5:新たな刺客とプリンセス
ヴァルキリーが次のプリンセスエリアへ向かう途中、何処からかチャルメラの音が流れていた。スピーカーから出ていると思っていたが…ヴァルキリーの目の前に屋台が現れた事から、チャルメラはこの屋台から流れている物と思われる。
『敵のようには見えないが、警戒する必要があるだろう。気をつけろ…』
指令が警戒をするように指示を出したが…ヴァルキリーにはそれを警戒するだけの集中力は残っていなかった。しばらくして、ヴァルキリーは屋台を目の前にして倒れてしまったのである。
その頃、インターネットでサウンドサテライトの情報を集めていたのはメタトロンだった。収録も無事に終了はしたが、どうしても気になる事があったからである。
「スタジオの場所を把握しているような記者の姿がないとなると…自分に関してはシロと言う判定が出たのか、それとも別の組織が取材を自重するように指示しているのか…どちらかという事か」
スマートフォン…と言うよりは若干大きいプレート型パソコンで瞬時に検索を行うメタトロン。まるで神業である。
「これは…?」
メタトロンが見つけたのは、ガールズグレート等のCDをオークションサイトで大量に転売していた人物が逮捕された記事だった。
「今まで姿を消していたという人物が、こうも簡単に見つかるとは思えない…サウンドサテライトに関係する人物なのか?」
更に情報を調べると、CDの転売行為を繰り返していた組織のいくつかも摘発されたと言う記事にたどり着いた。どうやら、組織のリーダー格の人物が逮捕された事で情報が警察に流れたらしいのだが…。
「流れとしては、組織のリーダー格が逮捕された事で例の人物の消息が判明、その後に何者かが居場所を警察に流した…と言う辺りだろうか。仮に消息が判明したとしても、サウンドサテライトにいる所まで分かっていたかどうか…」
今回の事件は一連のガールズグレートやその他のアイドルに関わる事件を起こした人物達をおびき寄せる為に何者かが仕組んだ舞台なのでは…とメタトロンは思い始めていた。
「どちらにしても、西雲隼人にとっては…有利に事が運ぶような展開だが…例のサウンドウェポンをどう説明するだろうか」
おそらくは、本人も例のサウンドウェポンに関しては把握しているだろう。どういった報道がされるのかは不明だが、状況によっては西雲もただではすまないだろう。最悪の事態になればサウンドウェポンが開発中止になる事も考えられる。
「後は、サウンドサテライトの状況次第で変化する…と言う所か」
数分後、ヴァルキリーは売店のベンチに寝ている状態で目が覚めた。
「ここは…?」
空が青く見え、雲もきれいだ。作戦中は何かフィルターがかかったような外の風景しか見ていなかったような気がする…。
「気が付いたようだな…」
目の前にいたのは、研究所のリーダーだった。そして、自分に起こっている異変に皆本はようやく気が付いた。メットは外され、上半身のアーマーもパージされている。
「どうしてあなたが、ここに…」
今は消耗した体力を回復させるのが先なのだろう、と思った。複数のエリアを走って移動、戦闘時の行動等を含めてかなりの体力が消耗している。いつ倒れてもおかしくはない状況になっていたのである。
「社長の指示…と言うわけではないが、差し入れを持ってきた」
「チャルメラを聞いた時にはラーメン屋台と思っていましたが…」
「さすがに生麺タイプのラーメンは準備していなかったな…。カップラーメンでよければストックはあるが…」
「さすがに時間が惜しいですので、ラーメンは次の機会にしますわ…」
簡単な会話の後でスタッフが皆本に手渡したのは、サンドウィッチとドリンク、たこ焼きという組み合わせの差し入れだった。
「そのサンドウィッチは、お好みソースとんかつサンド…」
皆本はソースの匂いで即座にサンドウィッチが自分の好物であるお好みソースとんかつサンドである事を見破った。
「向こうの新装開店したコンビニだと、店舗の系列的にメニューが他では置かないようなラインナップになる。他にもチョコホイップサンドや焼きハムとチーズサンド…」
名前を聞いただけでも皆本の口からよだれが出てきそうな…そんなラインナップのサンドウィッチしかコンビニには置いていなかったのである。
「自分が食べられそうなのは、この7種の生野菜サンド位か」
キュウリ、ニンジン、玉ネギ、レタス、トマト、大根、パセリという7種類の野菜をスライスしたりして食べやすいようにサンドウィッチにしたという…変わった物である。食べ方としては普通に食べる方法と別売りのグミにしたドレッシングを乗せて食べる方法もある。
「生野菜はサラダで取るもの…と言う常識を捨てたある意味で斬新なサンドに見えましたね…」
サンドウィッチ談義だけで10分は経過しそうである。そして、サンドウィッチを食べた後にたこ焼きと思わしき物に手を…。
「これは、チョコ焼きじゃないですか」
たこ焼きと思われた物は、チョコ焼きと言う食べ物だったのである。たこ焼きの中身をタコではなくチョコにした物で、入っている他の具材もクッキー等とお菓子のようになっている。ソースもチョコになっていて、甘い物好きでも手を出すのには勇気がいりそうな気配がする…。
「好きな物は社長から聞いていたが、かなりの物好き…と思うのだが」
社長から差し入れの提案を受けた時には特に反対はしなかったのだが、皆本の好きなメニューはスタッフをも驚かせた。
「とりあえず、考え事には甘い物は欠かせませんので…」
皆本がドリンクを飲み終わった後、再びアーマーを装備して戦闘準備をする。
「今回の事件は、色々な分野の複数企業が関係していると言う噂がある。自分たちが言えるような気配ではないが…」
そう言い残して、リーダーは屋台と共に姿を消した。準備を終えたヴァルキリーも次のプリンセスエリアへと向かう。
『君は機械人形の歌手という映画を見た事はあるかね?』
指令が言う『機械人形の歌手』とは20年近く前のアニメ映画で、主人公の少年が楽器店で世にも珍しい歌う人形を手にする所から全てが始まる。
『その後、少年は人形に歌を覚えさせたのだが、その歌は町の人間には受け入れられなかった。しかし、その歌は港町で色々な噂話になった…』
少年は港町の王様に呼ばれた。海を越えた島国に住むとある種族が今度開催する歌の大会で伝説の楽譜を優勝者に与えると言う。その大会に優勝する為の歌を作って欲しいと少年に依頼したのである。
『歌の大会は、かなりの難関だった。数多くの町や村一番の歌に自信のある者が挑戦していったが、誰一人として楽譜を持つにふさわしいと認めなかった―』
最後に少年の出番が来た。少年は自分がもてるだけの技術と愛情を持って人形に歌を教えた。そして、人形は歌を披露した…。
「確か、最後には歌声を聞いたとある種族たちは『本当の人間が歌っているようだった』と人形の持ち主である少年を優勝として楽譜を託した…」
その時に流れたテーマ曲のタイトルがプリンセスだった。
『あの当時は人間以外による人工的に作られた歌…という事が周囲を驚かせたのを覚えている。時が経過し、そのプリンセスは現実の物となった…』
(人工的に作られた歌姫、それをこの世界ではプリンセスと呼ぶ。他の世界では、色々な呼び方があるようだが…その辺りや詳細等を含めて色々な諸事情があってこの場では書く事は…失礼、この場では話す事は出来ない)
頭の中にメタトロンと似たような声が再び聞こえたようにヴァルキリーは感じた。
(詳しくはネットの住民達に聞いてみるといい。何か知っていると…)
しばらく すると、その声が聞こえなくなったので、ヴァルキリーは錯覚だと思う事にした。サウンドサテライトからかなり遠くにいるはずの彼の声が聞こえる事自体が常 識的にもありえないからである。テレパシー等の路線も考えたが、この世界には超能力自体が存在しない為…その路線もあり得ないだろう。
プリンセスエリアに到着したヴァルキリーを入り口で待っていたのは、ライオンの覆面だった。しかし、一度遭遇した時と身長に若干の違和感があり、更には服装も最初に遭遇した時とかなり異なる。
「君が来るのを待っていた…」
ライオンの覆面は何もない空間から槍を出現させ、その槍を手に持って構える。
「あなたの目的は一体…」
ヴァルキリーはブラスターを構え、砲身をライオンに向ける。しかし、ライオンはそれに動じるような気配はない。
「本来であれば、グループ50のPR活動にされている、この計画を止めるべき立場なのだが…この状況である以上、まずはお前の動きを止めた方が正解のような気配がした。悪いが―」
次の瞬間には、槍とは別に無数のビーム兵器のような物が現れた。ヴァルキリーは試作サウンドウェポンのあった倉庫で彼が展開した兵器と似たような物を見た事があった。確か、その兵器の名前はビット兵器…。
「しばらく、ここで足止めをさせてもらう」
槍に関してはウイルスから具現化したような気配だが、ビット兵器に関してはウイルス反応が見られない。まさかとは思うが、彼の正体は…。
「あなたはもしかして、意識改革委員会の人間なのですか…」
ヴァルキリーはブラスターを撃つ前に確認をしようと思った。あのビット兵器が倉庫にあった物と同じだとしたら…。
「仮にそうだとしても、こちらにはこちらの事情と言う物がある。それは君も分かっているはずだが」
結局、停戦は実現せず…そのまま戦闘が始まった。
「こちらにも譲れない事情がある。目的は同じだとしても、協力は出来ないだろう」
ライオンはジャンパーのポケットから1枚のディスクを取り出した。それは、ヴァルキリーも使っているサウンドウェポンの共通タイプのディスクだった。そして、左腕の再生機器らしきハンドコンピュータにディスクを入れる。
「この曲は…どういう事なの?」
出だしを聞いたヴァルキリーは改めてライオンに問いかける。どう考えても、この曲はグループ50やガールズグレートの楽曲に良く使われるような出だしではない。これは明らかに音楽ゲームで使われるタイプの楽曲である。その曲を作ったのは、確か…。
「こういう事だ!」
ライオン が指を鳴らすと同時に、周囲にある監視カメラ全てにビット兵器で照準を定めた。そして、電子機器を一時的に使用不能にするチャフと呼ばれるグレネード弾を カメラに向かって一斉に発射した。グレネード弾がカメラに命中すると、弾の周囲から多量の金属片がばら撒かれた。
「しまった…!」
少し前からライオンの不穏な行動が気になってモニタリングをしていた不死鳥が声を上げた。どうやら、相手はモニタリングされていた事に気付いていたようだ。
「どうやら、向こうにも頭が回る人間がいるようだな。おそらくは委員会のメンバー…と言った所か」
龍は相手が相当の実力者である事を知っていたような発言をした。
「こうなると、モニターが沈黙している間に突入される可能性も…少し前にもハッキングを受けた形跡があって、それも彼の―」
不死鳥が他の勢力に中央ビルを占拠されるのでは…懸念を抱いているようだが、龍の発言がそれを一蹴した。
「沈黙したカメラの設置されている場所は中央ビルの突入エリアには該当しない。中央ビル近辺に警備を集中させる!」
「さて、カメラも沈黙させた以上は…この覆面を被る必要性もないか」
ライオンが自ら覆面を脱ぎ捨て、そこから現れた見覚えある顔にヴァルキリーは驚く。
その人物とは、現在は音楽意識改革委員会に所属している飛鳥悠である。チャフを放つ前に入れたディスクは、どうやら彼が作曲した楽曲が入っているようだが…。
「飛鳥悠―あなたが、どうしてライオンの覆面を…」
ヴァルキリーの問いに飛鳥は答えるような気配はない。ただ、ひとつだけ言えるのは飛鳥が譲れない事情があってヴァルキリーと敵対をしなくてはならない状況下にある…という事だろう。
「本来であれば別の目的―グループ50のPR活動を目的とした連中の行動を阻止するのが、最初に自分が受けた任務だが…」
どうやら、飛鳥には最初に受けた目的とは別の目的もあるらしい。その目的とは…。
「もうひとつ受けた別の目的、それがヴァルキリープロジェクトを止める事!」
次の瞬間、ビット兵器がヴァルキリーに向けて飛んでいった。その飛行パターンはある楽曲のリズムにのっとった物のようだが…。
「この曲名を思い出さない事には…手のうちようがない…」
飛鳥の楽 曲である事は分かったのだが、肝心の楽曲名が思い出せない事には、ビット兵器のパターンの読みようがない。付け加えればビット兵器はウイルスではない為、 こちらのブラスターによる攻撃は効果がないという事である。全くという訳ではないのだが、与えられるダメージは微々たる物だろう。動きを数秒止められれば 良い方だろうか。
「ビット兵器は無視して、槍の方を狙うしか手段は残っていないか」
ヴァルキリーに残されている選択肢は、ビット兵器のテンポを読み、飛鳥の持っている槍にピンポイントでダメージを与える事。それを実現させる為には、飛鳥のサウンドウェポンが何の曲に合わせて動いているかを見破らなければならない。
「1曲目はスルーするとして、2曲目からは何とかしないと…」
苦渋の選択だが1曲目は様子を見る為にもスルーし、2曲目が演奏されてから行動に移る事にした。
「ここはスルーしたか…間違った選択ではないようだが、これはどうだ!」
飛鳥が2曲目を演奏し始める。今度はヴァルキリーも聞き覚えのある曲なのか、最初のイントロから正面を直進する形で突き進んでいく…。
「この曲ならば…見切れる!」
ヴァルキリーが足で刻むテンポはクラシック曲の木琴や鉄琴を思わせ、曲の雰囲気もヴァイオリンやピアノ、シンバル等と言ったような楽器が使われているような楽曲である。
「テンポやリズムが仮に読まれていたとしても、曲名が分からない事には偶然当てただけに過ぎない…」
確かに飛鳥のいう事にも一理ある。クラシックアレンジだという事で答えに自信があったヴァルキリーだったが、実際の曲名が分かるまでにはもう少し聞かない事には…。
「このテンポは、もしかして…」
足で刻ん でいるAメロのテンポは間違いなく例の曲だと思った。その曲は、社長が緊急連絡用に着信音として設定した魔王をアレンジした曲である。事務所でも何回かこ の曲に関しては着信音以外でも聞き覚えがあった為に、頭の中で曲を覚えていたのかもしれない…と。それが偶然にも飛鳥のリメイクした曲だという事を知った のは、つい最近だったのだが。
「ビット兵器の動きが読まれ始めたか…」
飛鳥はヴァルキリーがビット兵器を上手く回避している点、足でテンポを刻んでいる点等を見て曲を当てたのでは…と思った。
「こちらにはビット兵器以外にも、この槍がある。そう簡単に懐に入れる訳には…」
飛鳥が槍を手にヴァルキリーへ突撃を仕掛けようとした、その時…。
「それを待っていた!」
ヴァルキ リーがブラスターを広域モードに変更、直線型レーザーがショットガン型レーザーへと変化した。直線型と違って破壊力は若干落ちる物の、命中範囲は直線型よ りも広く複数の弾を発射できる為、飛鳥が突撃するのと同時に命中させれば1発辺りの威力は低くても、零距離に近い位置で命中させれば威力に関してはかなり の物になる。
「まさか、動きが読まれていたのか…」
飛鳥の持っていた槍は砕け、ビット兵器も動きを停止した。そして、飛鳥は自らの敗北を認める。
ヴァルキリープロジェクトを止める事―飛鳥はヴァルキリーにこう言った。プロジェクトの裏には何があるのだろうか?
「ヴァルキリープロジェクトには、西雲の会社とは違う複数のゲーム会社やいくつかのレコード会社、芸能事務所が関係しているという話を聞いた事がある。グループ50の芸能事務所や一部レコード会社等は協力を拒否していたが―その理由のひとつが、これだ」
飛鳥が社長から受け取ったディスクを取り出す。ディスク自体はサウンドウェポンの物と共通の為、ディスクを受け取ってすぐにサウンドウェポンで再生する。
「これは、どういう事なのですか?」
ヴァルキリーはディスクの内容に驚く。サウンドウェポンに使用されている対ウイルスプログラムと今まで戦ってきたウイルスも同じメーカーが作り出した物だったのである。
付け加えれば、ヴァルキリーのサウンドウェポン及び黒いパワードスーツは同じ規格で作成されていたと言う事も…。
「黒いパ ワードスーツ…スラッシャー。意識改革委員会が目をつけていたのは、スラッシャーの行動だったのだが、同規格のパワードスーツが開発されていたとは考えも しなかった。そして、自分の作り出したウイルスプログラムとウイルスを戦わせてデータを取ろうとしている人物が中央ビルにいる事も掴んだのだが…」
そして、中央ビルから出てきたライオンの覆面から覆面を奪って彼になりすまし、周囲を調べていた所でヴァルキリーと遭遇した。
「そして、プロジェクトを止める為にも自分と戦った…という事ですか」
最終的にはスラッシャーと目的が同じと勘違いしていたという事もあるが…飛鳥はヴァルキリーと和解する事にした。
「そう言えば、ライオンの覆面になりすましたという事は…前にライオンの覆面をしていた人物はどうなったのでしょうか?」
ヴァルキリーの言う事も一理ある。それを踏まえて、飛鳥はその辺りの事情も説明する事にした。
「前にライオンの覆面をしていたのは…新聞でも一度取り上げられた事のある、例の1億円をオークション転売で稼いだ出品者だ。彼がどんな理由であの連中に賛同したかは不明だが、今頃は警察に捕まっている頃だな」
それを聞いたヴァルキリーは驚く。正体に関してもだが、彼を警察に引き渡していたという事に…。
「彼のやっている事は、1ファンとしてもあってはならない行為。彼が捕まるのは当然の事なのでは…」
それ以上は言うな…と言わんばかりに飛鳥はヴァルキリーを止める。
「確かに、オークションにCDを出品する事自体は止むを得ない事情で手放すケースもあるから、オークションの存在が悪いという言い方はしたくはない。転売する人間の心情もそれぞれある。そう言った水掛け論をしている場合ではない事は、君も分かっているはずだが…」
飛鳥の言う事も一理ある。今は、中央ビルに向かい、残るメンバーの目的を阻止するのが先である。
「では、私は中央ビルへ向かいますが…」
ヴァルキリーは飛鳥の状態が若干気になっているようだ。プリンセスエリアのウイルスは消去できていない所か、端末を停止させてもいないという状態である。
「プリンセスエリアのウイルスは、言い忘れていたが数分前にスラッシャーがデリートを完了している。端末へのアクセスは完了していない流れ…とは思うが」
ウイルスはスラッシャーがデリートを完了させたと言う。後は、エリアへ潜入して端末へアクセスするだけである。
エリアに入ると、そこにはさまざまなイラストレーターが書いたと思われるプリンセスの複製原画が展示されていた。それ以外にも派生キャラ等のフィギュア、コスプレ用衣装のレプリカも展示されている。
「ここだけ、展示がほぼ完了している…」
ヴァルキ リーは驚くばかりである。クラシックエリアやJ―POPエリアは一部箇所で棚にスペースが存在する等…展示が完全ではなかったのに対して、プリンセスエリ アは展示に関しては完了しているような雰囲気だったのである。ヴァルキリーは周囲を警戒しつつ、端末へと向かった。
「これが、このエリアの端末…」
目の前にあったのは、クラシックエリアに置かれていたような端末ではなく、音楽ゲームの筐体だった。十字型に4つのボタンが2個配置されているコントローラーが固定された物のようだが…。
「音楽ゲームの筐体よね…」
ヴァルキリーは悩んだ。クラシックエリアにあったような端末はマップを検索しても見つかりそうにない。どうするべきか…と考えるとゲーム機の電源が入り、ゲームのオープニングが流れ出した。オープニングにはプリンセスの姿が確認出来る。
「仕方ないわね…」
ヴァルキリーがプレイしようとした、その時…別の場所から何かが動いたような音がした。どうやら、隠し扉が開いたらしい。
「隠し扉だったとは、手の込んだ事をするわね…」
ヴァルキリーが隠し扉の奥へ進むと、そこには何者かによってアクセスされた跡の残っている端末が置かれていた。何者か…と言っても人物に関してはスラッシャーとすぐに特定できるのだが、どうして隠し扉の奥に端末を置くという事をしたのか…。
「ディスクのセット指示…?」
画面にはディスクをセットするようにと言う表示がされていた。ディスクと言っても渡されたディスクは2枚…。
「ひょっとして、これを…」
ヴァルキリーはレッドから受け取ったディスクを端末に読み込ませた。
『パスワードを確認。シークレットプログラムをダウンロードします。サウンドウェポンを―』
ディスクがキーロックの変わりになっていたらしく、シークレットプログラムのダウンロード開始の表示がされた。ヴァルキリーは指示通りにサウンドウェポンにUSBケーブルをさしこむ。
『シークレットプログラム、パワーゲージとリニアレールをダウンロードしました―』
プログラムのダウンロードが完了し、ヴァルキリーがその後に表示されたマニュアルを確認する。
「パワーゲージはダメージを受けても消費するライフを減らす事が可能、リニアレールはガードを無効化する貫通弾を発射可能になるが、連射は遅い…か」
どうやら、あのディスクに隠されていたプログラムの正体は、この2つだったようだ。
「でも、このプログラムを彼がどうして…」
サウンドウェポンを持っていなかったレッドが、サウンドウェポンのプログラムを持っていた事に違和感を持ちつつも、ヴァルキリーは中央ビルへと向かう事にした。