0:計画の始まり

今から数ヶ月前の事、世界規模のスポーツ競技大会の会場が日本に決まろうとしていた。当然の事だが、大会の誘致に反対する者や団体もあった。
今の日本では大会後の経済は不安定となると宣言した者もいた。そんな人物ばかりが大量に逮捕された事に対して、不満を抱く者もいた。
それほど、今回のスポーツ競技大会には政府としても入れ込んでいたのだが…実は、これには裏があった。大量の天下り議員が大会誘致委員会の
メンバーに加わっていた事である。この事実は、当時のある議員の告発で明らかになった物だが、この事実が国民に伝えられる事は無かった。

その告発をした議員は失職し、この事実を知るであろう議員は全て一掃されたかのように見えたが、この事実を知った別の人間が無謀とも言える一
大計画を打ち出した。

それは、『萌え経済活性化計画』である。この計画は、スポーツ競技大会などの特需ばかりでは日本経済は再生できないであろうという意見から飛び
出した、驚愕の計画であったのである。一般的に萌えと言われるジャンルの幅を今以上に拡大し、関連事業に対して減税処置、関連事業誘致に貢
献した地域に優遇処置をするなど…どれをとっても常識の域を出た、ある意味で型破りな計画であった。議論当時は「スポーツ競技大会だけでも十
分やっていけるのに、このような計画は受理できない」と、当然の事だが反対意見もあったが…その反対意見を出している議員の半数はスポーツ競
技大会誘致の際の天下り事件の一件を知る者ばかりだった為、天下りの一件を知っている者をマークする事には成功したのである。

反対派の彼らが過剰警戒したのは『日本経済が一向に良くならないのは、天下りや談合等が必要悪としてまかり通っている事であり、その必要悪を効
果的に排除する為に、第三者機関で厳選したメンバーによる武装組織を設立して、天下り等を排除する』という一文。武装組織という部分に警戒して
いるのは、天下りや談合を排除という部分に警戒しているのかどうかは最終的に不明だったが、法案は無事に可決された。こうして、政府公認の萌え
で経済を救おうという前代未聞の計画がスタートした。

いまや1,000兆円規模での大量の借金を抱える日本では、もはやなりふりなど構っている余裕は無かった。スポーツ競技大会に関しても、運営資金
の全てを税金でまかなおうとすれば、反対意見が出るのは必至。その為には何としても別の方法で資金を確保する事が必要で、その為には背に腹は
変えられなかったのである。ただし、一部の天下りを推奨する議員は反対派に回ったが、最終的には賛成多数で法案は成立した。

法案が施行され、一ヶ月が経過した時点では目に見えては効果を感じる事は出来なかったが、二ヶ月、三ヶ月と時間が経過していくにつれて効果は
どんどん大きくなっていった。

そして、奇跡は本当に起こったのである。

今回の計画の目玉である実際の街を使った一大バトルは見る者を魅了し、関連グッズは飛ぶように売れ、気がついてみると今まで右肩下がりだった
株価も上昇し、表向きには計画は順調に進んでいた。当然の事だが、スポーツ競技大会の運営資金も月に数パーセント規模ではあるが集まっていた。
どうやら、集められた税金の何割かをスポーツ競技大会の誘致や施設建築の資金に回るように法案を少し修正していたようだ。


しかし、今回の計画を妨害しようとする組織も同時に現れた。レイブステージと呼ばれる一大企業がバトルに介入したのである。何故に今回の計画の恩
賞を受けられる気配のある企業が計画を潰そうとしていたかのには理由があった。彼らには不正な会計の疑惑や大量の社員の天下りなど…表立っては
公表できないような事を実行していたのである。彼らのターゲットは、そう言った不正企業を徹底的に潰す事でもあった為、彼らは何としても天下り先の
確保の為に武装組織と戦ったのである。

その結果、武装組織の活躍によりレイブステージは壊滅…彼らの不正会計や天下りの実体が浮き彫りになる結果となった。最終的には会社は解体、社
長を始めとした不正会計に関与した人物全員は一斉逮捕される事となったのである。

実際の街を使った一大バトル、それは天下りや談合を何とか維持しようとする組織と何としても談合や天下りを廃止しようとする武装組織との戦いを偽装
する者であった事実は…あまり知られていない。

今回の一連の事件で英雄となった者達を人々は『神聖東京投資家(ぱらでぃん・とうきょうとれーだー)』と呼ぶようになる。

その一方で、スポーツ競技大会は運営委員会担当者の天下りや会場誘致に関係する談合疑惑などが一連のレイブステージ事件を調べていくに連れて
明らかになり、最終的には大会誘致を辞退…その際に集まった資金も全て国債の償却に当てられる事になった。

しかし、談合や天下りがこれで全て消滅したかと言うと…そうではなかった。彼らが潰していった物は…氷山の一角に過ぎなかった。

それほど、天下りや談合は浸透していたという事実も浮き彫りになっていた。逆に『経済を活性化させられるのは、やはりスポーツを置いて他にはない』と
萌え経済活性化計画に異論を唱える者も現れた。そんな声は、遂に賛成派と反対派で日本を二分するまで達し、日本の情勢は更なる混乱を極めた。

そんな状況を重く見た、日本金融銀行総裁である月原神人(つきはら・かみと)は考えていた。

「このままでは、日本の経済は混乱し、世界同時株安などの悪影響を作りかねない。どうすれば、この状況を打開できるのか…」

彼は悩んだ。萌え経済活性化計画の発動前の当時に右肩下がりだった株価に何としても歯止めをかけるために計画を提案した当時と今回の状況はまる
で違う。

「賛成派と反対派をどうにか説得し、円満解決させる方法はないものか…。このままでは暴徒と化した反対派がここを攻めてきてもおかしくない…」

ふと、気がついた。反対派が攻めて来るのであれば賛成派にここを守らせれば良い…。

しかし、そんな上手く行くかどうか…と思っている最中、一冊の本を見つけた。

「合戦か…。これならば、不公平はないだろう」

彼は確信した。これならば、賛成派も反対派も納得させる事ができる、と。

数日後、『合戦システムによる計画の継続賛成か反対かを問う事にする』という総裁の発表があった。当然の事ながら、政府は猛反対し、総裁の所へ詰め
寄る場面もニュースで報じられた。

「計画継続の賛成か反対など、国民投票で決めればよいだけの事。何故、日本全土を戦場にしよう等という案を総裁が思いついたのか…理解に苦しむ」等の
今回の総裁の発言には異議を唱える者が多かった。スポーツ競技大会の誘致失敗、レイブステージの一件で明らかになった企業癒着や談合の実態…そうい
った事情もあって、今回の総裁の発言には賛成派よりも反対派が多数を占めていた。政治家としては談合を必要悪と判断し、何としても談合が完全撤廃される
事のないシステムを構築したかったのだが、結局は国民投票で今回の合戦システムを採用するかどうかを決める事になった。

そして、数週間の猶予を置き、今回の合戦システムに関して賛成か反対かを問う国民投票が行なわれた。これは、レイブステージの一件が解決して、わずか一
ヶ月後の話である。

結果は、反対派の議員とは逆の結果…賛成派の圧倒していた。結果に関しては操作されていたのでは…と話す議員もいたが、結局は合戦システムを導入す
る事で最終決着した。

「合戦システム…これを採用する訳にはいかなかったが…」ある議員は言う。このシステムは、神聖東京投資家を全国各地に配置し、談合や企業癒着などを制
御するような物ではないか、と懸念していたのである。他の議員も似たような意見であった。しかし、合戦システムはあくまで神聖東京投資家の時のシステムとは
違う、と月原は説明する。

「あくまで、合戦システムは賛成派の代表と反対派の代表を激突させる為だけの物。さすがに神聖東京投資家のように、その区域の談合や癒着を取り仕切った
り出来るような権限はありません。ただ、それを望めば…権限を与えると言う事も考えますが…」

さすがに言い過ぎたようだ、と周囲の議員は思った。月原は、かつても政治献金や癒着などの俗に言う『政治とカネ』に関する問題に議員たちの予想の斜め上
を行くような方法で取締りを考えていた。それを踏まえれば、彼にこの問題に直結するような質問は非常に危険だ、と。

「では、今回の件についての賛成をされる議員のご起立を…」

最終的に、国民投票の結果を踏まえ…今回の合戦システムは採用される事となった。告知はルールを決めた後にされる予定だったのだが…月原は、こうも言
った。

「システムの素案は既に決定済です。その素案を公表した後に投票して、この結果でしたので…」

下準備は既に終わっていた、とでも言うような発言だった。つまり、今回の合戦システムに関しては、全てが月原のシナリオどおりに事が進んだのである。

「レイブステージの一件からわずか二ヶ月か…これならば、別の計画の方を同時進行させても影響はなさそうだな…」

月原の隣には、秘書とは到底思えないような容姿の人物がいた。顔は覆面で隠し、西洋の鎧を思わせるようなアーマーを身にまとっていた。

「では、例の計画を…」

「そういう事だ。これで、政治献金や癒着などを一掃出来ればいいのだが…既にこれをかぎつけている政治家が反対派に根回しをするのは事実だろうな…」

「では…私は反対派に…」

「そういう事になるだろうな。反対派の真意を探り、最終的には…腐敗した政治家をこの世から一掃する。そうでもしなければ、レイブステージの二の舞になりか
ねない…」

反対派につくのならば、と無理を覚悟で彼は月原に言った。

「反対派に行く事になるのであれば、宮城県を希望します…」

何故に宮城なのか、と月原はあえて答えなかった。

「いいだろう。もしも、反対派の代表が別にいなければ、お前を宮城県の代表に選ぶように議会に申請しておこう。ただし、実際になれるかどうかは別の話だ。
その時は、希望の県になるかどうかは保証出来ないが…」

そして、下準備期間の間に賛成派及び反対派にとある資料が提供された。これは、かつて神聖東京投資家が使っていた各種武装やアーマー、レイブステージ
や第3勢力の各種データである。武器の材質や製造方法まで細かく説明されている。ただし、莫大なデータと言え、一部では黒塗り、一部では資料が不足して
いる物もあった。特に秋葉真(あきは・まこと)に関する項目はどこにも存在しなかった。どうやら、彼の技術は完全にブラックボックス化しているようだ。その資料
をベースに代表者用の武装及びアーマーを賛成派と反対派は開発を始めていた。

当然だが、代表者の選出も行なわなくてはならない。代表者の条件としては、合戦システムに関する投票に参加した人から適性がある人物を選ぶ…という物だ
が、中には大物政治家の息子などを代表に出そうと画策している所もあった。しかし、他の議員から「もしもの事があっては、今後に影響を及ぼしかねない」とい
う点から、この計画は白紙に終わった。人選に関しては、提出資料を本部が確認し、選出に関するルールに違反する箇所がなければ、正式に代表者として選
ばれる。当然の事だが、代表者は1名に限定されている。

ただし、例外として北海道と東京は2名の選出が認められている。これは、人口の多さも当然考慮されているが、北海道は土地が非常に広い事と賛成派と反対
派で北海道そのものが分裂している事を考慮しての事である。東京に関しては、今回の合戦システムの本部を置いている為…という事になっている。それとは
別に予備人員の選出もしなくてはいけなかった。予備人員は、代表者に突然の病気やアクシデントがあった時に代表者に代わって合戦に参加する事になって
いる。賛成派及び反対派ともに人数制限はなく、賛成派が反対派の予備人員を選出しても問題はないようになっている。逆のケースも当然だが認められている。
つまり、反対派の代表がアクシデントで合戦続行不能となった場合、賛成派の予備人員が代理で合戦を行なう場合、自動的にその県は賛成派に変更される。
当然の事だが逆のケースも然り。

しかし、東京の代表者は既に決定していた。

秋葉真と日野沢(ひのさわ)あかりの二人である。秋葉に関しては、今回の合戦システムのオブザーバーも担当する。しかし、反対派からは反発の声
があった。神聖東京投資家の現メンバーを何故加えたのか…と。予備人員に関しては、他のメンバーを招集しようとしたのだが…連絡が取れない等
の事情で召集は見送られる事となった。何故、連絡が取れなくなったのかは…この時点では全く分からなかった。

「まさか、君がオブザーバーを引き受けてくれるとは…」

月原も驚いていた。何らかの形で引き入れようと考えていた秋葉真が自分の目の前にいる事に。既に神聖東京投資家のメンバーには何人か声をかけたのだが、
正式に返事が来たのは彼だけであった。

「こっちも、総裁本人から声をかけてくれるとは…正直言って、想定外だったよ」

日本金融の総本部へ乗り込み、総裁の真意を聞くはずだった秋葉だが、想定していた対応と全く違う対応に驚きを隠せなかった。まさか、総裁の個室にまで案内
されるとは…自分でも思ってみなかったのである。

「総裁の真意が聞きたい…何故、今になってあの合戦システムを採用しようと考えたんだ…」

秋葉は本題に入った。合戦システム自体は昔に天下り業者に対しての制裁処置として秋葉が考えていた物である。実際、合戦システムに関しては自分で本を出し
た位である。

「これを見て思いついたんですよ…今の経済活性化計画に足りないのは、全ての都道府県が一丸となって財政を立て直そうとする協力体制だと…そう判断したん
です」

月原の手には、秋葉が昔に書いた本…それを見た秋葉は、彼ならば大丈夫だろう…と思った。

「賛成派と反対派が分離した状態では財政再建を行なう事は不可能だから、どちらかに決める…という事か」

秋葉は月原の考えがある程度読めてきた。もしも反対派が勝っても、スポーツや他の分野で何とかして財政を再生させようと考えている…と。

「その為には、天下りやあまりにも悪質な不正を行なう致命的な企業の排除…それが重要だと思うのです。それを防ぐ為のオブザーバーであり、あの合戦のルール
なのです」

月原の力説に秋葉は納得した。そこまで言うのならば…とオブザーバーを引き受けることになった。

「一つだけルールに追加してくれないか。合戦はあくまで1度きりではなく―」

秋葉がオブザーバーについてから数日後、決闘者の書類が次々と日本金融内の合戦総本部

に送られてきた。かずはさほど多くはないものの、当初予想していた物とは違う経歴を持つ者もいた。

「元傭兵か…物凄い代表を選出したね…」

「こちらは、普通に野球ファンだ…想定の範囲内な人選だね」

秋葉と月原の二人で書類と格闘している。他にもスタッフ数人が書類をチェックしているのだが…最終判断は秋葉と月原の2名で行なっている。

「今回の分で半分は埋まったが…それでも関東地方が東京、群馬、栃木だけしか決まっていないのは…どうかと思うのだが」

月原は何かが引っかかっていた。レイブステージの本社があった場所は確か…。

「どちらにしても、我々には不利になる…ならば、少しでもこちらに有利になる方に力を貸す…それは当然の事だと思うが…」

神奈川県議会では、今回の合戦に参加する代表の選出を行なっていた。しかし、その半数は反対派であり、賛成派は指折り数えるほどになっていた…。

「スポーツ競技大会では、会場候補で東京に敗れ、今度の合戦でも負けるわけには行かないのだ。レイブステージの事もある以上は…我々は東京には是が非でも
勝たなければならない」

レイブステージの本部は神奈川にあった。そのため、観光面でも大幅なイメージダウンで赤字寸前まで追い込まれた。天下りや闇献金の一件もクローズアップされて
しまった為に神奈川としても今回の合戦計画では賛成派に回り、何としても反対派を排除しようとしていたのだが…急に方針を反対派に転換した。

「反対派を勝利へと導き、その後に改革案を出せば…我々が東京に変わって政府を動かす事も可能になる。そうすれば、廃止に追い込まれている天下りや談合を
合理化することも可能になるだろう…」

彼らの目的は、主な資金源となっていた談合の復活であった。もちろん、そんな談合復活を何としても阻止しようとしていた者もいるにはいたのだが、全て反対派に
弾圧され、今は別の所へ幽閉されてしまっている。その中には現県知事の姿もあった。

「まさか、ここまで反対派が強硬手段に出るとは…こちらの想定外だったか」

とある別荘、そこに神奈川県知事はいた。別荘と言っても、外には警備員がいて一歩も外に出る事は出来ないようになっている。

「だが、彼らのような談合を必要とするような考えは、間違っていると証明される。かつて、政府が天下り廃止を掲げ、結局は自分たちの党のみが生き残るように都合
よく細工した…あの時と同じように」

彼は思った。かつて、レイブステージ事件が公になる前に、とある党が談合の廃止を掲げるも、結局は自分たちに賄賂を送れば談合を行なっても良いと言う事にな
り、それが国民の大反感を買い、最終的には時の総理が逮捕される事になったと言う事を…。その数年後に一連のスポーツ競技大会での天下りや談合事件が起こ
り、今回のレイブステージ事件に至るまで、未だに談合や天下りが必要悪として蔓延している。神聖東京投資家は…そんな談合や天下りを支援する組織を取り締まる
為の組織だが、メンバーはほぼ全員がバラバラとなってしまい、行方不明のメンバーもいる状態が続く。おそらくは、今回の合戦では彼らの出番はないと判断され、一
時的に解散となっているのであろう…そう、彼は予測していた。

「やはり、政治とカネの問題は…切っても切り離せないのか。もはや、選挙権でさえもカネで買えると勘違いしている政治家が横行しているこの日本では、もはや…正
常な政治は望めないのか…」

そして、彼は合戦システムに全てを賭けた。

賛成派が勝利し、神聖東京投資家を再結成させて談合支援組織を駆逐してくれる事を…。

「頼む、賛成派が勝たなければ…彼らの運営資金はまかなえないのだ…」

翌日、大量の書類が総本部に届けられた。秋葉と月原が懸念していた関東地方の決闘者も

全てが埋まっていた。

「これで、ほぼ全ての都道府県が埋まったな…と言いたい所だが、沖縄だけが何故か未提出のままだ…」

月原は頭を抱えていた。沖縄の決闘者の資料が未だに届かないのである。しめ切りには時間があるが…それでも沖縄以外の全てが資料を提出したのに…これはおか
しい。そんな中で、一本の電話がかかってきた。

「はい、月原です…」

月原が電話に出た。電話の主は、何と沖縄県知事だった。

「…分かりました。事情は理解できましたが…決闘者の方は、どうするつもりですか?」

「決闘者は決定済だが、何処かで2軍…あるいは予備候補として何とかできない物だろうか…」

「とりあえず、それらを検討する為にも大至急、資料を送って欲しいと思っておりますが…いかがでしょうか?」

「では、今日中にでもメールで送る事で対応…と言う事で…」

最終的には、沖縄県知事が決闘者の資料を送る事で解決した。

「沖縄には米軍基地があるからね。彼らに神聖東京投資家を含めたデータが流れる事を恐れての判断…だろうね」

秋葉の言う事にも一理あった。下手をすれば神聖東京投資家の技術が戦争に利用されてしまう。それを恐れた沖縄県知事は、今回の合戦に関しては辞退する事にした
のである。

「とりあえず、今回の合戦は実験的な要素もある。これを、今後のイベントにするかどうかは…賛成派次第だね」

「ただ、個人的に思うんだ。この技術、確かに戦争に流用されるのは確実だろう。下手をすれば自衛隊に転用される恐れもあった位だからな…」

秋葉は思った。これだけの技術、考えてみれば軍事転用されてもおかしくはないはずなのである。しかし、魔術や錬金術、その他の未知数のパワーをコントロールする為
の技術で大幅なコストがかかる為にで見送られている…というのが現状。米軍も、未知数のパワーに頼る訳には…と導入を否定している。

「果たして、神聖東京投資家の時みたいに上手くいくか…」

秋葉は、そこだけが心配だった。

沖縄県知事との電話会談翌日、一人の女性が東京に現れた。服装は普通だが、背中には大型の剣を背負っていて彼女が決闘者か神聖東京投資家のどちらか
ではないか…と周囲の誰もが思っている。彼女の名は瀬戸美天
(せと・ひてん)。元々は沖縄代表だった人物である。

「まずは、日金総本部かなぁ…」

美天は日金総本部へと向かった。目的は…自分が所属する都道府県を聞く為である。

「日本の運命を決める戦いが始まる…等と言うと大袈裟だが、そこまでやらなければ政治すら変えられないのは…悲しい話か」

そして、全ては始まろうとしていた。