4…最終決戦に向けて

 

九州が島津香奈美によって統一されて2日が経過したある日、国会がとある人事で動きを見せようとした。

「反対派が勝利することは、これで確定ですな。これで、今度こそ自由政治党の復活も実現します」

ある議員が神奈川県知事である阿久津の元を訪れていた。

「ただ、まだ九州だけです。他も反対派が抑えている県がありますが…」

そんな話をしている最中、京都代表の決闘者である榊頼美が知事室に入ってきた。

「例の瀬戸飛天、やっぱり栃木と群馬の代表だったみたいね。前の代表だったシヅキとヘスティアは、合戦の妨害組織に所属しているみたいよ」

榊が調べてきた資料を阿久津に渡す。京都と神奈川は島津が九州統一を達成する数日前に

同盟を結び、数多くの反対派を統合していったのである。ただし、統合前に賛成派に鞍替えをしてしまった新潟を除いては…。

「そういう事だったか…ならば、早々に決着を付けるべきだな…東京代表と!」

そして、阿久津は決断した。関東決戦を。

 

「やっぱり、我々では無理があったのだ…そして、自由政治党出身の奴に実権を握られてしまっていた…それがまずかった…」

長野県知事が月原総裁と会談を申し出て、現在は今までの長野のやってきた事に関しての釈明を知事が行なっていた。

「事情は読めましたが、今まで行なっていた事、特にフィッシング詐欺まがいでの合戦資金確保や開戦前日の開催妨害、自由政治党残党への資金の横流し…
この辺りに関しては合戦ではなくても間違いなく知事の失脚では済まないでしょうね」

月原もここ数日の自由政治党に関連した事件は頭を悩ませる種となっていた。

「とりあえず、知事にはしかるべき対処を取ってから辞任していただきましょう。合戦中に知事が変わると言うのも余計な混乱を生むだけですし…」

そして、月原は知事の辞任保留にとある条件を付けた。

「今回の一件は私が預かります。そして、合戦が終わるまでは知事を続けていただく事にしましょう。辞めるのはその後で…」

その条件は、何と月原総裁の合戦への参戦だった。しかも、賛成派として…。

「ですが総裁、これは明らかに内政干渉では…」

「内政干渉など合戦には存在しません。私が許せないのは、こういった行為が裏では野放しになっていることなのですからね…。それを、完全に撲滅させ…
二度と同じ事が出来ないように叩き伏せる…自由政治党のやってきた政策のツケを、今こそ利子を付けて返す時が、ようやく来たんですよ…」

月原の様子は明らかに違っていた。遂に…自分が今まで煮え湯を飲まされつづけた自由政治党に裁きの鉄槌を落とす時が来た…と。

「遂に…尻尾を出したか…」

盗聴器を付けて部屋の様子を盗み聞きしていたのは意外にもジャンクブレイカーだった。

「あとは、シヅキとヘスティアに報告するだけか…」

本部を後にしようとしたジャンクブレイカーを止めたのは秋葉だった。

「まさか、お前とこういう形で直接対決とはな、ジャンク…いや、ヴァルディム!」

「さすがに秋葉には正体が分かっていたか…気付いていないと思っていたがー」

ジャンクブレイカーは、滅多に外すことのなかったメットを外し、秋葉に素顔を見せた。

その正体は、かつて神聖東京投資家と共にレイブステージを壊滅に追いやったヴァルディム本人だった。

「この事は、黙って置いてある。だから話すんだ…中で何があったかを!」

秋葉が今まで合戦では使わなかった宿命の武器の封印を全て外し、杖状の武器であるカドケウスをヴァルディムに向けた。

「聞きたければ、自分で聞けばいいだろう…オブザーバーならば、それ位可能なはずだ」

ヴァルディムはライジングブラストとライジングライフルを同時に発射する。しかし、秋葉には通じない。予想通りであったが、秋葉には強靭なフィールド
が複数存在していた。それは、合戦時の今でも健在である。

「クリムゾンガードにハイパーガードは健在…という事か。ダメージが全然通る気配がない」

さすがにこの場所では、ブースターのフルパワーは使えない。その為、不本意ではあるが…ヴァルディムは中であった事を話す事にした。

 

「やっぱり…そうなったか…!」

秋葉は分かっていた。九州が反対派に統一されてからの様子は明らかにおかしかった。

「その事をシヅキとヘスティアに話そうとしたら…お前が妨害してきた、と言う訳だ」

秋葉は早とちりとは言え、攻撃を仕掛けた事を詫びた。ヴァルディムとすぐに分かっていれば余計な戦闘をしなくて済んだのだから。

 

関西圏も統一へ動きを見せていた。大阪代表の茶菓月雅と北海道の反対派である神威鳴見

…それに加えて敗れ去った県から集めた予備候補の数々。岡山と高知の連合軍を潰すには好都合な布陣だったが、思わぬ助っ人が邪魔をしていた。

「バカな、北海道の美奈月綾に連合軍の瀬戸飛天、それに神聖東京投資家のシヅキに反合戦組織のヘスティアだと!」

大阪の予備候補が驚く。岡山と高知は、今回の合戦に備えて、北海道の賛成派である美奈月と栃木及び群馬連合軍の瀬戸飛天に応援を要請した
のである。広島代表の厳島に救援要請はしたのだが、現在はアイドル活動中で合戦に参加は出来ない。

「まさか、瀬戸、お前が来るとは予想外だったがー」

美奈月が銃剣であるブレードバルカンでザコの決闘者を蹴散らしている。しかも、速い勢いで。

「まぁ、厳島の件については自分にも責任があるからね…」

対する瀬戸は大型バスターライフルである飛天双砲で襲いかかってくる決闘者を次々と倒していった。

「だが、あのアイドルグループはなかなかの物だぞ…」

毛利が周囲にいる敵の攻撃を受ける前に彼の秘密兵器とも言える伏龍を展開させ、次々と決闘者を倒していった。

「伏龍に気付かないとは…甘いな!」

毛利がドリルの付いた槍である旋牙を茶菓月に付きつけて宣言する。

「お、おのれ…あの番組さえ放送してくれれば…こんな事にはならずに済んだのに!」

茶菓月が怒りに任せて巨大ハンマーであるエンブリオンの封印を解いた。アーマー集中後の茶菓月は赤ジャージ姿だが、胸の部分だけちょっと申し訳程度に
チャックが開いた状態になっている。胸はないようだが…。

「あたしの怒りを思い知れ。エンブリオンハンマースペシャルインパクト!」

茶菓月の超巨大ハンマーの一撃が毛利に襲いかかる。回避する手段はなく、直撃コースかと思われた…その時だった。

「ばかな…エンブリオンハンマーが途中で威力を削られただと!」

コーラルの10種のアーマーを全て合わせた究極の盾、コーラルイージスがエンブリオンハンマーの威力をある程度まで落としたのである。

「くっ、今回は引き分けだ!」

大阪の連合部隊は全て引き上げていく。とりあえず、勝ったのだろうか…と。

「えっ、それって本当なの!」

瀬戸は誰かと電話連絡をしていた。相手は意外な事に秋葉だった。

「合戦の方は一時中断される事になった。神奈川の暴走をなんとしても止めなくてはならない…」

そこで告げられたのは、合戦の一時中断と神奈川の暴走を止める為に各地の決闘者が集まっている事である。

 

その頃、氷雨の自宅では自分とは別の女性がシャワーを浴びていた。その人物は、千葉代表決闘者だったジェノヴァだった。

「事情は聞かないけど、自分の家に戻らなくていいの?」

「私には戻る所がない。千葉県知事も阿久津の息がかかっていたとは…我ながら情けない話だ。ペナルティーでアイドル活動をしている間に、九州は反対派
に占拠され、ソルヴァの暴走や長野の不正な資金ルート発覚…知らない所で合戦もかつての自由政治党が与党だった時代と同じ事になろうとは…」

「私も驚いたわよ。まさか、そんな状況を見た月原総裁が長野代表として合戦に急遽参加するなんて…」

「決闘者は、何のために戦っていたんだろうな…」

話をしていくに連れて、ジェノヴァは涙目になっていた。

「誰かが言っていたように、ゲームの駒でしかないなんて…そんな寂しい事…」

ジェノヴァにつられるように氷雨も泣き出してしまった。

「だが、こんな私でも…今までの事を許してくれとは言わない…協力させて欲しい」

ジェノヴァの氷雨は受け入れた。しかし、それが受理されるかどうかは未確定である。

 

合戦中断1日目、衝撃的な話が次々と飛び込んできた。合戦専門チャンネル内のニュースだけではなく、民放のワイドショーなどでも合戦関連のニュースや
情報が飛び交い、混乱を極めている。まるで、政治のスキャンダルを報道しつづけた昔を思い出すかのような…
そんな気配がしていた。

「まさか、こういう自体になるとは…」

一番驚いたのは神奈川県知事だった阿久津だった。長野の不正資金ルート関連の事件は彼にとって衝撃的過ぎた。自由政治党の残党からはある程度の資金を
提供されていたが、こういう手段で資金を得ていたとは…。

「これでは談合や天下りまで必要悪以前に撲滅されてしまう…一刻の猶予はならないという事か…」

 

「まさか、ジェノヴァが埼玉の予備候補になるとは…誰が予想したのか…」

ジェノヴァの埼玉移籍のニュースに驚いたのは島津だった。

「次の戦場は、神奈川か…レイブステージ関連で因縁がある場所か…」

一緒にテレビを見ていたネイが呟く。

 

「月原神人…遂に尻尾を出したか!」

神威は今回の一件に憤りを感じた。県だけではなく…合戦に裏切られてしまった…と。

「こうなったら、神奈川に出向くしか…」

そして、神威は神奈川へ向かった。彼女と同じ思いを抱いた決闘者も神奈川に向かって出発していた…。

 

合戦中断2日目、神奈川に次々と決闘者が集結していた。新潟と長野以外はほぼ揃っているのでは…と言う勢いで。

「残念ですが、貴方達を先へ行かせる訳には行きません。全力で排除します」

突如、奇襲を仕掛けてきたのは遂に姿を見せた神奈川県の決闘者、アイリーン・アスカ。かつて神聖東京投資家として戦った事もあるヴァルキリー・アスカ
の能力や戦闘データを参考にして作り出したメイドロボである。更には、闇龍ダークネスギアの量産タイプの大軍、神奈川代表に寝返ったソルヴァ、神威鳴
見、ソーラー=バインド等の姿もあった。

「全部、神奈川の仕組んだ罠って事か!」

他の決闘者がアイリーンに突撃するが、次々と倒されていく。

「捉えた!」

特殊なメイド服に仕組まれたステルス機能でアイリーンに近づいた美奈月だったが、あっさりと攻撃を避けられてしまう。

「まさか、ステルス無効化能力が…!」

 

その一方、月原総裁のいる日金ではシヅキとヘスティアが月原総裁と戦っていた。

「化けの皮を遂にはがしたようね、月原神人…総裁!」

シヅキが超甲機動魔獣であるパラディンを月原総裁に仕掛けさせるが、全く効果がない。

「こんどは、こっちよ!」

ヘスティアが大型ライフルである神々の炎で対抗するが、全てをシールドで受け止められ…致命傷には至らない。

「妨害組織と言うからちょっと期待していたけど…その程度か?」

今度は月原が反撃をする為に、両肩のシールドを大剣に変形させ、それを投げつけた。

「エクスカリバー…この英雄の剣を避けられるかい?」

あまりの速さと射程の長さに苦戦するシヅキとヘスティア。しかし、それでもシヅキは最後の力をふりしぼり、大型主砲であるクリムゾンロングトムを構え
る。

「今のあなたは英雄じゃないわ…ただの野望に取り付かれた亡者よ!」

しかし、シヅキの放ったロングトムはビームの軌道がそれて、月原総裁には致命傷にはならなかった。

「どうやら、その程度みたいだね…」

月原総裁がシヅキに止めを刺そうとした、その時…どこからか放たれたビームが月原総裁を捉えた。

「これは、フレスベルク…まさか、秋葉なのか…」

月原総裁のいる日金屋上と別の位置にあるビルには秋葉の姿があった。

「何かあるとは思っていた…これが、あなたの望んだ道か?」

「そうだ。自由政治党は内閣支持率が低下していようが、野党が何を言おうが独裁政治を続けてきたのだ…。そんな政党を確かにレイブステージ事件で一掃
出来たはずなんだ…それなのに、一掃出来なかった。残党が再び政権を握ろうと暗躍し始めた。再び、政治とカネの問題が再燃する。それを…二度と起こさ
ないように経済を変えるのが、自分の役目なんだ!」

「だからと言って、合戦を政治の道具に利用するなんて…!」

「それを最初にやったのは新潟県知事だ。奴がヘラクレスを大々的に宣伝する為に合戦を利用―」

そして、秋葉は遂に最後の武器の封印を解き…日金本部へテレポートした。

「―バカな、一瞬だと?」

月原総裁が驚く。さっきまで向こうのビルにいた人物が、約数百メートルの距離がある日金ビルに一瞬で辿り着くなんて…。

「さぁ、これで全てを終わりにする!」

秋葉の右手から無数のビームチェーンが放たれた。これが最終必殺技、メビウスチェーンブレード…。秋葉が一番使いたくなかった最終兵器である。放たれ
たビームチェーンは付き原総裁に次々と刺さっていく…。文字通り無限に…。

「これほどの力がありながら、何故に…合戦システムを実用化しなかったのだ…」

月原総裁は秋葉に問い掛けた。月原総裁は既に立っているのがやっとな位、致命傷を受けている。

「レイブステージが現れる前は、経済活性化の手段として合戦システムによる経済成長計画を考えた事はあった。だが、レイブステージが現れた事で方向を
転換して、ある政治家に第三者組織による不正会社の一掃計画を提出したんだ…」

そして、月原は気が付いた。この第三者組織は間違いなく神聖東京投資家。その計画を提出した政治家と言うのは…。

「秋葉…そういう事か。そういう、事だったのか…」

全てを言い終わる前に月原は倒れた。どうやら、力を使い果たしたようだ。

「シヅキ、神奈川の方が気になる。急いで向かおう…」

秋葉はシヅキと共に神奈川へ向かった。ヘスティアは傷がひどい為に同行は出来ず、そのまま病院へ向かう事になった。気絶している月原総裁を抱えて…。

「何故だろう…彼が憎かったはずなのに…」

ヘスティアには月原総裁に対する悪意は既になかった。彼が強行的な策に出たのは確かだが、それさえも止む得なかったような気がする…とも思い始めた。

「彼もきっと…あの悪政の犠牲者だったのかもしれない。投票率が落ち込み、投票に行かない有権者に厳しい目が注がれた、混迷の時代の…」

政治不信が有権者の政治離れを加速させ、遂には投票率が3割を下回る時代があった。投票に行かなかった7割の人間が、集中的な仕打ちに合う事も地域
によってはあった。格差社会は、投票に行かなかった7割の人間のせいだ…と批判する者もいた。そんな時代を彼は生きていたのだろう…と。

「でも、今は違う。合戦システムも賛同した人は9割を越えていた…。もう、あの時の政治とは時代が違う証拠よ…」

ヘスティアは月原総裁を病院に預けると、すぐに神奈川へと向かう事にした。

「ここからだと、かなり遠いわね…」

そんなヘスティアの前に現れたのは、かつて神聖東京投資家時代に使っていたエアバイクであるストームフェザーに乗ったジャンクブレイカーだった。

「ヘスティア、こいつに乗っていけ。変形システムはAIの都合で使用できないが…普通にエアバイクとして使う場合には問題ないはずだ」

「まさか、あなたはヴァルディムなの?」

ジャンクブレイカーに質問した。ストームフェザーにAIが搭載されていない原因は…。

「ひょっとして…擬似AIのヘスティアなのか?」

ヴァルディムもヘスティアと言う名前に引っかかる物があった。そして、はじき出された答えは…。

「また、一緒に戦える…!」

既に擬似AIではなくなっているヘスティアはストームフェザーと同化は出来ないが、自分がいればフルパワーを出す事ができる。

「行きましょう、ヴァルディム。決戦の地へ…」

そして、ヴァルディムとヘスティアは神奈川へと向かった。

 

一方、神奈川では阿久津が乱入した事で神奈川連合軍優勢となっていた。数ではソルヴァと寝返った決闘者を倒したのだが、ソーラーや神威は残っており、
戦力を充分削ったとはいえない。

「どうした…アイリーンも私も健在だが…もう終わりなのか?」

阿久津の言う事に反論できそうなメンバーは既に倒された後だった。毛利もコーラルも美奈月も…。

「さすがに、もうあきてきちゃったかな?」

ソーラーがそう言うと、マジカルショットを榊に向けた。

「これは、どういう事ですか?」

「いやぁ〜、このまま神奈川が勝利しても…自由政治党の復活じゃ、また退屈な毎日が続くんじゃないかって思ってね!」

躊躇なくマジカルショットを放った。それを裏切り行為と認識した榊は腕と足に集中しているアーマーにメイン武装である扇子を取り付け始めた。

「私にこれを使わせた事、後悔する事ね!」

アーマーに取り付けた扇子が光り輝くと、輝いた扇子を外して投げつけた。

「まさか、あれが彼女の隠し球『大文字』だっていうの?」

投げつけた扇子は容赦なくソーラーを追いかけてくる。命中するまで追いかけつづけ、最終的には…。

「冗談、黒コゲになんてなってたまるものですか!」

ソーラーがスパイラルエッジの体勢を取って榊に体当たりを仕掛ける。

「スパイラルエッジは想定済みよ。残念だったわね!」

榊はスパイラルエッジで来る事を想定してソーラーにビームライフルを打ち込む。

「残念だけど〜、動きを止めて大文字を決めると言うのも分かっちゃってるんだよねぇ…これが!」

ソーラーが背中の翼を広げて、攻撃を回避していく。

「これで止めって行こうよ!」

再びスパイラルエッジの体勢で榊に体当たりし、見事に命中したが…。

「フフッ…残念、でしたわね…」

榊は左腕に隠した二つの扇子でソーラーの両足にダメージが通した。しかし、それと同時にスパイラルエッジが榊の両足のアーマーを直撃し、機能
が停止していた。

「相打ちかぁ…悔しいなぁ…。けど、楽しかったよ…榊頼美…」

そして、両者は力尽きて倒れた。

 

その一方で闇龍ダークネスギアの大軍とトパーズエンド=ナイトに囲まれていた島津と厳島、あかりの3人も苦戦する一方だった。

「量産型ってこういう時に便利だよね」

冗談交じりにあかりが言うが、正にその通りである。倒しても倒しても増えていき、量産型にも修復システムがある為、時間が経つと傷が回復して
いくと言うおまけ付きである。

「それならば、回復できない程の火力を奴にぶつければいい…」

厳島がその見本を見せるかのように九尾の力のフルパワーで闇龍を真っ二つにした。真っ二つにされた闇龍は砂のように崩れていく。

「そんなフルパワーを続けて撃てるメンバーなんて…この中に…」

自分で言ったあかりが気付いた。この場には島津がいる。彼女さえ入れば、鬼島津で闇龍を一掃出来るかもしれない…と。

「無茶言わないで。アレだけの数を…相手にしていたらこっちが持たないわよ!」

「じゃあ、数を減らせばいいんだな!」

島津の言葉を聞いて、ヴァルディムが封印していた究極必殺技を解放した。風すらも味方に付けた大旋風の一撃、ブースターナックルを…。そして、
直撃を受けた一体が砂になっていった。

「あんたは…宮城代表のジャンクブレイカー…じゃないのか?」

島津は彼の正体にはまだ気付いていない。

「ヴァルディムか…。まさか、と思っていたが…そういう事か」

厳島は既に正体が分かっていた。彼と一緒にやってきたのがストームフェザーだった時点で。

「こちらも、攻撃を開始します」

ストームフェザーの全内蔵火器による一斉射撃、ランチャーフルブラストで1機を破壊し…もう一機は…。

「この状態ならば、単独でも撃てます。ストームブラスター…発射!」

魔力の風を帯びた攻撃魔法を詰めた魔法弾丸を放つストームブラスター、以前はヘスティアが擬似AIだった為にヴァルディムの補助がないと撃てな
かったが、AIではなくなった彼女にとっては普通に撃てるようになっていた。放たれた弾丸は1機を破壊すると同時にトパーズエンド=ナイトの闇
龍にもダメージを与えた。

「ヴァルディムが来た以上、出し惜しみは出来ないって事ね!」

あかりがソーラーバレットとムーンバレットを合体させたソーラー&ムーンバレットで更に1体を撃破する。

「EXシュートも出し惜しみしないで出した方がいいんじゃないか?」

ヴァルディムの忠告をあかりは無視する。EXシュートはある意味で諸刃の剣であり、今回の戦いでは出さない方が…と思っているからだ。

「闇龍は、私が相手をする。だから、他のメンバーは阿久津を…!」

島津が何かを察して、あかり達に阿久津の元へと急ぐように指示を出す。

「じゃあ、ご好意に甘えさせてもらおうかな…」

ヴァルディムがヘスティアとともに先に阿久津の元へと向かう。それを追うかのように厳島も続いた。

「必ず、あの時の決着は再び付ける。だから…ここは任せて!」

島津は厳島に言う。あの時とは、九州統一後に戦った一戦…初の敗北をした一戦でもあった。その際に鬼島津は砕け、今回の鬼島津改になっている。

「さて、決着を付けるか。お互いに決闘者として!」

島津が鬼島津を鬼一閃モードに移行させた。

そして、トパーズエンド=ナイトもインフィニティギアモードに移行する。

「決着…!」

先に突っ込んできたのはトパーズエンド=ナイトの方だった。島津も間に合わないと思って、鬼島津を突きつけるが…。

「…こ、こんな事って…!」

島津は驚いた。トパーズエンド=ナイトが玉砕を覚悟で特攻を仕掛けたのである。結果は…闇龍が砂になって消滅し…トパーズエンドは事実上救われ
た。

「我が鬼島津に…断てぬもの、なし!」

そして、鬼島津のアーマーを元に戻した。

 

「まさか、ヴァルキリーを決闘者に出来なかったからって、こういう手段にでるとは…」

駆けつけた秋葉は驚いた。噂には聞いていたが、実物を見ると説得失敗もうなずける。

「秋葉真…あなたを越える!」

アイリーンが秋葉に向けて放った翼による連携攻撃であるフィンブラストで仕掛けた。

「こういう所まで彼女に似せるとは…やってくれるな、阿久津!」

現状のメンバーでアイリーンと互角に戦えそうなのは、自分位しかいない。

「せめて、リリィやアリーナが合流してくれれば…とないものねだりはする物じゃ―」

かつての神聖東京投資家のフルメンバーさえいれば形成を逆転する事も可能だろう、と思ったその時、シヅキ、ヴァルディム、あかり

が秋葉と合流した。

「決闘者でいる範囲の振るメンバーが揃ったか…ならば!」

秋葉がカドケウスでアイリーンを牽制し、シヅキは全内蔵火器の一斉発射攻撃、ウィンディーネバーストで相手のパワーを削り、止めはあかりのソー
ラー&ムーンバレット…。

「あかり、何故EXモードを使わない!」

秋葉はあかりが意識してEXモードを使っていない事に気が付いた。

「これを使ったら…ソーラーバレットが…使えなくなってしまう…」

あかりはソーラーバレットが神聖東京投資家の戦いの際に限界に近い事を悟っていた。EXモードを酷使した現状では、1発撃てばソーラーバレット
そのものが壊れてしまうのではないか…と。

「ならば、誰かアイリーンに決定打を!」

その秋葉の叫びに答えたのは、以外にも氷雨だった。

「ジャストブレイカー、くだけろぉっ!」

デンドロビウムの渾身の一撃がアイリーンにクリーンヒットした。

氷雨に続き、体力の回復した毛利とジェノヴァが後に続く。

「受けてみろ、キングオブシュート!」

「貫け、旋牙。超槍乱撃!!」

ジェノヴァの放った超強力なシュートと毛利の超高速回転の旋牙による集中攻撃がアイリーンの右腕を破壊した。

「ロボットだって言うなら、加減不要だな」

更に続いたのは美奈月だった。長いスカートの下に隠したライフルユニットを右手に合体させてアサルトアームキャノンの発射形態を取る。ちなみに、
スカートの下はスパッツだが…。

「私も……美奈月に続きます」

コーラルが今まで防御だけに使っていたアーマーを一体化させ、大型のランチャーに変形させた。

「タイミングを合わせるよ、コーラル!」

「分かりました。ツインアサルトバスターフォーメーション…」

「シュート!!」

即興にも関わらず息をあわせた美奈月とコーラルの連携攻撃でアイリーンの武装をほぼ破壊した。

「今まで、我々を騙しつづけた罪、償ってもらいます!」

次に続いたのは、なんとトパーズエンド=ナイトだった。どうやら、闇龍のコントロールから解放されたようだ。

「究極一閃、インフィニティブレード!」

右腕のロッドから巨大なビーム刃が展開されると、トパーズエンドは大きく上下に揺れる胸を気にせずにアイリーンのいる所まで突撃していく。そして、
振り下ろした一閃がアイリーンの左腕を破壊した。

「止めは、私だ!」

厳島が今まで以上の全力でアイリーンに一閃を放ち、アイリーンは機能を停止した。

「ありがとう……」

厳島はアイリーンも神奈川に利用された犠牲者なのだ…と気付いていた。無論、神聖東京投資家のメンバーもそれに気付いて、機能を停止させるしか救
う方法がないと気付いたのだが。

 

「これで、全てが終わったわけではない…」

阿久津が逃走しようとしたその時…氷雨が再び動き出した。

「合戦は…本来ならば行き詰まった経済を打破する為に考えられたアトラクション、それを政治に利用しようと考え、それを軍事技術に代えようとまで
考えていたなんて…許せない!」

氷雨は即座にジャストブレイカーモードに移行していたデンドロビウムをオーバーブレイカーモードに変更した。

「私は…純粋に合戦を楽しみたかった。それを踏みにじった事だけは…どうしても許せない。だから、自分の手で阿久津を倒す!」

彼女の決意の一撃は阿久津の闇龍を秒殺の勢いで砂に変えた。

「ば、バカな…これだけの強大な意思を持った決闘者がいたなんて…聞いてないぞ…!」

阿久津が逃げようとしたその時、彼の目の前に現れたのは驚くべき人物である。

「久しぶりだな、阿久津…」

阿久津の手によって失脚された神奈川県の前知事である。実は、月原総裁が暴走する一歩手前の時に幽閉されていた別荘から釈放されていたのである。
置き土産付きで。

「バカな…お前は、私の配下が長野の別荘に幽閉したはずなのに…」

そこで阿久津は思わぬミスをしてしまった。

知事を幽閉した事を他の決闘者がいる目の前で喋ってしまったのである。しかも、この合戦は瀬戸飛天や他の非戦闘員である埼玉、栃木と群馬の連合軍と
北海道、大阪の決闘者スタッフとリリィ、アリーナの手によって取り戻したテレビ局を通じて、全国中継されている。阿久津は全てにおいて、致命的ミス
をしたのである。

「話は聞かせてもらったよ…全てね。阿久津雅名。そして、決闘者の諸君…」

近くの大型スクリーンに写っているのは、病院で入院中の月原総裁である。

「阿久津は知らないだろうが、この合戦では必ず守ってもわらなければならないルールが存在する。それは、合戦時に書類申請をする知事及び市長の変更
をしてはならないと言う事だ…。まさか、私が長野市長を変えて合戦に参加したと勘違いしている者もいると思うが…」

そう、月原総裁が合戦申請者である長野市長を変更しないで欲しいと念押ししたのは、この最大のルールに抵触する恐れがあったからである。

「この放送も瀬戸飛天を始めとした有志のメンバーがいなければ、こちらには届かなかっただろうからね…彼女たちには感謝するよ」

そして、月原は話を続けた。要約すると、阿久津が前の神奈川県知事を幽閉したのは書類申請者の申請をした翌日。申請者の書類変更は合戦の準備期間及
び開催中の変更は認められない。そんな中で、阿久津はその一番守られるべきルールを無視して、許可申請に自分の名前の印鑑を使っていたのである。

「さすがに、前知事の印鑑を使っていた場合には発覚するのも…遅れていたのかもしれないね…。残念だけど、アイリーンのエントリーの時点で既に発覚
していたから、決定的な証拠を出すまでは泳がせて置いたんだ。まさか、自分から喋ってくれるとは…ある意味で傑作だね」

月原が思わず拍手をした。

「そういう事だから、弁明は裁判所でしてくれたまえ…」

こうして、阿久津の願った自由政治党復活の野望は潰え、大会中断は解除された。

「決勝は、氷雨とあかりの二人でやって見たら。おそらく、反対意見はないだろうから」

と冗談交じりに月原は言う。実際、他のメンバーも反対する気配はなかった。

「まさかと思うが、EXシュートを使わなかったのは…」

秋葉はあかりに言う。全ては、この時の為では…と。