9:スペシャルステージ

 

  開催の1週間前、リボルバーの公式ホームページにて、スペシャルステージでドーム球場を会場とする事を発表した。今までは、スタジアム等 を使うのは決勝戦や特別なステージ限定となっていたが、今回は全てがメイン級のマッチングとなっている為にドーム球場を借り切ってのス テージとなった。

『メ インステージは、フリーズVS七那としてラストマッチに組む事にしました』

  その中でも一番のメインなのが、以前は非成立となって決着が付かなかったフリーズと七那のステージである。これはファンも望んでいた組み 合わせであり、現状で考えられる最強の組み合わせだった。

『今 回、ホーリーフォース計画のメインアドバイザーとして指名があり、ホームページの全面リニューアルを決行いたしました―』

  どうやら、今回のスペシャルステージに関するサプライズ発表も、リボルバーのホームページリニューアルの一環らしい。

『ホー リーフォース計画と正面に向き合っていく事によって、今後の音楽業界、芸能界等の業種とも上手く付き合えるように努力をしていくつもりで す―』

  ホームページには、そんな事が書かれていた。今まではラクシュミや政府の音楽業界管理等の影響でホーリーフォースとも上手く向き合う事が 出来なかった。今は七那をはじめとした若者がホーリーフォース計画の再スタートに全力で取り組んでいる。そんな彼女たちを見ていて、自分 も敵意を持っていたホーリーフォースに再び戻ってみようと決意したのである。それが彼女なりの罪滅ぼしなのかもしれない。

 

  リボルバーがホームページをリニューアルする数日前、一部与党で構成された暫定内閣が一連のホーリーフォース事件と同じ事を繰り返さない ように有識者による委員会を作る事を国民に向けて約束した。

以前は有識者の買収等が問題になったのだが、今度は 有識者を含めて該当者の経歴を含めて厳重に調査して同様の事例が起きないようにする事を約束、それに加えて一連のラクシュミ問題で浮き彫 りになった政府による音楽管理に関しても有識者委員会を設立、定期的に管理体制を見直す事も発表した。

「ホー リーフォースのノウハウを生かし、新たなコンテンツを制作する事を正式に発表する運びとなりました…」

  政府の新コンテンツ発表には、ラクシュミ解散で税収が落ち込んだ為のテコ入れなのではないか―という意見が政府内でも相次いだのだが、国 民にさまざまな疑惑を持たせないようにする為に、あえて発表する事にしたのである。

「こ こ数年での対戦格闘ゲーム人気は海外にも飛び火し、日本が新たな発信基地となる事で大きな収入が期待できると判断し―」

  政府が次の新コンテンツとして立ち上げる事にしたのは対戦格闘ゲームであった。ここ数年では全国大会も行われ、海外でも日本の有名プレイ ヤーが注目される状況が今回の新コンテンツ計画に採用された理由のようだ。

『何 故に音楽ゲームではなく格闘ゲームを選んだのだろうか―』

『格 闘ゲームは、有名プレイヤーや上級者のプレイ動画の人気があるからな。その流れで新コンテンツに選ばれたのだろう―』

『実 際の格闘技が不振だからな。政府も海外で人気がある格闘ゲームを選んだのも納得出来るのだが―』

  ネットでは、ホーリーフォースが再生中の中で政府主導型の新コンテンツを出すのは様子を見た方がよいという意見とラクシュミが解散した今 こそ、音楽業界以上に勢いのある別の業界で新コンテンツを出すべきという意見に分かれた。

 

「今 回の新コンテンツが再び、ラクシュミの二の舞にならないように祈るしか、今の自分では出来ないのかもしれない―」

  瀬川は思う。ラクシュミが失敗した理由の一つとして、利益至上主義の商法が指摘されていた。これは既に別のグループが行っていた商法をラ クシュミが改良して現在のモデルを作った物である。しかし、過剰な利益を求めたあまりにラクシュミ商法は予想外の所で破綻し、ファンの暴 走や数多くの悪質な便乗商法等を生み出し、音楽業界だけではなく他の業界にも悪影響を生み出した。

「今 求められるのは、最高の作品を作ろうと努力を続ける人材、それらを上手く受け入れる事の出来るファン―作り手とファンにもモラルが求めら れているのかもしれない―」

  瀬川は、出版予定の原稿をまとめて、データを保存した。ラクシュミ商法の失敗から音楽業界は学ぶ物が多いのは事実である。その一方で、 ファンも他のアーティストのファン等に迷惑をかけないようにする事も重要な事なのかもしれない…と。

「ラ クシュミファンの暴走は、最終的に音楽業界を色眼鏡で見るユーザーを増やしてしまい、その結果がCDチャートでの音楽ゲーム楽曲や同人作 品の上位独占を許す結果を作ってしまったのかもしれない。それは、ホーリーフォースにも同じ事は言える。今回のスペシャルステージがホー リーフォースの新たなスタートラインである事を―」

  そして、瀬川は原稿をまとめて、出版社へと向かう事にした。今回のドキュメントを本として出版してもらうように交渉する為である。

 

  スペシャルステージ当日、所沢にあるドーム球場では既に大勢のファンが列を作っていた。当日券は午前10時に販売予定だったのだが、お客 の数が非常に多い事から1時間繰り上げての午前9時に販売する事にした。

「ま さか、これだけのファンが来るとは―」

  ミカドも想定していなかった1万人規模のファンがドーム球場に足を運んでいたのである。今回のステージはドーム球場以外でもライブ中継が 行われる事が決定し、秋葉原や北千住、日暮里、上野、草加等の合計12ヶ所で大型スクリーン中継、公式ホームページでもサーバー等を増強 してのネット中継も万全である。おそらくは、全国で10万人が今回のスペシャルステージを待ち望んでいた事になる。

「さ て、ステージの始まりだ―」

  ミカドがメンバーの控室へと向かった。そして、スペシャルステージの幕は上がった。

『こ れより、ホーリーフォースのスペシャルステージを開催します!』

  開催宣言をしたのは七那だった。ドーム球場には3万人以上の観客、更には各所の中継エリアにもかなりの来場者が来ているという情報も入っ ている。

『ま ず、最初のステージは―』

 

  ステージが全て終了したのは午後5時、メインステージを含めて4時間位で終わると思っていたのだが、アンコールで七那&リボルバーコンビ とゲスト2名のエキストラバトルとフリーズ対リボルバーという以前の対決を思わせるカードが組まれたのである。

「あ の時の借りは、必ず返す!」

  フリーズは、以前のステージはリボルバーが仕組んでいた芝居だったが、今度は本気でリボルバーにぶつかる事を宣言する。

「こ ちらも、そのつもりよ―」

  リボルバーも手加減なしでリボルバーにぶつかる事を宣言する。

 

  エキストラバトルも終わり、無事にスペシャルステージも終盤に近付いた。その中で中央ステージに現れたのは、何と瀬川だった。

「実 は、皆さんにご報告をしたい事があります。先ほど出版社から電話があり、自分が出したかった本が無事に出版される事になりました!」

  瀬川が発表したのは、少し前から内容の整理をしていたホーリーフォースに関するドキュメント本である。

「ス ペシャルステージに関しては、出版のスケジュールの都合で追加できるかどうか分かりませんが、自分で出来る精一杯を本にまとめました。発 売された際には、よろしくお願いします!」

  そして、瀬川は姿を消してしまった。まるでマジシャンのように―。

「こ のスペシャルステージは、ホーリーフォースにとっても新しいスタートになる―そんなステージになったと信じています!」

  アリサが、ゲストであるナンバー10とナンバー8の2人と共に歩いてステージを後にしていった。

「自 分も元ラクシュミメンバーですが、こうして新たなスタートを迎える事が出来た事に加えて、それを許してくれた皆様に感謝しています…」

  感極まって涙を流すナンバー2、それを見たナンバー11と今回のステージで無事に復帰したナンバー12が共にステージを後にする。退場す る途中、ナンバー12ももらい泣きをしているように見えたと目撃したファンは語っていたという―。

「あ りがとう! 本当にありがとう!」

  多くを語らずにショットはステージを後にする。その目はさみしそうに見えたのは気のせいだろうか。

「ま た、いつかこのステージで会える事を信じています!」

  ロックがショットを追いかけるようにステージを後にする。彼女のさみしそうな目を見て何かを感じたからだろうか?

「ま だ、終わらせません! ファンの支えや応援がある限り、ホーリーフォースは続くと信じています!」

  拳を高らかに掲げるリボルバー、その後には超高速でショットを追いかけるようにしてステージを後にした。

 

「最 後に勝てた…フリーズに…あの時は本当にうれしかった―ステージも長くなっちゃったけど、本当に楽しかった…」

  既に半泣き状態の七那は、損傷の激しかった強化型装甲を全て転送済みの状態で衣装だけになっていた。それだけ、フリーズとのステージが激 しかった事を物語っている。

「七 那…そんな事で、泣かないでよ…」

  フリーズも半泣き状態である。そして、それを確認した七那は次の瞬間には―。

「!!」

  フリーズも突然の事に驚いていた。七那はフリーズを慰める為に、何と右の頬にキスをしたのである。

『七 那、そんな薄い本のネタになるような事をステージで堂々と―!』

  外部スピーカーから聞こえて来たのは瀬川の声だった。消えたはずの瀬川がどうして…と思ったが、答えは簡単だった。

「嘘、 後ろに―」

  フリーズと七那が後ろを向くと、そこにはホーリーコントロールとして登場した瀬川の姿があった。

「そ れって、ドッキリなの?」

  半泣き状態だった七那が急に笑い出した。

「まっ たく、世話の焼ける―」

  瀬川も七那に釣られるように一緒に笑っていた。その二人を見たフリーズも―。

 

  こうして、午後7時にはエキストラを含めた全てのステージが終了し、ファンはそれぞれの帰路へ―。

「ま さか、あんなサプライズがあるとは―」

「こ れなら、ホーリーフォースもしばらく安泰かな?」

「と りあえずは、これからだろうな―政府もホーリーフォースも―」

  ファンも今回のステージには満足をしているようだが、一方では政府の動きを警戒するファンも何人か確認できた。

 

  ホーリーフォース再生、それは長い道のりになるのかもしれない。それでも、不可能ではないと思う。

「今 の音楽業界は、鎖国時代と全く同じような事になっている。このままでは、いずれは海外資本に吸収され、最終的には日本の音楽としては音楽 ゲームや同人作品、演歌や民謡に代表されるジャンルしか残らなくなる可能性がある。今のJ―POPでは海外に勝てるような要素は全くない だろう。日本政府としてもJ―POPの現状を見ての音楽業界の官吏だったはずが、あのような状況になってしまったのは非常に残念に思える ―」

  瀬川は、今後の音楽業界がラクシュミと同じような末路だけはたどらないように―そう願ってドキュメント本のタイトルを出版社に報告した。

『イ メージオブアイドルヒーロー…と言うのはどうでしょうか?』

 

  数ヵ月後、瀬川の本が無事に出版された。

「ま さか、このような内容になるとは…」

  ファンも本の内容には衝撃を受けた。今までのラクシュミや他のアイドルグループでは彼女達の長所しか取り上げていない物が大半で、ページ 数が多いにも関わらず内容としては非常に薄いという評価がネット上でも多数を占めていた。

「あ りのままのホーリーフォースか―」

  この本は、間違いなく永久保存版になるだろう…そんな声が各地に広まっていった。

 

  その一方、国会では新たなるコンテンツとして推薦されていた対戦格闘ゲームに関して委員会で議論をしている所だったのだが―。

「や はり、これは国で管理するには非常に難しいと思われます」

「必 ずしも国で管理する事でプラスだけになるとは限らない。逆にマイナスの面も生み出す事になる…」

  その他にも新コンテンツ関連で候補になっていた物に関しても審査を行ったが、税収が見込めない、逆にルールで縛る事によって業界の縮小化 につながりかねない等の観点を踏まえた結果、全てが国を上げて支援する事業ではないという判定となった。

「結 局は、現状の音楽業界を再生させる為に補強していく方が最優先の結論に至る…という事になりますか」

  新総理を含めて、数ヶ月前の暫定政府が発表した新コンテンツを政府が支援すると言うのは現状の国家予算では不可能であるという結論に至っ たのである。

 

「結 局は、ある程度の自由を与えた上で色々な制約を付けていく方向になっていく―」

  数分後、元総理秘書だった現在の総理が自室へと戻ってきた。

前総理逮捕に至った一連のラクシュミ事件は、彼がラ クシュミ商法に反対をしていた組織に情報を提供した事が全ての始まりだったのである。その情報はリボルバーや瀬川等にも提供され、最終的 には音楽業界その物を崩壊させる結果となった。自分があの時に起こした小さな行動は、次第に日本の政治をも大きく揺るがし、最終的にはラ クシュミ商法の崩壊という結果を生み出したのである。

「ラ クシュミ商法、以前からのアイドルが展開してきた商法か…これが音楽業界だけではなく、政府や日本をも巻き込んだ危機的状況に発展すると は、誰が予想していたのか」

音楽業界に関しても、今回のラクシュミ商法をはじめ とした部分に関して、大幅に制限等を加え、その中でもCDチャート1位を取る為だけの目的で複数枚販売、握手会やアイドル総選挙、イベン ト優先入場等の券を特典として付ける等してファンの購入意欲をあおる事を全面的に禁止する法案を総理は次々と可決させていった。

「音 楽業界を管理していた頃は赤字国債の償却を優先させ、最終的には音楽業界その物を破綻させる結果となった。しかし、このような新規法案を 加える事が音楽業界にとって致命的だと思うのだが…」

これらの部分は本来ならば法案等で制限を加えなくて も事務所やレコード会社等の判断に任せるべき部分である。こういった法案を加える事自体が政府にとっても事務所等にとっても心苦しいと悩 んでいたのである。

「こ れらの法案は、やはり音楽業界には必要にしてしまった事を業界全体で反省させるという意味でも続けていくべきと―」

  総理は隣にいた新総理秘書に尋ねた。

「や はり、ラクシュミ商法はラクシュミの解散と共に消滅はしました。しかし、瀬川も言っていた業界再編には程遠いのは事実かと思います。私と しては、同じような商法が二度と起きないと確信した、その時に法案を変更すれば良いと思います―」

  メガネをかけた青年秘書は、自らの考えで総理に進言する。

「し かし、相手は人間…同じ商法が失敗したとしても、第2、第3のラクシュミが誕生しないとは限らない。つまり、音楽業界再編は我々が思う以 上に困難だと言う事だ」

  秘書の話を聞いた総理はファイルを眺めながら言う。そのファイルには、ラクシュミ商法撤廃推進委員会から集められた同じ商法を展開してい ると思われるアイドルグループがリストアップされていた。どうやら、新総理や新総理秘書が抜けた後に新メンバーを集めて委員会は再始動し たようである。

「や はり、管理する人物や表向きの状態が変わっても音楽が政府に管理され続ける現状は終わらない言う事でしょうか―」

  秘書は手に持っていたドラゴンの覆面を再び被り、総理の部屋を後にした。

 

「ラ クシュミの脅威は去った。しかし、同じような商法が日本や世界にとっても害悪となる日がいつか来るだろう。我々の目が黒い内は、そのよう な事は阻止して見せよう―」

  総理は、前総理の被っていた物とは全く別の黒い虎の覆面をかぶる。

「こ れがホーリーフォースや他の音楽ファンが望まない形だとしても、あの商法を利用して税金を集めていたという事実は消える事はなく、未来永 劫語り続けられるだろう。我々としては、その贖罪をする為にも商法根絶に動かなくてはならない。音楽業界が本当の意味で自由を取り戻す為 に―」

  新総理の野望は、既に世界に向けられていた。世界にもラクシュミと同じような商法とは別に音楽業界や芸能界に深い闇がいくつも存在する。 そんな深い闇を明らかにしていく事で、音楽業界や芸能界に自由を取り戻そうとしているのである。

「新 生ホーリーフォースは、世界にも認められる程の成長を遂げようとしている。彼女達の力で世界を明るい方向へ向けたい―」

  新総理は思う。ホーリーフォースをこういう形で政府が運用するのは、非常に不適切なのかもしれない。だが、それ以上に音楽業界が抱える課 題は大きい。それらの課題を乗り越えて業界全体が利益至上主義からの脱却をしなければ、ファンは音楽業界から離れていってしまうだろう。

「次 は、北米か、イギリスか、それ以上に問題を抱えている国は日本のすぐ近くに存在するか…。まずは、この国の音楽事情を調査する必要がある か」

  早速、新総理はアジア地域の音楽事情を調べるように電話で指示を出した。

 

  午後2時頃にホーリーフォース事務所に到着し、デスクワークをしていた瀬川は新総理の打ちだした法案に関しては一定の評価をする一方、あ る注文を付けていた。

「利 益至上主義になった日本の音楽業界では有効な手段も、海外から上陸してくるK―POP等には有効と言えるかどうか不明なのが現状かもしれ ない。音楽業界が変わるような動きを見せない限り、また海外でも日本と同じ音楽ゲーム楽曲や同人音楽がヒットチャートを盛り上げる時代が 来るかもしれない」

  そんな事を思いつつ、瀬川はデスクワークを続けていた。現在はナンバー1を休業、他の候補生がナンバー1を代打として続けている。数か月 前まではメンバーさえも決まらなかったナンバー3、ナンバー8、ナンバー10の暫定メンバーも決定し、ホーリーフォースは12人体制で無 事に運営されている。

「今 は、自分にも休養が必要な気配がするけど、現状では厳しいか―」

  瀬川は、緊急で組んでいた資料を改めてチェックしていた。

「し かし、この現状では音楽業界が変わったと言えるかどうかは…難しいか」

  週間番組表の音楽番組の項目を見ていた瀬川は、ゲストが今でもラクシュミ時代と同じで司会だけしか変わらない顔ぶれと言われていた時代の ままだと痛感した。

「や はり、利益至上主義が消えない限りはどの業界も復活への道のりは遠いのかも―」

  思わず、ため息を漏らす瀬川。デスクワークが一通り終わったら、ホーリーフォースへ復帰をしたいのだが…ミカドが許すかどうかが不明のま まである。

「今 頃、あの二人は何処かでステージを展開しているかと思うと…デスクワークも退屈に思えてくるのが不思議ね―」

  小さな画面だが、瀬川のパソコンでは七那とフリーズのステージ動画が流れていたのである。それも、リアルタイムで―。

 

  午後3時、草加駅近辺では七那とフリーズがステージを展開していたが、先ほどステージは終了した。結果はフリーズがベストアイドルとな り、勝率としてはフリーズが若干有利と言う気配になっていた。

「音 楽業界に黒船が襲来か―」

  七那は電光掲示板に日本でも人気になっているK―POPアイドルが日本へ来日するというニュースを見て、若干の不安を感じた。

「今 の邦楽が抱える問題が全て解決したとは思えない。果たして、今の音楽業界が立ち向かって勝てるかどうか…」

  フリーズは今の音楽業界で黒船に勝てるかどうかは分からない…そう思った。

「で も、心配ないよ。今のラクシュミ商法から脱却した音楽業界なら、きっと―黒船にだって勝てるさ!」

  七那は謎の自信あふれる言葉でフリーズを励ました。

「い、 今だってラクシュミ商法の亡霊は健在なのよ。そんなお気楽思考じゃ―」

  フリーズが七那の言葉を聞いて照れながら反論する。

「確 かにラクシュミの亡霊はいる。新しい法案が成立しても、裏では法案をすり抜けてラクシュミ商法を続けている事務所はいるに違いない。そん な中でもファンがNOと言えれば、ラクシュミ商法を続けようと言う人間も減ってくるって…」

  七那の話を聞いたフリーズは―。

「そ、 そんなの最初から分かっていたわ!」

  フリーズのツンデレ具合は数カ月で磨きがかかったようにも見えた。