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0:全ての始まり

 

 2年前、音楽業界は劇的に変化した。ある特定のアーティストのみが音楽チャートを独占する週が続いた為に、チャートそのものを廃止する動きになったのである。実際、その年の年間チャートでは、上位10曲を同じアーティストが独占、それ以外にもかなりの曲数が入り、トップ100の約半数を同じアーティストが独占した事になる。

本当に該当する曲は人気があったのか…それ以外にも浮上した疑問点等を踏まえて調査した結果、実際には売り上げは一部ファンが大量に購入しただけだという事実が判明、ファンも実際は10万人程度だったという事も調査の過程で判明した。1枚のCDを複数枚購入してチャート上位に入るように裏工作をしている事や特典なしCDが発売日当日に大量に出回っている事等も他のアーティストのファンにとっては衝撃的事実だった。最終的には該当のアーティストは解散ではなく歴史から完全に抹消される事になった。この事件は音楽チャートの黒歴史とされ、チャートの信頼性を大きく損なった事件でもあった。この事件をきっかけにセールスに左右されないチャート作りが急務となったのである。

最終的には転売の原因になるイベント招待券、ファンが意図的に複数枚買うようなランダム制の高いカードや写真等の特典を制限する所までは出来たのだが、全体的な廃止には出来なかった。これは、プロモーション活動の制限につながるという反対意見を取り入れた結果である。

 

それから2年の歳月が流れ、過ちは別のグループにより繰り返されようとしていた。それが、Gユニゾンという名前のグループだった。

 

彼女たちは日本政府公認のアイドルグループである。主要メンバーは30人、これでも一時期に流行した50人以上の大規模アイドルグループに比べると、やや中規模に見えるのが不思議である。コンサートやライブ以外での大規模なイベントや握手会等は行っていない事、コンサートのチケット等が転売されていない所を見ると、2年前の再現とは行かないのでは…と思われていた。しかし、事態が急変したのはある週の音楽チャートが発表されてからであった。

 

あるレコード会社の会議室、そこでは今回の音楽チャートに関する一件に関しての緊急会議が行われていた。

「どう考えても2年前の再現となる自作自演としか思えない…」

「やはり、1アーティストの独占するチャートに存在する意味はない」

 各レコード会社も今回の件に関しては黙ってはいなかった。お互いにライバルと認め合った上でチャートの独占を阻止できなかったのであれば実力不足として判断できるかもしれない。しかし、実際はそうではなかったからである。

「レコード会社の圧力に加えて、ファンによる暴走、そして政府が今回の事態を黙認している事が最大の問題なのでは…」

 あるレコード会社の幹部は言う。今回の独占に関しては、レコード会社が50枚という特典を差し替えただけのシングルCDを大量に売り出し、それをファンが全て購入、更には各所で特典なしの状態で転売していたという事が明らかになったからである。このような販売方法でシングルが100万枚を記録したのだが、これを無効にするべきだと…。その考えに賛同したレコード会社の幹部が今回の会議に参加していた。

当然だが、このCDを販売したレコード会社の幹部は会議に出席はしていない。同様に同じような商法を展開するレコード会社数社も出席拒否を文書及びメール等で通知している。

「実際であればシングル1枚扱いの物を何種類も水増ししてチャートを独占しようとしているのでは…2年前と同じように」

今回の件に関してチャートの主催側もレコード会社に問い合わせを行ったのだが、実際のCDは1曲目こそ全て同じなのだが、2曲目以降はジャケットに写っている別メンバーが歌っているという事が判明し、全く別のCDとして扱っているらしいので問題はないという。これらの事を政府が黙認している事が最大の原因なのでは…と。

「通常版と限定版で音源が違うと言うタイプは他のアーティスト等でも使われている手法だが、これに関しては確実に度が過ぎているとしか思えない。一部特典を差し替えただけで、事実上は1枚のアルバムCDで出せば済む話だというのに…」

 他の幹部もこの件に関してはどう考えてもおかしいと言う。だが、Gユニゾンが日本の経済成長を20%も押し上げている事実がある以上は黙認するしか方法はなかった。

 

「これ以上の批判は…」

 次の瞬間、周囲の時間が止まったかのように静かになった。幹部達は何かの危機を察していたのだが、肝心の声が出せない状況だった。その中で突如として幹部の前に現れたのは、奇妙な槍を持った一人の少年だった。外見はファンタジーよりは歴史物に出てくるような鎧に、どう考えてもSFに出てくるようなサイバー風の盾を持っていた。周囲の幹部は彼が持っている槍を見て震える者がいた。何かを訴えようとしても、声が出ないのではどうしようもない。

「今の日本の経済成長は彼女達…Gユニゾンのおかげだと言うのに、それを批判するとは…。残念だけど、その考え方は改めさせないといけないようだね」

 彼は自分の背丈と同じ位の槍に盾の裏から取り出した別の機械を取り付けていた。その機械はゲームのコントローラーのようにも見える。

「サウンドウェポンシステム、起動。バトルモード、スタート!」

 次の瞬間、何処からか聞き覚えのある音楽が幹部達の耳から聞こえてきた。

「この曲は…まさか!」

 幹部達はその場から逃げようとしたが、会議室のドアは閉まっていて脱出は不可能だった。そして、幹部達の背広には謎のマーキングが付けられていた。マーキングを剥がそうと試みる者もいたが、マーキング自体は電子的に付けられた物の為に物理的にマーキングを剥がす事は不可能だった。

「この曲自体は聞き覚えがあるか。丁度、この場で議題にあがっていたからね…」

 そして、少年が次の瞬間に行動を始めた。彼は持っている槍で逃げ惑う幹部達を次々と切り刻んでいく…。相手は何も抵抗できずに気絶するだけだが切られた際の精神ダメージは計り知れない。

「こんな事をして、本当に経済成長が続くと思ったら大間違いだ…」

 ある幹部は少年に向かって叫ぶが、その声は彼には届かない。

「今まで音楽業界が不況だったのは何が原因だったのか…。それが分からないわけではないだろう。今、日本経済を復活させるアイドルは誕生した。歓迎はされても、退場を支持される覚えはないはず!」

 最後の1人を倒した後、しばらくして曲は終わった。

「まぁ…フルコンボではなかったが、幹部を一掃出来ただけでもよしとするか」

 少年が会議室を後にした数分後、何事もなかったかのように会議は続行された。

「では、我々は引き続き彼女達を支援していく方向で行きましょう」

 幹部達は、何事もなかったかのように会議を進めていき…最終的には今回のチャート独占に関する一件は黙認する事になった。そして、誰一人として会議室に現れた謎の少年の事を知るものはいなかった。正確には少年が現れた事実こそは覚えているが、何をしていたかまでは覚えていない…という方が正しいのだろうか。彼に切られた際に記憶が消えたのかどうかは定かではない。

 

「テストの方は成功といった所か。これを実戦に投入するとすれば…アレしかないか」

 西雲隼人(にしぐも・はやと)はビルの様子を見て今回のテストが成功した事を実感した。何故、音楽業界のあり方を警告し続けていた彼が、今回のような行動に出たのか…それは誰にも分からなかった。一説によると西雲の名前を語る偽者説、西雲自体は表舞台からは姿を消して名前だけが一人歩きしている説…色々と考えられていたのだが、彼の作り出したサウンドウェポンシステム、音楽業界のあり方に対して疑問を抱いている部分、音楽業界の良い話題がない中で日本経済を立て直したアイドルグループに力を貸す所等を見て、ネット住民等は本物に近い西雲隼人が復活したのだと確信した。

 

 だが、ここでひとつの疑問が浮かぶ。彼は昔にゲーム会社で新作音楽ゲームの開発をしていたと言う。実際、とある記者が彼の在籍していた会社に問い合わせた所、意外な答えが帰ってきたのである。

「西雲隼人が会社を辞めた事実はないが、今回の新聞報道等で説明されているサウンドウェポンシステムに関しては過去に彼が開発していた音楽ゲームのシステムに酷似している箇所がある…」

 酷似と言う部分が気になったが、西雲は会社を辞めた事実はないという。では、あの新聞記事で写真に写っていた少年の正体は何者なのか…謎は深まるばかりである。

 

 数日後、レコード会社数社はチャート廃止に関して取り下げる発表をした。これが西雲の仕業だという事は全く取り上げられていないが、スポーツ紙等では槍を持った西雲の姿が写っている物も確認されている。

それから数週間の後、Gユニゾンの楽曲を扱った音楽ゲームが発表され、そこには西雲の考えたとされるサウンドウェポンと言われるシステムが導入されていた。

「この音楽ゲームは今までは筐体物が多かった中で、画期的となるシステムを導入した史上初の音楽ゲームとなります。それが、このサウンドウェポンシステムです」

 記者会見の会場には、多くの報道陣やマスコミ等が集まっていた。その中でサウンドウェポンも初披露されたのである。各種説明をしているのは会社のスタッフである。この場には西雲隼人の姿はもちろんの事、楽曲が収録される事になったGユニゾンのメンバーも姿を見せていない。表向きは新聞やマスコミ各社向けと言うよりはゲーム雑誌等にターゲットを絞った会見と見るのが有力だった。

 

「このシステムは、従来の音楽ゲームで言う所のギターやドラム、鍵盤等に該当するコントローラーであるウェポン、ゲームのソフト部分に該当するディスクプレイヤーに分かれており…」

中央の画面に映し出されたそれは、見た目は普通の日本刀と篭手に見える。違和感があるとすれば、日本刀は実際に何かが切れるような材質で出来ているとは到底思えない事と篭手に関してはそれ自体がPCや携帯端末を連想させるようなキーボードがある事だろうか。日本刀と言うよりは、特撮ヒーローの変身セットに付いているようなごっこ遊びに適した刀といった方が表現としては正しいのだろうか。実際にディスク部分に関しても、それを連想させる部分がある。このサウンドウェポン自体が同じメーカーの開発という事なので一定の説明は付く。

「この刀と篭手が、どう音楽ゲームと関係するのですか?」

 記者の質問もサウンドウェポンに関するものが多かった。そこに現れたのは、意外にも西雲隼人だった。これには周囲も驚いたが彼がこの場に来た事に関して等の質問が出る様子は全くなかった。

「では、実際に実演してどういう物か簡単に説明しましょう…」

 西雲が持っていたのは、先ほどの画面で説明されていた日本刀と篭手のデザインをしたサウンドウェポンである。篭手のカバーに該当する部分を開けると、そこにはパソコンのキーボードを思わせるようなキーが多数あった。篭手と言うよりは腕に付けるタイプの携帯端末をイメージさせる光景だった。次に西雲が取り出したのは、光ディスクだった。DVDのようなむき出しになったものよりも、携帯ゲーム機のソフトであるようなカバーが付いたタイプに近い形をしている。それを篭手のディスクドライブに入れ、パスワードを入力すると、何処からか音楽が聞こえだしてきた。

「この場で聞こえている音楽はサウンドウェポン内に内蔵されたスピーカーとウーファーから聞こえてくる物であり、周囲のスピーチ用のスピーカー等には影響しない物になっておりますので、ゲームセンターで設置される際に周囲の爆音でプレイ中のゲーム音楽が聞こえないような事も怒りにくい設計になっております」

 記者たちもこの光景には驚いていた。何もないような空間から急に音楽が聞こえてきたのである。サウンドウェポンがどんな構造になっているかよりも、今はこれから始まる事に注目しよう…そんな流れだった。

「では、これからどういう風にサウンドウェポンを使うか、実際のプレイで説明していきましょう。今回は都合により広めの会場を確保できなかった為、中央にあるスクリーンに出てくるターゲットを撃破するという仕様に変更してのプレイになります」

 画面中央のスクリーンには、中央にマーキングの付けられたダミーのターゲットが現れた。マーキングは四角形で中央部分は空白になっている。

「ターゲットに付けられたマーキング以外の場所をサウンドウェポンで当てたとしてもミス扱いとなります。その為、マーキング部分を正確にヒットさせる事がスコア上昇の近道となりますが、一番のスコア上昇に必要な物は曲のリズムに合わせてコンボをつなげる事が重要なポイントになります。難易度によってマーカーの判定の大きさも変化し、初心者ユーザーから上級者ユーザーまで納得できる幅広い難易度が選べるように…」

 スタッフが解説をする一方で、西雲の方は正確にターゲットのマーキング部分を当てていき、コンボをつなげていく。中央の画面では現在のコンボ数が確認できるように仕様変更がされているが、西雲の方にはどういう風に見えているのだろうか。周囲には想像もできなかった。

「残るは、1体!」

 西雲の三段斬りが決まった。そして、画面にはフルコンボと表示されていた。

 この光景を見た全ての記者が拍手をする。西雲の華麗な舞とも言えるような動きに魅了されたのか、それとも完成度の高いサウンドウェポンに驚いたのか…。

「このサウンドウェポンに関しては、既にサウンドウェポンセンターにてロケテストが行われております。そこでは、今回の日本刀だけではなく、銃、長剣、二刀流専用の中型剣等のさまざまなサウンドウェポンも体験が可能となっております。お時間のある方は、サウンドウェポンセンターにも足をお運びください…」

 スタッフの締めの言葉でサウンドウェポンの記者発表会は終了した。一部の記者は先ほどのスタッフと共にロケテストの行われているサウンドウェポンセンターへと移動した。     

 

そして、これ以降は一部の記者限定の質問会となった。当然、話題となるのは新聞でも取り上げられた例の襲撃事件である。

「例の襲撃に関しては、既に政府が発表した通りです。それ以上の意味もそれ以外の意味もありません」

質問に対して、先ほどとは別のスタッフが答える。どうやら、先ほどのスタッフは今回の襲撃に関しては全く知らない人間らしい。その為に会場を後にしたのか、それとも別の目的があるのかは不明である。

「政府公認で、Gユニゾンをフォロー…ですか?」

 一説によると、Gユニゾンは政府公認と言うよりは大手企業が政府に裏金を回し、政治資金を提供する事で政府公認という肩書きを得た、日本経済を20%押し上げた事実を知った日本政府が利用している、Gユニゾンの商法を否定する評論家などを一斉に検挙等…色々とGユニゾンに関しては黒い噂ばかりが絶えない。そんなGユニゾンが次に目をつけたのは、ゲーム業界の中でもゲームセンターではメダルゲームやプライズゲームの次にユーザーの多い音楽ゲームなのでは…と。

「アーケードゲームにも色々とジャンルはあるのですが、どうして音楽ゲームだったのですか?」

 ユーザー数は音楽ゲームの方が対戦格闘やカードゲームよりはプレイ人口が若干多い程度であり、新作が出るペースも音楽ゲームよりは対戦格闘の方が若干だが多い。対戦格闘に関しては色々なメーカーから新作が出ており、全国大会が開かれるほどの規模になっている。カードゲームも全国大会が行われている作品や題材によってはファンからの幅広い支持を得ている作品もいくつか存在する。あえて音楽ゲームを選んだのには何か理由があるのだろうか…。

「カードゲームに関してはプレイ人口やプロモーション的な点でも知名度を上げる事が出来るかもしれませんが、プロモーションカードを作成するのに時間がかかる事が不採用の理由です。カードゲーム自体は既に作品数がかなりの数になっており、どの作品でプロモーションをすればよいのかリサーチするにも時間がかかるのも理由になっております。格闘ゲームに関しては、使用キャラに採用されたとしてもゲームバランスを取りにくい事が解決できなかった為、最終的には音楽ゲームの方が一番適しているだろうという事で音楽ゲームが採用されました」

 格闘ゲームに関してはキャラとしての出演ではなく、主題歌等でも可能では…という質問もあったがGユニゾンのメンバーで対戦格闘ゲームをプレイしたメンバーが少ない事が不採用のもうひとつの理由だった。

 カードゲームの方に関しては意外な答えが返ってきた。カードゲームといっても、ゲームセンターに置かれているタイプ以外にもデパートの玩具売り場の一角に置かれているような物まで多数ある。やはり、プレイヤー層を絞りにくい事も断念の理由のひとつかもしれない。

 

 他にも様々な質問が出た。Gユニゾンの楽曲は何曲収録されるのか、楽曲は提供曲として原曲での収録になるのか、稼動時期はどの辺りになるのか、日本刀以外のサウンドウェポンのリリースはいつになるのか…。多数の質問が出る中で、ある記者の質問が周囲の空気を変えた。

「Gユニゾンと同じような商法で売り出しているアイドルグループが、ここ最近目立つようになりましたが、これは2年前の…」

 次の瞬間、周囲の時間が止まった。音も聞こえなくなり、周囲は無音状態になった。その時に聞こえたのはGユニゾンの曲ではなかった。周囲の記者も聞き覚えのない楽曲をバックに現れたのは、自分の背丈以上の大型の銃剣を持った女性だった。体格的には普通の女性よりも格闘家に近いような雰囲気なのだが、体つきを見ると筋肉があるようには到底見えなかった。その体格からは信じられないようなパワーで銃剣を振り回し、周囲にいたSPと思われる人物をなぎ倒していく…。

「Gユニゾンは…Gユニゾン商法は日本経済を自滅させる。だから、その根源を全て塗り替える…それが、私の使命!」

 ロングヘアーのエプロンドレス、それに少し太めの体格の女性。彼女の正体は一体何者なのか…。しかし、彼女の名前を聞く前に反撃をしたのは、先ほどまで説明をしていたスタッフの方だった。彼女も西雲が持っていた物とは違うサウンドウェポンを所持していたのである。形状は小型の二丁拳銃…。

「仕方がない…。これを利用して、量産型サウンドウェポンの実戦テストを行う!」

 そのスタッフに変装していたのは、スクール水着にテンガロンハット、両足と両腕にはガンホルダーという外見の女性…。

「私の名は、采音(サイネ)…これ以上の邪魔はさせない!」

 采音と名乗った彼女は、ディスクを腕に付いている別のガンホルダー型の携帯端末にセットする。そして、音楽を選曲しようとトリガーを引くのだが…。

「音楽が変わらない!」

 采音はGユニゾンの曲ディスクを入れたはずなのに自分の持っている二丁拳銃から曲は流れてこなかった。整備不良か、それとも予想外のシステムトラブルなのか…。

「どうやら…私の勝ちみたいね!」

 最後のSPを撃破し、采音に近づく女性。絶体絶命か…と思われた、その時に予想外の人物が采音の前に姿を現した。

「両者とも、そこまでにしてもらおうか!」

 大手ゲーム会社の社員証を胸に付け、背広姿、左腕にはナックル型サウンドウェポンを装備し、右腕には端末…社員証には西雲隼人の名前があった。彼こそが、本物の西雲隼人だった。一部の記者は前半のゲーム説明時に西雲の姿を見ていたのだが、身長や体格等で違和感を持っている者も何人かいた。前半に出てきたのは、新聞記事等でも取り上げられた例の槍を使う少年の方であり、正真正銘の西雲隼人ではなかったのである。今、二人のサウンドウェポン使いを止めた人物の正体こそ、過去に冬の時代と言われた音楽業界に大鉈を振るった張本人。周囲の記者たちは、本物の西雲隼人の出現に驚くばかりだった。

「どうやら、敵地視察をしていて正解だったようだ。ここで止めていなければ、間違いなく自分が本当に雲隠れをしなくてはいけなくなったから…」

 彼の言葉の意味は理解できなかったが、ここでサウンドウェポン同士が激突したら大変な事になっていた事には変わりないだろう。

「Gユニゾンは…自分にとっては敵同然の存在…これ以上は音楽業界全体を駄目にしてしまう…」

 采音の方は即座に銃をおろしたのだが、もう一方の彼女は武器をおろす気配はない。

「だからと言って、力技で解決を図ろうとするのでは…あの新聞に書かれていた僕の偽者と変わりない。あの事件はサウンドウェポン本来の使い方に反している。それに、今かかっている曲は自分の曲でもGユニゾンの曲でもなければ…ロケテスト用に調節された楽曲でもない。君はどうやってこのシステムを手に入れた?」

 本物の西雲は、どうやら偽者に関する一連の事件を全て知っていて、今まで采音たちを泳がせていたのである。そして、今回の発表会場所を突き止め、状況によっては全てを告発するつもりだったらしい。だが、采音が使っているサウンドウェポンとは違い、もう一方のサウンドウェポンは量産型とは違う何かを持っていた事を西雲は察知していた。楽曲も自分が把握しているGユニゾンディスクと自分が所持している特注ディスク、ロケテスト用ディスク、別作品用のディスクの4つだが、流れている曲は4つのディスクに収録されていない曲だったのである。

「この曲は別ジャンル作品のアレンジ曲で…その別ジャンルはSTG(シューティングゲーム)よ」

 どうやら、この曲はSTGに収録されていた楽曲のアレンジらしい。ここ最近、STGはゲームセンターよりもPCの同人STGが盛り上がっていると言うらしい。楽曲アレンジも盛んに行われていて、その1曲が今回のサウンドウェポンに使われていたようだ。

「なるほど…そういう事か。これで、そのサウンドウェポンがどのルートで作られたかも把握できたかもしれないな」

 その西雲の言葉を聞いた采音が驚く。サウンドウェポンの極秘データは西雲のいるゲーム会社を含めた数社にのみ渡ったのではないか…と。仮に会社のPCにハッキングして手に入れたデータだとしても、彼女の持っているような巨大サイズの物を作る事は物理的にも不可能に近い。采音が出した結論は…。

「独自開発のサウンドウェポン…?」

 西雲がサウンドウェポンの素案を発表したのは今から5年前である。その当時の講演会に采音も出席していたが、当時はこの技術はゲーム業界の発展には貢献しないだろう…と思っていたほどである。そんな中で熱心にメモを取っている人物を彼女は知っていた。

「まさか、月沢明日香?」

 銃剣を持った彼女の名は月沢明日香(つきさわ・あすか)、半年前とは顔つき等が変わっていた事もあり、采音にはすぐに彼女だというのが分からなかった。

「私は…今の変わり果ててしまった音楽業界その物の仕組みを変える。形だけのチャートに動かされるだけ、他人の口コミ等に影響を受けて自分での選択の意思が関係なくなってしまった…。会社の利益を生み出す為の存在だけに変わり、アーティストの意思もなくなってしまったただの消耗品の音楽に意味はない。だから、私は業界そのものを…」

 銃剣型サウンドウェポンをブラスターモードに変更し、明日香は采音に狙いを定める。

「そんな事をしても、喜ぶのは政府やわずかなマスコミ連中だけしかいない。今すぐ、撃つのを止めろ!」

西雲は止めようとしたが、明日香は西雲の言葉に耳を傾けようとしない。

「既に音楽業界は…自分のような存在がいるべきではない所まで来てしまっている。今の音楽業界は…別の業界のタニマチしか…存在しないのかもしれない…。だから、自分は今の音楽業界からは決別し、別の音楽を捜し求めていた。そして、見つけたのが同人STGであるウィザードだった…」

 特定のアーティストしか応援しなくなった現状を明日香は懸念していた。アーティスト同士でお互いに切磋琢磨しあって曲を出す分には問題はないのだが、今はレコード会社が会社の利益を得る為だけにCDを出しているような現状である。それこそ、Gユニゾン商法がレコード会社の常識となってしまっている今の音楽業界に明日香は行き場を失っていた。そんな中で見つけたのが、同人音楽だった。その中でもウィザードというSTGを見つけ…現在に至ったと言う。

「なるほど…そういうことか。だが、間違ったサウンドウェポンの使い方を見過ごすわけには行かない!」

 そして、遂に西雲が動き出した。携帯端末にディスクを入れ、今まで封印していたシステムを解放した。

「このシステムだけは使いたくはなかったが…量産型でシステムが正常に機能しない以上は止むを得ないか…。サウンドバーストシステム、ロック解除!」

 

次の瞬間、明日香のサウンドウェポンから鳴っていた音楽が消え、西雲のサウンドウェポンからの音楽に強制的に切り替わった。今まで機能していなかった采音のサウンドウェポンからも音楽が聞こえるようになった。

「曲が…切り替わった?」

 明日香も自分に起こった今の状況に困惑をしている。先ほどまでとは違う曲が自分のサウンドウェポンからかかっているのである。これは、西雲隼人のサウンドウェポンに限定して実装された非常用サウンドチェンジシステム…サウンドバーストシステムである。

「この曲は…ハデス!」

 采音は数少ない西雲隼人の楽曲から、この曲がハデスであることを察知した。

「だが、曲が分かったとしても…この曲は西雲が発表した楽曲では難易度が一番高い曲のはず…。それをサウンドウェポンに実装するなんて…」

 突如として周囲に出現したマーカーを当てて数を減らそうとするが、一向に数が減る気配はない。これが西雲隼人の本気…という事なのだろうか。西雲の方は慣れた手つきで次々とマーカーを拳ひとつで減らしていく。

 

しかし、このシステムは量産型を含めた全てのサウンドウェポン、西雲が今まで製作した音楽ゲーム、西雲のシステムをベースとした音楽ゲーム全般に影響する。それはロケテストで行われているサウンドウェポンにも同じ現象が起こっていた。

「現在、サーバーの方で想定外のトラブルが発生した為、緊急メンテナンスを行います」

 西雲がサウンドバーストシステムを使った事で、サウンドウェポンセンターで行われているロケテストにも影響が出始めている。それは、サーバー等のチェックを万全に行った会場近くサウンドウェポンセンターだけではなく意外な場所でも発生していた。

「この曲は…西雲隼人のクリスマスミュージックじゃないのか。この作品には未収録だって聞いていたのに…」

 会場より遠くのゲームセンターで既に稼動しているサウンドウェポンと同型及び類似した音楽ゲーム等にもその影響が出ていた。中には西雲が楽曲を提供していない作品でも西雲の楽曲が急にプレイ出来るようになっていた事もあり、ネットでは一種のお祭り状態となっていた。サウンドウェポンセンターの方でも西雲の楽曲がプレイ出来る状態になっていたのだが、サーバーのメンテで一部の店舗以外では実際にプレイしている人はいなかった。この現象を全ての音楽ゲームプレイヤーが把握するのには2分もかからなかった。

 

「本来の音楽は音を楽しむべき物。このシステムを使わなかったのは、自分の音楽を押し付けたくないのが最大の理由だった。これを僕に使わせた意味を分かっているか?」

 全てのサウンドウェポンだけではなく、西雲が今まで手がけた音楽ゲーム、西雲のシステムから派生した他社の音楽ゲーム等全てに影響を及ぼし、システムを干渉するサウンドバーストシステム。彼がこのシステムを作りながらも、実際に使わなかった理由…。それは、彼の過去の講演会でも言及されていた。

 

『…音楽には人によって好きな曲とそうでない曲が存在する。自分のお気に入りの曲が他人にとってはそうでないのと同様に、その逆も存在する。ただ、自分のお気に入りの曲を強制させるように仕向けるような方法は…仮にあったとしても、そういった方法でその楽曲が広まるとは考えられない。自分にあった音楽を見つけるのは、最終的には自分自身になると思う。しかし、メーカー側は自分達の利益優先で時には作曲者の個性を失わせる事もあるという…』

 

(あの時の発言がサウンドバーストシステムだとしたら、自分のやっている事は…)

数分後、明日香は采音に向けていたサウンドウェポンを床に置いた。

「全て、間違っていたのかもしれない…。あの少年の技術と過去の講演会でメモをしていたサウンドウェポンの理論を参考に試作したこれも…使い方を誤れば大変な事になるという事を改めて知った。だから、これは…」

 床に落ちていた別の銃型サウンドウェポンで自分の物を壊そうとしたが、全く傷ひとつついていなかった。それを見た西雲と采音も驚く。

「独学で作り上げたサウンドウェポンが、量産型よりも全てにおいて強いなんて…」

 采音は今回の起動テストを行う相手を間違えていたのかもしれない…。明日香のサウンドウェポンのオーバースペックに対して驚く事しかできなかった。

 

 これを見ていた記者も驚く。しかし、肝心のカメラが動かない。携帯電話も圏外で外部と連絡を取る事ができない。

「携帯のカメラも動かないのか…。一体、何がどうなっている?」

 周囲には西雲の作曲した楽曲であるクリスマスミュージックがかかっている。どうやら、サウンドバーストシステムには周囲の電波を遮断する効果等もあるらしい。このシステムを彼が使いたがらない別の理由がここにあるのかもしれない。万が一、これが悪用でもされた事を考えると…。

 

 合計で2曲が終了したと同時にシステムは解除、携帯電話の電波状況も元に戻り、ロケテ会場等で起こっていた全ての音楽ゲームで西雲の楽曲がプレイ出来るという状態もなくなり、サウンドウェポンシステムも正常に戻った。

「今まで何が起こっていたのか…」

 記者達は会場で何が起こっていたのか全くといっていいほど覚えていなかった。これは偽者の西雲が起こした事件と全く同じ状況である。どうやら、サウンドウェポンシステム起動時は周囲の時間が止まっているか時間の進行速度が遅くなっているかのどちらかの状態になっているようである。

「あれは…本物の西雲隼人なのか?」

 時間が止まったと思ったら、次の瞬間には会場には西雲隼人の姿があった。記者達の時間とサウンドウェポン所持者の時間軸にはやはり若干のタイムラグが存在するようだ。

「当初の目的は達成した。自分は退散するとしますか…」

 既に西雲は姿を消した後だった。テレポートの類ではないようだが、目視等で確認できる場所にはいなかった。先ほどの記者に見えていた西雲の姿は残像のような物だったのだろうか…。真相は謎のままである。西雲以外にも明日香の姿も、床に放置されていたと思った彼女のサウンドウェポンもなくなっていた。

「西雲隼人、彼の真の目的は一体…」

 采音は今回のタイミングで本物の西雲隼人が現れたのには何か理由があると思った。

「…気のせいだったのか?」

 先ほど西雲の姿が見えたと思ったら、次の瞬間には姿はなかった。やはり、時間間隔がサウンドウェポンを使っている者と使っていない者では違う事を裏付ける一幕だった。

 

 そして、今回の一件から2週間後、Gユニゾンとコラボは最終的に企画中止となり、別の路線でサウンドウェポンが広まる事となった。この事態を重く見たGユニゾン側は1作品をまるごとGユニゾンの楽曲オンリーにするのではなく、既存作品にGユニゾンの楽曲を何曲か提供するという方針に変更した。ファンからは反発も予想されると思われたのだが、この方針変更案は周囲の予想に反して受け入れられた。

「サウンドウェポン、やはり本物の西雲隼人を何とかするしか方法はないか」

「しかし、我々の偽者作戦も失敗、今ではネットでもGユニゾン側の自作自演と言われる事態にまでなっている。これ以上、Gユニゾンが失墜するような自体を起こすような事は控えるべきでは…」

 とあるビルで行われている会議、今回の一件でGユニゾンのファンが離れないようにする為にはどうするか…という点を中心に議論するはずが、予想外の方向に議論は進んでいった。

「いっその事、Gユニゾンを活動休止にしてGユニゾンのありがたみを知らしめるべき…とも考えますが」

 とある幹部のその一言は、周囲の幹部たちの動揺を誘った。

「さすがにそれをやるのには問題がありすぎる。第一、失敗した場合はGユニゾンとは違うグループが台頭する結果にもなり、下手をすれば取り返しのつかない結果になる。それこそ…西雲隼人の思う壺になるだろう」

 少し前、西雲隼人は音楽雑誌のインタビューでGユニゾンの商法に関して一種のプラシーボ効果なのでは…と経済成長を引き上げた効果に関して疑問視していた。他の経済ジャーナリスト等は経済成長の今後を引っ張る可能性がある等と絶賛しているのにも関わらず…である。当初はジャンルの違いもある以上は否定的な意見も出るだろう…と様子見していたが、次第に西雲に同調する者が現れてからは焦りの色が見えていた。Gユニゾン商法の消滅、あるいは大幅路線変更こそが彼の狙いなのでは…と。

 

「活動休止よりも…良い方法を思いついた」

 別の幹部は、Gユニゾンの解散ではなく複数グループに分離させる案を提案した。

「これならば、仮に別のユニットが失敗したとしても、吸収していく事でGユニゾンに戻す事で…という安全策も取れるな」

 以前にもGユニゾンは過去のアイドルでも実例のあるAチームとBチームの分離、メンバーの人気投票等をやった事もある。今回も同じような手法で何とかしよう…という事なのだが、ワンパターンになってきているという意見もいくつかあった。

「しかし、西雲はどうしてGユニゾンを否定するのか理解できない。一昔のビジュアル系等のバンドブームは一定の理解をしているにも関わらず…」

「ネットの掲示板等によると、西雲がGユニゾンを否定するのは過去にも同じような商法を展開していたアイドルグループがいて、音楽を一種のおまけのように展開する商法に嫌気がさしたという説が最有力となっているようです。他にもGユニゾン商法を否定する記事は多数ありますが…」

「今のGユニゾンも、以前のアイドルグループと同じと言う風に見ているのか…彼にとっては」

 確かにGユニゾンはシングルCD1つにしてもジャケット別や別音源といったような1つでもまとめられるような特典を複数のCDで展開をしているのは事実であるが、それは別のアイドルやバンドでも同じような展開をしているグループは多数ある。

「我々としても複数のアイドルグループを研究し、どの辺りが失敗したかを把握した上でGユニゾンを展開しているというのに…」

 彼らが言う失敗とは、初回特典にイベント招待券等を入れる事である。イベント招待券に関しては単体で転売されるケースであったり、偽物のチケットが売買されてイベント自体が中止になったりした例があった。イベントが中止になるだけでもかなりの損害が出る為、Gユニゾンでは損害を抑えるという意味でもイベント招待券方式は採用しない事にした。それ以外にもチケット複数枚ではないと意味がないようなイベント等…そういった目先の利益だけを目的としたような要素もGユニゾンでは不要と判断し、現在のGユニゾンのマーケティング展開がある。最初はファンも劣化アイドルとしか見ていなかったが、次第にファンの数は増えていった。

「Gユニゾンは…経済発展の要素においても必要不可欠の存在。それを否定するものが現れるとは…」

「西雲隼人を驚かせるGユニゾンを完成させる事、それが我々にとっても急務である」

 

 最終的にGユニゾンは現状を維持する事で会議は終了した。細かい調整はあったが、現状の商品展開やプロモーション活動等には変化はなかった。

「最後に、Gユニゾン以外で何やら不穏な動きを見せているアイドルグループがあるようですが、そちらの方の対処について皆様のご意見をお聞かせ下さい」

 会議室のホワイトボードに映し出されたのは、Gユニゾンとは全く異なったアイドルグループだった。

「彼女達は『ソングオブアイドル』というゲームのアイドルグループ…いわゆる架空のアイドルグループなのですが、一昔前の勢いとは何か違う物を感じます。これは、Gユニゾンのライバル的存在になる可能性もあるかもしれない…」

 しかし、会議の出席者の関心は集まらなかった。確かに、架空のアイドルグループやバンド等がチャートに入る時代もあったが、それは既に昔の話であって、今のGユニゾンにとっては全くの敵ではなかったのである。

「むしろ、西雲隼人のプロデュースした音楽ゲームの楽曲の方に警戒すべきだろう。西雲が関係していない音楽ゲームでも海外では高い評価を得ている楽曲もある。チャートにはランキングの条件をクリアしていない関係で入らないのが不幸中の幸いだが…」

 西雲隼人の楽曲は販売ルートがメーカーの通販サイト等の通販限定販売という事もあって、チャートの対象外にはなっているが、通販サイトの方では上位を確実に独占出来るほどの人気がある。警戒するべきは西雲隼人自身もだが、彼の作る楽曲にも気をつけなければ足元をすくわれる可能性が否定できない…と。

「確かに一昔ほどの人気はないが、GユニゾンがCDを出していない週に1位を取るケースがあったりするのは無視出来ない。GユニゾンのCDを毎週出せれば…」

「だが、GユニゾンのCDを毎週出せるようなほど曲のストックがない以上、毎週シングルを出すような事はできないだろう。ファンからもアルバムにまとめられればアルバムで出せば…と意見が出るのも目に見えている」

 Gユニゾンはデビューして丁度3年が経過した辺り。ベテランの大手アイドルグループ等よりはキャリアの差はあるが、CDや関連グッズの売り上げを見れば、現在の日本で一番売れているグループといっても過言ではない。しかし、Gユニゾンの弱点となっているのは曲のストックである。その中でも、毎週連続リリースはGユニゾンの場合は曲クオリティの関係もあって不可能な状態になっている。

「曲のクオリティが下がれば、それだけでファンからの反発が来る事を考えると、やはり現状維持が一番の理想という事か…」

 Gユニゾンの場合は一定のクオリティを保ちつつ、複数パターンのシングルCDをリリースすると言う方法を取っている。それが影響し、同じような商法を展開しているにも関わらずクオリティが劣るという事でGユニゾンに遅れを取っているアイドルグループは少なくない。昔は曲のクオリティは2の次という売れたもの勝ちの流れがあったのだが、それを一刀両断したのはGユニゾンである。この当時は、今のような政府公認等の肩書きは持っていない。経済成長がGユニゾンのCD売り上げ等で押し上げられている状況を調べていくにつれて分かった事で政府公認の肩書きが付いた…とされている。

「あのクオリティ以上のアーティストが出てくる気配が当面ない以上、現状のクオリティを維持しつつ予算を考えた方が良いだろう」

 GユニゾンのCD売り上げの一部は税金として運用され、その何割かは国債の償却等に当てられている。当時はこの仕組みに関しても効果に疑問視する議員もいたが、実際に運用されると、初年度だけで500億円規模の国債の償却に貢献した。たばこ税の増税や消費税のアップ等よりも効果があり、国会でもGユニゾンに特別予算を組むべきという意見が出たほどである。

 

 会議終了後、記者会見でGユニゾンの重大発表があるという情報を手に入れた記者たちが会議室の入り口に詰め掛けていた。

「重大発表に関しては、日を改めて発表しますので公式の記者会見までお待ち下さい…」

 周囲に集まっている記者を何とかしようと議員の一人が発表した。それを聞くと、記者の何人かは姿を消したのだが、それでも何人かは残っている。このままでは他の議員が出られないと判断し、ある事を思いついた。

「それは、本当ですか?」

 周囲に残っていた記者たちは驚きを隠せなかった。この発言に関しては彼の独断と言う訳ではなく、わずかに残る記者たちがいた場合にはこの発言をしてでも記者を出払わせるように指示されていた物だった。

 

 翌日の新聞記事にはスクープとして例の発言を一面で飾っていた。

『サウンドウェポンを使用した音楽ゲーム版紅白歌合戦を政府公認で開催決定。詳細は後日発表…』

 この記事を見た誰もが驚く。その中でもあの場にいなかった記者はスクープ記事を取られた、と若干だが後悔をしていた。

 しかし、この記事に一番驚いていたのは意外な人物であった。

「政府がこういった手段を取るなんて…こちらの予想外じゃないか…」

 音楽雑誌の編集部で記事を見て驚くのは西雲隼人に良く似た人物である。

「まさか、政府がGユニゾンの為に紅白の舞台まで用意するとは…」

 同僚が声をかけるが、彼はそれにすぐ反応はしない。

「これは紅白というレベルではなく、むしろ年末の格闘技イベントと同じ…。ますます楽しくなってきたな…」

 彼の名は南雲皐月(みなぐも・さつき)。政府指示の元、サウンドウェポン量産型テストをしていたのだが、実際の所はGユニゾン商法を否定する会社を肯定派にする為の裏工作をしていたのである。彼が西雲隼人に似ている事から、西雲に成りすます事で政府の陰謀説である事を隠すという意味もあったようだ。最初の内は上手く行っていたが、采音が途中からサウンドウェポン量産化計画に加わった辺りからは何者かに計画が筒抜けになっているような流れにはなっていた。

「イベントの内容は…」

 記事の続きを見た南雲は驚きを隠せなかった。その驚くべきイベントの内容とは…。

 

 その衝撃発表と同じ頃、ゲームセンターでサウンドウェポンをプレイする一人の女性がいた。

「従来の音楽ゲームとは違ったプレイ感覚があるのは面白いかもしれないけど…これは従来の音楽ゲームと言うよりも体感型アクションゲームに近いのかも…」

 短剣型サウンドウェポンを初心者とは思えないような剣さばきで上手く使いこなすその姿に、周囲の通行人たちも釘付けになった。プレイヤーネームはミスト、プレイヤーのネームと本名が同じプレイヤーはごく稀にしかいない為、ミストという名前は本名ではないと思われる。そのプレイに通行人が足を止める別の要因としては、彼女の外見がチャイナドレスと言うのもあるのかもしれない。

「サウンドウェポンの本当の狙い…。非常に気になるわね」

 ミストが出したスコアは、パーフェクト一歩手前の99万点台…。サウンドウェポン初心者に加え、短剣や長剣等といった剣タイプで容易に出せるようなスコアではない。使いやすさとしては、銃タイプがガンシューティングゲーム等と同じ感覚でプレイ出来る為に一番有利とされている。その為か、銃タイプはプレイヤーの使用率1位となっている。次に有利なのは、意外な事にナックルやクローアーム等といったような拳タイプである。パンチングゲーム自体が見かけなくなったような流れはあるようだが、西雲隼人がナックルタイプを使っている事が使用率の高い要因なのかもしれない。こちらは使用率2位。

 

銃と拳が上位を独占する状態でいるのに対して、3位の槍、4位の弓、5位の銃剣、6位の短剣及び長剣タイプは人気が少ないのが印象的である。槍が弓より若干人数が多い程度で他のタイプは人数がかなり少ない。銃剣は銃タイプよりもサウンドウェポンの重量がある事もプレイ人数の少ない原因のひとつになっているのだが、それ以上に剣タイプが稼動時から毎回最下位を維持という状況になっている。しかし、使用率が少ない事とプレイヤーのスキルは比例しないのがサウンドウェポン最大の特徴である。

 

「おいおい、これでスコア更新何曲目だ?」

 ミストのプレイしていた筐体の隣では物凄いハイペースでスコアを更新する女性プレイヤーの姿があった。彼女が使っているのはコンパクトサイズの弓型サウンドウェポンである。

弓の場合は実際の弓と同様に矢を放つ動作が必要の為、初心者には全く向かないサウンドウェポンのひとつである。ゲーセンにおいてあるハンドブックにも上級者向けサウンドウェポンと書かれている程、扱うには相応の技術を必要とする物である。

「あとは…この曲のみ!」

 選曲した曲は『エンジェルダイバー』だった。この曲は選曲ランキング上位曲とは別に一部ファンが付いている楽曲としても有名である。

「やはり、自分のスコアを破っている人はいませんか…」

 弓部門のスコアは自分の名前であるジョルジュがトップになっている。しかし…剣部門のスコアには上位に変化があった。

「ミスト…聞いた事のないプレイヤーネームですね。後でプレイヤー検索をして探す事にしますか」

そして、ジョルジュはショートボウを構える。曲が始まると同時に、彼女の目つきは変わった。

「まさか…また自己スコアの更新をする気じゃないのか…」

順番待ちのプレイヤー達も驚いていた。ジョルジュの自己ベストスコアは96万点、ミストが短剣で出したスコアは99万点、このゲームの最高点は100万点…。ジョルジュが狙っているスコアは…。

 

銃タイプを使っているプレイヤーも裸足で逃げ出すような正確な命中率を誇るジョルジュの弓…。弓は狙いを定めればオートで矢が放たれる仕様とはいえ、弓の重さを考えれば狙いを定めるだけでも銃より難易度が高い。それを容易く行ってしまうジョルジュの体力と精神力には脱帽するばかりである。

 

「まさか…!」

 順番待ちのプレイヤーも、そのスコアを見た時には驚きを隠せなかった。ジョルジュが弓で達成したスコアは最高点となる100万点…パーフェクトだった。銃で100万点を出すのと弓で100万点を出すのとでは難易度の差がある。そんな中で100万点が出たのは、ある意味で奇跡に近い出来事だった。

ギャラリーからは拍手が沸き、ジョルジュ本人もギャラリーの拍手で我に返った。

「さて、そろそろ帰らないと…」

 弓形のサウンドウェポンを折りたたみ、帰り支度をする。さすがにこのプレイの後では次にプレイする人もプレッシャーがのしかかる影響かどうかは不明だが、この筐体では数分ほどはデモムービーが流れていた。

 

 夜7時頃になると、ゲーセンでも客層はガラリと変わる。ジョルジュは学校帰りの大学生だったが、変わったサウンドウェポンでプレイしているプレイヤーが今度は観客を沸かせていた。ギャラリーも順番待ちを含めて20人ほど集まっている。

「これで、300ヒット!」

 上半身はフリースにジャケットと厚着なのだが、下はスパッツという変わった格好の女性プレイヤーだった。彼女が使うサウンドウェポンは…。

「弓タイプの超人プレイの次は、拳タイプのプレイヤーが少ない指弾とは…。ここのゲーセンに来るサウンドウェポン使いはかなりの使い手ばかりだな…」

 彼女が使っているのは、拳タイプでも攻撃時の力加減等が難しい事で敬遠されている指弾タイプである。サウンドウェポンは一見するとグローブやカイザーナックルとも見分けが付かないが、指をパチンと鳴らす事で指弾を放つ事ができる。力の強弱によって広範囲フォローが可能の拡散型、単発で命中すると複数コンボになる単発型指弾を放つ事ができるが、そのコントロールが難しく上級者向きとされている。マーカーも拳タイプよりはデザインが銃タイプに似ている。

「さぁて、これで決める!」

 最後の指弾がマーカーにヒットするが…。

(力加減を間違えた?)

どうやら、力加減をミスしたらしく、本来は単発で決めるはずが広範囲型になってしまい、フルコンボにはなったのだが…。

「パーフェクトは逃しちゃったみたいね…」

 スコアは98万点台だったが、拳タイプの自己ベストの記録を塗り替えた。ハイスコア一覧をよく見てみると、そこには見覚えのある名前もあった…。

「スコア1位が西雲隼人じゃニアミスも許されないか…」

 この曲の拳タイプスコア1位は、西雲隼人だったのである。どうやら、時々だがプレイ環境チェックを兼ねて色々なゲーセンを回ってプレイしているようだ。

「さて、次はどの曲を…」

 彼女の名前はハルカ、エントリーネームを見て納得するプレイヤーも何人かいた。

「拳タイプで西雲隼人本人の次にハイスコアを所持しているからなぁ…」

 そんなギャラリーの声も聞こえる中、ハルカは再びハイスコアの更新を狙っていた。

 

 銃、拳、槍、弓、銃剣、短剣及び長剣、それぞれに長所もあれば短所もある。それを見極めてプレイするプレイヤーも何人かいる。中には自分のサイトで研究成果を発表する人もいれば、ゲーセンで講座を開くようなプレイヤーもいる。西雲隼人本人は、『攻略本を出すよりも情報が早く伝達する』という理由から、非営利であればプレイ動画を公開する事も許可している。

 

「銃はリロードの必要な機種や連射しすぎによるオーバーヒートでいざと言う時に撃てなくなるのは困る。拳系は指弾を除くとグッド判定が出しやすいのは大きいが、逆にパーフェクト判定が出にくい。槍はパーフェクトが出しやすい反面、突撃と連続斬りを使い分ける必要性があるのがネックか…」

 今まで使ってきたサウンドウェポンをパソコン持参で分析しているのは、メガネとライダースーツが特徴的な女性だった。

「弓はマーカーがかなり遠くにあっても当てる事は可能だが、逆に接近されすぎるとミス扱いになるのが大きいのと、一部の弓以外では近接攻撃不可なのも致命的ね…」

 そして、彼女が取り出したのは小型のビームガンだった。

「銃タイプは弾丸のリロード、ガトリング等のオーバーヒート以外にも一定時間のチャージが必要になるビームライフルタイプもあったような…?」

 ギャラリーも見ていて思ったが、彼女は銃を構えず、下ろした状態で右腕の携帯端末で曲を選曲していた。

「まさか…銃剣プレイヤーか?」

 銃剣タイプは近接に弱い銃タイプと長距離が圧倒的に不利な剣タイプの欠点を補うサウンドウェポンである。ただし、その弱点は圧倒的に重い武器重量にある。銃剣を豪快に振り回すようなプレイは、相当な人物ではないと不可能である。

「このビームブレード型の銃剣でもブレードの重量はかなりの物だから、振り回せたとしても数回が限度か…」

 プレイする楽曲は、偶然にも『桜、満開』という曲でタイトルだけ見ても周囲のギャラリーの中には「隠し曲か?」と隣の人間に聞く程に知名度が低い曲である。

「やっぱり…Gユニゾンの楽曲や西雲のメジャー楽曲じゃないと反応が薄いのかなぁ…」

 セシルは思うが、1曲目はこの曲で調子を見るのが彼女のスタイルであるので、今更このスタイルを変える事はしたくない。

「さて、始めますか…」

銃を上げ、彼女のプレイが始まった。

 

「それぞれに有利不利なサウンドウェポンがあり、得意な楽曲も違うのか…」

 偵察ついでにゲーセンに寄っていた采音が銃剣のプレイヤーのプレイを見ていた。

「他人のプレイでも、プレイに関する色々なヒントがあるからな…」

銃剣は自分が使わないタイプだが、明日香の使っていたのがサイズは全く違うがタイプとしては同じ。少しでも彼女の秘密に迫ろうと考えていた。

 

「今回は…まずまずかな?」

 1曲目の彼女のスコアは90万点にも満たなかった。ゲージを途中で削られたのが影響しているようだ。

基本的には相手の攻撃を受ける事でダメージを受けると体力の代わりとなるミュージックゲージが下がり、ゲージが0になると演奏失敗となる。1曲目に関してはプレイ保障でゲージが0になってもプレイは続行できるが、2曲目ではゲージが一定量下がった状態でのプレイ開始となる。ゲージが0の時に途中で回復アイテムを回収しても、ゲージが0になった回では回復はしない。

ゲージの回復は一定量のコンボをつないで回復か途中に出てくる回復アイテムを回収しないと回復しないようになっている。中には体力が自動回復する物、命中判定によって回復量が変わるサウンドウェポンもいくつかは存在する。それらのアイテムを入手する為にはスコアを上げる事は重要となってくる。

「スコア以外でもコンボボーナスや今週のオススメ、オンラインモードではマッチングしたプレイヤーに何人勝利したかも関係するけど、ソロプレイだとスコアが重要になるのは間違いないわね。じゃあ、今の状況での2曲目は、これで決まりか…」

 彼女が選曲したのは、『ソングオブアイドル』の主題歌である『ソングオブアイドル』だった。サウンドウェポンのタイプによって難易度が変動する曲で、銃剣では難易度が低下する曲でもある。

「この曲って、確か他社作品だよなぁ…どちらもサウンドウェポン対応ゲームだけど」

 ギャラリーの中には、この楽曲が本来は他社作品の楽曲であることに気づいていた。どうやら、以前に西雲がサウンドバーストシステムを使った影響で全てのサウンドウェポンシステムで楽曲共有というシステムが構築されてしまったらしい。これに関しては色々とライセンス等が複雑な状態になってしまったのだが、西雲の鶴の一声があって何とかライセンス関係に関しては解決した。

 

 しかし、この仕様が後の重大発表にも影響しようとは…この地点ではプレイヤーの誰一人も知る事はなかったのである。西雲本人や量産型製作スタッフである采音、サウンドウェポンに関係したスタッフも初耳となる新しい情報が、一部記者によって新聞の一面を飾ろうとしているのである。

 

 そして、翌日の朝刊を飾ったのは…。

『政府公認サウンドウェポン全国大会、開催決定』

 西雲よりも先手を打ったのは、何と政府の方だったのである。

 

 一方で、このニュースを見て好機と思った人物が存在したのも事実である。

「今の音楽業界が全て幻想である事を証明するには好都合か…」

 その人物とは、月沢明日香だった。彼女の真の狙いは何にあるのか…。