1:音楽の新たなる形
近年、CDではなく音楽ファイル単位での流通も盛んに行われている。その影響かは不明だが、CDでは大手有名アイドルグループの曲しかランクインしない状況になってしまっているのが現状である。CDという媒体に魅力を感じなくなってしまったと言うわけではなく、収納などの別の問題もあるらしいと言われているが、今回の話とは全く関係はない。
その影響によって様々な出来事が起こっているのだが、その中のひとつに『音楽データを1枚のカードに入れる』という画期的な技術が発明されたのである。
普通であれば、このカードを利用してもっとコンパクトな音楽プレイヤー等を開発したり、カードを使って番組と連動させたり…と言ったような技術に発展しそうな雰囲気があったが、今回の技術を開発したのがゲーム会社だった為に音楽業界にとっては残念がる声などが出てきた。この辺りの話も今回の本編とはまったくと言っていいほど関係ない。
そのゲーム会社は、主にRPGや対戦格闘アクション、アドベンチャー等で有名な会社と言うわけではなかった。主に野球であったりサッカーであったりのスポーツゲームであったり、ゲームセンターで設置されているここ数年の流行となっている麻雀ゲーム等が有名になっている。
今回の技術は音楽データの入ったカードを使った音楽ゲームを開発する為に作られた技術と言っても過言ではない。元々、この会社はカードゲームも何作品か出している実績を持っている為、今までの紙媒体のカードゲーム以外の物を何とか作れないかと試行錯誤していた所、今回の音楽データの入ったカードを使ったカードゲームを開発したのである。
そのゲーム会社の会議室では、今回の音楽データを使った作品に関してのアイディア会議が行われていた。今回の技術開発者や他部署のスタッフ等が20人ほど集まっている。
「音楽データを使う以上は、もっと画期的なカードゲームにしたいのだが…」
意見は色々あった。例えば、音楽データを再生できるというだけでカードゲームとしては普通すぎる物では売れないだろう、音楽データには何を使うかで色々と事情が変わってくる等…色々と意見交換が行われた。最終的には、音楽データのカードを使った音楽ゲームを開発すると言う事で話はまとまって言ったのだが…。
「今回はカードを使う事を前面に出したいので、既にリリースされている既存シリーズとは違う路線にしようとは思っています」
既存のシリーズとは、上からノーツが降ってくるタイプの事である。音楽データを読み込ませてプレイするだけでは、インパクトが足りない。それ以上に音楽データの入ったカードを購入するのが前提の作品では受け入れられるのに色々な意味でも時間がかかる。
「丁度、こういう作品もカードゲームにしているので、展開としてはこういったものも考えているのですが…」
スクリーンボードに映されたのは、かなり衝撃的なものであった。
「これは…」
スタッフが驚くのも無理はない。おおまかには音楽データを専用のプレイヤーに読み込ませ、更にはオプション設定のカードを付属させてプレイするという物なのだが、プレイヤーのデザインが自社で展開しているカードゲームのノリで、カードを置くスペースとデッキケース等が一体化したプレイヤーだったのである。これにはさすがにスタッフも驚く。
「他にも、銃型であったり剣型であったりのバリエーションを加えて、視覚的にインパクトを与える要素を組み込めたら…と思っています」
確かにインパクトはあるだろうが、置いてもらえる場所があるかどうかも問題である。だが、彼は…。
「設置スペースに関しては、既存機種や他社の機種よりは、コントローラーを独立する事でスペースを小さく出来ることがわかっていますので、スクリーン次第で省スペース化を実現できます。形状に関しては、通常のアミューズメント施設向けの物とカスタム仕様では別にしていますので、その点は問題ありません」
設置スペースに関してはコントローラー部分が独立している為、スクリーン、ネットワーク対戦用のサーバー、それとデータの入ったハードディスクのみでデモンストレーションを流す事が可能になっている。しかし、プレイヤーがアミューズメント施設向けのみになってしまうのかと言う懸念もある。家庭用移植を考えると、アミューズメント施設では使えたコントローラーが家では音楽プレイヤー用途のみになってしまうのでは…と。その問題に関しても彼は考慮していた。
「このプレイヤー自体は、家庭用の機種でこの作品が移植されるのを想定して、アミューズメント施設向けと家庭用向けで区別されないように共通の規格で展開予定です」
どうやら、彼は先の先を見据えた商品展開を考えているようだ。実際、音楽ゲームのアミューズメント施設向けの大型筐体をベースにしたコントローラーは1台で数万円という高価な物になってしまった為、それらを踏まえているものと思われる。
「当然ですが、音楽プレイヤー自体はレンタルで運用される事も想定していますので、レンタルと販売用では色々とデザインを変えるつもりではいます」
彼の先の先を見据えた発言の数々にスタッフも黙り込んでしまう。
「値段としては…5千円台を下回る方向で出せればと思いますが、この辺りはもう少し詰めておく必要性があるでしょう」
コントローラー兼用とはいえ、5千円台は安すぎるのでは…と言う意見も出てくるのは承知での発言だろう。
「最近は音楽プレイヤーでも価格破壊が始まっているように見える。そのくらいの値段で行かないと厳しいものがあるかもしれないだろう…」
返ってきた答えは意外だった。何と、5千円台でOKが出たのである。そして、細かい調整を含めてこの計画は遂にスタートした。
プレイヤーは5千円ジャスト、必要最低限のオプションカードとおまけとしてのオプションカード、収録される曲の初期プレイ可能曲全てのカードを加えた豪華仕様でリリースする事になった。曲数は60曲以上だがライセンス曲ではなく自社の音楽ゲームのオリジナル曲と今回の作品の先行音源を加えた仕様で値段を抑えている。ライセンス曲も加えると使用料だけで値段が上がってしまうという事情があるからだ。
「作品名はどうしましょうか…」
彼もこの企画が通る肝心の作品名に関しては考えていなかった。
「サウンドゼロミラージュなんてどうでしょうか?」
サウンドは音、ゼロは数字では0を表す。そして、ミラージュは幻を意味している。
「では、企画段階のタイトルはそれで行きましょう。」
遂に、サウンドゼロミラージュプロジェクトは動き出した。当初、他の既存作品に埋もれてしまうのでは…と思われたが、ロケテストでのスーパープレーの動画等がインターネットで紹介された事で、あっという間に話題作にまでなってしまったのである。
「まさか、これほどの反応があるとは…」
彼はロケテノートで書かれていた意見などをチェックしながら、正式稼動版の仕様調整をしていた。
「ハイスピードオプションは5刻みにするならばカードではなくプレイヤーの方で対応するべき…か」
他にも、ライセンス曲の導入、判定各種を緩和などの意見もあった。直すべき箇所が指摘される事は決して悪い事ではない。逆に欠点があるはずなのに未指摘と言う作品、資金力で大規模の宣伝をして売り上げだけを伸ばす作品等には関心を持てないというか…そんな気配である。
「後は、カスタム版のデザインか…」
ロケテストで使用されたのはアミューズメント施設用のレンタル版のみで、カスタム版はデザインが先行で紹介されただけである。その為、上手い宣伝方法はないのか…と思った矢先に、彼はあるものを見つけた。
「これは、なかなか面白そうな…」
それは、夏と冬に開催されるコスプレのイベントであった。実際は同人誌の即売会なのだが、最近ではコスプレイベントのみを独立したり、町おこしの目玉にしたりするケースも目立ち始めている。このイベントにサウンドゼロミラージュを出展する事で、更なるユーザー層を獲得できるのでは…と思った。
その一方で彼はもうひとつの動きを感じていた。それは、同社作品とは別の音楽ゲームがロケテストを行っている事だった。この作品は海外では人気も比較的にあり、以前にも日本でロケテストを行っていたが、諸般の事情等でなかなかプレイできる機会がなかったのである。この作品に使われている楽曲を収録すれば、更に別のユーザーも獲得できるのでは…と思っていたのである。
※この作品はフィクションです。実際に別ネタでやろうとしていた、音ゲーネタです。