7:ホーリーフォース独立宣言  午前11時、テレビ局の屋上で既に到着したロックとショットが偵察を開始した。 瀬川が正面で敵を待ち伏せしている為、2人は裏口からテレビ局へ潜入したのである。 「裏口が手薄とは…。向こうも裏口から仕掛けてくるのは分かっているのに、どうして正面で待ち構えるなんて―」  ショットは屋上から瀬川の姿を見てつぶやいた。テレビ的な要素でも気にしているのだろうか…という思いもあったが、今は非常事態なので瀬川もテレビ映り等は考えてはいない。 「関係ないですが、ナンバー7は元々ラクシュミのメンバーがなる予定があったのに、どうしてホーリーフォースに選ばれ―」  ロックは疑問に思った事をショットにぶつける。ホーリーフォースのホームページでは特に人員変更に関しては触れられてはいなかったが、本来であればナンバー7はラクシュミメンバーが選ばれる予定になっていた。 「あれは、事務所の指示でホーリーフォースのテストを受けて予備人員として合格、その後の実戦テストがラクシュミメンバーよりも高かったから、その流れで選ばれた…と言う事―」  ラクシュミメンバーでも鶴の一声で合格していた訳ではないと言う事を聞いてロックは安心していた。そこまでホーリーフォースが変わり果てていたら、フリーズや七那が選ばれているはずはない…と。 「自分は体格の事もあってスポーツ系タレントでデビューしたかったけど、この辺りは芸能事務所の指示でグラビア系デビュー―という形になった。今では、ホーリーフォースというポジションが固定されて、これでも良いと思うようになったが」  確かにショットの体格を見ると筋肉質な体つきではあるのだが、3サイズ的にはグラビアモデル向きである。見方によっては、同じ3サイズのラクシュミメンバーよりはマッチョで巨乳というショットの方がマニア受けは良いのかもしれないが。 「そう言えば、あの指令は全員に出ていたようですが…全員は来るのでしょうか?」  ロックの言う指令とは、数時間前にミカド名義で送られたホーリーフォース緊急招集の事である。どうやら、リボルバーが万が一の保険として用意していた物らしい。 緊急招集指令は、日本にとって不利益と判断された非常事態にだけミカド自身が発動できる物で、この緊急招集は総理大臣の命令よりもホーリーフォースにとっては最優先される。この緊急招集は自身の病気等と言った正当と認められる理由以外で拒否する事は、ナンバーの剥奪を含めた思いペナルティを受けることを意味している。 「ラクシュミのメンバーは難しいだろう。既に妨害として他のエリアで戦闘している履歴が入っている。それに、強化型装甲を失ったに等しいナンバー12も無理だろう。来るとすれば―」  ショットが話をしている途中で、正面ゲートから複数の特殊部隊とロボットが姿を見せた。どうやら、政府の先行部隊がテレビ局に到着したようだ。  先行部隊到着と同時に瀬川がシールドに仕込まれている連装型ビームガンで攻撃を仕掛ける。それに加えて、背中の羽を全て分離させ、敵に向かって飛ばす。 「まさか、ラクシュミでも実装を保留にしていた最新型を使っているのか―」  先行部隊も送られてきた情報を見て驚いていた最新型強化型装甲―。瀬川が使用している物は、その最新型なのである。 「政府が持っている最新型の情報よりは、更に上のバージョンアップを施しているのが自分の強化型装甲―」  敵に向かって飛ばした羽が、自分の意思を持っているかのように先行部隊にビーム攻撃を仕掛ける。どうやら、6枚の羽は無線式のビットと同じ機能を有しているようだ。 「しかし、火力は他のホーリーフォースよりは下回る、我々の最新型ロボットの装甲には効果はない!」  火力という点で弱点を持つホーリーコントロールではロボット兵器の装甲には対抗できないだろう。先行部隊のかく乱が限界か…そう思っていた瀬川に予想外の増援が現れた。 「今の音楽業界を見て確信しました。ラクシュミ商法の売り上げ至上主義に変わり果てた現状、それを容認して放置し続けた日本政府に音楽業界を任せる事は出来ません!」  お決まりのツンデレで現れたのはメイド服のコスチュームを着たフリーズだった。彼女はロボット型強化型装甲の肩の上で仁王立ちをしている。そして、メイド服がSFアニメのような宇宙服へと変化し、分離した強化型装甲がフリーズに装着される。 「全てを知った今となっては、リボルバーが私に提案したアレが正解だったとは―」  フリーズはホーリーフォースを揺るがせた初代ナンバー5を撃破した例の事件、それが全て芝居であることを明らかにした。人形発言で激怒した事も、コンサート会場でダークネスレインボーを撃破した事も全てはラクシュミ商法を全廃させる為に仕組んだ計画だったのである。 「日本政府がラクシュミ商法で税収が見込める事を知ってからは―音楽業界が全て管理されてしまい、最終的には政府管理外の同人シューティングゲームの曲、商業展開されている音楽ゲーム、動画サイトのインディーズ楽曲などに注目が浴び、次第にラクシュミ商法に疲れた音楽ファンの拠り所になった。今の音楽業界はお金が手に入れば全てという業界になり果ててしまっている。そんな業界を許せなかったリボルバーは―」  フリーズが長々と語る。その内容はラクシュミ商法がもうかる事を知ってしまった音楽業界が変わり果ててしまった事、大幅な税収を見込めると知った日本政府が音楽業界を政府主体で管理しようと計画した事、ラクシュミ商法を更に強化しようと計画されたテストケースがホーリーフォースである事…他にも日本政府が管理していない音楽ゲームの楽曲などが急伸し、ラクシュミ商法が限界にきている事等…瀬川が語っていなかった事も彼女は語り続けた。 「だが、日本政府が管理していない楽曲で赤字国債は償却できるのか? ラクシュミの曲が売れれば、関連グッズが売れれば赤字国債が確実に償却され、赤字国債大国と言われている現状を打破する事が出来る。それが分からない訳ではないだろう?」  先行部隊の隊長はフリーズの説得を図ろうとするが、フリーズは全く応じる気配を見せていない。 「政府の先行部隊―やっぱり、ラクシュミ親衛隊を取りこんでいたという事実は本当のようですね―」  フリーズが躊躇することなく、マルチビットを展開して攻撃を仕掛ける。それは、ラクシュミ親衛隊に存在価値はないかのように蹂躙しているようにも見えた。 「ば、化け物―」  フリーズを見て恐れる先行部隊が撤退を始めた。本隊は数分後に到着するようだが、先行部隊がこの現状では―。 「強化型装甲とはいえ、こちらは最新型のロボットを使っている以上、勝てない相手と言う訳ではない!」  ロボット部隊の方は、退却中の先行部隊と違ってフリーズと瀬川にも躊躇することなく攻撃を加えている。数はロボット部隊の方が上で、最新型強化型装甲の瀬川と別プランで開発されたフリーズの強化型装甲をもってしても数で押されれば圧倒的に不利である。 「さすがに、この数は―?」  そう思っていた瀬川だったが、テレビ局の屋上から複数のリモコンミサイルが飛んできたのを確認し、すぐに瀬川はエリアから退避する。 「リモコンミサイルが、どうして?」  フリーズも飛んでくるリモコンミサイルを目視で確認し、着弾地点から退避する。退避して数秒後には複数のリモコンミサイルが爆発し、ロボットの装甲にダメージを与える。 「意図的に火薬は減らされているのか…先行部隊に生身の人間がいると知っていて―?」  ロボット部隊の隊長がミサイルの火薬が意図的に減らされている事に気付き、ミサイルはブラフである事を知らせようとしたが―。 「今頃ブラフに気付いても、遅い!」  ショットがテレビ局屋上から実弾のスナイパーライフルでロボットのセンサー部分を精密射撃で次々と潰していく。センサーを潰されたロボットは後退を余儀なくされ、先行部隊は壊滅的ダメージを受けた。  瀬川とフリーズはテレビ局の屋上にショットとロックがいる事、敵の隠密部隊が背後からテレビ局に侵入して電波ジャックをしようと考えていた事には全く気づいていなかったのである。 「先行部隊を片づけたとしても、次の部隊が準備されているのは確実ね」  合流したショットが別部隊の存在を確認していた事を瀬川とフリーズに説明した。 「別部隊が組まれていたとは…予想外」  瀬川も大部隊が迫っている事はヘリの中継映像で確認していたが、まさか別部隊が編成されていたとは予想外である。 「テレビ局を調べたが、不審者らしき人物が侵入した形跡はないようだ。狙いは瀬川のみという事かもしれない。電波ジャックを狙っていた部隊も政府とは別の指示で動いていた部隊か―」  テレビ局内を調べていたロックが瀬川達と合流をして、作戦の打ち合わせを始めようとしたが、次の部隊が迫っている事を肉眼でも確認出来た為、現状では迫ってくる敵を撃破する事で意見が一致した。 「テレビ局その物は、政府も破壊するのは得策ではないと判断している。あくまで、ターゲットは瀬川のみ―」  ショットはロックと共にテレビ局屋上へと戻り、背後から来る部隊の対応に当たる。 「第2陣が来ない…?」  屋上で様子を見ていたロックは来ると思われた第2陣が来ない事に不信に思った。 「先ほどまでは確認できていた物が…急に目的を変更したとか?」  フリーズも先ほどまで確認できていた部隊が急に作戦を変えたというのは何処かで異常事態が発生した事を意味している。 「いくつかの部隊が他のホーリーフォースと戦っているという情報は入ってくるが、テレビ局に向かっている第2陣が全く来ないと言うのは様子がおかしいとしか思えない―」  ショットがホーリーフォースの交戦記録ログを調べつつ、第2陣が来ない原因を探していた。あれだけの大軍があっさりと全滅するはずがない。絶対に誰かが部隊に仕掛けている…と。そして、それらしきログをショットは遂に発見した。 「どうやら、第2陣に攻撃を仕掛けているのはダークネスレインボーのようだ」  第2陣に攻撃を仕掛けていたのはダークネスレインボーだったのである。しかし、現在はダークネスレインボーが2名いる。どちらのダークネスレインボーなのか…。  午後1時、第2陣が待機をしていた新大久保付近ではリボルバーがミュージックブレードを片手にラクシュミ親衛隊と特殊部隊を相手にしていた。 「ショットが向こうにいる以上は…合流の必要性はないだろう。まずは、瀬川を援護する為にもこの大軍を何とかする方が先か」  瀬川にばかり大量の敵を相手させる訳にはいかない…とばかりに次々と敵を撃破していく。そんな中で、部隊長の一人が何かに気付いた。 「奴が持っている武器はミュージックブレードに見えるが、実際はブラフだ!」  攻撃隊長の一言を聞いた部隊だったが、それでもリボルバーの勢いを止めるまでには至らなかった。 ミュージックブレードはラクシュミの楽曲が武器として悪用される事を理由に政府としても警戒対象にしていた。しかし、実際には該当される能力はないという事が調査の段階で判明したのだが、それが伝わるのには若干だが時間がかかり過ぎていた。情報伝達が遅れた原因は、リボルバーとは全くカラーリングの異なった旧デザインのダークネスレインボーがアンノウンとして出現した事が理由の一つになっているようだが…。 「このタイミングで気付かれたか」  リボルバーも若干後のタイミングでトリックがばれるのではないか…と思っていたのだが、このタイミングでは非常に危険か―そう思っていた中で別の方向から特殊部隊の大軍をなぎ倒す影が現れた―。 「リボルバーが、どうして?」  現れたのは意外な事に七那だった。本来はテレビ局の方へと向かう途中だったが、部隊の流れが新大久保へと向かっていた事で様子を見る為に部隊についていったのである。 「初代ダークネスレインボーが、まさかこういう人物だったとは…という流れか?」  リボルバーにとって、七那がこちらに来る事は予想もしていなかったのである。 七那はホーリーフォースに憧れをもっていた。しかし、実際はラクシュミというアイドルグループの新企画を実行する為のテストケースとして利用されていた…と知った。 「あなたが最近になってホーリーフォースのあり方を問う為、日本政府に宣戦布告をした事も知っていますが…!」  七那はリボルバーに訴える。力でラクシュミ賛成派をねじ伏せたとしても新勢力が現れて同じ事を繰り返す―同じような商法で失敗した別のアイドルグループに代わってラクシュミがトップアイドルグループに君臨した今の音楽業界と同じ事を…。 「そして、今のホーリーフォースを見て考えました。自分でも悩み疲れましたが、あなたが力でねじ伏せると考えるなら、自分が取る行動は―」  七那は先ほどまで持っていたロングソードを地面に突き刺し、強化型装甲も解除するという行動に出た。 「ホーリーフォースは、本日より日本政府からは完全に独立する事を宣言します。今の日本が抱える大きな問題を残したまま、政府の援助を受けた状態で運営するのは困難だと判断した為です―」  コスチュームのみという状態で七那はホーリーフォースを政府から独立する事を宣言したのである。これを聞いたリボルバーは驚きのあまりにミュージックブレードを七那に向けるのだが、彼女の目つきが揺らぐ事は全くなかった。それだけ、彼女の決心は固いのだろう。そして、リボルバーは七那に向けていたミュージックブレードを下し、素直に自分の敗北を認めた。 「私の負けのようね。確かにホーリーフォースの現状を見て絶望して、今の音楽業界が明らかにラクシュミ至上主義で動いているのを見て、今回の手段に出た事は間違っていなかったと思う。ただ、方法がまずかった―音楽が完全管理された日本を変える為という理由があったとしても―。そして、自分は政府が試作していた強化型装甲を利用して最終的にはホーリーフォースを生み出した。何処で間違ったのかな―私の音楽業界に寄せる思いは…」  途中から涙目になったリボルバー、しばらくすると彼女はすぐにこの場から離脱して姿を消した。七那も宣言をした後はリボルバーと同様に姿を消す。七那に関しては瀬川に合流するという目的もあったようだが。  独立宣言の数時間前、密かに七那が独立宣言するという情報を手に入れたラクシュミ親衛隊の強硬派は七那を止める為に新大久保へ向かおうと動きだしていた。その中には、サウンドランナー事件で使われていた試作型強化型装甲や同じ事件で注目されていた服部半蔵の忍装束を着た人物も混ざっていた。 「日本の赤字国債をゼロにするのは、ラクシュミの役目。それをホーリーフォースに横取りされるのだけは避けなくてはならない―」  服部半蔵の格好をした女性が叫ぶと、周囲からは拍手と歓声が聞こえた。 『そう言う事だったのか―』  親衛隊が声のする方向を振り向くと、そこには本郷カズヤの姿があった。更には銀色のライトニングマンも彼の隣にいる。 「私の名は、電攻仮面ライトニングマンナイト…この世の悪は、私が裁く!」  西洋甲冑を思わせるデザインだが、仮面や一部のスーツにはライトニングマンに共通したモチーフが使われている。腰にはライトニングマンシリーズでは恒例の変身ベルトまである。 「ホーリーフォースの力と同等の我々に勝てると思うのか…所詮、コスプレで―」  服部半蔵格好をした女性はライトニングマンナイトがコスプレであると見破ると、親衛隊に攻撃の指示を出す。しかし、一方のカズヤは不敵な笑みを浮かべている。 「これを見ても、コスプレと言い切る事が出来るかな―」  カズヤは大空へとジャンプし、初代ライトニングマンへと変身する。初代に限って言えば本物の強化型装甲である―。 「男性が強化型装甲を使えると言う話なんて聞いていない―」  ラクシュミ親衛隊の強硬派も、最終的には他のラクシュミメンバーや親衛隊等と同じ結末をたどる事になった。100人以上は集まっていた親衛隊も、ライトニングマン2人によって10人辺りまで減らされてしまったのである。それまでにかかった時間は、わずか5分足らず…。 「こうなったら…!」  残りの親衛隊も減っていき、残るは半蔵一人だけと言う状況になった。彼女は持っている刀でライトニングマンに斬りかかろうとするのだが、それを止めたのは予想外の人物だったのである。 「サウンドランナー…?」  半蔵が驚くのも無理はない、刀を片手で受け止めたのは過去にサウンドランナー事件で超有名アイドルの暗躍を阻止するのに活躍をした飛翔だったのである。その格好は、過去にサウンドランナーとして活躍していた時のタンクトップをベースとしたランナースーツに加え、特殊な技術を利用して制作されたグローブにブーツも健在である。 「やっぱり、予想は的中したみたいね」  刀を受け止めた後、飛翔はハイキックで半蔵を蹴り飛ばし、道路に叩きつけた。叩きつけられた反動で半蔵の覆面が外れ、そこから現れた顔には3人とも見覚えがあった。 「彼女は、まさか…」  カズヤは驚くが、その驚きは予想通りの人物だった…と言う驚きだった。 「ラクシュミの現在メンバーが、親衛隊の強硬派を操っていたとは…。それに加えて政府を動かしていたのもラクシュミメンバーと言う可能性は否定できないか。彼女達がどんな理由で日本の人心掌握を図ろうとしたのかは不明だけど、絶対的な神とも言える存在として永遠に名を刻もうとしていたのは事実なのかもしれないわね―」  飛翔は一連のラクシュミ事件は芸能事務所も原因の一つかもしれないが、日本で絶対的な神になろうとしていたという事が最大の原因なのでは…と思っていた。誰が神になろうと考えたのかは、謎のままだが…。 「神を目指そうとして、不正行為等を繰り返していたとは…。神など存在しない…というあの台詞は正しかったと言う事か」  ライトニングマンナイトは、何と本物の服部半蔵だったのである。どうやら、偽者を名乗る人物の存在をネットで発見した事で彼女をおびき寄せようと考えていたらしい。 「やはり、神は人間が人為的に作り出した存在である…と言う事が証明されたのか」  カズヤは何故に人は神と言う存在を求めようとしているのか…その点に疑問を持ち続けていた。自分も特撮界の神と言われているのだが、神と言う呼ばれ方をカズヤは否定し続けている。  午後2時、七那の独立宣言は日本全域に放送されて話題となった。特殊部隊も七那の独立宣言を聞いて撤退を開始していた。今回の独立宣言で戦う理由がなくなったというのが大きいようだ。それ以上に、別の通信で他の施設が何者かの襲撃を受けたという報告もあり、そこへ向かった部隊もいるようだが…。 「部隊が撤退していく…?」  状況が飲み込めなかった瀬川だったが、その後に現れた七那が現れてからは状況を次第に理解していった。 「どうやら、保険をかけていたのが予想外の効果になったようだな―」  ショットは全てを知っているような話し方で七那に声をかけた。 「保険…?」  瀬川は保険の意味に関して分からない事だらけだったのである。自分がテレビ番組に出ると言う事は新聞や番組ホームページを見れば把握できるのだが、話す予定の内容までは新聞等には載っていない。フリーズやロック達がテレビ局に現れた事と関係があるのだろうか…。 「その保険をかけた本人とは連絡が取れなくなっている以上、自分から話せる事は少ないが―」  リボルバーとの連絡が急に取れなくなったショットは、自分から話す事は少ないという断りを入れてから瀬川達に今回の一件に関して説明をした。 「あの時のアンノウンの正体がショットだったとは―」  ミュージックブレードを持って現れたダークネスレインボーに似たアンノウン、その正体は何とショットだったのである。 「リボルバーからは無茶をしない程度にラクシュミや同系統の芸能事務所を揺さぶる目的でアンノウンを演じていたが、予想外の事態がプラン変更を余儀なくさせた。それはナンバー12の事だ―」  事故とはいえ、ナンバー12が離脱した事は非常に大きかった。けが等はなかったようだが、彼女の強化型装甲は大破してしまった事は非常に大きい。 「あれが少なからず、リボルバーに何らかの影響を及ぼしたのは事実だろう。そして、瀬川が提供した情報が今回の作戦を決行させたと言っても過言ではない―」  作戦と言われて、瀬川はどういう事だ…と思った。リボルバーのホームページの更新速度を考えれば、あの情報をホーリーフォースのメンバーがチェックしていてもおかしくはない。 「他のメンバーも作戦は知っていた?」  瀬川はその場にいるメンバーに問いかけるが、作戦と言われると疑問の表情を浮かべるメンバーが多い。 「ただ、ホームページのトップには妙な文章があったのは事実よ。『今、音楽業界の存亡をかけた戦いが幕を開ける―』と』」  フリーズは、このホームページの文章とミカドからの指令で瀬川が危機に陥っていると感じて、六本木へ向かったのである。フリーズ以外も説明は異なるが、意味はフリーズが説明した事と同じようである。 「後は、これを説明する必要があるか―」 そして、ショットはリボルバーが仕掛けたもう一つの保険の正体を明かした。彼女の手にはDVDが1枚ある。そこには、独立宣言とラベルに書かれているのだが…。 「宣言をする人物は七那と最初から決まっていた。あの文章は元々のテンプレ文章があったのだが、七那はテンプレではなく自分の言葉で伝える為に、テンプレの方はこちらに返してきた。これが、そのテンプレだ―」  ショットは返却されたテンプレ文章の入ったDVDをノートパソコンに読み込ませ、瀬川達に見せる。リアクションは様々だが、この文章の内容に一番驚いていたのはフリーズである。 「これって、確か―」  フリーズにはテンプレ文章の文面やセリフ回し等に見覚えがあった。実は、この文章はフリーズの強化型装甲の元になった作品のセリフを今回用に改編した物だったからだ。 「後は、リボルバーがどういう行動に出るのか気になる所だが…今回はこれで解散と言う事になるだろう。自分から話せる事も―」  ショットは、そのまま新宿方向に向かって行き、フリーズは秋葉原へと戻る。残ったのはロックと七那、瀬川なのだが―。 「これで、全てが終われば…」  七那は何かを悩みながらも、フリーズと同じ方向へと向かった。それに続くようにロックも同じ方向へ帰っていった。 「ホーリーフォースはラクシュミのようなアイドルグループとは違った。それは、まるで個性を持ち、それぞれが日本の未来の為に戦った、現代版の戦国武将のようだった―」  瀬川は何かを思っていた。ホーリーフォースの本来の運用方法はラクシュミのようなアイドルグループとしてではなく、ホーリーフォースという名前を持った現代によみがえった戦国武将だったのかもしれない―と。 「それぞれのナンバーには全く同じようなテンプレアイドルはいらない。個性を更に重視して、それを活かせるような人材が必要だった―」  ラクシュミにいた当時とホーリーフォース誕生時のアイドルの価値観を簡単に比べる事は出来ないが、誰もが同じ理想のアイドル像を抱いている訳ではない。それをホーリーフォースで改めて知る事になった瀬川だった。  一連の決戦が終わった深夜0時、国会は複数の法案を与党が強行可決をするという展開になっていた。この流れ自体は野党も掴んでいたのだが、作戦自体が失敗に終わった与党がラクシュミの存続危機を感じて採決を急いだような流れを感じる。 「では、この案に賛成という方の起立を―」  総理大臣の指示で法案が与党のみの賛成多数で次々と成立していく…。 「急がねば、この法案は何としても今日中に成立させねば、ラクシュミが―」  総理大臣は焦っていた。野党議員が審議拒否で不在の中、与党の議員だけで法案に関する説明と審議が続いていた。 「まさか、奴らが音楽管理システムを掌握するとは想定外だった。あのシステムが掌握される事は、ラクシュミ商法を資金源としている政府の台所事情の悪化を招きかねない―」  法案審議を急ぐようにと言う総理の言葉を聞き、与党議員からは不安も漏れていた。ラクシュミ商法の崩壊で議員の職を失う…と言う話をする議員まで現れ、与党の団結力が弱まっている事を外部へアピールしていると判断されてしまった。 「やはり、このような手段に出ましたか」  音楽管理システムの入ったビルから無事に帰還したドラゴンの覆面が国会の様子を野党議員から聞き、進行中の作戦を急ぐように指示した。 「総理、あなたの命運も尽きたようですね」  彼の手元にあるDVDには、音楽管理システムの調査中に出て来た不正の実態を示す資料と現在も登録されている不正楽曲、その他にも多数の資料がまとめられている。 「先ほどになりますが、システムの掌握が完了したとの事です。あと数時間後には不正楽曲データを登録していた芸能事務所やアイドルを特定出来ますが…」  ライオンの覆面をした人物が音楽管理システムの掌握に成功したという話をドラゴンの覆面に報告する。 「まさか、彼から手に入れたこれが、鍵になっていたとは…」  ドラゴンの覆面の手元には、ある人物から手に入れた虎の覆面があり、その中から出て来たのは、1本のメモリースティックだったのである。 「音楽管理システムのセキュリティ解除パスワードをこういう所に隠していたとは。通りで、こちらの諜報部が探しても見つからない訳です」  ライオンの覆面の報告を聞き終わったドラゴンの覆面は、複数の議員に情報の解析と総理大臣の逮捕への手続きを準備するように指示して、国会議事堂を後にした。  早朝5時、ショットは朝のニュースで驚くべきニュースを目撃した。 「これは、政府も回避できそうにない事件になってきたか―」  それは、以前に瀬川が取り押さえた偽議員によるホーリーフォース事務所襲撃に関するニュースだったのだが、実は別の与党議員から偽の野党議員バッチを付けて事務所を襲撃するように…と指示をしていたのである。驚くべきは、その首謀者である。 「指示をしていたのが、総理大臣…?」  その一方で、半蔵は草加市にある動画サイトのビル内で仮眠を取っていた。昨日は強硬派を指揮していたラクシュミメンバーを警察へ引き渡した後で、動画サイトの生放送番組があった。半蔵の自宅は動画サイトのビルから徒歩数分と言う距離だったが、事情が事情だけにビル内で仮眠をとる事になったのだ。 「このニュースは…」  半蔵もショットが見ていたのと同じニュースを見て、驚きを隠せないでいた。