間奏:様々な人物

 

 ムチムチの体格にジーンズとジャンパー…背中には財布やノートPC等が入ったリュックを背負った一人の女性。彼女はいつも通っているゲーセンに入っていった。

 

 彼女、月沢明日香は入り口付近で珍しい大型の箱型筐体がロケテストを行っている光景を目撃した。

「これも音楽ゲームなのか…」

 説明を見る限りでは、音楽ゲームと格闘ゲームを足して2で割ったような感じだったのだが、興味がなかった明日香はすぐに通り過ぎて、隣にあった本命の音楽ゲームをプレイし始めた。そのゲームは16個の透明のパネルからもぐら叩きのようにノーツが現れるタイプの音楽ゲームで、西雲が開発した作品である。

「向こうも盛り上がっているようだけど…」

 明日香はロケテが盛り上がっているのが非常に気になり、ゲーム終了後に例の筐体前に向かった。

「この機種は、音楽ゲームと格闘ゲームを融合させた新機種で、ライセンス曲も多数揃えており、音楽ゲーム初心者にも…」

 説明をしている人物のネームプレートを見ると名前欄にジャックと書かれていたが、本名かどうかは不明である。他にもスタッフが数名常駐しており、プレイ方法の説明やデモンストレーションを行っていた。

「もうすぐ、稼動する音楽ゲームですか?」

 明日香は尋ねる。すると、別のスタッフが駆け寄ってきて明日香の質問に答えた。

「稼動時期に関しては未定ですが、近日中に発表会を行う予定ですが、タイトルもその時に発表されますので、今は音楽ゲーム+格闘ゲーム()としてロケテストを行っています…」

 明日香はパンフレットを受け取り、ゲーセンを後にした。

 

 明日香の通っているゲーセンの近くにあるビルにゲーム会社C社が入っている。そのC社では異色の音楽ゲームを作ろうとしていたのである。

「レーシングゲームと音楽ゲームの融合は…さすがに無理があると思うのですが」

 スタッフも困惑する。彼女の口から出たのは、レーシングゲームと音楽ゲームの融合である。過去に西雲の会社で音楽ゲームの楽曲を使ったレーシングゲームがリリースされたが、それとはもっと別の物だった。

「格闘ゲームと融合させた作品も現在ロケテスト中、音楽ゲームとガンシューティングが融合した作品も過去に出ているのだから、不可能ではないはず…」

 今回のアイディアを持ってきたのは、ライダースーツに眼鏡という外見の女性、志木茜(しき・あかね)である。

「確かにガンシューティングと音ゲーならば関連性はあるようには見えるか、レースゲームとなると…どういう風に演奏すればいいのか問題になってくる…」

 スタッフの困惑も一理ある。そこで、志木はバイクの模型を取り出して説明を始めた。

「基本的には、普通にバイクを操作するのと一緒なのですが、コース上に矢印が複数あって、その上を通過する事で曲を演奏する仕組みになります。これは、今までの音楽ゲームが上からノーツが落ちてくるタイプや下から上に上っていくタイプなのに対し、判定ラインが移動するタイプの音楽ゲームとなるわけです…」

 志木は説明する。判定ラインが移動するタイプは日本で稼動している物では、まだ実用化している作品はない。海外で似たようなライン移動型の音楽ゲームがあるらしいという話は聞いているが…。

「実現できるかどうかは不明ですが、このアイディアで出来る限りの事はやってみましょう…」

 予想外の反応に志木は驚く。

「ありがとうございます。では、このアイディアをベースに若干の修正を加えていく形で試作版を製作する事にします」

 そして、志木は密かにライディング型の音楽ゲームという異色の作品を開発する事になったのである。

 

「ルシフェルのチケット、今回も完売か…」

 一人の青年が自分の所属しているバンドのホームページを見て驚く。

「やはり、転売対策を考えてワクワク動画のインターネット連動型チケットにしたのが正解のようだな」

 身長は180前後、スリムと言う印象の体格の男性、バンドグループ『ルシフェル』のボーカルを担当している。

「最近はチケットだけではなく、会場のグッズもすぐに転売に回ってしまうという事態になっている。この対策を取る事が、一番重要になってくるかもしれない…」

 彼は、ここ最近のガールズグレートを初めとしたグッズやCDの転売に頭を痛めていたのである。その為、自分達のコンサートやライブのチケットはイベントを主催しているワクワク動画のシステムを使ったインターネット連動チケットに変更したのである。

 

このチケットは、購入条件にワクワク動画の有料会員であるプレミアムユーザーを追加し、プレミアムユーザーの会員番号をイベント時に確認、番号が一致した場合のみ会場に入られると言うシステムである。

これによって、チケットの転売自体はなくなった。中にはプレミアムユーザーの権利を売買しようと考えているユーザーも何人かいたが、プレミアムユーザーの権利売買に関してはワクワク動画では禁止している事もあって、水際で阻止されている形になっている。

「後は、音楽業界意識改革提案がどうなるか…という気配か。これによっては、音楽業界は再びバブル時代に突入するか…あるいは新たな未来を掴む事が出来るか…」

 彼は思った。仮に意識改革が骨抜きの案だったとしても、後から追加する事は可能である。問題は、間にレコード会社が介入して自分達の今までしていた事を反省せずに今までどおりの商法展開を許可するように圧力をかけないか…である。

 

「そんな、意識改革で大丈夫か?」

彼は自らに問いかけた。

「大丈夫だ、問題ない…」

 そして、自らはこう答えた。

 

「そう言えば、自己紹介がまだだったようだが…君達にとっては、後に分かる事だ」

 彼が得意とするジョークである。