4:サウンドサテライト(後編)

「バーニア回収、終わりました…」

 ヴァルキリーの降下を確認した別働隊が各種バーニアパーツの回収をして、着陸した輸送機に運び込んでいた。

「本来であれば着陸した状態でヴァルキリーを下ろしたかったのだが…」

 どうやら、輸送機の着陸は別の警備部隊を呼び寄せる結果になったようだ。

「周囲に敵多数…ウイルスタイプ及び警備部隊のようです」

 周囲を囲んでいたのは、警備部隊数人とウイルス多数だった。ウイルスと言うよりは警備ロボットにも見えるのだが…ウイルスがサウンドサテライトのメインコンピュータ内に入っていたデータを具現化させているものと思われる。

「ヴァルキリーを潜入させる事には成功している…。これ以上の無理をして損害を出すわけにはいかない。出来る限り、被害を出さないように撤退せよ」

 研究員のリーダーが他のメンバーに速やかに撤退するように指示を出した。

 

『ご覧ください…。先ほど、施設内へ何者かが潜入へ成功したようです。今回の事件を受けて、レスキュー部隊の派遣を決めたのでしょうか…』

「今週のCDチャートはどうなるだろう…」

 スタジオのテレビでニュースを見ていたのはメタトロンだった。

「既に10近くのバンド等がCD回収という状況で、現在1位になっているのはグループ50の曲か…」

 メタトロンはグループ50の曲が1位になっているのは、裏工作がされているのでは…と思い始めていた。ニュースでも報道されているダッシュのメンバー逮捕、それ以外にも同様のケースで逮捕されたバンド関係者…。

「もし、グループ50のメンバーが一連の事件を影で操っているとすれば…」

 しかし、仮に裏工作の犯人がグループ50の関係者としてもいくつかの疑問点も浮上してくる。

「今週のチャートに関係するメンバーばかりが一連の事件で逮捕されているが、今週発売のシングルは他にもあるはず…。自分の新曲も条件には該当しているはずだが…」

 メタトロ ンのソロシングルも今週発売なのだが、事件の影響を受けることなくシングルチャート2位を維持している。デイリー初日のランキングにはダッシュのシングル が3位に入っていたのだが、メンバー逮捕でチャートからは除外される形になっている。それ以外にも、チャートから除外された曲は複数あり、新曲として残っ ているのはグループ50とメタトロン、他には数組…という状況になっている。

「これだけのチャート除外曲があるにも関わらず、集計は無効にならずにシングルチャートを続行しているという事は、何かをCD購入ユーザーに訴えかけているのだろうか。あるいは、チャートを無効に出来ない理由が他にあるとか―」

 大量のシングルチャート除外曲が出たにも関わらず、チャートの集計が続行している意味をメタトロンは考える。

「もう少し、様子を見るべきか…」

 そして、 中断していたアルバム収録を再開した。しかし、彼の声には微妙な感情の変化で声質が変わると言う噂が存在する。昨日までの収録では取り直しはなかったが、 過去にはメタトロン自身がリテイク要請を出す、CDを実際に購入したユーザーが声の変化に関して質問を送る等のケースが存在する。

「今、自分に出来る事を…」

 自分に出来る事は事態の収拾を待つ事のみだろう…。

 

 その一方で、ヴァルキリーはクラシックエリアから演歌エリアへと向かっていた。一連の報道等から10分は経過している。

『次の演歌エリアでも同種のウイルスが確認された。しかし、向こうもクラシックエリアでの戦闘からこちらのデータを解析し始めていると考えていいだろう…』

 先程のウイルスは小手調べ…本番はこれからという事なのかもしれない。そんなヴァルキリーの行方を塞ぐかのように一人の人物が現れた。

「あなたは、一体…」

 目の前の人物はヴァルキリーの問いかけに答えるような気配はなかった。

外見はヴァルキリーと似ているが、細部が若干異なる事、ブラック主体のカラーリングや左腕に持っている大型のガンランスが特徴となっている。それ以外にもヴァルキリーと違って若干だが肩等で肌の露出がある部分も特徴と言えば特徴になっている。

「計画はグループ50に関係する人物に察知されている…」

 名前を名乗らず、彼女はヴァルキリーに忠告をする。

「目的は、何?」

 ヴァルキリーがブラスターを向けるが、動じるような気配は一切なかった。

「目的は特にない。自分はこのパワードスーツ型サウンドウェポンのテストに参加しているだけ…」

 彼女は先を急ぐかのように姿を消す。ヴァルキリーも何の事なのかさっぱり分からない事もあったが、消えた直後に入った指令の連絡で事態は急変した。

『演歌エリアのウイルスが何者かによって除去されたと言う情報が入った。君には最も近いエリアになるJ―POPエリアに向かってもらう事になる…』

 別の存在が自分と同じようにウイルス除去に動いているのでは…とヴァルキリーは思った。その別の存在は、今の―。

「私以外にウイルス除去に動いている人物はいるのですか?」

 ヴァルキリーは指令に対して質問をした。

『我々以外にもウイルス除去に動いている人物がいるのは事実だが、その姿は確認していない…』

「では、先程の人物は…」

 ヴァルキリーは指令に、黒いパワードスーツの人物のデータを転送した。

『このスーツは我々とは違うルートで作られた物だろうと思われるが、今はJ―POPエリアへ向かう方を優先したまえ。データに関しては、こちらでも出来る限り調べるが…今のままでは情報が不足している為に特定は難しいだろう』

 結局、黒いパワードスーツの人物は正体不明という事のようだ。今は次のエリアへ進むのが先であると判断し、J―POPエリアへと向かった。

 

 J―POPエリアへと到着したヴァルキリーだったが、オープン準備が終わっていないかのような周囲の展示物の少なさに違和感を持った。

「一部アーティストのみ、パネルも説明文のプレートも準備されていないなんて…」

 飾られて いるのは、ガールズグレートやグループ50等のアイドルばかりでそれ以外のアーティストは飾られていないと言うよりは差し替えられた…という表現が正しい ような気配だった。照明等も全て取り付けが完了しておらず、一部のLED電球がむき出しの状態になっている。本来であれば、これらの電球には耐熱カバーが 付くのだが…。

「これも、ウイルスの仕業…」

 次の瞬間、取り付けられたLED電球が全て灯り、ヴァルキリーの目の前には白虎の覆面の人物が現れた。

「ようこそ、我々のエリアへ。君が例の侵入者…。ならば、その実力を試させてもらう」

 彼が指を鳴らすと、周囲からは全く別のタイプのウイルスが5体現れた。その姿は戦隊ヒーローを思わせるような外見をしている。そのデザインは5体とも全く違うのだが、色は全て赤メインで固定されている。

「あなた達の目的は一体…」

 ヴァルキリーがウイルスにブラスターを向けるのだが、動きが素早くて狙いを定める事ができない。

「目的か…朝のニュースでもダッシュがCDチャートの上位に入る為にサウンドサテライトに侵入して何かをしようとしていたな」

 白虎自身が簡単に喋るとは思えない。ならば、先にウイルスを撃破すれば…とヴァルキリーは考えた。しかし、ウイルスの方は動きが素早くて狙いを付けるのにも苦労する。ならば、白虎を狙うようにすればウイルスの動きを何とかできるかもしれない…と。

「本来、グループ50の事は嫌いだ。あいつらは、自分から大事な物を奪ったから…」

 ヴァルキリーは疑問に思う。何故、グループ50を嫌いな人物がサウンドサテライトの一件に協力するとは…。

「その、大事な物は…」

 ヴァルキリーは駄目もとで白虎の説得を始める。何とか説得して情報を聞き出せれば…と判断したからだ。

「一昨日のグループ50新曲ゲリラライブを行った会場は知っているか?」

 一昨日、丁度サウンドサテライトでダッシュのメンバーを始めとした多数の人物が不法侵入で逮捕された日だ…。ゲリラライブに関しては昨日の芸能ニュースでも触れていたような気はするが…。

「確か、都内某所と報道されていたような気はしたけど…」

「確かにニュース等では正確な場所までは報道されていないが、警察に提出された資料によると、ドーム球場近辺のイベントホールだった…」

 白虎の話の意図が見えてこない。ドーム球場近辺にはイベント専用のホールは存在しないはずである。球場を直接借りてライブをするならば話は分かるのだが…。

「このウイルスのモチーフ…」

 白虎の一言を聞いて、ようやく気付いた。確か、ドーム球場と併設する形で遊園地があるのだが…それが施設の数回に渡るトラブルで閉園状態になっている。そこにあるイベントホールの主に行われているのは…。

「グループ50が資金力に物を言わせたゲリラライブを行ったのが、ヒーローショーの行われているイベントホールだった…」

 ようやくヴァルキリーは気付いた。イベントホール自体、本来であればヒーローショーが行われているのだが併設された遊園地が閉園になっているため、ショー自体が公演中止になっているのである。

「その通り だ。本来であればヒーローショーが行われていたはずだったが、遊園地が閉園している事でショーは中止。そこで、ゲリラライブを行いたかったグループ50が 豊富な資金力を利用して、あの会場でゲリラライブを行った…。当然だが、あの会場は本来であれば『使えない』はずが…施設の赤字運営を回避する為に会場使 用を許可した」

「ウイルスのモチーフが、スーパーヒーローなのは…そういう事だったのね」

 お互いに様子見が続き、このままでは長期戦になってしまう。何とか回避する方法は…と模索していたヴァルキリーは、戦闘中に拾った光ディスクを装置に入れた。同じ規格であればサウンドウェポンシステムに使えるかもしれないと思ったからだ。

「どうやら、これも使えるみたいだけど…何の曲が入っているかは、聞いてみないと」

 次の瞬間、サウンドウェポンから大音量の音楽が流れ出した。その音に反応したウイルスは急に動きを止めた。白虎の指示も聞くような様子もない。

「まさか、この曲は…」

 白虎の様子も変化していた。大音量の音楽に反応したのか、曲に反応したのか…ヴァルキリーは判断に困っていたが、これは間違いなくチャンスである。ウイルスを撃破するのは今しかない…と。

『システム、スタート』

 

 次の瞬間 に現れたのは、白虎のウイルスとは別の形状をしたウイルスだった。形状は何処かのカードゲームか何かで見たような騎士や魔法使い、大斧を持った蛮族と言っ たようなラインナップだった。どうやら、ボス格のウイルスは何かしらのカスタムタイプなのでは…とヴァルキリーは判断した。

「このウイルスタイプは…ライオンか!」

 どうやら、白虎を裏切り者と判断してライオンの覆面が放った刺客らしい。白虎が裏切るのでは…とライオンが薄々と気付いていた証拠である。

「事情が変わった。この状況を打開するのを手伝ってくれ…頼む!」

 このウイルスの大軍を何とかするには一時休戦も必要…と彼が判断したのだろうか。

「このディスクを受け取ってくれ。これには他の賛同したメンバーのウイルスデータも入っている。それ以外にも、密かに入手したサウンドウェポンのデータが圧縮ファイルとして入っている」

 白虎は光ディスクをヴァルキリーに渡すと…自ら覆面と着ていた服を脱いだ。

「俺の名はレッドシャイニング。かつて…ガールズグレートをデイリーチャートから引きずりおろした…スーパーヒーローだ!」

 白虎の覆面と変装を脱いで現した姿は、過去にガールズグレートのデイリー1位連続記録を止めたスーパーヒーロー、カラーレンジャーのレッドシャイニングだった。勿論、これはコスプレであるのはヴァルキリーも分かっているのだが…。

「この曲は、まさか…?」

 ヴァルキリーは1番まで終わった曲がカラーレンジャーのオープニングなのでは…と思った。

「残念だ が、この曲はカラーレンジャーの曲ではない。しかし、この前奏を聞いて自分のヒーロー魂に火が再び点いた気がする…。確かにグループ50が資金力を利用し てゲリラライブを開くのは問題ない。あれだけのアイドルがゲリラライブをするのには1万人近くが入りそうな会場が必要だった…という事なのかもしれない。 それが、偶然にもあの会場だっただけの事…」

 レッドシャイニングは語る。そして、ヴァルキリーに何かのあいの手の指示をした。

「あなたは…どうして、あの計画に協力をしたの?」

 ヴァルキリーがあいの手の手順を聞く前にレッドシャイニングに質問をした。

「レッド シャイニングじゃ長いから…レッドでいいぜ。元々、あの計画自体を潰す為に潜入したつもりだったが…龍の覆面から色々と音楽業界の現状を聞いて、業界を一 度リセットする為にも計画に賛同した方が早い…って判断したと思う。ただ、最終的には力でねじ伏せるやり方がヒーロー物の悪の組織と同じだって気付い た…。まさか、あの曲で気付かされるとは思わなかった。あのディスクを何処で拾ったのか、後で聞きたい所だが…」

 今は現状を打破する方が先決である。レッドはヴァルキリーにあいの手を指示した。

 

「やはり、白虎は裏切りましたが…こうでもしてもらわないと、こちらも都合が悪いのですがね」

 ライオンの覆面もJ―POPエリアに足を踏み入れていた。ウイルスの数もかなりの数が集まってきている。

「5体だけしか必要がないと指示した自分を呪う事ですね。こちらは、ほぼ無限に近い数を生み出す事が可能ですからね…カードゲームのルールに則る形限定ですが…」

 そして、 ライオンがJ―POPエリアへ突入するようにウイルスに指示を出す。主に蛮族と戦士、侍、槍兵が入り口に向かって進行するのだが、エリア内の様子が急に静 かになったのはおかしい事に気付いた。これは白虎が裏切った際、即座に撃破出来るように配置した先発部隊が倒された事を意味している。

「まさか…?」

 指示を出した直後、これが目的なのでは…と指示を取り消そうとしたが、手元には指示を取り消す事の出来るカードを持ってない。

「こちらがデッキの内容によって呼び出せるウイルスが違う事も向こうには筒抜け…という事か」

 

 エリア内では、ヴァルキリーとレッドの2人がライオンの先発部隊と戦っていた。ヴァルキリーは標準装備のブラスターを持っているが、レッドはヴァルキリーがエリア内で発見したナックル型のサウンドウェポンでウイルスを撃破している。

「まさか、ウイルスに対抗できるのがサウンドウェポンだけだったとは…」

 レッドのウイルスは先発部隊を順調に撃破していたが、レッド自身はウイルスに有効な攻撃を与えていなかった。それを見たヴァルキリーが、偶然見つけたボックスに入っていたナックル型サウンドウェポンをレッドに渡したのである。

「光ディスクのお礼…という訳ではありませんが、今の状況ではウイルスに有効打を与えられるのはサウンドウェポンだけですので」

 ウイルスに対抗する手段があるという事は不死鳥の事前説明でもされていなかった。意図的に伏せたか、向こうも知らないうちに対抗策が打たれていたか…。色々と引っかかる物があるレッドだが、今は脱出をする方が先決である。

「ヴァルキリー、そろそろ頃合だ。例のアレをやるぞ!」

「分かりましたわ!」

 二人ともサウンドウェポンのディスクを同じディスクに入れ替えた。

「もう、30年以上になるのか…スーパーヒーローが誕生してから…」

 レッドは過去のヒーロー達を思い出していた。あれから30年以上の時は経過したが…彼らが伝え続けている物、それは…。

「これが、俺たちの絆の力だ!」

 レッドのかけ声と共に5体のレッドウイルスが合体して1体のグリーンウイルスに変化したのである。その姿は…。

「バスターレッド!」

「バスターブルー!」

「バスターグリーン!」

 レッドがレッドとグリーン、ヴァルキリーがブルーの名乗りを担当する。どうやら、レッドが先程言っていたのは、この事らしい。決めポーズも標準装備し、若干だがヴァルキリーが恥ずかしそうでもある。

「俺たちこそ…」

「友情を守り続ける…」

 ヴァルキリーが照れ隠しをしつつも、レッドに続く。

「スーパーヒーロー、バスタースリー!」

 最後のかけ声は2人で決める。ウイルスはポーズのみだが、当時のバスタースリーのポーズを完全に再現している。

『システム、スタート…』

 システムの起動と共に流れ出したのは、友情と熱血を合わせた様なスーパーヒーロー定番のイントロ…レッドとヴァルキリーが起動させたディスクは『スーパーヒーロー・バスタースリー』のオープニングテーマだったのである。

 

『その絆を、断ち切るのは誰だ―』

『この世界を、支配しようとしているのは誰だ―』

『絆の為、世界の為、平和の為に三人の英雄がやってきた―』

 サウンドウェポンのスピーカーからは大音量でバスタースリーのテーマが流れていた。  

絆、世界、平和、友情、勇気…多くのキーワードを曲に乗せ…三人はウイルス軍団と戦っていた。

「決めろ、鉄拳…レッド・ファイアードラグーン!」

 曲のかけ声の部分に合わせるかのように放った、龍の形をしたエネルギー弾がウイルスに命中、相手ウイルスは燃えるように消滅した。

「放て、一閃…ブルー・ストライカー!」

 ヴァルキ リーもレッド同様に曲に合わせる形でブラスターを放つ。命中した相手ウイルスは一瞬で消滅する。その後も、曲のテンポに合わせるかのようにウイルスを次々 と撃破する。時々、必殺技の掛け声の部分でテンポが若干ずれるが…こればかりはレッドのテンションに左右する為、諦めるしかなかった。

「世界はひとつ、つながる友情…」

 レッドの雰囲気に合わせる形になってはいるが、いつの間にかヴァルキリーも歌いながら戦っている事に気付いた。

「挫けはしない、心の炎が消えない限り!」

 レッドは歌いながら戦っている。サウンドウェポンは初めてのはずなのに、体が勝手に動くと言う物なのだろうか?

「戦い続ける、僕らの未来の為に…」

 ヴァルキリーは思った。本来の音楽ゲームはこういう雰囲気でプレイする物なのではないか…と。ライバルのスコアを追い続けるプレイスタイル、最高難易度の曲に突撃を続けていくようなプレイスタイル…人それぞれにプレイスタイルがあり、それらを全て否定するつもりはない。

ただ…いつからか音楽ゲームは、他のガンシューティングや麻雀、クイズ等より初心者ユーザーが入り込みにくい状況になっていたのは事実なのだろう。

(西雲隼人が本来目指そうとしていた物…)

 ヴァルキリーは、今のレッドを見て過去に音楽ゲームから離れていた時期の自分を思い出していた。

『スーパーヒーロー・バスタースリー!』

 最後の歌詞は二人でシンクロし、エリア内に残ったウイルスを全て撃破した。

 

 その一方、状況が一変したエリア外ではライオンが突撃する。

「やはり、切り札までも筒抜けだったのか…通りで作戦が噛み合わないと思った」

 全てのウイルスを撃破し、三人の目の前に現れたのはライオンだった。どうやら、いつまでも制圧できない事に痺れを切らして直接乗り込んできたらしい。

「悪の幹部が出てきたようだな…。こうなったら、ファイナルプラズマで決めるぞ!」

 レッドのかけ声を合図にヴァルキリーがブラスターのロックを一時的に解除し、レッドが装備していたナックル型のサウンドウェポンと一時的に交換をした。

「ファイナルプラズマ、準備完了!」

「これで最後だ!」

 レッドがブラスターの引き金を引き、高出力のビームを放つ。ビームと言ってもウイルスにのみ効果があるだけで人間には効果がないのだが、ライオンの周囲にいたウイルスたちは次々と消滅していった事から威力が非常に高い事を物語っている。

「黒いパワードスーツの件もある以上、ここに長居は無用か…引き上げるぞ!」

 残ったウイルスと共にライオンが撤退を始めた。

 ライオンの撤退後、レッドが覆面を外して正体をヴァルキリーに見せた。その正体は意外な人物だった…。

「どうして、あなたが…」

 その人物の正体はヴァルキリーにとっては見覚えのある人物だったからだ。過去にガールズグレートとチャートを争った事もある男性アイドルグループのメンバーだったからである。現在は解散しているのだが…。

「これ以上は詮索なし…という事で手を打ってくれないか。君の正体も大体予想が出来ているから…」

 レッドは近くの非常口から脱出し、1分もしない内にヴァルキリーの視界からは見えなくなっていた。

 

 J―POPエリアの端末にアクセスを開始したヴァルキリーは、次のエリアに向かう準備をしていたのだが…。

『ヴァルキリー、緊急事態が発生した。次に向かう予定だったヴィジュアルエリアとK―POPエリアが黒いパワードスーツの人物によってウイルスが除去されたと言う情報が入った。君には、若干遠い道のりになってしまうがプリンセスエリアに向かってもらう事になる…』

 作戦で指定されたエリアと異なるエリアが指定されたのには、何か理由があるのだろうか…ヴァルキリーは疑問に思い、その部分を質問した。

「プリンセスエリアですか…。本来であれば同人音楽エリアに向かうはずでは…」

 そして、指令が答えた回答は意外なものだった。

『その同人音楽エリアだが、実は直前になって展示内容の変更があって存在しないエリアになったという事が内部資料で判明した。その為、新規にウイルスが確認されたプリンセスエリアに向かってもらう事になった…という事だ』

 同人音楽には、巷で話題となっているシューティングゲームであるウィザードの新作が置かれる予定のブースもあったのだが、何かトラブルでもあったのだろうか…と。

 

「まさか、このエリアマップ自体も偽装されていたとは…どういうことだ?」

 一時退却をしたライオンは不死鳥に抗議していた。一部のエリアに限っては展示物が一切なく、もぬけのカラに近い場所もあったという。退却途中に民族音楽ブースの設置予定エリアを通過したのだが、看板すら設置されていなかったのだと言う…。

「偽装と言 う表現は、この場合は不適切だと思うよ。この作戦は最初に侵入したヴァルキリー以外にも、黒いパワードスーツの人物にも邪魔をされている。それに加えて、 先程の事だが、何者かがここにハッキングを仕掛けた件もある。その為に仕様変更がされる前のサウンドサテライトの地図を渡していた」

 どうやら、作戦決行前に渡していた地図も変更前の物だったらしい。

「とりあえず、その件は置いておくにしても…黒いパワードスーツの人物は何者だ?」

 ライオンの問いに不死鳥があるデータをモニターに表示させた。どうやら、ある会社が極秘に開発していた物のようだが…。

「このパワードスーツは、サウンドウェポンと言うゲームで使われる予定だった要素を取り込んだ物になっているのだが、対ウイルスに関する部分は別の会社が開発していたセキュリティソフトをベースにしている…」

 不死鳥の説明に龍は納得をするが…ライオンは不満があるようだ。

(まさか、あの会社がボランティアでセキュリティソフトを提供するはずがない…これには何か事情があるはず…)

 ライオンにはセキュリティソフトを制作した会社が何処であるかの目星は付いていた。

しかし、そうなるとウイルスを提供した人物とセキュリティソフトを提供した人物は仮に別人だったとしても上にいる人物は同じになってしまわないか…と。

「一方が、新たにウイルスを設置したプリンセスエリアに向かっているようだ。偵察を兼ねて外に出てくる…」

 この場にいる事に耐えられなくなったライオンがメインルームを後にした。

 

 ライオンがメインビルを出たのを確認した1人の影が周囲にある監視カメラの動きを見極めつつ、ライオンに接近していた。

「バカな…。あの監視カメラの包囲網を抜けて侵入した人物が…」

 その影は 一瞬にしてライオンの背後まで接近、その直後に彼の体を触れただけで気絶させた。どうやら、触れただけでスタンガンよりも威力のある電気を放出したらし い。実際であればそれだけでの大容量の電気を溜める技術も、それに耐えられるだけの素材も不足しているように思えるのだが、この人物の所有している右手の グローブが可能にしていると思われる。

「なるほど…。奴が彼をマークしていた理由は、こういうことだったのか」

 謎の人物は、気絶させた彼に代わってライオンの覆面を被った。そして、彼の正体が意外な人物であった事に驚きを隠せなかった。

「後は警察にでも任せて、こちらは与えられた任務をこなす事にするか」

 謎の人物が去ってから数分後、警察のパトカーがサウンドサテライトに到着し、気絶していた人物を回収した。どうやら、事前に居場所等を把握していたらしく、実際に発見してからすぐに警察に通報したらしい。

「こいつは見覚えがある…ガールズグレート等のCDをオークションで転売して1億稼いだという…あの人物か」

 どうや ら、この人物は過去にガールズグレートを始めとしたCDを発売日前日にオークションサイト等で大量に転売し、月に1億以上を稼いでいた人物だったのであ る。脱税等の容疑で警察も密かに行方を追っていたのだが、匿名の通報であっさりと発見できた事に警官も驚いていた。

「どうして、オープン前のサウンドサテライトにいたのだろうか…」

 もう一方の警官もサウンドサテライトで彼を発見できた事に疑問を持っていたが、今は彼を警察へ連行するのが先である。

 

 1時間後、彼が目を覚ました場所は警視庁に近い病院だった。何故、サウンドサテライトから病院に…という事に彼は若干の疑問を持っていたが、数分後に警察が到着してからは…。

「まさか、こちらが探していた人物を見つけてくれるとは…」

 一番驚いていたのは無精ヒゲを生やした刑事だった。彼は、ガールズグレートのCDに関する不正転売等の事件を追跡していたのだが、自分でも発見できなかった事件の犯人をあっさりと見つけた人物がいたという事実に驚きを隠せなかった。

「自分達も最初は匿名の電話だったので疑いましたが、現場に着いた時には気絶していた彼が倒れていたので…」

 連行した警官も何を話してよいのか分からない状態だった。通報した人物は警察にも自分の名前を出さない事を条件に犯人の居場所を教えたのである。

「警察だと…これは、一体どういう事だ?」

 元ライオンの覆面が刑事に向かって状況の説明を求める。

「こちらが説明して欲しい所だ…。今まで隠し通してきた事を含めて、全てを話してもらうぞ…」

 状態が回復した事を確認し、彼の事情聴取が始まった。

 

 今回の事情聴取はガールズグレートのCDを発売前日にオークションサイト等に1万枚以上出品した事、オークションで得た利益を所得として申告せずに脱税をしていた事等に関する物がメインだった。

その数日後にサウンドサテライトでの一件が公表された後、彼に対しても同事件の事情聴取が行われた。そこで真の黒幕を含めた全容が解明する。

 

 サウンドサテライトに関する一連の事件に関しては、最終的にCDチャートの存在意義にも一石を投じる事になったが、それは別のエピソードの話になる。