チュートリアル

 

『私の名前はメタト ロン、この物語で言う所のナレーション、あるいは案内人と言った所か…』

 埼玉県草加市にあ る中規模のゲーセンの入口にいる自分に語りかけているのは、突如として目の前に現れた黒髪で細身、長身と言う男性である。彼の名はメタトロン、過去にバン ドを組んでいたが現在は解散、彼自身もソロでCDを出していたのだが…現在は充電期間と言う事で活動休止中である。

 

【ファイティングア リーナ、ロケテスト中】

 ゲーセンの入口に はアルミの枠と透明プラスチックで出来た板で構成されたスタンドのような看板が立てられていた。額縁に入っているポスターには格闘家を思わせる男性5人と 女性5人が並んでおり、それぞれが特徴的なポーズを取っているのが分かる。仁王立ちをした柔道家を思わせる胴着を着た男性、天狗の仮面をした露出度が高そ うなコスチュームを着た女性、マジシャンの衣装を着ている杖を持ったイケメン、巨乳でテンガロンハットに加えてビキニを着た美少女、右目に眼帯をした軍服 の中年男性…他にもスケボー少年やセーラー服姿の女子高生等…合わせて10人が何かをアピールをする為にポーズを取っている。

【プレイヤーは自分 自身!】

 ポスター中央に大 きく書かれたキャッチコピーを見ると、他の格闘ゲームでもありがちな物だ…と思った。

 

 西暦2011年1 月、アーケードゲーム業界としては常連客以上に新規の顧客を確保しようとさまざまなゲームを発表し、ロケテストを繰り返している。ジャンルは今や一般的に なりつつある音楽ゲーム、固定客の多い事が特徴のメダルゲーム、作品によってはユーザー数が異なるカードゲーム、作品の多様化状態になっている格闘ゲーム 等―多種多様な顔ぶれになっている。そんなロケテラッシュの中で、異色とも言える格闘ゲームのロケテストが、このゲームセンターで行われていたのである。 そのタイトルはファイティングアリーナと言う。

 

『君はチュートリア ルを飛ばすタイプか、それとも見るタイプか―もしも、飛ばすタイプであれば、そのまま1へ進むと良い―』

 メタトロンの言葉 に疑問を持ったが、どういう事なのか質問をする。

『世の中には、無数 の格闘ゲームを触れているとシステムを見ただけである程度の動きは当然のように出来てしまうような人物もいるらしい。そんな彼らは、チュートリアルを飛ば す可能性もあるかもしれないだろう。中には必殺技のコマンドだけを何通りか覚え、他のゲームでもコマンドが同じであれば一発で必殺技を出せる…という人物 もいるかもしれない―』

 格闘ゲームに関し ては、プレイ動画を見た事はあるが、実際にゲームとして触れた事は一度もない。

『そうか。では、中 に入ろうか…』

 自分はメタトロン と共にゲームセンターの中へと入って行った。

 

 このロケテよりも 以前にデフォルトでポスターにいたキャラを実際に導入していたのだが、モーションに合わせたコマンドでは技を出すのが難しいという意見があって、現在の仕 様に変更していたという事は…ファイティングアリーナの実物を見て驚いていた後だった。それ位、あのロケテストでの盛り上がりは異常だったと言わざるを得 ない。

 

第一印象は、格闘ゲームというよりもプロレス等の巡業を見ている気分 だった。