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 1:合戦の始まり、そして…

 

合戦の始まる数日前、月原神人は昔話を思い出していた。萌え経済活性化計画が実行される以前の財政の事である。

「あの時は、まだ自分には選挙権もなければ…議員になる事さえ出来なかった。そんな時代に、格差は広がっていた…」

月原が学生の頃、国会の第1党だった自由政治党、彼らの政策は月原にとっては国の為にはならないだろう…と予測していた。その予測は
的中し、年金問題が明るみになった直後に始まった参議院選挙では歴史的とも言えるな大敗をした。その責任を取り、当時の自由政治党の
党首は辞任し、新たに参議院第1党となった民衆政治党が参議院の主導を握るようになった。そして、格差社会は縮小し…年金問題も半分
以上は解決していき、月原の予測通りに事が進むと思われていた…。

 

しかし、事件は突如起こった。自由政治党が

衆議院においては未だに議席の半数を占めていた為、再び経済に暗黒の時代が到来したのである。彼らは自分の政党を支援する企業に税
金免除、支援しない企業には2倍以上の増税と言う…まるで何かの見せしめのような法案を次々と通過させようとしていた。その法案も自由政
治党の議員の不正疑惑や談合、不適切な発言など、次々と彼らの負の部分が国会の場で明らかになった事で廃案となり、国会の混乱の責任
を取る形で最終的に自由政治党は解散となった。今では、残党が第2の自由政治党を復活させようとしているが、以前のような勢いは既に無
かった。

 

「今では、民衆政治党と社会政治党の2党が共闘して政治を進めている。以前のような混乱も、もうないだろう…」

だが、月原は思った。今回の合戦で自由政治党の残党が絡んでいる県もいくつか存在する事は確かだ。彼らが勝利し、再び経済を暗黒に突
き落とす事だけは避けたい。そして、彼らが再び天下りや談合によって一部の自由政治党を支援する企業のみに特権を与える政治をなくした
い…。それが、今の月原の願いでもある。

 

全ての代表者が決定し、残るは合戦開始宣言を残すのみとなった前日、月原の読みは当たってしまった。自由政治党残党の息がかかった合
戦参加者の予備候補が会場を選挙すると言う事件が起こったのである。

「我々は自由政治党の名の元に、スポーツ競技大会を再誘致、そしてこんな愚かな経済活性化制度を廃止し、必要な談合復活を望む者である!」

ある合戦参加者の宣言の読み上げが終わると同時に、会場に一斉攻撃を仕掛けようとしていた、その時…彼女は現れた。

 

「貴方達のような力で全て解決させようとする恐怖政治は…終わらせるべきなのよ!」

黒髪のロングへア、そして二丁のレーザーライフル、肌を露出するタイプのスーツを身にまとう一人の女性…。東京代表であり、かつては神聖東
京投資家としても恐れられた日野沢あかりである。

「ま、まさか神聖東京投資家の連中まで大会に参加していたとでも言うのか!」

彼女の放つムーンバレットで、次々と呼び候補が倒されていく…。その光景を見た一人の予備候補は既に逃げの体制を取っていた。

「は、話が違うぞ…!」

半分彼女の強さに怯え、逃げようとしていた

呼び候補が後ろを振り向くと、今度は彼も見覚えのある人物が立ち塞がった。

「貴様は…オブザーバーの秋葉真…!」

「ご名答!」

次の瞬間、秋葉の右腕である、宿命の巨大篭手・アトラスの一撃が彼を襲った。当然の事だが、不意を突かれた彼にとってはアトラスの一撃をよ
ける事は出来なかった。勢いよく飛ばされた敵は、会場内の大型スクリーンの隣にある看板に激突し気絶した。

「さすがにパワーを半分以下に抑えても、宿命の武器を使うのは避けたい所だな…」

秋葉は思った。この力を使えば、簡単に合戦を制する事も容易いだろう。下手をすれば…オブザーバー権限があるとは言え、パワーバランスを
一気にひっくり返す事も可能だろう…と。

「いよいよ、全てが始まる…。この、東京から…」

秋葉は思った。もう、かつてのような暗黒経済を再び起こしてはいけない。そして、不正を繰り返して得た見せ掛けの繁栄も…あの事件を最後に
したい…と。

「今回の合戦システムが成功すれば…経済は大幅に変化していく…確実に」

 

大会当日、2つの会場を衛星中継で結ぶ事によって、全ての都道府県の代表が一堂に集結した。大阪を始めとした関西エリアは高校
野球でも知られる甲竜園球場、関東エリアは東京の山椒木
(さんしょぎ)競技場で同時に開始宣言が出る事になっているのだが…。

「おいおい、沖縄代表がいないぞ…!」

関西エリアの代表が異変に気が付いた。それぞれの県の名前が書かれたプレートを持つスタッフの後ろに代表者がいるという手配になっているの
だが、何故か沖縄代表だけがいない。それ所か…。

「広島代表の姿も、ない…か」

もう一つの異変に気がついたのは、高知代表の毛利元就(もうり・もとなり)。名前こそは戦国武将の毛利元就と同じだが、実際の本名
は違うのでリングネームと思われる。

「向こうのテレビに映っているのは、広島代表じゃないのか!」

ある代表が大型ビジョンに映る広島のプレートを見つけた。しかし、その先頭にいる人物を見て、更なる疑問が浮上した。

「直前になって代表を変えた…の?」

鹿児島代表である島津香奈美(しまづ・かなみ)は思った。パンフレットには、広島は反対派に所属し、カーヴという人物が代表になっ
ているはず。予備代表リストにも大型ビジョンに映っているような巫女のような選手の写真はなく、周囲は混乱するばかりである。

 

その混乱の収拾をしたのは、意外な事に秋葉だった。

「広島に関しては、関東サイドの会場にいる厳島斎木(いつくしま・いつき)を代表に変更し、賛成派に回るという事が昨日、広島市長
から直接連絡があった。その為、変更作業などの関係で発表が遅れてしまった…」

書類不備で別の代表が繰り上げになったのでは…という憶測も会場内であったが、どう考えても代表リストに載っていないような人物を代表にする
必要性があるのだろうか?

「それと、もうひとつ。沖縄に関しては市長自らが今回の合戦への参加を辞退した。これは既に3日以上前から情報を掴んでいる箇所も多いだろう
から、詳細は省く。記者会見と同じ事をあえて言うなれば…沖縄特有の問題で辞退をせざるを得なかった…と」

秋葉の口から意外な言葉が漏れた。開戦の数日前、沖縄は合戦自体への参加を辞退する事を既に報告していたのである。しかし、この事は沖縄
市長、月原総裁、秋葉しか知らない事実で、その他の県が記者会見以前から知っているのはおかしいのである。何処かから情報が漏れている、そ
う秋葉は考えた。

「その代わりだが、群馬及び栃木からの提案で沖縄代表候補だった、瀬戸美天を群馬と栃木の予備候補として加える事となった…」

今回の発表を聞いて驚く者もいれば、当然の処置と冷静な判断をする者、沖縄が未だに辞退したとは思えないと疑問を抱く者…人それぞれの反
応となった。

 

「さて、開戦宣言を行う前に…いくつかの注意をしておこうと思う」

秋葉の次に現れたのは、月原総裁である。

「今回の合戦は、あくまで萌え経済活性化計画の賛成か反対か…その是非を問う為の物であり…それ以外での個人的な復讐や報復などの理由で
合戦を行う事は…原則として禁止する。それを破る都道府県があれば、権利剥奪も辞さないので、そのつもりで…。当然の事だが、オブザーバーと
して参加する秋葉真にも適用される…」

周囲も驚いたが、これに関してはマニュアルの重要部分の再確認であり…秋葉はさほど驚いていなかった。

「もう一つは、あくまでこの合戦は戦争と全く違う形式である為、合戦場以外での不必要な破壊活動、決闘者に対する戦闘不能状態からの不必要な
攻撃なども原則禁止とする。これに関しても権利剥奪は当然だが、それ以外にも都道府県の市長に制裁金を払ってもらう場合もある…。これに関し
ては、決闘者自身が除名されるだけでなく、謹慎処分もある事を改めて頭の中に叩き込んで欲しい…」

そして、月原総裁は昨日の襲撃があった跡である半壊した看板の方を向いた。

「合戦開始宣言前に…何処の県かは不明だが…この会場を襲撃した決闘者がいるらしいことが既に報告されている。くれぐれも、はやまった真似を
しないようにして欲しい。今回の一件に関しては、オブザーバーからの進言で権利剥奪に関しては行なわないが、該当する県にはペナルティーを既
に与えている…」

どの県かは言わなかったが、他の決闘者はおおよその検討が付いていた。

「我々としては、ルールが正しく守られた合戦を望む…何かアクシデントでもあれば、即座に合戦自体を止める可能性もありえる事を頭の中に叩き込
んで欲しい…以上だ」

「これだけでは面白くはないだろうから、エキシビジョンマッチと言う物を1つ行なう事にする。合戦場は、山椒木競技場を使う…関西エリアの決闘者に
は、引き続き大型ディスプレイを使っての中継となるが…」

全てを言い終わる前に秋葉は事前に持ってきていた封筒にハサミを入れ、中に入っている紙を取り出した。

「丁度、ここには広島の文字がある。つまり…広島代表がここにいたのは、ある種の偶然ではないという事だ。対戦相手は、宮城代表…ジャンクブレイ
カー。もう1枚の対戦カードは、埼玉代表と長野代表だ…。その前に…エキシビションとは言え、本格的な合戦になるだろうから、設営準備を兼ねた休
憩時間を取る事にする…」

20分の休憩をはさみ、2つのエキシビションマッチが展開されることになった。第1試合は広島代表と宮城代表、第2試合は埼玉代表と長野代表である。

「まさか、権利剥奪を止めたのはこういう事だったのか?」

休憩時間中、月原が秋葉に尋ねた。昨日の襲撃の犯人は、既に長野代表だという事が今日提出された資料などで判明している。実際に長野市長に問
い合わせた所、奇襲を行なった事を既に認めている。

「これが見せしめの合戦になるとは、思っていませんが…万が一と言う事もありますからね…」

「その、万が一があってはこちらが困る。ただでさえ、今の政治では日本の経済を支える事は事実上不可能になっている。今回の合戦は、新たな観光名
所を確立させる為のPRにもなっている事を忘れるなよ…」

月原は、今回の合戦を新しい観光の目玉にしようと考えていた。季節に捕われる事のない新しいタイプの観光名所としての日本をPRしようと考えていた。
既に土台は、年に2度おなわれるコミックフェスタ、最近になって目立ちはじめてきたコスプレコンテストなど…それに加え、神聖東京投資家の時にも運用
された錬金術や魔力等を応用した超技術や魔力発電…。

「今こそ、私が考えてきた経済再建計画が…動き出すのだ」

しかし、これはマラソンで言う所のスタートラインに立っただけに過ぎない…月原も秋葉も、この点に関しては既に分かっていた。

 

「厳島さん、大丈夫でしょうか?」

広島代表の控え室で斎木の着替えの手伝いをしているスタッフは言う。

「大丈夫です。カーヴは確かに強い人物でしたが…あの人には合戦は向かない。途中で辞退するのが目に見えています…」

喋りながらでも斎木は右腕の特別なさらしを巻いていた。そのさらしには、特殊な糸が縫いこんであり、ちょっとやそっとの事ではきれないような仕様になっ
ている。

「相手は宮城代表…大丈夫でしょうか。パンフレットの経歴によると、格闘の経験がかなり豊富でストリートファイターとしても脅威の実力だったとか…」

「経歴などは関係ありません。私は、全力で相手を倒すのみです。厳島の名にかけて―」

さらしを巻き終わり、合戦用の巫女装束に着替え終わると、斎木は控え室を後にした。

 

前日の広島で行なわれた予備候補選出の最終トライアルで、斎木はカーヴを相手に指名した為、広島市長も無謀な挑戦だ…と思っていた。しかし、実際
はそれをあっさりと打ち破るような結果だった。

「バカな…。カーヴは、元プロ野球選手…体力面もかなりの者だと言うのに…」

見学に来ていた市長も驚きを隠せないような秒殺劇だった。

「これで、私の実力が分かってもらえたでしょうか?」

斎木は表情を変えずに市長の方を向いて微笑んだ。

 

その一方、F1のピットを思わせるような部品の山が控え室の各所に山積みになっている宮城代表のジャンクブレイカーの控え室では…最後の仕上げと言
わんばかりのパーツチェックが入念に行なわれていた。

「相手は厳島神社の巫女だというが、前日の最終トライアルでのVTRを見る限り…かなりの強敵であることは間違いない。奴の一撃が通らないようなディフ
ェンスタイプで調整するんだ…」

整備長が指示を出すが、ジャンクブレイカーはそれに待ったをかける。

「ディフェンスタイプじゃ、逆に防戦一方になる。向こうがスピードタイプであるのは明白なんだ…こちらもスピードタイプで対抗する。防御に関しては、こち
らの気合でカバーすれば、それで問題ないだろ?」

カーヴの元々のタイプはオフェンスタイプであり、自慢のパワーを更に強化したタイプである。対して斎木は、直前で配られた資料によると、スピードタイプ
と明記されていて…両方の特性はそれぞれ異なる。

「しかし、今からスピードタイプに調整…となると時間が…」

「それなら、不要な装甲を外すだけで構わない。どうしても、あの相手にはスピードで攻めないとまずい気がするんだ…」

ジャンクブレイカーはどうしてもスピードタイプで戦うと力説を続け、遂に整備長もそれに納得した。

「これ以上は時間の無駄か…。アーマーはスピードタイプに変更、アーマーの取り外しとジェットエンジンの取り付け作業を最優先にする。これは本人の希
望でもある。エキシビションとは言え、手を抜くんじゃないぞ!」

 

そして、第1試合が始まろうとしていた。

会場は歓喜の渦で飲まれそうな程に盛り上がっていた。勝ち負けには関係ないエキシビションマッチとは言え、ルールは実戦同様のルールが適用される為、ちょっとの違反でもペナルティーが加算される。負けは許されても…ペナルティーの加算だけは今後の為にも許されない。

 

「第1試合、賛成派広島と反対派宮城の合戦を行ないます。決闘者はそれぞれの入場門の前へ入場の準備をお願いします…」

野球のウグイス嬢を思わせるアナウンスと共に試合開始を告げるサイレンが鳴り響いた。

「赤コーナーより、広島代表決闘者、厳島斎木の入場です!」

競技場の中央には、レフェリーの衣装に着替えた月原の姿があった。彼のコールと共に北側の赤コーナーから現れたのは、巫女装束を着た斎木本人と数名の従者である。入場曲もかなり古風で、彼女が由緒正しい家柄の人物と思う人物もいるだろう。

「広島主催の最終トライアルで突如出現した正体不明のニューフェイス、前代表のカーヴを秒殺にした実力は、どれほどの物か?」

まるで格闘技の入場を思わせるような解説をする秋葉。既にノリノリ状態である。

斎木は巫女装束以外に武器などは持っておらず、隠し球でも持っているのでは…と周囲を驚かせた。

 

「続きまして、青コーナーより、宮城代表決闘者、ジャンクブレイカーの入場です!」

月原がコールするが、彼の姿は入場門にはなかった。まさか、棄権か…と思った次の瞬間…。

「こ、この曲は…!」

秋葉が驚いた。これは、神聖東京投資家の一件以前に自分が作っていたゲームのメインテーマではないか…と。次の瞬間、スピードブースターを展開し…ジャンクブレイカーが空から姿を見せた。しかも、ブースターをフル起動状態で。

「宮城が作り出したマジックブースター技術が、遂に姿を見せた。パワー、スピード、バランスの要素を全て持ち合わせた重装甲の決闘者、それが魂の刃を持つ者、ジャンクブレイカーだ!」

あまりの重装甲に普通の人間だったら、歩く事すら叶わない程の装甲、魔力を利用した半永久機関で動くジェットエンジン、決闘者はストリートファイターだった経歴を持つ兵…

どう考えても、斎木には不利な相手である。

 

「カーヴだろうと、誰であろうと俺には…勝てないだろうな!」

ジャンクブレイカーが斎木を挑発する。

「あなたこそ、この私の真の実力を見て…後悔しない事ね」

ジャンクブレイカーの挑発に応じる気配のない斎木。それ所か、逆に斎木の闘争心に火をつけてしまった気配さえする。

「お互いに、フェアな合戦を私は望む…」

月原がお決まりの台詞を言い終わる前に、合戦は始まった。

 

序盤はお互いに様子見の気配だったが、2分を過ぎた辺りで大きな動きがあった。

「いけっ、ライジングライフル!」

右肩に固定された大型のライフルをすぐさま取り外し、両腕で構えて連射する。雷を帯びた特殊なビームが斎木に迫るが…。

「無駄な事を…!」

しかし、斎木には全く当たっていない。確かに彼女に直撃したはずである…。

「ならば、これならどうだ!」

左肩の大型アンカーを右腕に取り付け、そのままジャンクブレイカーが突撃してきた。

「突撃してきたか…何と無謀な…」

斎木は普通にジャンプして攻撃をかわそうとしていたのだが…。

「かかったな!」

ジャンクブレイカーが斎木の真下を捉え、アンカーを斎木に向けて放った。

「奴め、これを狙っていたのか…」

斎木の右腕にアンカーヒットし、それと同時にチェーンが絡んだ。ジャンクブレイカーがそのまま構えに入り、チェーンを引っ張ったと同時にチェーンを急速に自分の元に戻す。

さすがの斎木も対応出来ずに地面に叩き落される。

「ライジングブラスト、受けてみろ!」

地面に叩き落され、体制を整える暇もない斎木にジャンクブレイカーがマジックブースターと連動した電撃砲を放つ。さすがの斎木もこの攻撃を回避する手段はなかった。

 

「あいにく、こちらもいつまでもやられている訳にはいかないのでな!」

巫女装束もボロボロになり、所々でさらしや肌が露出した状態になっている斎木だが、まだ倒れる気配はない。

「まずは、これを受けてもらうぞ!」

斎木の手から放たれた炎がジャンクブレイカーを襲う。

「そんな炎じゃ、当てる事が難しいんじゃないのか?」

回避の構えを見せるジャンクブレイカーだったが、斎木はその軌道を読み、炎の動きをすぐさまに変えた。

「この炎は、誘導式の炎だと言うのか?」

ジャンクブレイカーには命中したが、ダメージは少ない。ポイント的にも不利な状況に変わりはないだろう。

「その炎は挨拶代わり、本命はこちらだ!」

今度は、彼女の腕から電撃が放たれた。しかし、ジャンクブレイカーは回避するような気配は見せていない。

「残念だが、電撃は効かない!」

斎木の放った電撃がジャンクブレイカーの装甲に吸収された。どうやら、雷を吸収する特性があるようだ。

「こちらは全ての手の内を見せる訳には行かないというのに…止むを得ないか」

斎木は思った。技の一部を封印した状態では勝ち目がないのでは…と。しかし、このタイミングで自分の正体を周囲に見せる訳には行かない。そこで斎木は、懐に隠しておいたスモークグレネードをジャンクブレイカーに向けて投げつけた。

「くっ、一時的に視界をさえぎる手段に出たか…だがっ!」

再びアンカーを放って斎木を攻撃しようとしたが、目の前に斎木の姿はない。各種レーダーにも反応がない為、ジャンクブレイカーは完全に斎木を見失っていた。

「この姿を見られるわけには行かなかったが…状況が状況…本気でいかせて貰うぞ!」

彼は驚いた。一部でほどけたさらしの下から見える白い獣の毛、斎木の頭には狐の耳…。そして、九本の狐の尻尾…。

「まさか、こいつの正体は―」

次の瞬間、斎木の攻撃を受けたジャンクブレイカーは意識を失った。

 

周囲の煙がなくなっている頃には既に試合は終わっていた。観客からはブーイングもある物の、半数はいたって冷静だった。

「勝者は広島代表、厳島斎木!」

月原のコールとともに第1試合が終わった。

ジャンクブレイカーは何とか立ち上がれるものの、ブースターなどの装備の事もあって歩く事は出来なかった。

「厳島、次こそは…必ず!」

ジャンクブレイカーは自らアーマーをパージして会場を後にした。

「そういう事ですか…」

斎木は気付いていた。全力で戦わなかったのは彼も同じである、と。アーマーの重さは…どう考えても100キロ以上はある。ブースターの補助があったとは言え、あれを装備したままであの機動力…油断できない相手である、そう斎木は思った。

 

会場の再セッティングの後に第2試合が行われる事となったが、会場のダメージを見る限りでは少し時間がかかりそうである。

「時間がかかるなら、それに越した事はないだがな…」

控え室から試合を見ていた長野代表であるソルヴァ=ソニックが呟く。

「我々は既にペナルティーを背負った状態で後がないのだ…。エキシビションとは言えど

…勝つしかないのだ」

控え室にいた長野市長も焦っていた。

「昨日の襲撃…まさか、自由政治党残党の指示だったりするんじゃないんだろうな?」

ソルヴァも疑っていた。昨日の襲撃を自分は指示した覚えがないし、予定すらしていなかった。その為、彼は長野市長を疑っていたのである。

「とりあえず、我々が勝てば…大丈夫なのだよ。頼むぞ、ソルヴァ…」

そう言い残し、市長は控え室を後にした。

「自由政治党の時代は終わったんだ…。それを分からない市長でもないだろう…。時代は萌えではなく、イケメンアイドルが占める…その時代を作る為にも…何としてもこの合戦に勝たねば。そして、現実と言う物を分からせてやる!」

ソルヴァは俗言うアイドルグループ支持の為に反対派に回った決闘者である。しかし、長野市長とは反対派として一時的に組んでいるに過ぎない。長野市長は、かつての自由政治党が暗黙の了解としていた天下りを再び合法化するために賛成派を叩こうとしているのである。

「かつての高度経済成長も天下りのようなシステムが存在していたからこそ…成立していたのだ。月原やあの連中には、それが理解できていないのだ…」

控え室を出た市長が呟く。

「確かに世界規模で売り出す…という点では月原の言い分にも一理ある。しかし、自動車や電化製品のような物だけでは、奴は不十分だと言うのか?」

自動車、電化製品などの輸出も一昔ほどではないが好調である事は事実である。だからこそ例の計画にはどうしても違和感を覚える。

「一部事業のみが利益を生むような事態を緩和すると言っても…奴のやっている事は同じはず…。それなのに、奴が高く指示されているのは何故だ…」

そして市長は、特別観覧席へと向かった。

 

もう一方、埼玉代表の控え室では入念な各種ユニットのチェックが行なわれていた。

「まさか、ギリギリまでチェックする事になるとは…予想外よね…」

女性スタッフも手を焼くほど、今回の投入されるシステムはかなり高度な物だった。

「仕方ないわ。神聖東京投資家でも最強と言われた、日野沢あかりのソーラーバレットとムーンバレットをベースにしたシステムだからね…」

既に下着姿になってシステムのスタンバイを待っているのは、埼玉代表の決闘者である翼島氷雨(つばしま・ひさめ)である。彼女は元々はゲームショップのアルバイトだったのだが…決闘者のスカウトを受け、現在に至っている。

「ジャケットの方は準備できているから、そっちに着替えればいいのに…」

別のスタッフが下着のままで控え室を右往左往している氷雨に言う。

「あれは…さぁ、裸の状態で着ないと駄目な物なんでしょ…。だから、試合が始まる少し前からでいいよ…」

氷雨の言うとおり、専用ジャケットは裸の状態から着ないと能力伝達にノイズが入って本来のパワーが出せないのだが、あのジャケットを着ている状態では、汗をかきやすいのである。

「でも、第1試合が終わってから20分は経過してますよ。そろそろ、準備した方が…」

スタッフの一人が速くジャケットを着るように急かす。

「そう言えば、そろそろか…」

氷雨が時計を確認すると、試合が終わってから25分過ぎた辺り。第1試合前の休憩時間やスタジアムの修復時間を考えるとそろそろである。

「それじゃあ、行きますか…」

次の瞬間、氷雨が下着を脱ぎ、ジャケットに袖を通す間に経過した時間は…わずか1分足らず…。

「…でも、このジャケットの色は何とかならなかったのかなぁ…」

ジャケットの色は白と肌色の中間色…と言った具合で、下手をすれば服が透けて見えるように間違えられそうでもある。

「その都合もあって、スタッフを全員女性にしてほしい…って言ったの、自分じゃないですか?」

スタッフの言う通り、控え室のスタッフを全員女性にして欲しい…と言ったのは氷雨の方である。

「ハハハ…そうだっけ?」

とぼける氷雨。そんなことをやっている内にシステムの最終調整も終わった。

「システム調整完了。いつでも行けます!」

スタッフが総出で氷雨に各種アーマーパーツを付けていく。この作業の関係上、全員女性のみにしたのかもしれない…とスタッフの一人は思った。

「さぁ、張りきっていくわよ!」

氷雨がスタッフ数人とともに控え室を後にした。

 

「第2試合、賛成派埼玉と反対派長野の合戦を行ないます。決闘者はそれぞれの入場門の前へ入場の準備をお願いします…」

先ほどと同じアナウンスが流れる。既にスタンバイを終えているのは、意外な事に長野代表の方だった。そして、月原が先にコールしたのは…。

「赤コーナーから、長野代表決闘者、ソルヴァ=ソニックの入場です!」

赤コーナーから現れたのは、なんと反対派のソルヴァだった。右腕にはやや巨大なチェーンソー状の武器であるレーザーソニック、左腕にはレーザーライフルという装備。防御面は全く考慮せず、アーマーは最低限のガードのみにとどめられている。

「自由政治党議員を多く世に出してきた長野県、決闘者は以外にも議員とは無関係の人物を選んだのに花にか理由があるのか…!」

秋葉のアナウンスにもある通り、長野は自由政治党の議員を多く出している県でもある。

しかし、ソルヴァは議員とも自由政治党とも縁がない。何故、そんな人物を長野は選んだのか…そう思う者も少なくはない。政治的要素を強めるのであれば、議員の息子や現職議員などを決闘者で選べば良いだけの事。しかし、月原はそれを先読みし…政治色を強く押し出さない為に現職議員の参戦を見送るように各都道府県に通知したのである。

「この戦いで、証明してやる。時代はイケメンアイドルグループであり…彼らこそ絶対であると!」

ソルヴァは高らかに宣言した。現実を受け入れ、この計画を白紙に戻す…と。このソルヴァの宣言にブーイングの嵐が起こった。

「それこそ横暴だ!」

「俺もグループのファンだが、今回の合戦を利用して証明するほどの物じゃない!」

さまざまな声がある。中には、グループのファンではある物の、今回の合戦で証明する必要はない…と言う声も聞かれた。月原が望んでいたのは、こう言った賛否両論の活発化で政治や経済を盛り上げていこう…という物なのかもしれない。そんな声を聞いたソルヴァは観客に向けて、レーザーソニックを突きつけ…。

「言うだけならば誰でも出来るだろう。だが…戦うのは俺だ。俺を止めたければ、予備候補トライアルにでも参加して、合戦で止めてみるんだな!」

ソルヴァが観客を挑発する。だが、彼の言う事には一理ある。中には、トライアルに落ちた者も観客として混ざっている。彼らはソルヴァの発言に言葉を返せなかった。

 

その一方で、青コーナー側の入場門に氷雨がようやく現れた。

「青コーナーから、埼玉代表決闘者の翼島氷雨の入場です!」

突如、入場門から風が吹いた。その風に乗って現れたのは、大型の飛行型ユニットであるデンドロビウムに乗ったジャケット姿の氷雨だった。

「かつて、神聖東京投資家として破竹の活躍を見せた現東京代表の日野沢あかり、その彼女の持っていたソーラーバレット及びムーンバレットを参考にして作り上げた、大型飛行ユニットであるデンドロビウムを含めて…その能力は全くの未知数。果たして…その実力は如何なるものか?」

 

氷雨が中央のリングに到着すると、デンドロビウムのアーマーが分離し、ジャケット姿の氷雨に装着された。

「さて、始めるか…」

既にソルヴァも臨戦体制に入っている。

「こっちも本気で行くよぉ!」

氷雨が2丁の銃剣を構える。そして、バトルが始まった。

 

「これでもくらえっ!」

ソルヴァが風圧とビームを融合したような弾丸を放つが、氷雨には全く当たらない。

「こっちも反撃開始!」

氷雨が左手に持っているロードブレイカーをライフルに変形させ、魔力弾を放つがこちらもソルヴァには当たらない。

「これが、俺の超高速だ!」

ソルヴァの目を疑うような瞬間のスピードで氷雨の放った魔力弾を次々と回避していく。

回避行動の後、ソルヴァが超高速を使った突撃で氷雨を捕えるが、氷雨もただでは引き下がらない。突撃に耐えつつ、氷雨は右手のやや大型のシャドウブレイカーを構え、高出力の魔力光を放った。

「短距離専用の突撃砲か…かなり厄介だな」

わずかに掠った程度だが、アーマーがが少し

溶けているのを見る限りは、破壊力は相当な物だろう。しかし、この火力の短距離砲である以上は、連射は不可能…。そう予測したソルヴァは勝負を決める為、右腕のレーザーソニックを作動させ、氷雨に突撃をかける。

「これで、最期だぁぁぁっ!」

大きな衝撃がソルヴァを襲う。手ごたえはあった…と。しかし、そこには氷雨の姿はなかった。レーザーソニックは見事にリングに突き刺さり、すぐに抜ける気配ではない。

「奴は…どこだ?」

ソルヴァが周囲を見回すが、その時には既に氷雨がソルヴァに射程を合わせていた。

「ざ〜んねん。今のは、分身なのよねぇ…」

そして、氷雨は装備していたアーマーを全てデンドロビウムに集中させていた。ソルヴァが氷雨に気付き、ソニックブレードを持って突撃の体制に入った時には既に遅かった。

「デンドロビウム、オーバーブレイカー!」

デンドロビウムのソード形態による突撃に加え、空中での斬撃乱舞…ソルヴァには回避する手段は全く残っていなかった。

「バカな…負けると言うのか、この…!」

ソルヴァはリングに叩き付けられ、氷雨はデンドロビウムのブースターで地上に降りてきた。

「勝者は埼玉代表、翼島氷雨!」

歓声が響く。これはソルヴァを倒したことに対する感謝なのか、それとも…。

 

試合終了後、控え室に戻った氷雨はすぐにシャワーを浴びた。そして、彼女は考えた。

「この戦いで勝ち続ければ、間違いなく…他の県の強豪とも戦う事になる。そんな状況になっても、今みたいに戦えるのー」

そんな彼女に、スタッフの一人が突然抱きついてきた。

「急に何するんですか!」

氷雨は驚いていた。しかも、彼女も何故か裸である。スキンシップでも図ろうと言うのであろうか?

「深く考えるのは、氷雨らしくないよ。もう少し、頭を軟らかくしないと…ね!」

次の瞬間、彼女はスポンジを片手に氷雨の身体を洗い始めた。

「あ、ありがと…」

氷雨は心配してくれたスタッフに感謝した。

まぁ、さすがに今回の行動はやりすぎだとは思うのだが…。

 

「とりあえずは、奴らには大々的な宣伝は出来た。次はー」

負けたソルヴァだが、かなり前向きだった。

間違いなく、今回のバトルで自分の主張を宣言できたのだから。

「ソルヴァ、貴様は我々の顔に泥を塗るつもりか?」

長野市長がソルヴァに詰め寄ろうとするが…それが出来ずじまいだった。

「これはあくまでエキシビション。勝ち負けなんて関係ない。戦いは、これから始まるんだからな…」

 

そして、それぞれの決闘者も帰路につき、大型ビジョンで見ていた関西サイドの決闘者も現地解散となった。その中で、異色の行動を取ったのは、意外にも岡山代表の決闘者であるコーラル=レイだった。

「あなたたちは、ソルヴァを見ても何も思わないの?」

彼女はその場に残っている決闘者に質問をした。会場に残っている決闘者は、既に3人ほどしかいないが、コーラルの質問に一応答える事にした。

「確かに、個人的な主張で戦う事は間違っていないわ。県代表の決闘者としては…不合格だと思うけど…」

最初に答えたのは、京の芸者を思わせるような着物姿の榊頼美(さかき・らいみ)。彼女は反対派の京都代表の決闘者でもある。

「県の代表は、県のプライドや意地、他にも政治的裏事情がある。沖縄が決闘者を選んでおきながら、合戦そのものを辞退した。長野にも政治的事情があるだろう…」

榊の次に答えたのは、毛利だった。確かに政治的事情と言うのも存在するだろう。決闘者の選出も都道府県によってまちまちなのは彼女も承知している。

「個人的な復讐等で戦う事は禁止されているのに…彼はそれを糧にして戦っている。彼には…いつか、天罰が落ちるんじゃない?」

毛利の次に答えたのは、島津だった。確かに彼はイケメンタレントグループこそ全てであり、神聖東京投資家や彼女たちの土台となったアニメやゲームなどの2次元の世界に嫌気が指しているように見えた。個人の趣味に文句を付けたくはないのだが、ソルヴァのそれは度を越している。島津はそう思っていた。

「私もソルヴァには同意できない。あいつは一部の分野だけ生き残れば良いと言っているけど…それでは行き詰まってしまう。あの時の経過から何も学んでいなかったのかしらね…」

最後に答えたのは、赤ジャージが印象的な大阪代表の茶菓月雅(さかづき・みやび)だった。反対派の決闘者ではある物の、ソルヴァの行動には同意できない者の一人である。

「貴重な意見をありがとう…。賛成派と反対派…それぞれの意見は確かに貴重だけど、私は、合戦で決める事自体、おかしいと思っている。その為にも、この合戦を止めたい…」

彼女はそう言い残すと、姿を消した。

「珍しい子ね…」

榊は呟いた。ああいう子まで合戦に参加しているなんて…。

「戦いは、明日からか…」

毛利は思った。いくらルールが存在していたとしても、合戦である事には変わりない。戦国時代ほど混沌の展開になるとは考えにくいのだが…。

 

「珍しい嬢ちゃんだったな…」

コーラルの言葉を会場のスピーカー越しで聞いていたのは、元傭兵の長崎代表の決闘者であるゼーバー=ユニオンだった。