型装甲ではなく鉄かアル ミと言った所だろうか。

「こ のバッチには見覚えがある。まさか…」

  七那は背広姿の人物がしていたバッチに見覚えがあった。紫色のアサガオ、それはラクシュミの非公式ファンクラブがモチーフとして使用して いるマークである。

「もっ とまずい状況になったみたいね―」

  フリーズはラクシュミのファンクラブ以上に危険な存在を発見してしまった。

「あ れは確か、日本政府の鎮圧部隊じゃないのか?」

  観客の一人が見つけたのは、ファンの暴徒化を阻止する為に結成された政府の特別部隊である。彼らは強化型装甲を持っていないものの、それ とは別プランで開発されていたロボットに転用可能な重火器等で武装されている。これらの火器には殺傷能力は全くないのだが、一般市民を威 嚇するのには十分以上の成果を発揮する代物である。

「こ れで、ステージの不成立は確定―どうしてこうなったのよ!」

  フリーズの中で何かが切れたような音が聞こえた気がした。周囲の観客は、彼女の口調が変わった事に恐怖をしていた。政府の特別部隊から逃 げるよりも、フリーズの周囲から逃げる方が先なのでは…と。

「あ れを見ろ! ナンバー10にナンバー8じゃないのか?」

  ビルの屋上にナンバー10やナンバー8を彷彿とさせるような大型ロボットの姿が2体確認できた。観客の一人は双眼鏡で確認するのだが、そ の姿はナンバー10及びナンバー8のそれとはかなり異なる。

「あ れは、政府が水面下に進めている別プランで作られたロボット…」

  現場に間に合ったロックは目の前に見えたロボットを見て、本当に別プランは実行されていたのか…と改めて驚いた。

「こ こに派遣されたのは別部隊か…」

  既に5体のロボットを撃破して、現場にやってきたのはゼロだった。ゼロはアリサとのステージ中に三つ巴戦に巻き込まれ、その中心に向かう 為、新宿へ急行していた。

「ゼ ロ、ステージの方は?」

  ロックが途中で合流したゼロに尋ねる。答えが返ってこないと予想していたが、ゼロはロックの質問に答える。

「ス テージの開始からしばらくして、ローカルルールに変更までは良かったのだが、そこへラクシュミ親衛隊が乱入してアリサが負傷した。その後 の展開は…現状を見れば予想は出来るはず―」

  その後がどうなったのかはあえて聞かなかったが、大体の事は想像に難くない―ロックは思った。

 

  ステージにはフリーズと七那以外にロックとゼロも合流し、ホーリーフォースは4人となった。ラクシュミ親衛隊を沈黙させるのは簡単だが、 逆にラクシュミメンバーも兼ねているホーリーフォースを敵に回す可能性がある。逆に政府特別部隊と戦うのはホーリーフォースの資金援助が 途切れると言う観点からして一番難しい相手である。そうなると、三つ巴の中で一番相手にしやすいのは―。

「ま ずは、あのロボットを止めるのが早いと思う。あれに乗っているのはプロではなくテストパイロットだ。実戦経験は色々な意味でも少ないだろ う」

  そんなゼロの判断だったが、それを全く聞かずにラクシュミ親衛隊に攻撃を仕掛けた人物がいた。

「ま ずは、暴徒化したラクシュミ親衛隊を片づける!」

  フリーズがマルチビットを展開し、自分に攻撃を仕掛けてくる親衛隊を沈黙させる。それを見たロックはフリーズを制止させようとロングバレ ルを構えるが、それを止めたのは意外な人物だった。

「そ んな事をしても、ラクシュミ商法肯定派にネタを提供するだけだ…」

  4人の目の前に現れたのは黒マント姿のリボルバーとアンノウンだった。どうやら、アンノウンとリボルバーは別人のように見えるのだが、 ロックには何か引っかかるような部分があった。

「リ ボルバー…ここには何の目的があって来た?」

  ゼロはリボルバーに聞きたい事があるようだが、それ以前にどうしてここに来たのか…その目的を聞きだす方が先なのではないかと判断した。

「自 分は、政府がとあるプランを実験しているという情報を入手してここに来たが、まさかラクシュミ親衛隊が介入しているとは予想外と言うべき か…」

「そ れは、例のロボットと言う事で間違いないないな?」

  ロックはリボルバーが言ったプランに関しての確認をする。ロックも別ルートで何かをつかんだような口調にリボルバーも喋るのを躊躇する場 面があったが、結局は隠しても無駄だと言う事を理解した。

「確 かに。日本政府が水面下で地球環境に配慮したエネルギーを使ったロボットを開発して、それを新たな事業として展開しようとしているのは事 実だ。そのプランとは別に大幅な税収を得る為にラクシュミ、同系列の芸能事務所、ラクシュミ以前から存在する同系統のアイドル商法を収入 源として保護しているという動きが存在する。更に、一部の政治家と芸能事務所が組んでその他の中堅芸能事務所は増税、ラクシュミの芸能事 務所等は減税と言う案も進められている。当然だが、ホーリーフォースもラクシュミのテストケースで利用されている事実がある―」

  リボルバーの内部事情暴露に政府特別部隊がリボルバーを取り押さえようと動き出したのだが、それらはアンノウンが瞬時に沈黙させる。あま りの早さに何が起こったのか、ゼロもロックも七那も全く分からなかった。

「あ の機動力は…ダークネスレインボーと互角か、あるいはそれ以上に―」

  機動力と言う点では、フリーズとダークネスレインボーは互角なのだが、アンノウンの機動力は両者に近い動きをしていた。

「長 く話をしても時間の無駄なので、言いたいことだけを率直に話す。現状を維持しているホーリーフォースは潰させてもらう!」

  リボルバーの話を聞いたゼロが剣を構えて飛び出し、リボルバーに一太刀でも与えようとするが一瞬で弾き飛ばされてしまい、その衝撃でゼロ は何処かへと消えてしまった。

「後 は…邪魔な勢力を一掃するだけ―」

  リボルバーが残った政府特別部隊とラクシュミ親衛隊を片づけようとしたが、それに割り込みをかけたのはフリーズだった。

「ラ クシュミは、この日本にとって不要な存在―。その商法と共に永遠の闇に消えるがいい!」

  フリーズの口調がいつもの物と全く違う事に気付いたのはロックだった。そして、七那もステージ前とは雰囲気も違うフリーズに違和感を覚え た。

「強 化型装甲の暴走…か?」

  イメージ力が限界を超えると、常識では考えられないような能力に目覚めると言う研究結果があった。しかし、限界以上の能力を扱う事は精神 の崩壊を意味する。リボルバーは現状を整理し始めた。

「こ れ以上暴走させると、政府でも立て直しが出来なくなるか―」

  当初の目的は達成したが、ここでフリーズが暴走して精神崩壊した時には、政府でも簡単に立て直すのは困難になり、それこそホーリーフォー ス計画の白紙化やラクシュミ商法を肯定させてしまう事にもなりかねない。

「こ こで、何とか止めるか…」

  リボルバーがナックルパートを構え、超高速移動でフリーズに接近する。

「ま さか、リボルバーが…初代ナンバー5だというのか?」

  新宿の状況を見て駆けつけたナンバー11は驚いていた。今まで、プロフィールにもナンバー5ことダークネスレインボーの正体に関しては全 く記載がなかった。

「ラ クシュミのメンバーでも顔写真は載っていると言うのに、彼女だけプロフィールが一切不明だった。まさか、この時の為に…」

  ナンバー11と同行していたナンバー12もリボルバーがナンバー5という事実に驚いた。

 

  そして、数分後には一連の三つ巴となった騒動が全て沈静化した。しかし、政府が水面下で進行していたロボットが表舞台に現れた事によっ て、政府の火消し作業が更に困難を極めようとしていた。

 

「さ て、これからどうなるのか―」

  情報が交錯する中、事務所で全てを見極めていたミカドは思う。今回の新宿は何かの始まりでしか過ぎない―と。

「全 ての始まり…」

  リボルバーの猛攻を受けて気を失っていたフリーズがようやく目を覚ましたのは、事務所の中だった。強化型装甲も転送済で普段のメイド服姿 に戻っていた。

 

「こ の写真は―」

  秘書がデータの整理をしていた所、ネット上に妙な写真がアップされていたのを発見した。試作型ロボットの写真のようだが、パイロットの顔 を良く見ると…。

「こ れは、報告の必要性大―か」

  秘書はパイロットの画像を保存し、データをとある人物へメールに添付して送信した。

「後 は、もうひと波乱があれば―」

  秘書は、政府内で何かが起こる事を密かに期待していた。

 

  午後7時、何とか帰還した瀬川は自分の部屋のパソコンに電源を入れ、三つ巴戦のデータを整理し始めていた。

「こ れだけの事を政府が進めていたとは…こちらの想定が甘かったのか―」

  ボロボロになった上下の背広を脱ぎ、強化型装甲の自己修復が終わるまでは、ポロシャツとスパッツと言う服装でいる事にした。

「後 は、向こうの出方を見守るしか現状で出来る事はないのか―」

  そんな事を瀬川は思いつつ、ある人物に電話をかけた。

「あ の写真の出所を調べて欲しい―」

  電話をかけた先は、ドラゴンの覆面の所だった。そして…。