3:DJ リボルバー

 

  翌日、週刊誌が一斉に発売日を迎えたのだが、その一面を飾ったのは予想外の記事だったのである。

「こ れは、どういう事だ…」

  事務所にいたスタッフの一人が該当の記事を広げてフリーズやミカド等に見せる。そこには、昨日のステージに現れたナンバー5の記事が載っ ているのだが…。

「今 頃、国会も大変な事に―」

  記事の内容は政府が新たなナンバー5の出現を現在も隠し続けている事、ダークネスレインボーの後任がネットアイドルである七那虹色である 事など…公式ホームページでも触れられていない情報ばかりが記事として掲載されていたのである。

どうやって大量の情報を仕入れ、すぐに記事の差し替 えが出来たのか…疑問点は多数残るが、スタッフの方も今回の一件では後手に回っていたのは事実だった。

「こ れは、政府も大慌てだろう―」

  フリーズの懸念は現実のものになろうとしていた。そして、それと同じタイミングで1本の電話が入った。

「は い、ホーリーフォース―!」

  電話に出たスタッフの一人は驚きを隠せなかった。電話をかけて来たのは、リボルバーだったからである。

『今 頃、政府は週刊誌報道の対応に追われているから、簡単に用件だけを話すわ。今から私はホーリーフォースに対して宣戦布告を行う―。これは 遊びではなく、本気で…』

  電話に関しては途中で切れた。声の主がリボルバーである事は事実なのだが、ホーリーフォースに関して宣戦布告を行うと言う意味が分からな かった。急に辞めた理由と関係があるのだろうか…集まったスタッフで緊急のミーティングを行おうとしていた、その時にテレビに見覚えのあ る人物が映っていた。

「ま さか、リボルバー…」

  驚いていたのはフリーズだった。サングラスに黒い背広という服装だが、180センチ近い長身に加えて、黒髪のロングヘアー、左腕だけの強 化型装甲で出来た試作型ナックルパートという特徴はリボルバー本人その物である。

 

『み なさん、初めまして。そして、私はホーリーフォースと現在の日本政府に対して宣戦布告を行う事を決めました!』

  リボルバーは自分の名前を名乗らず、いきなり宣戦布告を宣言した。これにはテレビを見ていた政府関係者やホーリーフォースのファンから罵 声が飛んだ。宣戦布告という言葉を聞いて、戦争が始まるのか…と思う市民も多数いたのだが―。

『た だ、宣戦布告と言っても日本で戦争を起こそうと言う意味はありません。私が倒すべきと判断したのは、ホーリーフォースの現在の体制と現在 の日本政府です。そして、私はホーリーフォースを倒すべく、こういった物を用意しました―』

  リボルバーが指を鳴らすと、リボルバーの右手に1本の剣が現れた。見た目は強化型装甲の延長線に見えるが、ボタン類やディスク挿入口等は 実際に付けられていない為、違う物では…という認識がテレビを見ていたフリーズにあった。

『こ れは、とある文献を参考にして制作した音楽を武器にする事が出来るミュージックブレードと言う物です。これによって、音楽にも新たな用途 が増えたと思うと―』

  ミュージックブレードを見た政府関係者は驚きを隠せないような表情をしていた。国会で別の議題に関しての会議を行う予定だったが、テレビ で日本政府に挑戦状をたたきつけた人物がいると聞いて視聴覚室でリボルバーの宣戦布告を見ているのだが…。

「あ れが実用化されれば、確実にラクシュミ存続が危うくなる。あれは、ラクシュミのイメージダウンを狙っている意図がある!」

「何 故、そこでホーリーフォースではなくラクシュミの方が先に出てくるのですか。宣戦布告を受けたのはホーリーフォースの方なのですよ―」

  議員達も今回の一件に関しては黙ってはいられなくなり、持論を展開する者も現れた。

『私 はホーリーフォースを私物化しようとしている現在の日本政府を倒すまでは戦い続けます。そして、自分は売り上げ至上主義の現状を望む音楽 業界の破壊も考えています。今のままでは音楽業界は大量の税収入を期待できる芸能事務所だけが生き残り、他は絶滅する事も―』

  何かを悟ったかのように、ある議員は途中でテレビを消した。リボルバーは何を警告しようとしているのか、それを見破られないように意図的 に議員がテレビを消した気配がしたが、それを誰も追及する事はなかった。

『― 他は絶滅する事もありえるでしょう。最終的に残るのは、幾多の同人作品や音楽ゲーム楽曲等の政府管理下にない楽曲―。音楽業界が変わる為 にも、ホーリーフォースは変わるべきなのです。最後に、ホーリーフォースのナンバー9ことフリーズにメッセージを伝えたいと思います―』

  フリーズにメッセージと聞いて、まさか…とスタッフは思った。テレビに映っている彼女は本物のリボルバーであると…。

『今 のあなたでは、ナンバー13には勝てない。いずれ、その意味が分かる時は来る―』

  そして、放送は終了した。リボルバーは今回の放送では自分から名前を名乗る事はなかった。どうして、名乗らなかったのか。これには別の意 味があるのでは…と。

 

  その意味が判明したのは、放送が終わって1時間近く経過した午前12時だった。

「こ のホームページを見て下さい」

  スタッフの一人が、週刊誌で報道されているナンバー5の件が載っているサイトにたどり着いたのだが、そのサイトのページ名を見て周囲は驚 いた。

「DJ リボルバー…?」

  最初に驚いたのはフリーズだった。リボルバーのホームページであるのは間違いないのだが、そこにはDJリボルバーと書かれている。一体、 名義変更以外に何が違うのだろうか?

「ど うやら、リボルバーが週刊誌に今回の宣戦布告の情報を送ったのは事実みたい」

  何の目的があってリボルバーはホーリーフォースに宣戦布告をしたのか、その理由は分からないまま、数日が経過した土曜日に再び事件は起 こった。

 

『フ リーズの謹慎処分解除と同時に、これ以降に行われるステージに新たなローカルルールを追加いたします―』

  政府のホーリーフォース担当の男性議員が発表したのは、宣戦布告をした人物がステージに現れた場合はアンノウンと識別し、先にアンノウン を撃破したホーリーフォースにナンバーワンアイドルの称号を与えると言う物だった。

「こ れは、大胆なルールを決めたものだ。政府が何を考えているかは分からないが、一つだけ言える事は…12人の中に政府が潰そうと考えている ホーリーフォースがいると言う証拠か」

  ロックがゲーセンの控室に添えつけられたテレビで緊急記者会見を見ていた。その場には何故か七那も一緒である。どうやら、偶然ゲームセン ターに用事があった所でロックと遭遇した為らしい。

「そ れは、ひょっとして私の事―」

  七那はふと思った。ナンバー5のブレスレットを渡された事と今回のローカルルール追加には関係があるのではないか、と。

 

  ローカルルールが追加された翌日、東京の日本橋でステージを展開していたのは、ナンバー1のゼロとナンバー11だった。ゼロに関しては、 滅多にステージに参加しない事もあって、彼女のステージが見られると聞いたファンで歩行者天国はかなりの混雑具合となっていたのである。

「ま さか、ナンバー4か6辺りと当たると思ったら、まさかゼロが来るとは…」

  ホバーボード型の強化型装甲に乗って登場したのは、執事姿のナンバー11だった。登場と同時に女性達の黄色い声援が飛ぶ。

「こ ちらも、早いタイミングでナンバー11と当たるとは予想していなかった―」

  ゼロの方は既に強化型装甲を装備した状態で登場し、その素顔は歩行者天国にいる観客やナンバー11には全く分からない。

『こ れより、ナンバー1とナンバー11のステージを開始します。なお、アンノウン出現時にはローカルルールを適用―』

  システムナレーション後、お互いに強化型装甲を装備、ゼロに関してはロングソードを全装甲一体型のグレートソードにモードチェンジする。 しかし、強化型装甲のメットは一体化したにもかかわらず、素体状態のままになっている事にナンバー11が驚く。あのメットは自分の素顔を 隠すためなのでは…と彼女は思った。

『― ライブモードスタンバイ、1曲目はゼロに選択権―』

  システムボイスを聞いたゼロは1曲目を選択し、秋葉原のホーリーフォース本部へデータを送る。

「1 ラウンド3分ならば、この曲―」

  ゼロが選択した曲は、アンダーワールドというインスト曲。ジャンルはトランスに当たるのだが…。

「こ の曲は、確か3分未満だったような気がするが、大丈夫なのか?」

  ナンバー11がゼロの選択した曲が短いのでは…と本部へ確認する。

「選 択した曲は、ホーリーフォース用にロングバージョンで再録した物だ。問題はないだろう―」

  ホーリーフォースで使用する楽曲は基本的に1ラウンド3分に合わせた曲にする事が絶対条件となっている。3分未満の曲は長さを3分に合わ せる等の調整をする事でホーリーフォースのライブで流す事が可能になる。流す楽曲に関しては、日本政府が不適当とした楽曲以外ならば基本 的に世に出回った全ての曲を使用可能になっている。

中にはアーティストサイドの意向で許可が下りない ケースも稀にある。これは、あらかじめ楽曲をホーリーフォースのライブでは使用しないように…と政府に申請書を送って申請が受理されてい る為である。

そんな楽曲でも動画サイトでは曲の差し替えをした MADと呼ばれるタイプの動画が存在する。この辺りはホーリーフォースの宣伝的な意味合いも込めて、政府が公式に認めているような流れが ある。中には動画サイト側の判断で動画が削除されているケースもあるが、これは非常に稀なケースに該当する。

『楽 曲検索完了。ラウンド1、アンダーワールド・ロングバージョン―レディ』

  曲の開始と同時に2人が動く。曲はトランスなのだが、最初の10秒は曲の起伏が全くと言ってない。10秒が経過した辺りで曲調は変化、や や激しい曲調へと変化する。

「何 故、この曲を選んだ。他の曲を選択するという方法もあったはず…」

  ナンバー11はゼロに話かけるが、ゼロの方は聞く耳を持たないような気配である。西洋甲冑というデザインを持つナンバー11の強化型装甲 には必殺武器と言う物は実装されていない。唯一の武器であるショートソードではゼロにダメージを与えられるか…。

「今 の自分に重要なのは、アーティストの知名度ではない。自分のステージでふさわしいと思う楽曲、それはラクシュミにはなかっただけ―」

  ゼロの口からラクシュミという単語が出た時、ナンバー11の中で何かがはじけたような気配がした。それは、周囲の観客も同じ反応である。

「ナ ンバー11が―」

  観客の一人がつぶやく。そして、ナンバー11の強化型装甲が全てパージされ、再びホバーボードに変形する。更に、ショートソードとは別の 小型の剣も強化型装甲から射出され、彼女の手に装備される。

「ラ クシュミは、今の日本に必要なアイドルよ。他の税収が見込めないアイドルと一緒にしないで!」

  ナンバー11が右手に持っていた別の小型剣をゼロに向かって振り下ろすが、ゼロとの間合いを考えると当たる気配は全くない。

「さ て、曲も中盤に突入する。ここで―」

  本気を…そう続けようと剣を回避したゼロだったのだが、ゼロのメットに何かが当たったような形跡があった。

「何 が起こった…」

  ホームページのリアルタイム中継で見ていた視聴者もこの展開は予想していなかった。

「そ う言う事か。ショートソードと思っていたが、その剣自体がギミックを隠していたのか―」

  メットのバイザー部分が割れ、そこから現れた顔を見てナンバー11は全身が震えだした。この状況を見た視聴者や観客は何が起こったのか全 く見当が付かなかった。

「あ なたは確か、元ラクシュミの―」

  名前を言おうとしたナンバー11の口止めをするかのようにゼロは一体型グレートソードでフィニッシュを決め、勝利を収めた。

『ス テージ終了。このステージでのベストオブアイドルは、ゼロに決定しました!』

  歓声に湧く歩行者天国だったが、メットのバイザーは割れたままで再生される気配はない。通常は破損したパーツ等もステージ終了で修復さ れ、強化型装甲及びステージ衣装も転送されて元の私服かそれに該当する服装に戻るのだが…。

「彼 女も違う―。では、一体誰が…」

  そして、次の瞬間にゼロの周囲にスモークが発生して何も見えなくなった。これは、ゼロがマジシャンの衣装で登場する為に一種の手品だと観 客等は認識しているのだが、実際は違う役目を持っていた。

  次の瞬間、周囲がスモークで見えなくなっている中でゼロのグレートソード及び破損していた部品が消え、全く別の強化型装甲が現れた。形状 はラージシールドで、トライデントと6枚の羽のような物がシールドと合体しているようなデザインになっている。

「次 のエリアへ向かわなくては…」

  別の衣装が転送され、それに着替えたゼロだった人物は超高速とも言えるスピードで何処かへと姿を消した。

  ゼロが発生させたスモークがなくなって周囲の視界が回復した頃には、既にゼロの姿は消えていた。これが、ゼロのサイキック退場とも言われ るシーンである。

「あ れは、間違いなく瀬川だった…」

  ナンバー11は、バイザーが割れた時に見えた顔が元ラクシュミの瀬川だった事に衝撃を隠せないようだった。

「ど うして、瀬川がホーリーフォースに?」

  実は、正体が発表されているホーリーフォースの中にはラクシュミのメンバーは一人も含まれていないからである。現メンバーは何人かいるよ うな話は聞くのだが、ラクシュミ側が正式発表をしていない為に噂話のレベルになっている現状があるからだ。候補生に関してはプロフィール も公開されているのだが…現在は、候補生がホーリーフォースのメンバーには含まれていない。

 

  日本橋でゼロとナンバー11がステージを展開しているのと同時刻、有明のイベントセンター付近ではナンバー8とナンバー4のステージが始 まろうとしていた。

「ま さか、いきなり彼女と戦うとは…」

  ドラゴン型の強化型装甲に乗ったバニーガールの女性、ナンバー8が頭を抱えていた。

「よ、 よろしくお願いします。ホーリーフォースのステージは、まだ色々と分かりませんが精いっぱい頑張ります!」

  もう一方の女性はグラビア用の水着を着ているはずなのだが、体格的にグラビアアイドルには程遠く見える。髪型は黒髪のショートカット、3 サイズは上から88、80、93辺り。彼女の名前はアリサ、ふとした事で芸能事務所からムチムチ系アイドルとして売り出す事が決定した。 しかし、事務所の方針でホーリーフォースを最初の仕事に決定したのである。

「あ んたの強化型装甲はどうした?」

  ナンバー8の言う通り、アリサの強化型装甲はこの場にはない。ナンバー3の四聖獣やナンバー2の狼型使役獣はステージが始まる前には必ず 現れるが、こちらはステージが始まろうとしている中でも登場する気配は全くなかった。

「何 故か分かりませんが、自分がピンチにならないと出てこないみたいなので、このまま始めようと思うのですが―」

  そして、アリサは拳法の構えでナンバー8をさりげなく挑発する。

「そっ ちがそれでいいなら、このまま始めさせてもらうよ!」

  ナンバー8の乗っていたドラゴンがロボットに変形し、彼女が搭乗する。残りのパーツは合体して戦闘機に変形し、ロボットの背中にドッキン グする。そのサイズは10メートル近く。強化型装甲としてはナンバー10と同じ大型タイプに該当する。

「早 くかかってきてください」

  アリサの目の色が変わった。黒い瞳が両方とも黄色に変化した。その次の瞬間には、ナンバー8が衝撃波のような物で吹き飛ばされていた。あ の10メートル近い巨体を吹き飛ばす程の衝撃波である。その破壊力は恐ろしい物が…と思われたが、ナンバー8のエネルギーは微々たるもの しか減っていない。

「残 念だけど、強化型装甲でもナンバー11やナンバー3と違って重量級だからね。そう簡単にはやられないよ!」

  強化型装甲でもトップクラスの固さを誇るナンバー8、その装甲はネットでも神合金と言われるだけの事はある。そして、アリサの動きが止 まった所を狙ってパンチの連打で反撃をする。攻撃力はナンバー3とナンバー12には遅れを取るが、全長10メートル近い巨体のパンチはア リサの体格から考えても大ダメージは確実。アリサの残りエネルギーも少なくなり、このままでは敗北は確実とみられていた。

「こ のままでは…」

  アリサの危機に現れたのは―。

「曲 の強制割り込み?」

  先ほどまで流れていたナンバー8の選曲した曲ではなく、謎の機体が出現してからは全く別の曲が流れ始めたのである。曲調としては和風プロ グレッシブに雰囲気は近い。

「あ の忍者ロボ、アリサのピンチになると毎回出てくるよな。まさか…あれがアリサの強化型装甲か?」

  突如、高速道路から現れたのは青い忍者型のロボットだった。背中には忍者刀、肩アーマーには大型手裏剣、右足にはビームライフルと言う装 備、デザインはスリムで近未来的な忍者を思わせるのも特徴だった。全長は6メートル近く、この忍者型ロボットがアリサのピンチを毎回救っ ているという強化型装甲の正体なのである。

「蒼 影(あおかげ)が現れた か」

  ナンバー8の標的がアリサから突如現れた忍者ロボに変わった。その内にアリサは安全なエリア外ギリギリへと移動する。

ステージに関しては、その時の交通事情等にもよる が、基本的には縦×横で100メートルまでが基本的なステージの広さになっており、エリア外に出てしまうと警告メッセージが発生、30秒 の警告カウントを無視してエリア外に出ていると敗北が確定する。

ビ ルの内部等もエリア内であればステージに利用出来るのだが、これはビル側のオーナーが許可した場合だけになっていて基本的には建造物内で のバトルは行われていない。

 

  蒼影が喋るような様子はない。標的が変わった事を察知した蒼影は肩アーマーと一体化していた大型手裏剣を組み合わせてナンバー8に向かっ て投げる。

「こ んなので!」

  大型手裏剣は命中するものの、ナンバー8の装甲では簡単にダメージを与える事は出来ない。そう判断したアリサの取った行動、それは―。

「蒼 影!」

  アリサが叫ぶのと同時に蒼影が変形、忍者アーマーと獅子型メカに分離、アーマーの方はアリサに装着され、アリサは獅子型メカに騎乗する。 騎乗と言うよりは、獅子型メカの上に乗っているだけという印象だが。

「こ れから反撃開始よ!」

  アリサが体格からは信じられないような高速移動でナンバー8を翻弄する。装甲はナンバー8の方が上なのだが、アリサは手数の多さで攻撃す る。1ラウンド3分の制限時間が過ぎて、第1ラウンドは終了―。

「次 の曲は、こちらの選曲―」

  アリサが休憩をはさんで選曲をしようとした、その時である。

『ア ンノウン出現。ラウンド2よりローカルルールに変更します―』

  第2ラウンドの開始直前で強化型装甲とは全く別の武器を持った何者かが乱入してきたのである。持っている武器は、宣戦布告放送に出て来た 物と酷似しているのだが剣のデザインが微妙に異なるような気配がした。

「あ れが、アンノウン…?」

  ナンバー8は見た事があるような姿に違和感を覚えた。外見デザインが明らかにダークネスレインボーのリボルバーバージョンである。しか し、唯一違うのはメット部分のバイザーが半透明ではなく、正体が分からないように青一色で塗られている。それに加えて青メインのカラーリ ングとは異なり、黒がメインになっているのも違いの一つである。

「ラ イバル芸能事務所の差し金か!」

  ナンバー8がパンチの連打で攻撃を仕掛けるのだが、彼女には全く攻撃が当たらない。

「機 動力もオリジナルと同じなのか?」

  5発目のパンチが回避された辺りでアンノウンが手持ちのビームライフルで攻撃を開始する。

(あの武器を使わないのには、何か理由があるのかし ら…)

  アリサは、音楽武器を使わないアンノウンに違和感を持った。武器の使い方を把握していないのか、それとも…?

「こ れならどうだ!」

  ナンバー8が至近距離でロケットパンチを飛ばし、アンノウンに直撃した…と思われていたのだが、目の前には姿がなかった。

「姿 がない…?」

  アリサは至近距離にもかかわらずロケットパンチを回避したアンノウンの能力に驚くばかりだった。

「ま さか!」

  ナンバー8が目の前に姿がないのに気付いた頃には、既にアンノウンが超高速による体当たりでナンバー8は倒されていた後だったのだ。あの 一瞬でどうやってナンバー8を戦闘不能にしたのか謎は深まる―。

「目 的は達成した―」

  そう言い残すと、アンノウンの姿はステージ上からは既に消えた後だった。

「一 体、どういう事なの…」

  ステージ衣装から入場前に着ていた水着に戻ったアリサ。その姿を見た観客からは別の歓声が上がっていたのだが、アリサには歓声が聞こえて いなかった。

 

  翌日、ナンバー10とナンバー12のステージが上野公園で、ナンバー2とナンバー3のステージが西日暮里で行われた。

「今 度はラウンド1突入前に来たのか!」

  アンノウンが出現したのは上野公園の方だった。そして、行われるはずだったラウンド1は最初からアンノウン戦用のローカルルールという展 開になった。

「ナ ンバー8の装甲でも一撃で撃破される攻撃力の高さ…。その対策は既に終わっています!」

  メイド服姿のナンバー12は3機の戦闘機をアンノウンに向かって飛ばすのだが、あっさりと回避されてしまう。しかし、回避されるのは計算 済らしく、ナンバー10に攻撃を指示した。

「今 回は、休戦と言う事にしましょう。違う芸能事務所同士で争っている場合ではないはず―」

  確かにナンバー12の言う事も理に適っている。アンノウンは既にナンバー8を撃破したという事もニュースで報道されていた。

「確 かに。これは事務所同士で敵対している状態では倒せる相手ではなさそうだ―」

アンノウンの作戦を成功させるのも様々な箇所での被 害を拡大させる原因になる。ナンバー10はナンバー12の言う事にも一理あると判断し、一時休戦とする事にした。

「こ れでどうだ、ヒーローキック!」

  ナンバー10が上空にいるアンノウンに向けて必殺のキックを決めようとするが、それも回避されてしまう。そして、バランスを失ったナン バー10がアスファルトの床に打ちつけられる。身体のダメージに関しては強化型装甲のおかげで少なかったが、今の衝撃で動力部が損傷し、 撤退を余儀なくされた。

「次 は私の番です! アルファ・フォーメーション展開!」

  ナンバー12が戦闘機を呼び戻し、3機の戦闘機が変形したアーマーを装着する。その姿は空飛ぶメイドをイメージさせるようなデザインであ る。

「本 来の任務は終わったが、これも仕方がないか…」

  そうつぶやいたアンノウンがナンバー12に突撃する。音楽武器は今回も使わず、ダークネスレインボーが使っていたナックルパートを展開す る。その一撃は、ナンバー12の強化型装甲を見事に砕き、戦闘続行不能状態にしたのである。

 

  ステージの開始時間が観客の誘導等で手間取った西日暮里のステージは、上野公園でのステージが終わった5分後に開始されるはずだったのだ が、そこに現れたのは上野公園に現れたダークネスレインボーと酷似したアンノウンではなく、漆黒のマントと音楽武器という装備のリボル バーだったのである。

「宣 戦布告したのは、やはりリボルバーだったのか…」

  ナンバー2は大体の事情が把握できているらしく、大した驚きは見せなかった。一方のナンバー3は宣戦布告をしていたのがリボルバーだった 事実すら知らなかった。

「宣 戦布告をした理由を知っているというのであれば、話が早い―」

  リボルバーはミュージックブレードに何かのディスクを入れ、再生ボタンを押した後に剣を構えた。流れて来た音楽には、ナンバー2とナン バー3には聞き覚えがなかった。どうやら、ラクシュミの曲ではないようだ。

「曲 に関してはアーティスト等によって能力や効果も変わると言う仕様がある以上、ラクシュミの曲を使ってイメージダウンを狙うような使い方は 出来ないだろう。この武器の本来の使い方は、こういう事だ!」

  流れて来た曲はJ―POPに代表されるジャンルとは全く違う、音楽ゲーム的な要素を含んだ曲だった。この曲を聞いた2人は金縛りにあった かのように動かなくなり、リボルバーの姿も観客からは見えなくなっていた。

「こ の曲のタイトルはアンノウン、未知なる敵との戦いに使われる曲で今回の為に書きおろしてもらった曲でもある。誰が作った曲かまでは教えら れないが―」

  姿の消えたリボルバーがナンバー2とナンバー3に対して、容赦のない攻撃を加える。

「リ ボルバー、お前の目的は何だ?」

  ナンバー2がリボルバーに質問をする。一方で、ナンバー3はリボルバーの攻撃に耐えきれずにその場に倒れ込んだ。

「瀬 川からも聞かなかったのか…。今のラクシュミは一昔の『容姿や外見で売れているだけのアイドル』だという事に。それに気付いた瀬川はラク シュミを辞め、現在はとあるアイドルとして活躍をしている―」

  リボルバーの言葉を聞き、ナンバー2は混乱した。日本政府公認アイドルとなったラクシュミに、そんな事実があった事に―。

「ラ クシュミが、税収目的で政府公認になったという噂は本当なのか?」

  ナンバー2はリボルバーに問う。

「そ の答えが知りたければ、共にラクシュミ打倒の為に戦うか?」

  リボルバーは何とかナンバー2を引き込もうとしたのだが…。

『タ イムアップ―』

  ステージの制限時間がなくなり、仕方なくリボルバーは撤退をした。そんな中でナンバー2は考えていた。

「本 当に、ラクシュミが…」

  リボルバーの言う事が事実であれば、政府は赤字国債の償却にラクシュミを利用していたという事になるのだが…。それでも彼女は政府の言う 事を信じるしかなかった。

「政 府がアイドルを使って、赤字国債をなくすために水面下で―」

  混乱するバンバー2だが、今の状況ではリボルバーは敵である。下手に裏切れば、ラクシュミに戻る事も不可能になる。

「今 の定位置を確保するには、これしか方法はないのか―」

  今のやり方には不満がある。しかし、その不満をぶつけたとしても他のメンバーのように辞表を出す事になる。そうならないようにする為に も、今は沈黙を維持するしか彼女には選択肢はなかった。

 

  翌日の新聞には『ナンバー12、今シーズンのステージ復帰は絶望的』という見出しがスポーツ新聞一面を飾っていた。

「こ れで、残りは11人…という考え方はおかしいとしても、予備の強化型装甲等はないのですか?」

  今回の一件に関しては聞きたい事がある…そう判断した七那はロックのいるゲーセンに向かう前にホーリーフォース事務所に立ち寄っていた。

「予 備の強化型装甲は、残念ながらナンバー12に限っては存在しない。この辺りは予算が通らないと新規で強化型装甲を作成する事もホーリー フォースの予備人員を手配する事も不可能という状況になっている。仮に強化型装甲は直せたとしても、ナンバー12が辞めた場合に新メン バーを探すのは―」

  ミカドは、現在の台所事情を七那に説明する。現在の予算では仮に強化型装甲を直す事は出来ても、ナンバー12に変わるメンバーを確保する 為の人員も足りないのである。

「確 か、ホーリーフォースには新規でスポンサー制度というのが始まったはず…。スポンサーからの広告収入で何とか出来ないのですか?」

「ス ポンサー収入は確かにあるが、それらも動画配信、ホームページに関する環境整備や備品の修理等で相殺されるのが現状だ。有料会員が増えれ ば何とかなるのだが、今のホーリーフォースを取り巻く環境では無理があるのが現状だろう―」

  スポンサー制度が導入された事で若干の予算も確保できるようになった。しかし、それらも別の部門で予算を使ってしまう為、現状の環境では 新規の予算を集めるのは難しいとミカドは語る。

「や はり、ラクシュミとは無関係である事を証明するしか方法はないのですか?」

  七那は口を滑らせてしまった。ロックが密かにファイルしていたホーリーフォースの記事にラクシュミが何か怪しいという事実が載っていたか らである。

「確 かに、ホーリーフォースが政府の資金援助によって成り立っているのは事実だが、ラクシュミにも同じようなシステムが使われている。ラク シュミの方が先に政府の資金援助を受けていた関係で、ホーリーフォースはラクシュミですぐに実行出来ない事をテストケースとして―」

  ミカドは七那に言う。ラクシュミですぐに実行が出来ない企画等を別のプランを使って実験し、ラクシュミで運用しても失敗はないのか検証を する部門が存在する事を…。

「テ ストケース―」

  その単語を聞いて何やら思い出したかのように七那は事務所を後にした。それとすれ違うようにフリーズが足早に事務所にやってきた。目的は 七那と違うようだが…。

「あ の試合表は何処から来たのですか?」

  フリーズもミカドに用があって事務所に立ち寄ったようである。

「ス ケジュールは確かに政府の許可印はあったが、別人が作った偽物説が有力になっている。その証拠は、この対戦カード…」

  ミカドが指摘したのは、七那とフリーズのステージである。そこに書かれていた開催場所は意外な場所―。

「こ の場所は、確か…」

  ステージには新宿都庁付近が設定されているのだが、それ以上に驚いたのはステージの広さ。フリーズはシングルではあまりにも広すぎるス テージに何か罠が仕掛けられているのでは…と思った。

「ど う考えても、半径1キロエリア圏内と言うのはタッグ戦でもないのにステージが広い印象がある。これは、何か企んでいると考えてもいいだろ う。例えば、この範囲内に要人の屋敷等が…」

  ミカドは何かを思い出したかのように新宿の地図をネットで検索し始めた。検索を開始して数分後、フリーズをはじめとした事務所に居合わせ たメンバー全員が驚く。

「こ の近くにはラクシュミの芸能事務所となっているビルがある。狙いがあるとすれば意図的にこのビルを破壊させる事を誘導する事だが、対戦相 手が七那ではその懸念はないだろうと思われる。しかし、ビルの破壊は強化型装甲ではリミッターがあって破壊出来ないようになっている。仮 に日本政府が狙うとしたら、どういうタイミングでステージを中断するか―」

  そして、フリーズと七那のステージ開演時間が迫っていた。ステージの開始は午後3時に控えていた。

 

  お昼前、スマートフォンでラクシュミの情報を収集していたのはナンバー11だった。

「ど うして、彼女はラクシュミの曲を選曲しなかったのか…ナンバー8やナンバー10のように―」

  ナンバー8、ナンバー10等の一部でラクシュミメンバーなのではと言われているメンバーに関してはラクシュミの楽曲をステージで流してい るのだが、瀬川に限っては全くと言っていい程にラクシュミの楽曲を使う事はなかった。それを不審に思ったナンバー11は検索を繰り返して いく内に、リボルバーのホームページへとたどり着いた。

「こ れは、どういう事なの…?」

  ナンバー11は、瀬川についての衝撃的事実をリボルバーのホームページで知った。それが意味する者、それは…。

 

「間 もなく、政府も動く頃だと話を聞いていますが、泳がせておきますか?」

  同時刻、北千住の自宅マンションでドラゴンの覆面がテレビ電話で通話していた相手は背広に狼の覆面と言う人物だった。

「向 こうが尻尾を出すまでは、様子を見るように向こうにも伝えてください―」

  用件だけを伝え、狼の覆面は電話を切ったのだが、ドラゴンの覆面は政府を泳がせると聞いて驚いていたようだった。