2:施設への潜入

 

 事件発生翌日の朝、取材の為に現場に到着したヘリが何かを発見した。それはサウンドサテライトへと潜入する一人の人物である。

『ご覧ください…。施設内へ潜入成功した人物がいるようです。今回の事件を受け、レスキュー部隊の派遣を決めたのでしょうか…』

 テレビ局の男性記者がサウンドサテライト内のビルへと潜入する人物を見つけた。その模様はテレビでも生中継されたのだが、外見を見る限りではレスキュー部隊や消防等の類ではなく、もっと別の何かを連想させた。

 

若干だがSFアクションゲームに出てくるようなデザインのスーツ、右腕と一体型になっている大型ブラスター―取材ヘリからの映像でははっきりとは分からないが、左腕にも何か装備されているように見える。具体的には分からないが、何かの音楽再生装置のように見えた。

「あれだけのSFを思わせるパワードスーツのレスキューと言うのも見かけないだろう。特撮等では存在するかもしれないが…」

 自社の開発室で中継を見ていたのは西雲だった。今日はサウンドウェポンの最終調整をする為に会社に来ていたのである。各地でのロケテストが終了、そこで得たユーザーの意見を参考にして調整をしている所だった。

「今回の一件も、以前と同じアイドルグループの宣伝目的の物なのだろうか―」

 西雲は少し前に解決したばかりの超音人伝説を巡るゲーム会社とレコード会社の談合事件や過去に起こった同様のケースと照らし合わせていた。

「左腕の装置、あれには何の意味が?」

 西雲は中継映像で映っていた左腕の装置らしき物が非常に気になっていた。ひょっとするとサウンドウェポンと似たような物を使っているのでは…と思ったからだ。

 

 サウンドサテライトの方では、ウイルス除去の為の作戦が実行されようとしていた。最初のエリアへ移動を終え、突入の指示を待っていた。周囲を確認後、目の前のゲートのロックを解除して扉を開ける。最初に突入したのは、クラシック音楽の展示エリアだった。

 周囲にはクラシック音楽の作曲者の肖像画や愛用していた楽器のレプリカ、楽譜等が展示されている。それ以外にも、CDの販売コーナー等もあるが、準備中の為か棚には何も飾られてはいなかった。

「あれがウイルス…」

 5分ほど探索を行い、奥のエリアへ進もうとした所でブラスターを構え、周囲を警戒し始めた。しばらくして、SFに出てきそうなモンスターが何もない所から現れた。

このモンスターのような存在が事件の引き金となったコンピュータウイルスのようだ。

「有効な攻撃は…!」

 ヴァルキリーは小型のMDのようなディスクをブラスターにセットした。

「早速、始めますわ…」

 ディスクをセットした後には内蔵のスピーカーから電子ピアノのような音が特徴な音楽が流れ出した。ウイルスの動きも音楽を聴いてからは動きが遅くなっているように見えるが、実際に効果がある音楽なのだろうか…。

『ミュージック…スタート』

 そのシス テムボイス後にヴァルキリーは動き出した。その動きは曲の演奏に沿った華麗な物だった。曲のテンポに合わせるかのようにウイルスをブラスターで次々と撃破 していく。このシステムには、ロケテストが行われていたサウンドウェポンの物が流用されているように見えるが…。

こ の曲を聞いたウイルスは音楽ゲームで言う所のチップとなり、動きに関しては遅くなったのではなく曲のスピードに合わせて変化し、周囲にいたウイルスは音楽 を聞いたと同時に音楽ゲームの譜面の一部となっていたのである。一連の流れはリアルなガンシューティングゲームを思わせる―。

 演奏終了後、ヴァルキリーは1階奥にある端末のような物にアクセスしていた。

「データアクセス…クラシックエリアのウイルス除去に成功。次のエリアである演歌エリアに向かう…」

 この端末は元々音楽のダウンロード配信用として使われる予定だったのだが、そこにウイルスが集中的に仕掛けられ、今回の一連の騒動が起こったのである。ヴァルキリーの目的は端末に仕掛けられたウイルスを全て除去する事である。

『君が倒れる事はサウンドサテライトが無事にオープン出来ない事に直結している。無事に任務を達成して戻ってくる事を我々は期待している』

 ウイルス除去後に外部にいた指令からの通信が入った。

「では、次のエリアへと向かいます…」

 ヴァルキリーは次のエリアへと向かう為に隣にあった地図案内の端末から地図をダウンロードし、演歌エリアへと向かった。

 

 同施設内の中央ビル内部では、クラシックエリアの赤いマップ表示が青に変化した事でウイルスが一掃された事を伝えていた。残る赤くなっているエリアは5つである。

「まずはひとつ…といった所か」

 中央の席に座っている龍の覆面の人物が言う。身長が全メンバーの中で高く、180位だろうか。今回の作戦素案を担当した人物である。

「向こうもこちらの真の目的までは分からないだろう…」

 次に発言したのは白虎の覆面の人物。身長は龍以外の人物と同じ位だが、体格が若干小太りに見える。今回の作戦を実行するに当たっての人員募集を担当したのが彼である。

「ニュースでは既に機械の暴走という事で伝えているようだが、さすがに真の目的を調べるには至っていないのが現状だな」

 3番目に発言したのはライオンの覆面。彼だけサイズを間違えたのだろうか、後ろには黒い髪の毛がはみ出している。覆面がライオンでなかったら正体がばれている所である。  

今はたてがみでごまかしているようだが―サウンドサテライトの施設マップを提供したのが彼である。

「本来、このサウンドサテライトには50以上の音楽ジャンルをテーマにした施設が存在するが、ウイルスを仕組んだ6エリアは特に我々には不要とするエリアだと言う事実に向こうが気付くかどうか…」

 最後に発言したのは不死鳥の覆面の人物。潜入に使用した変装用の制服やセキュリティのロック解除をはじめとして、ウイルスの散布などの今回の作戦に最も貢献した人物である。

 それぞれ、担当エリアのモニターをチェックしている所を見ると、この4人が今回の事件を起こしたメンバーらしい。

 

覆面をしている理由は、お互いにネットで情報をやり取りしている為に顔は知らない方が身の為と言う意識があるという事情があるのかもしれない。

「音楽意識改革委員会が動いていないと言う情報を手に入れた。どうやら、邪魔となるのは施設に潜入している1名だけ…になるようだな」

 不死鳥は言う。彼の情報収集能力には他のメンバーも助かっているようだ。

「さぁ、来るがいい…。今の音楽業界を誰が支えているのか、それを委員会や他のアーティストファンに思い知らせてやる!」

 拳を握りしめて龍は高々と叫ぶ。全てはここからはじまるのだろうか…。

 

「超音人伝説での失敗は繰り返さない…」

 龍は以前の失敗を繰り返さない為にも今回の計画をスタートさせたのだと言う…。

「グループ50を世界に認めさせる為に…」

 白虎はグループ50が国内でしか人気がない事に違和感を持ち、世界へ進出する為に計画へ賛同した。しかし、発言が強気ではない所から本心ではないように思える。

「音楽は、もはやビジネスだ。過去の遺産に頼るような時代は終わった…」

 ライオンはグループ50のようなビジネスに特化したアイドル以外は不要と思い計画に賛同した。

「自分は、例のシステムの実験が出来れば…それでいい」

 不死鳥はグループ50に関しての計画自体には賛同せず、ウイルス等のテストが出来れば…という事で協力をしているようだ。

 

 その一方で、意識改革委員会にも動きがあった。サウンドサテライトではなく、とある芸能事務所へ向かう準備をしていたが…。

「君達に渡しておきたい物がある…」

 社長が南雲と飛鳥に渡したのは、1枚の光ディスクだった。ディスクを渡された南雲は少し疑問に思ったが、飛鳥はこれが何を意味しているのかすぐに分かった。

「やっぱり、そういうことだったか…」

 飛鳥は光ディスクを渡された事の意味と真の黒幕が誰かという事が大体把握できた。

(仮に黒幕があの社長だとすると…あの事件を操っているのは誰なのか…)

 飛鳥はサウンドサテライトへ向かう準備を始めた。南雲に気付かれると厄介な為、別人に自分の身代わりをするように指示をする。

「グループ50も、ガールズグレートと同じ道をたどるのか?」

 同じ所属事務所のグループだから同じ末路をたどるような事はあってはいけない…と飛鳥は思っている。