3:もう一つの現実

 

 シューティング、 それは疑似的なデジタルクリーチャーを何体撃破できるかのサバイバルだったのである。既に500名近くが挑んでいるのだが…生き残ったのはわずか10人弱 と言う狭き門でもあった。

 

『遂にトップ100 の登場か―』

 最初に登場する トップ100はセナだったのである。順位は80位ジャストで、この組では最高記録を持っていた。

『100位の参加者 でも、スコア次第では上位に迫る事も可能だからな…』

『あのデジタルク リーチャー、一発で撃破されていたように見えたが、気のせいか?』

『クリーチャー自体 にHPは設定されていたが、ミュージックバーストの攻撃力はチート以上の物を持っているようだな―』

『そう言う事か―』

 ミュージックバー スト、それはデジタルクリーチャーに対抗出来る唯一の手段。その攻撃力は、ネット住民も沈黙する程の想像を絶する物だったのである。

「そこねっ!」

 セナは大型のバ ズーカと言う他の参加者が選ばないような武器を軽々と振り回し、正確な射撃で敵を次々と撃ち落としていく。

「あいつの能力は化 け物か?」

「信じられない―」

 周囲の参加者は何 とか目の前に出てくる敵を撃破するのが精いっぱいなのに対し、セナは自分の周囲に出てきた敵だけではなく、別の参加者の周囲に現れた分も撃破していったの である。その反応速度を見て、周囲の参加者は異常であると認識した。

 

 他の参加者は気が ついた頃には、ターゲットは全て撃破されていた。どうやら、一定時間ではなく一定数の敵が全て撃破された地点で終了と言う物だったらしい。

「俺は、残っている ―な?」

 ある参加者は放心 状態になりつつも、脱落ではなく何とか生き残った事を喜んでいた。

『撃破数が一番多い のは、セナになった』

『暫定首位か。しか し、ここの組は脱落者ないという奇跡に近い状況になっている。他の上位陣の動き次第ではランキング等も変動しそうな予感がする』

『次は、ツバサが登 場するのか―』

 ネット住民も、次 の組に登場するツバサに関しては期待をしているようだ。

 

 79位から60位 までの参加者20人が所定のエリアまで集まる。その中には、謎の覆面をしたチェイサーの姿もあった。彼は密かにアヴェンジャーの一員である事を隠して予選 に参加していたのである。

「同順位の人間を含 め、19人―この中ではよう注意すべきは63位の彼か…」

 チェイサーが目を 付けていたのは、自分よりも順位がわずかに上だった63位の西洋甲冑風のデザインをした黒いアーマーを装備した人物―。名前は、黒騎士―。

「自分が他のメン バーよりも順位が下と言う事は、ここで何とかスコアを―」

 女子高生を思わせ るようなセーラー服、武器はセーラー服とは不釣り合いと思われるような日本刀―藍坂の方は準備万全だった。

「自分の初舞台!  緊張するなぁ―」

 一方、他のメン バーとは違ったリアクションをしていたのはツバサだった。緊張と言う言葉とは無縁のような、声にも迷いが全く感じられない。

 

 ネームドと言われ る参加者が混在する予選が始まろうとしていた中、スタート前に倒れた人物がいた。67位で勝ちあがっていた男性なのだが、彼は急に腕の痛みを訴えた。

「これは…?」

 スタッフが腕の痛 みの原因を突き止めたらしく、彼を担架で運び出した。

「まさか、アヴェン ジャーとは別の超有名アイドル団体の仕業か?」

 チェイサーは彼が 腕の痛みを訴える数分前に、何者かが接触していた場面を見ていたのである。しかし、彼の発言に誰も耳を傾ける事はなかった。

「ライバルは1人 減ったけど、余計な事をしてせっかくの雰囲気に水を差された―」

 藍坂は誰か知らな いが、余計な事をした事でテンションが下がってしまった…と嘆いていた。

「ハプニングがあり ましたが、これより予選を再開します。先程の選手に関しては、状態が回復次第、事情を聴く方針です―」

 スタッフ側でも何 が行われていたのか把握は出来ているらしいが、それよりも予選を進める方が先と判断した。

「いい判断だ―それ でこそ、こちらが各種プランを考えただけある―」

 黒騎士は今のス タッフ対応に関して一定の評価を出した。予選が中止になってベスト100が自動的に2次予選通過では、その後の対応にもよるが八百長等と判断される恐れも あるからだ。負傷した彼には、後で予備の予選会に出てもらい、改めて2次予選進出へのチャンスを与える事をスタッフが担架で運んでいる際に説明している。

 

『これが元超有名ア イドルのファンがやる事なのか?』

『おそらくは、超有 名アイドルを永久的に黒歴史にする為の陰謀かもしれない』

『超有名アイドルに 関しては、色々と復活反対を唱える連中がいる―』

 今回の妨害が、元 超有名アイドルファンによる物なのか、完全な第3勢力の陰謀なのかは…まだ分からない。

 

        3―2

 

 予選が始まり、最 初に動いたのは黒騎士だったのである。自分の周囲に現れた3体のデジタルクリーチャーを瞬時に撃破する。その一方で、他のメンバーは次々と脱落をしてい く。気が付くと、ツバサ、藍坂、黒騎士の3名以外には全員が脱落と言う状況になっていた。チェイサーも序盤は順調に敵を撃破していったのだが、黒騎士の無 双展開に気を取られた一瞬で敵の不意打ちを受け、リタイヤとなったのである。

「まさか、敵の行動 パターンも変化するとは想定外でした―」

 リポーターにマイ クを向けられた際、彼が発した一言である。

 

「向こうもデジタル クリーチャーを使っての実戦訓練を行っていたとは―」

 ネットの生放送を 自室でチェックしていたアンノウンはつぶやいた。チェイサーは彼が送り込んだ人物ではないのだが、それ以外のメンバーは次々と脱落をしていった。ベスト 50以内にも数人いるのだが、それらのメンバーも2次予選に進めるかどうか―。

『油断をしていまし た―。まさか、向こうもデジタルクリーチャーを使っているとは考えもしていなかったので―』

 生放送を見ている 途中、チェイサーから電話が入った。どうやら、インタビュー終了後に電話を入れたらしい。

『あの状況では、例 の武装も実用化されるような気配がしました。何かしらの対策を考えたほうがよろしいかと―』

 チェイサーの弱気 とも取れるような発言を聞いて、アンノウンは笑った。

「同じような発言を して、その後にスパイだと言う事が発覚した人物が何人もいた事を忘れたのか―。向こうは超有名アイドルを黒歴史にして別のカテゴリー…例えば演歌やクラ シック等を代わりに頂点へ立たせる商法を展開しようとしている。それでは、超有名アイドルの劣化コピーが日本経済すら押しつぶしてしまう。お前は、そう言 うリアクションを未だに見せる事はない所を見れば、最も信頼できる人物だと…私は思っているが―」

 アンノウンの話を 聞いたチェイサーは、そこで電話を切った。向こうは自分の事を信じ切っているようだ…と。

「音楽業界が再び、 切磋琢磨する事を取り戻す為には、超有名アイドル商法のような利益のみを追い求める手法に走っては―」

 チェイサーは思 う。80年代や90年代と言った時代の音楽、あの時は超有名アイドル商法のような物はなかった。似たような概念はあったかもしれないが。

 

 残り4人、そんな 中で黒騎士に若干の疲れが見えているようだった。前半の無双展開とは大違いの、そんな雰囲気である。

「そこかっ!」

 黒騎士がやられる 直前で藍坂が日本刀で一刀両断にし、予選終了となった。

「まさか、助けられ る展開になろうとは―」

 藍坂に一礼をし て、黒騎士はすぐに会場を後にしたのである。

2次予選は木曜に行われる予定になっているのだが、全ての予選を確か めずに彼が帰ってしまった理由は他にあるのだろうか…と藍坂は思ったが、口に出す事は一切なかった。

 その一方、ツバサ も着替える為にホールを後にした。全てを見極めるまでもない…と言うよりは何かの時間を気にしているようであったのだが―。

 

 その後、予選は 次々と進んで行き、最後のベスト20が姿を現したのである。

『遂にメインが来た か』

『結局、黒沢の首位 を揺るがす人物は現れなかったという事か』

『不正行為で失格処 分を受けた選手の中には黒沢のタイムを上回る人物もいたが―』

 結局、黒沢のタイ ムを追い越す人物は現れなかった。それほどに、黒沢の能力が物凄い事を物語る…。

『黒沢以外は、ほと んど超有名アイドルの関係者とか…そんな気配もするな。中には陸上の現役選手等も混ざっているが―』

 メンバーのリスト をチェックしていた一人は、顔ぶれに何か懸念を持っているようでもあった。まるで、ミュージックユニオンを超有名アイドル復権の宣伝放送として利用しよう と考えているかのような―。

 

 そして、今日の予 選は幕を閉じた。この後でスコアの集計などを改めて行い、そこからベスト100のメンバーが木曜日の2次予選に進むことになる。今回は、放送スケジュール 的な事情で2次予選から本戦へ進める人数は16人まで絞られる。

「あの黒沢と言う人 物、本当に他のスポーツ番組等のチャンピオンだったというオチはないのか?」

「間違いなく、今回 が初めてだな。動画サイトで過去の映像が見つかれば、それらしい情報は予選に入る前に出てくるはずだが―」

 予選が終了し、帰 宅する参加者の中には黒沢の能力が異常だと指摘する人間も何人か存在した。スーツに関してはレンタル物らしいので運営が密かに細工をした…という説も浮上 したのだが、彼だけを優遇する理由が見つからない為に却下された。

 

「油断できない存在 が現れましたね―」

 予選の結果を チェックしたチェイサーは黒沢のスコアを見て驚きを感じていた。

「あのスーツに能力 のブースト効果が存在すると言う話があるとはいえ、シューティングのスコアは理論値に近い数値を―」

 黒沢が撃破した敵 の数は、出現した300体に対して、250という数字だったのである。最低でも1人1体は撃破できるように出現位置が調整されているにもかかわらず、全体 の75%という敵を撃破してしまった彼のスキルは常識を逸脱している。下手をすればリアルチートと言っても差し支えのない存在である。

「これは、動画が アップされた時に再チェックをする必要がありそうですね―」

 チェイサーは何か を考えていたのだが、それよりも先に向かったのはデパートだった。

「既に新作がリリー スされていたとは―」

 デパート内のカー ドゲームコーナーでレジ隣に並んだ商品見本を吟味するチェイサーであったが、結局は…。

「これとこれを1箱 お願いします―」

 大人買いはしたも のの、これは予算ではなくチェイサーの自費で購入した物である。

「参加費用も向こう に出してもらうべきでしたか…この場合は」

        3―3

 

 【奏者の走り書 き】…ネット上で音楽業界の未来を考える若者たちが集う掲示板の事をそこに集まる人々が名付けた物である。いつの頃から名前がついたのかは定かではない。

『超有名アイドルが 流行語になった時には存在していた―』

『2005年辺りに は奏者の走り書きという名称がついていた』

『インターネットよ り以前のパソコン通信時代からあった物が、次第に大きくなったのでは…』

 誕生に様々な憶測 は流れるが、共通しているのは誕生したのは2005年辺りだと言う事と超有名アイドル商法が過熱していた時には既に存在していた…という事だった。

「あれから、もう ―」

 藍坂は色々な過去 ログを見ていく内に、涙がこらえられなくなっていた。彼女は過去に有名なバンドに所属しており、超有名アイドル商法が過熱してきた事で影響を受けていたの である。

『がんばってく れ!』

『超有名アイドルな んかに負けるな!』

『解散してもファン は辞めない』

 2006年に書か れたと思われる掲示板のメッセージを見て、改めて超有名アイドル商法が一部の投資家ファンや芸能事務所が盛り上がっていただけの存在である事を証明する瞬 間だった。彼女達が出るだけでも、芸能事務所には大量の利益が転がり、民放のテレビ局で超有名アイドルのCMが流れない事はない…と言う位にCMが流れた 事もあった。

『CM200パター ンでギネスとか―目的が新規のアイドル投資家目当てなのが―』

『超有名アイドルの 存在自体がステルスマーケティングと同義、それに気付いた一部の作曲家は音楽ゲームに楽曲を提供する事で商業ベースの音楽業界との関係を断ち切ったとも聞 くが―』

 未だに、この掲示 板では色々な音楽業界に対する発言が書きこまれ、それをまとめた本が同人誌として夏と冬に有明等で行われるイベントで販売されている。商業ベースで自費出 版等をしたとしても、超有名アイドルを抱える芸能事務所に差し押さえられるのが関の山―と考えているのかもしれない。

『しかし、シオンは 超有名アイドルの全てを否定している訳ではないらしい』

『対話が可能であれ ば、そのテーブルを用意して話し合いをするべき―と一度だけ聞いた事がある』

『超有名アイドルは 悪役として勧善懲悪の対象と―という世界とは別の可能性を信じたいとも言っていたが…』

 藍坂は偶然見つけ たシオンに関するやりとりを見て―。

「対話の可能性。そ れが、あの時に実現していれば解散も免れていた―」

 藍坂のバンドは、 最終的に超有名アイドルの芸能事務所に取り込まれる事になったのだが、それを嫌った藍坂が解散を宣言―と言う事で新聞や雑誌等で発表されている。

「結局は、事務所側 が超有名アイドルの事務所と合併した事が―」

 藍坂は思った。い つから音楽業界は超有名アイドルの独占市場になり、更には日本国内の全業種の市場を独占する時代になってしまったのだろうか…と。

 

 その一方で、動画 サイトの方では黒沢の登場した予選をまとめた動画がアップされていたのだが、それを見た人間は―。

『あれが本当に人間 なのか?』

『スーツによるパ ワーブーストを仮に考慮したとしても、これはおかしい』

『本当にリアルチー トじゃないか―』

 動画を見た視聴者 は、揃って黒沢の能力がケタ違いと言う事を知った。

 

 2次予選当日、テ レビ局のスタジオでは100人の予選通過者が姿を見せる中で、実際に100位に入選した人物とは違う人物がいる事に一般客が気付く。

「やっぱり、繰り上 げがあったのか」

「あの状況下でも不 正プレイヤーが未だにまぎれていたとは―」

「それだけ、賞金で アイドルのCDを購入して『このアイドルはワシが育てた!』とでも自慢するつもりだったのか―」

 姿を見せていたの は、シューティングの予選に入る前に腕を痛めて担架で運ばれていた人物だった。観客の言葉に耳を傾ける事は一切なく、彼は無言で選手用入り口からスタジオ へ入った。

 

 4月10日、番組 のセットを準備している中で呼ばれた彼は、スタジオに黒騎士がいる事に驚きの表情を見せる。彼が呼ばれた理由、それは1次予選を通過した人物で不正行為を 行った人物がいた事なのだが―。

「君が予選前に遭遇 した人物、彼の事を詳しく聞きたいのだが―?」

 黒騎士が聞きたい 事、それは彼が遭遇したという人物の特徴についてだった。

「実は、男性である 事と何かのハッピを着ていた事以外は何も―」

 得られた証言は、 ハッピを着た男性と言うだけだったのだが…今の時代でアイドルの応援にハッピと言う恰好をする人物がいるのだろうか…?

 

 スタジオ内に揃っ た100人、全メンバーがパワードスーツを装着して準備万端と言ったような気配である。一部でレンタルスーツと言う人物もいる中で、レンタルからショップ の公認スーツに変えた人物もいる。

「あれは本気だな ―」

「どう考えても、あ れは優勝を狙っている様子にも見える―」

 参加者の視線が集 中しているのは、スーツを全てレンタルではなく自前のスーツに変更した黒沢だった。1次予選とは違い、黒をメインとしたカラーリングに、駄天使を連想させ るようなデザイン、力の入れ方が1次予選とは比べ物にならない事を物語る。

「皆様、大変お待た せしました。ミュージックユニオン、その第2次予選が今から始まろうとしております―」

 テレビ局のアナウ ンサーと思わしき人物が放送席の方角に見える。それとは別に事務員と思われる衣装にユニオンと言う名前の書かれたネームプレートをした女性、2人が見守る 中で第2次予選が始まろうとしていた。

「第2次予選の競技 は剣術無双。ランダムの組み合わせて組まれた5人が同じフィールドで2分間のサバイバルバトルを行います。2分の間には自分達とは違う敵も出現し、プレイ ヤーを妨害します。果たして、2分間でどれだけのスコアを出せるか。中央ボードに体力ゲージも表示され、このゲージが0になったプレイヤーは失格になりま す。命がけの1本勝負、生き残るのは一体誰なのか―?」

 ユニオンが予選の 種目に関して説明を行っている。どうやら、2分間生き残る事が3次予選通過のラインとなるようだ。2分間よりも早く体力が0になる事、それは予選落ちを意 味していた。

「さて、これがどん な大波乱を呼ぶのか―」

 観客席で観戦して いたのは、意外な事にチェイサーだった。何故、彼が観戦をしているのかは不明だが―アヴェンジャーとは別行動を取っているのが有力なのでは…と言われてい る。

 剣術無双の組み合 わせに関しては、ランダムで5人が決定する仕組みなのだが…。

「これでは勝負にな らないと言うか…視聴者も反応に困るだろう」

 黒沢は他の参加者 が挑戦しているのを全て見ることなく控室へ移動した。参加者は健闘しているが、スコア的な部分では黒沢には遠く及ばない―。

 

「次の組み合わせは ―」

 次は90番 目~95番目の出番、中には2分も持たずに全滅をした組も存在する為か時間として1時間弱しか経過していない。途中でCMもはさんでいるが、視聴率として は20%位と言う気配だろうか。

「この組み合わせ は…!」

 一番驚いたのは黒 沢の方だった。対戦カードを見ると、黒沢以外に…。

「まさか、お前と当 たるとは予想外だった」

 身長が190近い 顔以外が赤マントで隠された謎の人物―バスターハンターが黒沢を睨みつけているようにも見えた。対する黒沢は彼の顔に見覚えはあるのだが…。

「例の賞金ハンター に当たるとは―」

 黒沢が彼を警戒し ているのには理由があったのである。

 

『あいつ、例の賞金 ハンターじゃないか?』

『スポーツ系番組も 減って、彼の出てくるような番組がないと思っていたが、ミュージックユニオンに出るとは驚いた』

『最近では特撮番組 等で活躍があると聞いていたが、ここに出ても大丈夫なのか?』

 過去に賞金ハン ターと呼ばれ、数多くの番組で優勝した記録を持っているバスターハンター、その名前はスポーツ番組などでは不明扱いとなっている。

『そうなると、最後 の5人は―』

『明日川とツバサ、 藍坂は確定だな。残る2名は不運だったと考えるしかないか―』

『黒沢とバスターで は、どちらが有利と考えるべきか』

 黒沢とバスター、 この二人の話題は尽きない所だが、まもなく予選が始まる―。

 

      3―4

 

 最初に出現した敵 を一掃したのは、何とバスターの方だった。

「悪いが、手加減と 言う物をしている余裕は全くない!」

 彼の拳がデジタル クリーチャーを文字通りに粉砕する。それに対抗して、黒沢の武器はカスタマイズされた大型剣に変更している。

「最初の敵を一掃し たとして、俺のスコアを簡単に塗り替える事は―」

 大型剣でデジタル クリーチャーを一刀両断していく黒沢だが、現在のスコアはバスターの方が上である。トータルスコアでは黒沢がリードをしているのだが、撃破数によっては逆 転をされる可能性は否定できない。

「これならば、どう だ!」

 黒沢の持っている 大型剣がロングソードと2本のショートダガーに分離、ダガーの方は有線で遠隔操作が可能な仕様になっている。

「なるほど。そう言 う武器を隠し持っていたのか―自分の事は言えないかもしれないが」

 遠隔操作された ショートダガーがデジタルクリーチャーを次々と撃破していく様子を見たバスターは、マントをひるがえし、1本の刃がないトマホークを取り出した。瞬時にし てトマホークはビーム刃を展開、大型のポールウェポンへと変形した。

『某ロボットアニメ もビックリのトマホークだな―』

『あのマントもボロ ボロには見えるが、演出として意図的に作られた物だとしたら?』

『それでも、全盛期 のバスターならば―』

 バスターの全盛 期、それは各種スポーツ番組でも取り上げられるほどの運動能力の持ち主で、それこそパワードスーツ等のブーストなしでもミュージックユニオンの予選を通過 出来るレベルである。その能力はリアルチートと言われる…。しかし、それは全盛期の彼だからこそ―と思っていた時があった。

「このマントが、普 通のマントだと思ったら大間違いだ。これも、一種のパワードスーツの―」

 バスターのマント が、突如として形状を変化させ、肩アーマーと大型ナックルに変形したのである。そして、バスターはトマホークからナックルに装備を変更し、次々と撃破する スピードを加速させる。他の3人は既に蚊帳の外という状態になった。黒沢も流石にスコアが抜かされる事を覚悟していたが―。

「おおっと、ここで 競技終了の合図だ!」

 アナウンサーが競 技終了を知らせ、2分間の激闘は幕を閉じた。この競技のスコアに関してはバスターが黒沢を上回った。他の3人はスコアを獲得する事が出来ずに0ポイントで 終わった。

『まさか、あの2人 だけで全部のデジタルクリーチャーを撃破したのか―』

『信じられない―』

『超人同士のバトル だったな―』

 ネット上でも、こ のバトルに関しては想像以上の物だったという意見が半数だった。

『何だ、あの2人の バトル―』

『他の3人が可哀そ うだったと―』

『これは、次回以降 にシード枠が必要だな』

 つぶやきサイトの 方でも、バスターと黒沢に当たってしまった3人は不運だったとしか言えないというコメント、あの2人に限ってはシード枠を作るしかないというコメントが多 くを占めた。

 

 ラストを飾る5人 は、明日川、藍坂、ツバサの3人と無名プレイヤー2名という組み合わせだった。無名の2人は黒沢及びバスターの組み合わせに入らなかった事に関しては安心 をしていたのだが…。

「勝てる要素がない ―」

「バスターが終盤に スコアを稼いだが、黒沢には遠く及ばない―」

 無名の2人は、そ んな会話をしていた。次に勝ち進む為には、あの3人よりも高いスコアを取る事が絶対条件だが―?

 

 全ての予選が終了 し、総合結果が発表された。残った16名は来週の準決勝へとコマを進め、ここまで残ったメンバーには賞金として10万円が進呈された。

『本番なのは、これ からか―』

『最終的には、あの メンバーの中から使用者が決まるのか―』

『今月は、ファイナ ルステージへ進む2名が決まるだけだ。5月にも同じステージが用意され、6月の短期ステージ後に別枠でファイナルバトルが組まれると言う話だ―』

『あの16人でファ イナリストは確定なのでは…?』

『他のスポーツ系番 組でもそうだったが、あの16名で確定ではないだろう。5月の予選では化け物が出るかもしれない―』

 ネット上でもファ イナリストになるのは誰なのか、話題は絶えなかった。

 

「君は、超有名アイ ドルをどう思う?」

 4月11日、アン ノウンに呼ばれたチェイサーは、彼が唐突に質問をした事について理解に苦しんだ。

「彼女達が日本経済 を立て直し、音楽業界にも巨万の富を―」

「テンプレだな、そ の解答は―」

 チェイサーの発言 を途中まで聞いて、アンノウンは別の所が派遣したスパイでは…と疑ったのである。

「超有名アイドルが 不在だった音楽業界の姿は知っているだろう。確かに、彼らの言う通りに音楽業界には新鋭が不在で巨匠ばかりというのは事実だ。超有名アイドルは不老不死で はない―」

 そして、アンノウ ンは、こう続けた。

「だ からと言って、超有名アイドルが途絶える事はあってはならないのだ―」