0:先行稼働とロケ テスト

 

 メタトロンと二人 でゲーセンへ入ると、最初に目に入ったのはぬいぐるみやフィギュア等が景品となっているプライズゲーム…。

「プライズゲームは 一時期ブームにもなったのだが、今は安定しているような印象を受ける。人気作品のフィギュア等にはプレイが集中するようなケースもあるが…この辺りは物に もよるか」

 メタトロンはプラ イズゲームをプレイするような気配は見せずに、奥の方に何かがあるとばかりに進んで行く。

「音楽ゲームは、こ こ最近では話題のライセンス曲で勝負するタイプが多くなっているように見える。音楽ゲームオリジナル楽曲で勝負するような機種は少ないというか…機種が限 られるだろう―」

 次に通過したの は、音楽ゲームのコーナーだった。上から落ちてくるノーツをタイミング良くボタンを押す事で演奏するタイプやギターやドラム、太鼓などがベースとなった機 種等もある。その中で、異色を放っていたのは銃を使って射的をするようなタイプの音楽ゲームだった。

「銃を使っていると 思ったら、良く見ると銃剣とは驚いた」

 遠くからでは拳銃 にしか見えなかったそれは、何とガンブレードと呼ばれるようなタイプの銃剣だったのである。

「銃で的を落として いると思ったら、次は剣で斬っている―」

 このゲームはどん な作品なのか…とメタトロンに尋ねると、少し前には全国大会も開かれていた程の規模を誇る音楽ゲームだった事を話してくれた。銃剣以外にも、剣、槍、弓等 と言ったタイプの武器で音楽ゲームのように飛んでくるノーツを撃ち落とすようなタイプのゲームらしい。

「今でも全国大会は 行われているが昔ほどの異常な程の盛り上がりはなく、落ち着いているような気配だろう。ファンが離れたというよりは新規客層を取り入れるのに苦戦している という感じがするのかもしれない―」

 この作品は、メタ トロンもプレイしているゲームなのだが、慣れるには時間がかかったという。音楽ゲームの場合は慣れるよりも感じろ…という部分もあるかもしれないが、その 辺りは十人十色の考え方がある―とメタトロンは言っていた。

 

 次に通ったのは、 対戦台や練習台等も並ぶ格闘ゲームのコーナーだった。

『格闘ゲームと言う と、2Dか3D、リアル系かスーパー系か、システム重視、キャラクターのカスタマイズ…色々と思い浮かぶだろう―』

 通路を挟むような 形でいくつかの格闘ゲームが稼働している。これらの格闘ゲームの基礎となる部分は既に20年近く前には完成していたのだという…。

「最初にゲームセン ターで稼働していたジャンルはシューティングだったという―。その後にアクションゲームが生まれ、対戦格闘の基礎となる作品が生まれた。音楽ゲームが生ま れたのがそれよりも後の話と言う事を考えると、格闘ゲームの方は歴史が古いのが分かるだろう―」

 しばらく2人で話 をしながら奥の方へと進んで行く。そして、若干だが大きな歓声が聞こえる一角に到着した。

「これが、君に見せ たかった新しい格闘ゲームのファイティングアリーナだ」

 観客が邪魔で画面 も何も見えないが、新作ゲームのロケテストが行われている一角が見えた。

「これって、どうい う事ですか?」

 そこで行われてい た事に関して、驚きを隠せなかった。

 

 ファイティングア リーナ、それは実際の数メートルにも及ぶ四角いリングに立って戦うという対戦格闘である。ストーリーモードのような要素は搭載されておらず、対人戦に特化 させたシステムになっている。

「対戦格闘ゲームで は、自分の使用するキャラクターを選択し、その後にストーリーモード等の選択があった。この作品では、ストーリーモードは廃止して対人戦に特化させた作品 になっている。プレイヤーが自分自身…という事情もあるかもしれないが―」

 メタトロンが説明 をする。どうやら、ポスターに書いてあったキャッチコピーは本当だったようである。自分がプレイヤーになりきる対戦格闘ゲーム…。ある意味でリアルを追求 した結果が、このファイティングアリーナなのかもしれない…と。

「最大のネックは設 置場所だろう。導入するとしても2台の大型モニター、エントリー用の機械等を置く場所と四角いリングのスペースを確保するのが大変だろう。リングで大量の スペースを消費する関係もあって、他の筐体を置いた方が利益は上がる…と考えるゲーセンも少なくはないだろう。それに、簡単にプレイ出来ないという点でも ―」

 簡単にプレイ出来 ないというメタトロンの発言を聞いて、どういう事なのか説明を聞こうとした所、彼は近くに置いてあったパンフレットを1冊持ってきてくれた。

「えっ?」

 パンフレットの大 きさにも驚くのだが、その厚さはゲーセンで配布されているような小冊子のようなパンフレットとは違った。まるで、週刊漫画雑誌位―とまではいかないがA4 サイズで50ページ位の厚さがある。

「これはあくまでロ ケテスト仕様だ。実際に稼働するとすればページ数は多くなる。メインは操作方法よりもエントリー条件の方が項目としては多いだろう」

 メタトロンに指摘 されて目次を見ると、確かに操作方法はごく簡単なパンチやキックの出し方、投げ技や掴み技、ガードの説明等と格闘ゲームにしては少ないように思えた。残り は、システムやプレイヤーとしての参加条件等がメインになっている。

「最大で5、最低で 1の数値をメインとなるパラメーターに振り分け…って、格闘ゲームにしてはパラメーターの項目が少ないように見える―」

 項目は攻撃、防 御、素早さの3つのみになっており、他のパラメーターは存在しないようだ。格闘ゲームだと他にも色々と内部でパラメーター等が存在しているのだが、この作 品では簡素化しているのだろうか?

「バトルは3分3ラ ウンド制…これは実際の格闘技でも同じ手法が取り入れられているように―体力ゲージ?」

 対戦は3分3ラウ ンドで行われ、体力ゲージが0になると敗北のようだ。総合格闘技等ではダウンが取られるのだが、この辺りは格闘ゲームを参考にしてスピーディーに試合が流 れるようにしているらしい。

「ダメージに関して は、現実的な痛みは大きく緩和されるようにシステムで制御…?」

 簡単に説明されて いるが、この項目だけがどうしても分からなかった。普通に画面に表示された相手を殴るだけだったら、疲れと言う物はあっても痛みと言う概念は存在しないは ず。しかし、その疑問は―。

 

 対戦相手が叩きつ けられた影響で、リングが若干揺れる。叩きつけられた相手をよく見てみると、テレビでも見覚えのあるような覆面格闘家だったのである。

「この人は確か、ラ イオンの覆面でも有名な総合格闘家のクローム…」

 身長190セン チ、体重も100キロ近くはあるだろう。総合格闘技をやっているようなごつい身体をしている。実際の戦歴も150戦で90勝と決して負けているとは言えな い。そのクロームがファイティングアリーナでは、対戦相手に一方的にダメージを受けていたのである。体力ゲージを示すモニターを見てみると、クロームの体 力ゲージは5割を切ろうとしていた。一方、相手の体力ゲージは9割近く残っている。

「女だと思って、甘 く見ていたか―」

 クロームの目の前 にいるのは、水色と白をベースとした縞々ビキニに金髪のセミショートヘア、強化プラスチック製グラスのメガネをかけた女性だったのである。体格はクローム よりも身長や体格等が少し小さい印象を持つ。そんな相手にクロームは全力を出しているにも関わらず、彼女に対して投げ技を決めた1度しか有効打を与えてい ない。

「総合の経験者って 聞いていたけど…ファイティングアリーナだと、やっぱり勝手が違うのかな―」

 彼女はモニターの 体力ゲージを確認、残り時間も少ない為に一発で決める事にした。

「消えた…だと?」

 クロームの視界か ら彼女の姿が消えた―と思われていたが、彼が身構えようとした瞬間には既に彼女は背後にいたのである。

「これで、どう だ!」

 足が一瞬見えなく なる程の速度で放ったかかと落としは相手を見事に沈めたのである。

『ウイナー、獅燕(シエン)!』

 機械的なシステム ボイスが勝者である獅燕の勝利を告げる。あれだけの体格差があるにも関わらず、獅燕は総合格闘技経験者を見事に倒したのである。それは、格闘ゲームで小柄 のファイターが巨体のファイターを倒すような…そんな光景だった。

「第2ラウンドもあ るわよ―」

 クロームの方は戦 意喪失に近い状態だったが、バトルは第2ラウンドも行われた。結果は獅燕のストレート勝ちである。

 

「総合格闘技では有 名な人物でも、このファイティングアリーナでは…ご覧の通りだ」

 試合の結果に驚い ている彼を見て、メタトロンは肩を叩く。総合格闘技等の経験者であろうと、総合等とはルールも試合形式も異なるファイティングアリーナでは初心者同然であ る―と。

「格闘ゲームの経験 者であっても、獅燕に勝つ事は難しい。気になるのであれば、データベースを確認してみると良い―」

 メタトロンに言わ れる通りに、リング外にある選手エントリー用機械の隣に置いてあったモニター付きのデータベースを確認する。

「これは…?」

 驚くべきデータを 発見した。獅燕は序盤で敗北を重ねているものの、30戦を過ぎた辺りでは連勝記録を塗り替えるかのように勝利を繰り返している。しかも、彼女が戦った相手 の中には元ボクサーやプロレスラー、総合格闘家も何人か確認出来る。彼女の恐ろしい所は、ロケテストでのランキングが2位である事だ。彼女よりも強力な選 手が、あと1人存在するという事になる。データを見ると男性プレイヤーで、1100戦690勝という勝率7割に近いプレイヤーだった。彼のスタイルは総合 というよりは、パンチを中心にしたボクシングに近い物らしい。パラメーターを見ると、攻撃4、防御3、素早さ3…若干だが攻撃に重点を置いたタイプである 事が分かる。

「獅燕の方は―何、 これ?」

 自分の目を疑っ た。獅燕は攻撃4、防御は最低の1、素早さは最高の5が振り分けられている。下手をすれば、攻撃5のプレイヤーが放つパンチでも致命傷になるような紙装甲 とも言える状態で戦っていたのである。

「この数値で、あれ だけの体力を残して勝利していた―?」

 この数値を見て、 改めてクロームとの試合結果を思い出す。第1ラウンドでは体力が9割残っている状態で勝利、第2ラウンドも体力は8割近くあった。獅燕はガードが下手かと 言うと全く違う。彼女は、ガードするよりも先に相手の攻撃を見切っており、それを素早く回避してカウンターを決める―そんなスタイルで戦っている。ベース となっているのは空手なのだが、彼女はかかと落としや飛び膝蹴り、回し蹴り等の足技がメインになっているような気がする。

「手は主に相手のパ ンチを止めるという動作のみに使用し、主に足技…と言う事か」

 実際の格闘技で使 うようなテクニックではなく、彼女の場合は格闘ゲームの技などを若干アレンジして利用しているような気配がする。さすがに、気を利用して飛ばすような飛び 道具は…無理のようだが。

 

 ロケテというより も、このケースは先行稼働のような気配のファイティングアリーナは草加市内でも10のゲームセンターで稼働と言う事になった。プレイする為には、運営委員 会にライセンス申請をして審査を通過しなくてはならないという―格闘ゲームとしてはプレイするのにも早くて数日、長いと1週 間は待たなくてはならない手続きが必要だったのである。

「早速並んでい る…?」

 ファイティングア リーナにはいつも長蛇の列が出来るのだが、この列はライセンス申請の為の物である。実際にリングに上がってプレイする人間もいるが、ロケテスト用の仮ライ センスを正式ラインセンスに変更したプレイヤーが大半である。

「それにしても、こ こまで厳しい条件があるとは…予想外だな」

「ファイティングア リーナも、一種のプロ格闘技団体と同じような物と言う事か」

「これだったら、画 面に映った相手を攻撃するようなタイプの格闘ゲームでも良かったのでは―」

 周囲からは、そん な声が聞こえる。余計なトラブルを持ちこまれる事を避ける為…と言えば聞こえは良いのかもしれないが、他の格闘ゲームのように手軽にプレイ出来るような機 種ではないのは間違いない。

 エントリーシート と注意書きの書かれたパンフレットを受け取り、店内に設けられたエントリーシートの記入スペースで必要事項を記入する。この光景は他ジャンルのゲームを目 当てでゲーセンへ来ている一般客にとっては不思議に思えた。どうして、ゲームをプレイするだけなのにエントリーシートが必要なのか…と。

「武器に関しては使 用可能ですが、事前に運営委員会に資料及び写真を提出する必要があります。なお、実弾を発射可能な拳銃及び殺傷能力のある刀剣類の登録は出来ません―」

 黒髪にインカム、 何処かの事務員を思わせる服装という特徴のある女性がパンフレットを読みながらエントリーシートに必要事項を書き込む。彼女もファイティングアリーナに登 録しようと考えている人物のようだ。

【反社会的組織の関 係者は登録できません】

 彼女でなくても、 エントリーを考えようとした人たちが驚いたのは、この一文だった。

「ここ最近は、反社 会的組織の摘発などが活発になっているのが影響しているのかな―」

 彼女は、そう思い つつもサラリーマンの項目にチェックを入れた。

 

 反社会的組織以外 にも、さまざまな理由で登録が不可能とされている職種がファイティングアリーナには存在する。元格闘家やプロ格闘家、アマチュア選手はロケテストでも多く 見かけた為に問題はないのだが…。

「政治家や議員等の 政府関係者、芸能アイドル及び芸能プロダクション関係者、テレビ局関係―政治家は選挙などに利用されるという観点で登録不可としても、他は―」

 彼女はアイドルや 芸能人等が登録不可能にしているのはどうしてか…と思った。パンフレットをペラペラとめくっていくと、そこの答えが実際に書いてあったのである。

【過度なPR活動、 やらせ試合等を防止する観点からテレビ局関係者及び芸能プロダクション関係者、アイドル等の参加を禁止といたしております。自分の身分を隠しての登録は禁 止しており、これを破った場合には関係する芸能事務所等の実名公表等を即座に行う事があります―】

 確かに一部のオン ラインゲームにはやらせ等を防ぐ観点で色々なルールが設定されている物も存在するが、まさかここまで…と言うような注意書きに彼女は驚いていた。反社会的 組織の登録禁止もそうだが、格闘ゲームのプレイをするのにここまでするのか…と誰もが思う所だろう。

「確かに、ここの所 の芸能界における反社会的勢力などを排除する運動は行われているけど、ファイティングアリーナでは…」

 更に彼女はページ をめくる。すると、1枚のカラーチラシがページとページの間に挟まっていた。そこに書かれていたの は―。

【警察と協力して、 ファイティングアリーナへの反社会的勢力の介入を未然に防ぐ為、有力情報には賞金として―】

 警察と連携して反 社会的勢力および組織等を水際で摘発しているというチラシだったのである。更には、有力な情報提供者には賞金を出すという事も書かれていた。

「これが、ファイト マネーの代わり…という事なのね」

 埼玉県内では、こ こ1週間で反社会的勢力や組織の摘発に関するニュースが連日報道されている。撲滅とまではいかない が、県内で確認されている事務所の8割以上が警察に摘発されて閉鎖に追い込まれている。これだけ短期間に組織の一斉摘発がされているのには何か裏があると 思われていたが…。

「仮にファイティン グアリーナが全国稼働となれば、日本全国の反社会的勢力を一掃する事も可能か―」

 しかし、疑問も残 る。仮に反社会的勢力などが一掃されたとしても、活動場所が海外へ移った場合はどうするのか…あるいはもっと別の組織と組んだ場合は―。

「結局はモグラたた きのような状態…と言う事―。規制をしたとしても、その穴をすり抜けて活動を続ける所は存在する―それでも活動を続けようと考えるなら…」

 彼女はエントリー シートを書きながら考えた。ファイティングアリーナと言う格闘ゲームを隠れ蓑に反社会的勢力を一掃しようと考えている警察の考えが完全に的中するかどうか 分からない…と。運営委員会の内部に別の反社会的勢力の関係者が紛れ込む可能性も否定できない事、筐体が設置されているゲーセンが都市部等に集中し過ぎて いる事等…疑問点は多く残る。

「この流れに乗るべ きなのか…」

 考えている内にエ ントリーシートを全て書き終えた彼女は、シートをスタッフに渡すのだが…渡されたスタッフの顔は困惑の表情を見せていた。

「重要な項目の不備 は特にないのですが…エントリーネームが既に申請待ちのプレイヤーと被る恐れがあるので、変更をお願いしてもよろしいでしょうか?」

 何と、彼女がエン トリーしようとしたネームでは申請中のプレイヤーとネームが被る可能性があると指摘されたのである。仕方がないので、ネームの変更をする事になった。

「音楽ゲームでも被 る事はなかったのに…今回に限って―」

 新しいネームを考 えていた彼女は、隣にあったプライズゲームのパンダ柄パーカーを着たフィギュアが目に入る。そして、次の瞬間にはエントリーシートの修正を後回しにしてプ ライズゲームの方を始めていた。

「あと少し…」

 プレイしているプ ライズゲームはクレーンで景品を吊り上げるタイプで、フィギュアの箱には吊り上げ用の輪が付いている。この輪の中にクレーンを入れ、それから吊り上げて指 定エリアで落とすと景品をゲット出来る。

「上手く吊り上げた けど…途中で落ちないか心配―? あれっ、あっさり取れた」

 吊り上げ方がベス トなパターンではなかった為か、指定エリアまで到達するか心配していたのだが―景品は無事にゲット出来たのである。

「これが最近の流行 なのかなぁ…」

 フィギュアはパン ダ柄パーカーを着た女性で、パーカーの取り外しは出来ないが、パーカーの下は水着というセクシーな仕様になっていたのである。そして、彼女は閃いた。

「これで行こう―」

 そして、エント リーシートを若干書きなおし、再び同じスタッフに渡した。

「衣装に関しても被 り等はありません。ネームに関しても確認しましたが、特に問題のある名前ではないので大丈夫です」

 明らかに先ほどの プライズで取ったフィギュアから名前を取ったような気配だが、普通に登録出来た事に彼女は驚いた。

「衣装の被りとか… 他社ネタとかは大丈夫なのですか?」

「既に他社格闘ゲー ムのコスプレで登録をしている人もいるので特に問題は…唯一あるとすれば全裸とか全裸スーツ辺りですね」

 彼女の質問に、ス タッフはあっさりと答える。他社格闘ゲームに登場するキャラのコスプレでも大丈夫だったとは…驚きである。

「他社格闘ゲームの 場合は、大会等では衣装制限がかかる可能性もあるので、その辺りだけはアドバイスしていますが…基本的には事前にメーカー側に許可を得てからになるので問 題はありません」

 若干何かが引っか かるような説明ではあるのだが、一応は大丈夫らしい。ただし、全国大会等では使用できない可能性がある部分だけは同意して欲しい…と言う事らしい。

「エントリーシート の記入に関しては、これで終了です。次は指定日にメディカルチェックを行い、問題があれば面接を行います―」

 格闘技団体に入る 感じがする位に、ファイティングアリーナではさまざまなチェックが事前に行われる。メディカルチェックは格闘技の試合前に行われる物と同じで、格闘技系出 身が多い事にも関係があるのだろうか…と思う所はある。

メディカルチェックでは、持病の有無や通院歴もチェックされ、試合が 出来るような状態ではない事が判断された場合は不合格となる。その他にも、ドラッグの類やドーピング等が発覚すれば即座に実名公表される仕組みにもなって いる。ドラッグの場合は警察が入手経路を調査、数日中にはスピード摘発という流れになっているのには驚きを隠せない。

既に県内では9割に近いバイヤーが大量に検挙、摘発率も全国1位となっている。警察と連携を取って反社会的勢力の介入を防いでいるという点では、一定以上の成果を見せ ているのでは…と思う。

「これは表向きで、 本当は影で―」

 誰もがそう思って いるだろう。それに加えて出来過ぎているとしか思えない一連の摘発や組織等の検挙…彼女は一大決心をして運営委員会へ潜入調査をする事にした。

 

 ロケテと言う名の 先行稼働から3カ月が経過した4月…ある格闘ゲームのイベントに関する話が運営委員会にも入ってきた。

「今年もあるのか… 格闘神が」

「このイベントを利 用して、ファイティングアリーナを広げ、最終的には反社会的勢力などを日本から一掃という事ですな―」

「格闘神は、年に一 度の格闘ゲームイベントでも最大規模を誇る。このイベントで採用される事はファイティングアリーナを日本中に広める為の第一歩にもなる」

 運営委員会の入っ た松原団地某所にあるビルで会議が行われていた中で、談話と言う形で格闘神に関する話題が出て来た。

 

 格闘神(かくとうしん)、年に一度行われる格闘ゲームイベ ントで簡単に表現すれば格闘ゲームを集めた国体―とも言うべきだろうか。この格闘神に選ばれる事は最大の名誉とされ、宣伝効果もかなりの物となる。格闘神 に選ばれれば予選を開く為に対象となる筐体を注文するだろう。予選に出場しようと練習をするプレイヤーが増えれば、それだけ店側にも利益が出るのは間違い ない。

「ファイティングア リーナが格闘神にエントリーされるとなれば収益面以上に、我々が本来進めている例の計画をスムーズに進める事も可能になるだろう」

「あの計画の事です ね…。警察の方も既に協力体制は出来ているとの事ですが―」

 幹部達は計画の事 に関しては、詳しく話そうとは全くしない。他の出席者は疑問に思う所もあるのだが、その疑問を解決させるべき説明を幹部や担当が全くしていない。他の人物 に無暗に話して情報が外部に流れるのを懸念しているのか、それとも…?

「格闘神への根回し は終わっています。他の格闘ゲームやプレイヤー等の事もあって、下手な疑いがかかるのを防ぐのに若干の時間がかかりましたが―」

「格闘ゲームは音楽 ゲームと違って、多数の会社が競争をしている激戦区―この格闘ゲームでシェア上位になる事はゲーセン業界を半分制した事を意味する―」

「後は、格闘神の対 象となる作品が発表される時を待とう。全ては、それからだ」

 会議は30分も立 たないうちに解散、スタッフは運営委員会に持ち込まれたエントリーシートの審査をする作業に移った。

 

 先行稼働の最終結 果がユーザーによる集計で発表され、予想通りに1位のプレイヤーが連勝を重ねなくても最終的には1000勝を突破と言う事になった。しかし、彼よりも注目 されていたのは2位の獅燕である。

『200連勝…?』

『最初の方は負けて いたが、途中から負けなしで連勝を重ねていたのか…』

『1位のプレイヤー でも80連勝で止まったというのに、何と言う実力者―』

 獅燕は外見が縞々 のビキニである事も注目を浴びる理由の一つだが、外見以上に素早い動きや的確な攻撃回避、プロ格闘家相手でも全く動じないような場数の多さ等…1位のプレ イヤーは、外見が地味等という理由で注目されていないのではない事を証明するデータが支援には存在しているのである。

『3位の人物も油断 できないな…特に連勝記録と言えるような物はないが、個別でメダルを取っているバトルもある』

 3位のデータを見 ると、連勝記録は30程度で上位の2人と比べると見劣りする箇所はある。しかし、それ以上に並いる強豪を次々と撃破していて、強敵撃破を表すメダルの数は 50を超えている。ランキング1位の人物と獅燕も強敵撃破メダルは何枚か獲得しているが、彼女程の数は持っていない。それだけランキングに上がるのが早 かった…と言うのもあるかもしれない。

 

 数日後、ネット上 での記事が急に注目を浴び始めたのである。その記事は、格闘神の予選に関する物だが…。

『おいおい、どうい う事だ…』

『A社の独断場じゃ ないか、これは…?』

 その記事に書かれ ていたのは、予選で使用予定のゲームのタイトルだったのだが、そのタイトルの半数がA社の作品だった。A社の作品が格闘神の予選タイトルを独占したのでは なく、半数と言う部分が非常に気になる見出しだった。

『B社やC社の作品 はあるが…』

 予選で使用される タイトルにはB社やC社の作品はあっても、ファイティングアリーナに関しては全く触れられていなかった。

 

 この記事が話題に なった翌日、同じ情報は既に運営委員会の耳にも入っていた。運営委員会の反応は、ネット上の反応とは全く違う物だったのである。

「この記事は、去年 の記事を参考にした偽物か―何かのメッセージ的な意味を持った記事か…そのどちらかでしょう」

「ファイティングア リーナは反社会勢力等を根絶やしにする…と言うような憶測が生んだ偽情報にしては、レベルが若干低いかもしれませんが―これが一種の警告とも受け取れる可 能性があります。やはり、ファイティングアリーナで独立のイベントを開いた方が―」

 これが憶測だけで 作られた偽情報なのか…幹部の中には、格闘神へエントリーを辞退して独立したイベントを開いた方が良いのでは…という意見を述べる者もいた。

「これらの記事は全 て偽情報に過ぎないだろう…。格闘神へのエントリー方針に変更はない。スケジュール通りに頼む」

 会議室の中央にい るのは、運営委員会の総責任者である。周囲からは色々な呼び名で言われている。中でも、一番多く呼ばれている呼び名と言うのが彼の被っている覆面から名付 けた忠勝(ただかつ)である。

「では、忠勝様のス ケジュールどおりに―」

 戦国武将が登場す るカードゲームで忠勝という名前を持つ戦国武将が存在し、そこから周囲が呼び始めたのがきっかけとされているのだが…真相は不明である。その武将が実在し た武将と名前が似ているが、カードゲームの方は以下の注意書きにある通りに―。

【この作品に出てく る戦国武将名は、実在の武将で似ている名称の人物も確認されますが全て架空の物です】

 似ている武将名は あったとしても、実在した武将とは異なると明言している。中には実在武将の名前をそのまま使うケースもあるようだが…無用なトラブルを避ける為の処置とも 考えられる。

 

 ファイティングア リーナは、格闘ゲームとして導入するのには高価な筐体であるのは事実なのだが、音楽ゲームやメダルゲーム等の同じ専用筐体を使うタイプとしては安い印象が あった。

格闘ゲームの場合は、ビデオゲーム用のモニターとジョイスティック等 がセットになった筐体にゲームの基盤をセットしてプレイするという物が多い。しかし、ファイティングアリーナに関しては専用端末とモニター等に加えて、広 いスペースが必要になってくる。ゲーセンの広さによってはリングが標準となる6×6メートルよりも広い場所も存在する一方で、それよりも狭い場所も一部で は存在する。その辺りは、一部の格ゲーでもステージが広い場所や狭い場所もある…と言う事でプレイヤーには認識されているようである。

中には、1階と2階の階段付近に設置しようと考えたゲーセンもあった が、運営委員会から想定外のアクシデントが起こる可能性があるという事で設置箇所のルールが急な仕様だが追加された経緯がある。そう言った事もあってか、 設置場所を確保出来ないゲーセンが多く、大手でも筐体の種類を増やせない等の事情で設置を保留するケースが多かった。

 

【ファイティングア リーナを設置すると、運営委員会から補助金が出るという話も一部でささやかれていたが、この辺りは他の法律等と照らし合わせて保留されている。筐体価格は 新品で70万円と若干高めの設定だが、ここ最近では新型の格闘ゲームでモニター回り等を一新したセットが200万円と専用筐体並に高価になっている面を見 ると、安くは感じるのかもしれない―】

 ユーザーが増える かどうかは、メーカーの努力も必要だが、それ以上にゲーセン側やプレイヤー側も努力をする必要性がある…とメタトロンは思っていた。それは、過去に自分が 音楽ゲームで経験したことと全く同じだったからだ。

【ファイティングア リーナは、他の格闘ゲームと違うのは、獅燕をはじめとした注目されるべきプレイヤーが多い事に加えて―】

 彼はパソコンの前 で、何か文章を作っていた。それは、ファイティングアリーナに関する記事である。ゲーム雑誌の特集で格闘神にエントリーされている格闘ゲームに関しての記 事を掲載する予定なのだが、メタトロンはファイティングアリーナを担当する事になったのである。

【格闘神に選ばれる 格闘ゲームが有名かと言われると、そうとは限らない。中には格闘神の候補にならなくても面白い格闘ゲームは探せばいくらでもあるのが現状だろう。その一方 で格闘神の種目として選ばれる事を一種のステータスシンボルのように思うメーカーもあるのも事実…。音楽ゲームでは1社独占の状況、メダルゲームはプレイ 人口も多いが…格闘神のようなイベントが求められているかと言えば、そうではないと言うプレイヤーが大半だろう。重要なのは格闘神に選ばれなかったとして も、その格闘ゲームが面白くないと言う事は決してないという事だ。中には特定のキャラによる永久パターンや想定外のバグで対戦に大きな影響が出る物もある ―人間のやる事に絶対と言う物はない以上、格闘ゲームに求められるのは―】

 メタトロンは格闘 ゲームを多くプレイした事はない。有名所はプレイしているが、俗にマイナーと呼ばれるような作品は全くプレイした事はない。プレイ動画等で見かける位であ る。

「格闘ゲームはゲー センによっては、有名所のみをフォローする所と、他の作品も設置する所で分かれる気配がある。まるで、視聴率競争やCDチャートの上位争いと似ているのか もしれないな―」

 思う所はありつつ も、メタトロンはパソコンで記事の執筆を続ける。誤字脱字や不適切な部分はないか…その辺りも自分で調べる。

 

 4月末日、ある ネットの記事が話題になっていた。

【ファイティングア リーナのスタッフだが何か質問はあるか?】

 大規模掲示板でも 見かける【○○○(職業名)だが、何か質問 はあるか?】という有名なスレの…俗に言うコピペ記事である。

『獅燕のような外見 の女性格闘家は他にもいるのか?』

【女性格闘家は男性 より多くないが、何人かはエントリーしている。しかし、獅燕のような露出が高い人物となると…彼女位かもしれない。今後のエントリーに期待される】

 このような流れで 1つの質問に答えていくという形で、いくつかの質問に答えていた。

 

『1プレイの料金は 200円で固定と聞いているが、採算は取れているのか?』

【カードゲームでは カードが1枚排出される関係で300円というケースがある。体感型ゲームでは1クレ300円、あるいは最大で500円まで投入と言うような変則的なケース も存在する。格闘ゲームは1クレ50円と2クレ100円、1クレ100円が主流になっている。格ゲーとして見ると1クレ200円は高く見えるが、体感ゲー ムの一環としてみれば200円はお得だろう。採算に関しては設置店舗の稼働状況等にも左右される部分もあって取れていると言えるかは具体的に説明できない ―。設置店舗が増えれば、若干の採算は取れるかもしれないが】

 格闘ゲームは店側 の設定にもよるが、基本的には2クレ100円か1クレ100円のどちらかが主流であり、1クレ200円と言うファイティングアリーナの料金設定は異例中の 異例らしい。採算に関しては、店側の筐体設置状況等にも依存する為、不明な部分が多いとの事だった。

 

『レフリーは常駐し ないのか?』

【ギャラリーの整理 やプレイヤー以外の乱入者防止等という観点で周囲にスタッフが配備されているが、基本的にゲーセンの店員が兼任している。稀に抜き打ち検査として運営委員 会がスタッフを派遣する事もあるが…。レフリーに関しては、運営委員会のビル内部で中継映像をチェックして不正等がないかチェックを行うジャッジ担当のス タッフは存在するが、格闘技イベント等におけるレフリーと言う概念の人物はいないのが現状だ。稀にゲーセンでイベントを開く際にレフリーがいる場合もある が、買収等の観点から基本的には常駐はしていない】

 格闘技イベントで はレフリーは欠かせない存在だが、格闘ゲーム的な部分に比重が置かれているファイティングアリーナでは常駐はしていないらしい。その代わりに、不正があっ た場合に失格等の判定を行うジャッジ担当のスタッフは存在するようだ。

 

『試合動画では武器 を使っているプレイヤーもいるように見えたが、どこまでの武器が使用可能なのか?』

【殺傷能力がある武 器は全て使用不可能という前提で、運営委員会がチェックを行って認めた物は使用可能になっている。服装の話になってしまうが、スパイクシューズや鉄製の、 鎧、鋭利な刃物等が付いた衣装等は使用不可という補足もされている。それ以外にも、鉄製のチェーン、ピアス等のアクセサリー類もスタジアムに入る前の チェックで金属探知機が反応するので着用禁止―。身の回りの物でも振り回して危険が及ぶような物は、持ちこんだ事がジャッジ担当に見つかれば反則を取られ て試合が無効になるケースもある。この辺りは、かなり厳しく設定されている。格闘ゲームであっても、戦うのはプレイヤー自身と言う事もあって怪我が全く発 生しないとは断言できない―】

 殺傷能力がある武 器は使用禁止である以上に、凶器にも利用される可能性があるとしてスパイクシューズやチェーンアクセサリー等も持ちこみ禁止と言う事だった。格闘ゲームで ある事以前に、戦うのが自分自身と言う事もあって、万が一の事が起こらないとは否定できない…という面もあるのかもしれない。

 この辺りは、格闘 ゲームであると同時に実際の格闘技にも近い部分を持っている事も理由の一つなのかもしれない。万が一、重大な事故が起こってしまったらどうなるのかを含め て、スタッフが色々と模索を繰り返している証拠なのかもしれない。

 

『稀に特定キャラ限 定で永久パターンやコンボ等を見かける格闘ゲームもあるが、ファイティングアリーナは大丈夫か?』

【その点は、プレイ ヤーが自分自身と言うシステムを採用している地点で、この問題は完璧ではないが解消されている】

 格闘ゲームでは、 稀にバランスが未調整やバグ等の影響で特定キャラに永久パターンやコンボの類が実装されている場合がある。バグに関しては他のジャンルでも見かける場合が あるが、格闘ゲームに関しては対人での対戦がメインである為、特定キャラだけが強いと言う状況は好ましくないのである。ファイティングアリーナは、プレイ ヤーが自分自身であると言う点で永久パターン等は解消されている…としている。

 

『衣装の話になる が、全裸等は不可能にしても何処まで可能なのか…』

【衣装に関しては、 全裸やそれを連想させるような全裸スーツの類は不可。それ以外にも少し前に触れた、鉄製の鎧や鋭利な装飾は相手プレイヤーにも想定外の怪我が発生する恐れ があるとして不可になっている。それ以外に関しては特に規制はしていないが、他作品の格闘ゲームのコスプレ等は委員会と要相談の必要性がある―】

 衣装は全裸やそれ に類する物以外は特に寄生するような気配はないようだ。獅燕の衣装も委員会が許可を出したのであれば、納得と言う気配がする。着替えスペース等に関して は、特に草加市内であればそのままの衣装でゲーセンに向かっても問題はないようだ。流石に獅燕の場合は、衣装的な部分の問題もあってか移動の時は上着を着 ているとの事だった。

 

『ファイティングア リーナは格闘ゲームとの事だが、ゲームだからという事で手を抜く事はあるのでは? それによってリスク等は発生しないのか?』

【実際の格闘技で も、手を抜いた試合が思いがけない事故を引き起こす恐れがあると言うのは言わなくても理解できると思う。別の競技で無気力試合や八百長等が問題になった事 もあったな―。ファイティングアリーナでも他の格闘技等と同じ事は言える。格闘ゲームの場合は手加減等をすると、全ての例に該当する訳ではないが―プレイ ヤー同士でトラブルを引き起こす原因等にもなるだろう。あるいは、そう言った試合を見たいと言う者がいるか…と言われるとNOと言う人間が半数だろう。自 分が手加減をすれば、その反動は必ず自分に返ってくる―。実際にプレイするに当たっての心構えでも説明してある。お互いに全力を発揮してギャラリーや動画 の視聴者を盛り上げてくれるようなバトルを見せてくれる事を、我々は望んでいる―】

 それを踏まえて、 リスクに関してはランキング掲載の見送りやポイントの減点、最終的な手段としてライセンスのはく奪も考えていると言う。流石にライセンスはく奪はやり過ぎ の気配もあったが、その辺りは厳しく行っていく…と言う事らしい。

 

『ファイティングア リーナは、全国展開をする予定があるのか。ホームページを見る限りでは草加市の一部ゲームセンターという記述を発見したが…』

【現状では、警察と の連携やメディカルチェックを行う病院の確保、その他のインフラを調整する必要もある為に埼玉県草加市の一部エリアを限定…と言う事になっている。基本的 な部分は先行稼働や2010年のロケテストで確認はしているが、都道府県独自の条例もある影響で全国展開は若干難しい可能性が浮上している。これも一種の 街おこし―と言う事で理解してもらいたい】

 全国展開をするに も設置する都道府県のインフラ整備やその他条例等を変更するように指示する等…そう言った部分をクリアしていく事が必要になる為、現状では草加市限定と言 う事らしい。それらの項目もクリアできるようであれば随時展開されるようだ。

 

『年会費とかありま すか? ホームページでは登録は無料…とありましたが』

【年会費と言う概念 は特に現状では考えていない。プレイ動画でも、リングに飾られた宣伝用の看板が映っているのを見かける事があると思いますが、プレイ料金以外は全てスポン サーの広告費等で運営されています―】

 年会費以外にも登 録前のメディカルチェック費用も無料になっているのは、この為らしい。あくまで、プレイヤー自身にかかる費用はプレイ料金と衣装代だけのようだ。ファイ ティングアリーナの公式ホームページ上のプレイ動画も登録されているプレイヤーならば無料で閲覧する事が出来る。未登録でも画質等が劣化するが、プレイ動 画を視聴する事は可能になっている。ただし、動画のマイリスト登録やプレイ動画の新着アラート、動画の投稿等はプレイヤーとして登録しないと使用出来ない ように制限されている。

 

『最後になります が、このゲームをプレイする事でプレイヤーには何か得のような物はあるのでしょうか。プロの格闘家がエントリーする場合は練習試合や団体のPR活動等の利 用価値があるように見えますが―』

 最後の質問は、か なり難しい質問のように思えた。確かにプロ格闘家の場合は、スパーリングや練習試合、団体のPR活動等をファイティングアリーナで展開する事も可能かもし れない。対して、一般のゲーマーには格闘家と同じようなメリットがあるのか…と言われると疑問に思う所がある。

『ここ最近は、格闘 ゲームでもプロが出ている位に盛り上がっている。それを踏まえるとプロ格闘技団体から声がかかる可能性もあるだろう―』

『ゲームをプレイ度 に損得勘定を考えると言うのは…頭が痛くなる話―』

『ファイティングア リーナでは過度のPR合戦等を回避する為に、テレビ局や超有名アイドルのような芸能人がエントリーする事を禁止しているはず。プロの格闘家だけ特例と言う 訳には―』

『ファイティングア リーナは格闘ゲームであって総合格闘技等とは全く違う。システムもその辺りを考慮しているはずだが…』

 質問の回答が出る 前に色々な意見が飛び交う。中にはファイティングアリーナとは無関係な意見まで飛び出すのだが…。

【確かに、ここ最近 の格闘ゲームはプロゲーマーの出現、格闘神に代表されるイベントが開催される等の盛り上がりがあるのは事実です。その一方で、総合格闘技では一種の反社会 的組織等の問題やファイトマネー絡みのトラブル等が絶えず、格闘技界は風前の灯になっています。プロ格闘家がPR活動にファイティングアリーナを使う事は 既に想定済みです。それを踏まえて、過度なPRを行った団体に対して制裁処置を行う等…ガイドライン制作も順調に進んでいます。ファイティングアリーナも 一定の利益が得られなければ、筐体が撤去される事もあるでしょう。ゲーセン側も損ばかりするような筐体を置く事は特殊なケースを除いてあり得ないと思いま す。一定の利益を獲得し、商業的に成功すればバージョンアップや続編等を含めた次のステップへ進む事も可能なはずです。格闘家ではないプレイヤーに対して は、ゲームをプレイする事で得られる物もあると思います。それは人によって違うでしょう。なので、あえてこの場では答えは書きません。それぞれでファイ ティングアリーナをプレイし、その回答を見つけて欲しいと思っております】

 そして、記事はこ こで終了している。最後の質問に関して答えは出ていないが、その答えを見つけるのはプレイヤー自身の役目と言う事らしい。この答えを見つけるのを目標のひ とつとしてプレイしてみるのも良いのかもしれない…と記事の執筆者は書いている。

 

 5月、先行稼働し た店舗以外にも新たに10店舗が増え、プレイヤー数も若干だが増加傾向にあった…ある日の事―。

「格闘神の選考に ファイティングアリーナが落選したらしい―」

 ゲーセンに集まっ たプレイヤーの間で話題になっていたのは、ファイティングアリーナが格闘神の種目として選ばれなかった事だった。

「やっぱり、あのプ レイヤーの存在か…」

 別のプレイヤー は、エントリー用モニターに映っている一人の人物を見ていた。

 

 その人物の名前 は、獅燕―。