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1:音楽業界が抱え た物

 

 西暦2012年、 音楽業界は超有名アイドルと言う頂点を中心としたようなピラミッドのような世界になっていた。そこには、超有名アイドルの所属する芸能事務所を頂点とし て、CDチャートやテレビ番組等の分野で事務所の介入があるという…過去に幾多のアイドル等をデビューさせていた過去が嘘のような変わり果てた姿が、そこ にあった。そんな現状に疲れ果てた市民は、テレビを回してもアニメ等の超有名アイドルが手をまわしていないジャンルの番組を見るという選択や、動画サイト 巡り等…次第にテレビ離れを加速させた。

 

『今の音楽業界は間 違っている。このような投資家や株主同然の一部ファンが都合のよい資本主義な世界にしてしまった事や芸能事務所が自分達に都合の悪い部分を都合のよい解釈 をしてそれを政府に認めさせ、更には裏金を隠す為の税金対策、それに加え超有名アイドルのCDを1000枚単位で購入した会社や企業に税制優遇を施す等の 対策が密かに行われている可能性がある。最終的には超有名アイドルが日本を支配、更には別の世界線にある日本も手中に収めてアカシックレコードを掌握する に違いないだろう―』

 超有名アイドルに 批判的な人物を芸能事務所権限で逮捕できるという法案が可決させようという動きが加速しつつあり、それによって超有名アイドルの日本支配という目的を達成 させようとしている―そんな一般市民の考えを超越したような人物の存在がネット上にあった。

 

「このままでは、地 球だけではなく他の次元でも超有名アイドルが全てを掌握する世界が完成してしまう。それまでに―これを完成させないといけない。全ての世界で正常な音楽業 界として機能させる為―」

 足立区の毛長川近 くにある自宅兼研究室で作業をしていたのは、短髪に眼鏡、白衣と言う外見の長身男性―水凪(みずなぎ)シオンだった。彼は超有名アイドルが最近になって年 商600兆円に迫るような利益を得ている事に加え、ここ最近の超有名アイドル絡みの事件等を踏まえて、このままでは日本が破滅するのではないか…と思って いた。

しかし、一般市民と次元が違う思考をするシオンに賛同しようと考える 人物は未だに現れない。

「音楽業界を変える 為には、このような力で強行的に変えるしかないのか…。しかし、このような選択をしたとしても同じ事は何度も繰り返される。他の業界でも、何も事件が起こ らずに平穏に事が運んだ例は稀だ。音楽業界も、大幅な破壊で全てを無にする英断も必要になるのかもしれない―」

 シオンが研究して いたのは、デジタル楽曲からモンスターを生み出す玩具だった。一時期にバーコードを読み込む事でキャラクターを戦わせるゲームがあったのを思い出し、それ をヒントにして作っていたのだが…。

「これを、使うしか ないのか―」

 シオンの目を向け た先には、携帯型音楽プレイヤーがあった。その中には何かの楽曲が入っているような気配なのだが…。

「毒を以て毒を制す ―それでは音楽業界は疲弊し、やがてはバブル崩壊と同じような状態になるのは避けられない。他の世界線でもあったような事を起こしてはいけない―」

 夢の中でシオンが 見た物、それは日本であって日本ではない別の世界だった。そこではアイドルがパワードスーツを装着してステージで歌う、公道を音楽ゲームに例えて疾走する と言うプレイヤー、更には実際の街中で音楽メモリーを運ぶ運び屋…そんな別の世界で起こったような夢を毎日見ていく内に、シオンの考えは変わったのかもし れない。

        1―2

 

 シオンのネット発 言が若干になって風化しつつあった2013年8月第1週、一人の人物がシオンと同じように音楽業界の改革を強く望んでいたのである。

『今のような超有名 アイドルだけが売れるような音楽業界は、バブルの時代と全く同じです。どうして、それに気付かないの―』

 ネットの掲示板で はシオンとは違う口調で似たような発言を展開する人物が現れた事に驚きを隠せないユーザーが多かった。

『シオンとは別人ら しいが、あの別次元的な発想が周囲に伝達するのは避けたい―』

『超有名アイドルが いなければ、5000兆円以上の赤字国債の返済も不可能になると言うのに何と言う発言を―』

『超有名アイドルこ そ、地球を平和にする為の存在、それを否定する者は悪同然』

 超有名アイドルの ファンクラブ会員等はシオンを継承すると思われる、この人物の発言に対して敵意をむき出しにした。何としてもこの人物を消さなくては…と。

『事件に発展させる のはまずい。一歩間違えれば純粋なファンにも迷惑をかけかねない』

『誰が物理的に消す と言った。そんな事をすれば週刊誌やマスコミの思う壺だ』

『シオンが一時期 ネットから姿を消すきっかけになった事を忘れたのか。あれと同じ事をすればいい―』

 

 8月第2週、この 週にはさまざまなジャンルのシングルが発売されるのだが、その中でも超有名アイドルであるグループ50の新曲も発売する週だった。

「さて、と。今日 も…」

 いつも通りにパソ コンの電源を入れ、音楽系情報サイトにアクセスするのは、やや短めなツインテールに眼鏡、ジャージという女性だった。彼女は夏乃(なつの)ツバサ、シオン とは別に音楽業界を変えようと立ち上がった人物の一人である。

「これって、どうい う事なの?」

 ツバサの目にと まったニュース、それは衝撃的な内容だったのである。

【グループ50の新 曲、初日で500万枚を記録し、CDチャート1位確定か?】

 最初は偽の情報と ツバサは目を疑ったのだが、情報のソースを調べていくにつれて事実だと言う事が分かった。シオンの時は初日で200万枚の売り上げを記録し、最終的には 600万枚というCDセールスでチャートの1位を獲得したのだが、それを上回る初日だけで600万枚という数字は、どう考えてもダウンロード回数等も加え て500万なのでは―と考えた。

 

 8月第2週の週間 チャート発表日、ツバサの考えていた懸念は現実の物となった。

「やっぱり、これっ て…」

 チャートをチェッ クしていたツバサは衝撃のあまりに言葉を失った。グループ50の新曲は、発売第1週だけで1000万枚を突破したのである。こうなる事は初日の地点で想定 の範囲だったのだが、まさか1000万枚も売れるとは…想像以上に超有名アイドルに市場が依存している現状が分かる。

「今年だけでグルー プ50のシングルが500万枚を突破したのは、これで5枚目…」

 過去に一番売れた 曲が480万枚、この記録が破られたのが1年前にグループ50が出した曲で、これが最終的に800万枚を売り上げたのである。あの当時は発売第1週で 300万枚を突破した事に加え、気が付いてみると第1週だけで550万枚を売り上げ、日本で一番売れた曲として記録を更新したのである。このニュースは話 題になっていたのでツバサもある程度は知っていた。

「初日だけで100 万枚売れればニュースになるのは超有名アイドルの曲ばかり…チャートの集計方法に不正があったとしか考えられない―」

 チャートの集計方 法に関しては、一時期に予約キャンセルになった数をカウントした事や一部の有名アーティストに限ってチャートを運営する会社内で購入し、それをカウントす る等という噂話が話題になった事もあった位に全く信用されていなかった。一時期から第3者機関がCDチャートを管理するようになってから正常になったとも 言われているのだが、その真相は謎のままである。

「もう、音楽業界は 超有名アイドルによって占拠されても―」

 ツバサは若干だが 弱気になっていた。しかし、そんなツバサの考えを知ってか彼女を励まそうとしている人物がいた。

『諦めれば、そこで 超有名アイドルに屈した事になる。ならば、最後まで―』

 誰かは不明だが、 ツバサ宛に電子メールで送られてきた物だった。

「最後まで…?」

 一度は超有名アイ ドルに屈しる所だったツバサだったが、最後まであきらめずに訴え続けることにした。

 

『予想通りの展開に なったな―』

『しかし、今回の一 件でマスコミ等に我々の事が知れ渡り過ぎた。これ以上の水増し展開を続ければ、警察が動き出すのは―』

『だが、我々は政府 の半公認状態で超有名アイドルを底上げしているのだ。彼女達が売れれば売れる程、赤字国債を発行する額を抑える事も可能…日本は超有名アイドルの存在なし では経済が成り立たない位所まで来ているのだ。今、このタイミングで超有名アイドルが全て黒歴史になる事は避けなければ―』

 ネット上では、ツ バサが数日の間に書き込みに来なくなった事で脅威は去ったと判断する超有名アイドルファンクラブ、別名アイドル投資家が勝利宣言をしていたのである。

「そう言う事か―。 全て、アイドル投資家が影で日本経済を動かしていた、と…」

 一人の人物が喫茶 店でノートパソコンをチェックしていた。髪の色は青だが、染めている訳ではなくカツラである。身長は170前後、サングラスをしている為に細かい表情は確 認できないが、驚いているようにも見えたという…。

「競馬投資やFX投 資詐欺の次は、超有名アイドルのCDを投資対象とした新手の詐欺だったとは…。最近の音楽業界は、こういった犯罪行為を黙殺しなくては頂点に立てなくなっ たのか―」

 藍坂蒼(あいざ か・あおい)、彼女は過去に有名なバンドに所属しており、過去にはグループ50とCDリリースが重なったにもかかわらず1位を獲得した事もあった。この事 が影響したのかは不明だが、彼女の所属していた芸能事務所はグループ50の事務所に吸収され、バンドは解散となってしまったのである。今は音楽ゲームに楽 曲提供をする事もあるのだが、テレビで歌う機会は減ってしまったのだと言う…。

 

 1000万枚と言 う異常なヒットとなったグループ50の新曲は、その後にリリースされた有名アーティストの新曲でも売上枚数を更新する事は出来ず、2013年度のセールス 1位になるのでは…と誰もが思っていた。

『あの歌唱力で 1000万枚は釣り合わないだろう。ファンクラブ会員が10万枚単位で買い占めを行って水増ししたとしか考えられない』

『この曲の影響で、 日本の音楽業界が変な目で海外に見られているような気配がする』

『同人楽曲、音楽 ゲームの楽曲、この辺りばかりが海外のネット上で話題になっているのを見ると、グループ50は蚊帳の外状態になっているようにも見える』

 ファンクラブ以外 のユーザーは、グループ50が1000万枚のヒットを本当に記録したのかも疑わしい…と曲の完成度を見て考えるようになったのである。

『どう考えても、あ の芸能事務所が音楽業界だけではなく日本のありとあらゆる全てを掌握しているような気がしてならない。過去にシオンが言っていた話ではないが、アレが現実 になると…非常に怖い物を感じる』

『超有名アイドルの おかげで、過去に有名なアーティストもやっていた特典商法等が全て悪同然と見られるようになった。彼女達の影響でありとあらゆる物が全面規制された場合に は、日本経済は―』

『何としても全てを 規制される前に手を打たなければいけないだろう―』

『超有名アイドルを 色眼鏡で見ている市民にとっては、超有名アイドルも大幅規制するべきと考える者も出てくる―』

『今は大きな事件に はなっていないが、超有名アイドルのCDを購入し、それを転売した利益で儲けを得られる…と謳った詐欺やCDを購入する資金を得る為だけに偽グッズ等を オークションに販売するようなファンの存在も見過ごせないだろう。超有名アイドルが犯罪者を生み出すような存在であってはならないのだが…』

 色々な議論がネッ ト上で起こり、遂には国会も超有名アイドルブームが過熱している事に対して、ある発言を行った。

 

【今のままでは、赤 字国債の発行を抑える為だけに犯罪行為も黙認するような状態となってしまう。それだけは、どうしてもさけなくては―】

 10月初旬、この 発言を受けた事によって超有名アイドルの所属する大手芸能事務所を一斉に家宅捜索を行った結果、シオンが今まで発言してきた事の半分以上が事実だったとい う事が明らかになったのである。投資詐欺関連、CDチャートの意図的な不正、超有名アイドルのテレビ占有率を増やす等…さすがに人類掌握や世界征服等はネ タだったとしても、家宅捜索で次々と現れた決定的となった証拠の数々は、超有名アイドル規制法案を提案してもおかしくないレベルだったのは間違いない。

 

 こうした流れを受 けて、芸能事務所の家宅捜索を受けたグループ50や他の超有名アイドルグループは解散ではなく、黒歴史として存在その物を抹消されたのである。その中でも メンバーの中に投資詐欺の実行グループが存在していたグループ50に関しては、楽曲全てが廃盤扱いとなり、現在流通しているCD等も全て回収される事に なった。

『シオンの話が本当 だったとは…今でも信じがたいな』

『これでは、超有名 アイドルが音楽業界を全て牛耳っていたと言われても無理はないか』

『このままだと、シ オンの言っていた通りに音楽業界でも不況の波が来るのか―』

 警察の家宅捜索を 見守る事しかできない一般市民は、音楽業界が冬の時代に突入しないように祈るしか方法はなかった。

 

 家宅捜索が一段落 し、ニュースも超有名アイドル関連が少なくなった11月頃、音楽業界では一つの動きがあった。

「やっぱり、ここで も同じような流れになったようね。でも、どう考えても話の冒頭のはずなのに―」

 ネット上の音楽業 界情報を仕入れていたのは、黒のセミショートに歴戦の傭兵を思わせるようなジャケットを着ている女性だった。

「超有名アイドルに 代わる楽曲は、どこの世界でも同人音楽と音楽ゲーム楽曲―これも一種の避けられない宿命なのかな…」

 彼女の名は明日川 (あすかわ)セナ、超有名アイドルに関する研究成果らしき物をホームページにアップしている人物である。それ以外には、部屋に飾られたモデルガンの数々が 彼女の異質とも言える趣味を表しているのかもしれない。

「超有名アイドルの サクセスストーリー…と言うにはバグを利用したプレイやチートを使いすぎた結果が、今回の末路を招いたと考えれば…自業自得なのかもしれない」

 近年ではソーシャ ルゲームで密かにデバッグ等を理由に仕様を残している事が多く見られる。その中でも、アイテム増殖関連は悪用されればレアアイテムを増殖してオークション で転売する事も可能な恐ろしいバグなのである。実際、このバグを悪用してオークションで1億円以上を荒稼ぎし、その資金で超有名アイドルのCDを購入して いたファンクラブ会員等を逮捕したケースも存在しているという話である。

「バグを皆無にする 事は不可能でも、何かに悪用されるようなバグを意図して放置する事が許されるとは考えにくい。それに、そんなバグを放置すればリアルマネーもバブルを起こ すのは確定的に明らか―」

 セナは、今回の超 有名アイドル騒動の影には利益優先の方向で暴走した芸能事務所と超有名アイドルの宣伝に利用されたファンクラブ等に原因があるのでは…と思っていた。

「このような音楽業 界の流れは、どの世界でも繰り返してはならないと思っている―」

 

 一連の音楽業界を 取り巻く事件を重く見た政府は、遂に超有名アイドル商法に関して規制を盛り込む事を柱とした法案を閣議決定して、2014年1月から適用する事を決定した のである。その区切りを付ける為に日本限定で西暦を音鏡歴(おんきょうれき)と改めることにした。

 

 音鏡歴2014年 1月1日、その事件は予告なしに発生したのである。

 

    1―3

 

 1月1日午前3 時、神社では深夜の初詣客等が姿を見せている頃である。おけおめメールが年始では混雑するという理由で電話会社等ではメールや電話は控えるように…とお知 らせを出している―そんな状況で事件は起こったのである。

「電話が…つながら ない?」

 初詣に来ていた男 性は、知り合いに電話をかけようとしていたのだが全くつながらなかったのである。【お客様のおかけになった電話番号は…】に代表されるようなメッセージが 流れるような事無く、電話をかけても何も音がしない状態だった。

「メールも送れない のか?」

 別の男性は、ス マートフォンで新年のあいさつを書いた年賀状を電子メールで送ろうとしていたのだが、こちらも送信に失敗したらしい。原因は先程の電話をかけようとしてい た人物と同じらしい。

 

 しかし、この現象 はわずか15秒程で改善されたのである。その為か、一時的な回線の混雑や不具合と判断する人が大半だった。

『ネットの方も回線 がつながらなかったのだが…大丈夫なのか?』

『電話にネット、電 子メールも15秒間は全く使えなかったらしい。どういう事なのだろうか―』

『噂では未確認物体 がネットワークを掌握していたらしいという話もあるが、今の時期に未確認物体と言われてもピンと来ない―』

『15秒という時間 に何をしたのか気になる所だが…』

『発電所関係は異常 がなかったというニュースが流れているから、その辺りに関しては問題なかったのだろう。15秒間に電力などのライフラインも寸断されていたとしたら、一大 事になっていたのかもしれない―』

『ネットを掌握した のであれば、何処かのコンピュータにアクセスしていたのが有力だと思うが―』

 さまざまな説が飛 び交う中、ネット上で流れた未確認物体説は予想外の所で反響を生む事になる―。

 

 1月7日、一連の 事件から1週間が経過しようとしていた。日本各地のネットワークが何者かによって15秒間掌握されていたとする今回の事件、システムトラブルとも考えられ ていたのだが、政府が下した結論は予想の斜め上を行くような説だった。

『今回の事件は、何 者かが楽曲の原盤を補完しているサーバーに集中的なアクセスをしていた事による回線ダウンと判断しました―』

 事件の発端は、楽 曲の管理団体が担当している楽曲の原盤を保管サーバーが数回以上にわたって不正アクセスを受けていた事が原因だったのである。不正アクセスに使われていた のは、何と日本にある全ての光回線という大規模な物だった。その為、一時的に電話やメール等が日本全域で使用不可になっていたのである。

 

 政府の発表を聞い たネットの住民は集中的なアクセスによるサーバーダウンは間違いのない事実だが、回線ダウンに関しては疑問が多く残った。

【犯人が天才ハッ カー集団と仮定して、サーバーダウン以外に日本全域の回線が落ちると言うのは考えられるのか?】

 とあるまとめサイ トに、このような文章が掲載されていた。仮にハッカー集団が大規模な不正アクセスを行ったとして、サーバー以外の物がダウンする事があるのだろうか…。

『証拠を残さない為 に日本全域の回線をシャットダウンする必要性が―』

『信号や電車と言っ たような部分を意図的に避けて、電話やメール、ネットと言った光回線の類だけを集中的に使用して何かを探す必要があったのか?』

『楽曲の原盤を全て コピーして海外へ転売でも考えていたのか?』

『転売したとして も、何処かで足が付くのは確実だろう。原盤とはもっと別な物を―例えば超有名アイドルの楽曲とか―』

 そして、ネット住 民は今回の事件に関して一つの答えを出した。

【未確認の存在が、 超有名アイドルの楽曲に目を付けてサーバーへのアクセスを試みた結果、大規模な回線ダウンが起きた】

 

 それから1週間が 経過し、とある研究機関では謎の事件に関して一つの答えが出されていたのである。

「サーバーに荒らさ れたというよりは、何者かが破壊したような跡がある」

「しかし、あの時間 帯にサーバールームに人は誰もいなかった事は確認済みです。破壊するにしても、リモコン爆弾のような手段では周囲に被害が出る事は確実―」

「そうなると、光回 線経由で何かを送りこんで破壊したという事か。そうなると、送り込んだのはウイルスと言う事になるが―」

 内部のハードディ スクが破壊された何個かのサーバーを調査していた研修者達は、今回の事件で何者かがサーバーにウイルスを送信した事でディスクが破壊されたという答えを出 したのである。しかし、肝心のウイルスは発見できておらず、ディスクの修復も思うように進んでいない為、何のデータが持ちだされたりしたのかという部分も 謎のままになっていたのである。

「このサーバーに 入っていたのは、個人情報屋重要な機密情報ではなく、超有名アイドルの販売中止になった楽曲を一時的に保管していた物で、将来的にはディスクの内容も削除 する流れだったようです」

 研究員の一人が管 理団体のスタッフに事情聴取を行っていた所、この中に入っていた物は超有名アイドルの楽曲である事が判明したのである。

「入っている中身が 分かれば、調査の必要性もないか。事件性はなく、単純に何かの実験をしていた…と言う事か」

 最終的には、今回 の回線ダウンに関してはハッカーによる新型ウイルスの実験…と言う事でレポートをまとめる事にした。

 

「なるほど。新種の ウイルスか…」

 一連のレポートを 見ていたのはシオンだった。彼らはウイルスとまとめていた物、それはデジタルクリーチャーなのでは…と思っていたのである。

「向こうは向こうで 動いているようだが、こちらは―」

 シオンの目線に は、剣をいくつにも合体させたようなシールドが1セットあった。

 

    1‐4

 

 4月1日、人々か らは例の事件が忘れられている頃に異変は起こった。

「一体、どうなって ―?」

 メダルゲームをプ レイしていたサラリーマンの男性は、流れてきた音楽が実際のゲームで使われている音楽ではない事に違和感を持った。

「これは、どう考え てもおかしい―」

 一方、同じゲーム センターで音楽ゲームをプレイしていた客も流れている音楽が先程までプレイしていた曲とは違う事に違和感を持った。隠し楽曲の可能性等も考えていたのだ が、それにしては聞き覚えのある楽曲だった為に違和感の方が大きかった。

「もしかすると、こ の曲は超有名アイドルの楽曲じゃないのか?」

 別の客が店内に設 置されたゲームの曲を聞いて聞き覚えがある…と。

「確かに、この曲は 廃盤になっていた曲で間違いはないが、どうしてこの曲が―」

 状況を静観してい た客の一人は、この曲が廃盤になっている曲と即答したが…。

 

 ゲーセンから出る 客の一部は、目の前で広がっている光景を見て驚きを隠せなかった。

「あの怪物は何だ ―」

 突如として、草加 市に現れたのは機械の鎧を身に付けたような怪獣である。中には完全な人型も存在したが、基本的には鳥型や恐竜型、動物型等が存在していた。その数は100 以上にも及ぶ。

「もしかして、あれ が未確認物体の正体だったのか?」

 人々が忘れかけて いた例の事件、全ては今回の行動を起こす為のテストケースだったのかもしれない…とネット上では話題になっていたのである。楽曲の差し替えだけの場合は悪 戯等で処理していたかもしれないが、外の光景は悪戯というスケールをはるかに凌駕していた物だった。

「なんだって…?」

 スマートフォンで 情報を探していた市民の一人が、同じような怪物が東京にも現れているというニュースを見つけた。物的損害は出ていないのだが市民がパニックを起こしている 事で2次災害が起こる事も考えられる―。

 

「これはどういう事 だ―」

 国会議事堂で状況 を静観していた総理大臣だったが、ここまでの騒動になったのには何か原因があるのでは…と調査を指示していたのである。

「おそらくは、これ が目的かと―」

 秘書らしき議員が 総理に渡したのは、超有名アイドルの規制法案を廃案にする為に活動する組織のビラである。

【日本経済を救う為 にも、超有名アイドルの復活は必須。今こそ、超有名アイドル復権の為に力を―】

 組織の名前はア ヴェンジャー、超有名アイドルを黒歴史に追いやった政府や超有名アイドル反対派を排除する為に動きだした組織らしいのだが―。

「しかし、あの怪物 に銃火器は全く効果がないという報告が来ている。我々の戦力や技術では限界があるのか―」

 総理は悩んでい た。そんな状況の中、秘書の携帯電話が鳴りだした。

「―今すぐ総理に会 いたい? 何を馬鹿な事を言って…」

 秘書は総理に会い たいと言う人物を追い返そうと考えていた。しかし、ある一言を聞いた秘書は…。

「その話、本当か?  それが嘘だった場合の覚悟は出来ているか―」

 秘書は電話をかけ て来た人物を議事堂の中へ入れることにした。怪物への対抗手段がある―という彼の話を信じて。

「既に議事堂の正門 にいるのか。ならば、警備員に連絡して通すように―」

 秘書は、彼の話を 信じて議事堂の中へ入れることにしたのである。

「その人物、信用出 来るのか?」

 総理の一言を聞い て、秘書はこう答えた。

「某研究機関のス タッフと―彼は言っていました。例の音楽技術を研究している人物であれば間違いはないと思います」

 

 電話から数分後、 その人物は総理大臣の前に現れた。白衣に謎のトランクケース、顔はドラゴンの覆面で正体が分からないようになっている。

「顔に関しては、こ ちらも別の組織に狙われている身ですので―」

 彼は、覆面に関し て総理大臣からツッコミがあるのではないか…と予測して発言する。

「早速だが、あの怪 物に対抗できる手段と言う物を見せてもらいたい―」

 総理の言葉を聞い たドラゴンの覆面はケースの封印を解き、中身を見せる。

「これは、音鏡武装 ―またの名をミュージックバーストと言う兵器です。これがあれば例の怪物にも対抗できるでしょう―」

 音鏡(おんきょ う)武装、それは来たる時に姿を現すと言われている敵―デジタルクリーチャーに対抗する為に作りだした武器であり、唯一の対抗手段である。このミュージッ クバーストさえあれば…。

「注意していただき たい事が一つ…これは誰にでも使える訳ではありません。この武器を渡すにふさわしい人物を選び、その人物に託そうと考えております。既に量産型の生産は完 了しており、後は適合者を見つけるのみになっています」

 全ては準備万端 だったのか…と彼の説明を聞いて驚いた。ここまで手回しが良いと、逆に彼の正体を疑いたくなるのだが、総理大臣は最後まで口にする事はなかった。

「分かった。君の意 見を採用する―」

 総理大臣は、彼の 意見を取り入れて音鏡武装の適合者を探す為のステージを用意する事を約束した。

「ステージは出来る 事なら、既にテレビ局へ同様の書類を渡している関係上、テレビでの中継を認めていただければ―」

 彼は公正な選考会 にする為、予選等の一部例外を除いて生中継にして欲しいと要望を出したのである。総理大臣もテレビ局の許可が下りれば、それに了承をすると追加の要望に関 しても飲む事にした。

「では、こちらもテ レビ局との交渉がありますので―」

 最後に言い残し、 彼は議事堂を後にした。

「完全に彼のペース のようでしたが…」

「大丈夫だ。向こう は、何かを握っているように見えるが…こちらとて黙って全ての要望を受け入れる訳ではない―」

 秘書は総理に対し て心配をしていたが、本人はいたって冷静のようだ。

「あの組織が超有名 アイドルの復権を望むのであれば―」

 総理は彼や他の人 物にも話さない何かを隠しているようでもあった。

 

「全ては、超有名ア イドル商法が全ての過ちだったと元ファンクラブや一般市民にも理解させなければ…これはただの―」

 ドラゴンの覆面を 外し、シオンは次の目的地であるテレビ局へと移動する。

「アヴェンジャーは 上手く動いているようだが、警察もアヴェンジャーの存在に気付いた以上は近い内に家宅捜索が入るのも時間の問題か。これは急がなければ―」

 シオンは何かを急 いでいるようにも見えていた。焦りは禁物なのだが、彼を含めて一刻の猶予も許されない瀬戸際に音楽業界が立たされている証拠でもあった。

 

 六本木にあるテレ ビ局に到着したシオンを待っていたのは、藍坂蒼だった。待っていたというよりは別のゲーム会社へ向かった帰りと言う方が正しいのかもしれない。

「シオン、あなたは 何を考えているのか―」

 藍坂の質問にも耳 を傾けずにシオンはテレビ局へと入っていった。

「これは…」

 藍坂の手には1枚 のDVD―ROMが握られていた。シオンが手渡そうとしていた物かは不明だが…。

「今は何も話せな い…と言う事か」

 一応の収穫があっ た藍坂は、これ以上の長居は無用と判断して帰宅する事にした。

 

「過去にスポーツ番 組で功績もあれば、中には失敗をしてしまった一例もある。それらを踏まえて、この案は一通り読んでいただけたでしょうか?」

 会議室でシオンは 目の前にいる3名の男性スタッフと打ち合わせをしている。

「確かに、我々は過 去にスポーツ選手のナンバー1を決める番組等を企画した事がありますが―。これは、かなりの無茶があるような気配もします」

「一般視聴者とプロ スポーツ選手では体力も違えば、運動能力も段違いです。それを競わせるのは過去に例もありますが―」

「ここ最近は、クイ ズ番組等でも一般視聴者よりは芸能人や超有名アイドルを起用して視聴率を稼ごうとするケースが多い、この企画が成功するかどうかは―」

 シオンの企画書を チェックしたプロデューサー達も成功するかは五分五分と言う判断をしていた。しかし、政府の後ろ盾があると言うシオンの話を聞いて最終的にはシオンに一任 する事で番組を放送する事を決定した。

「放送は4月3日の 午後8時台でお願いしたいと思います。既に司会の方も1名は確保済みですので―」

 シオン側は日程等 も事前に決めていた事にプロデューサー勢は驚くばかりだった。

「あの時間帯は、番 組未定のスペースになっていたから問題はないだろうが―」

「あれだけのセット をそれまでに用意するのは無茶な話だと思う。今は4月2日…」

「皆さんの意見も一 理あります。放送第1回は、こちらの趣旨説明もする必要がありますので―出場者募集を兼ねたミニ番組と言う事で進行しようと考えております。本格的にス テージを行うのは、来週の10日から―」

 プロデューサー達 は約1日でセットを用意できるはずはない…と猛反対したが、シオンは第1回に関しては番組の趣旨説明や参加者募集に使用すると言う事で説得をした。

「もう一つのお願い は、政府が援助している等の関係もありますが―」

 シオンの説明を聞 いてプロデューサー達は困惑をしたが、テストケースと割り切る事でお願いを受けることにした。

 

 その頃、テレビ局 を出ようとしていたシオンに襲い掛かる一つの影があった。

「水凪シオン、音楽 業界その物を潰そうと考えている巨悪はお前か?」

 白い忍び装束に ビーム刃のカタナ、見た目はアヴェンジャーの刺客ではないように見えるのだが、シオンには思い当たる組織がなかったのである。

「私が音楽業界を潰 す? どこのだれからの情報だ?」

 シオンは何もない ような空間から、大型のシールドに見えるような武器を出現させたのである。忍者の人物もどんな手品を使ったのか…と驚いたような表情を見せたが、シオンを 倒さなければ音楽業界は変わらないと言う事実も―。

「しかし、私が無策 で音楽業界を変えようとでも本気で思っていたのか?」

 忍者が刀を振り下 ろすが、シールドを分離させたショートソードでシオンは瞬時にはじき返したのである。あまりの手際良さに忍者は撤退しようと煙玉を用意したが―。

「そうはいかない ―」

 シオンが指を鳴ら すと、道路に突き刺していた大型剣が5本の件に分離し、その内の2本が忍者の煙玉を弾き飛ばしたのである。

「なんてものを用意 ―」

 かく乱させる手段 を失った忍者は何とか逃げようとしていたが、最終的にはシオンに追い詰められて逃げる事は出来なかった。

「アヴェンジャーで ないとすれば、お前は何者だ?」

 シオンは忍者の人 物を問い詰めるが、自分から喋るような気配はない。だからと言って警察に身柄を渡したとしても同じ結果になる事は目に見えている。そこでシオンは、ある事 を思いついた。

「丁度、とある番組 の司会を担当する人材を探していたのだが―やってみるか?」

 警察の世話になっ て自分の身分を明らかにされるよりも、シオン公認で番組の司会をする事で襲撃のチャンスを狙う…それも一理あるかもしれない。

「いいだろう。その 話、乗った」

 忍者の装束を脱い で姿を見せたのは、事務員を思わせるような女性だった。名前はユニオン、これが本名なのか偽名なのかは不明である。

 

「なるほど―別の組 織もシオンの首を狙っていたのですか」

 一連の流れを見て いたのは、執事の格好をした身長170センチ位の男性である。彼はアヴェンジャーでも信頼におけるポジションに付いている人物で、チェイサーと呼ばれてい る。

「業界にとって、例 の法案は死活問題というのはどこも同じですか―」

  何かを確認し、チェイサーは姿を消した。