2:ファイナルに進 む者

 

 最後のファイナリ ストが決まろうとしている前日、再び周囲が慌ただしくなってきた。

『やっぱり、そう言 う事か―』

『仮説としては既に 多数あったが…事実になるとは今でも信じられない』

『これは、音楽業界 の抜本的な見直しが必要になるだろう』

 周囲が慌ただしく なった理由は、過去にCDチャート会社が超有名アイドルの所属する芸能事務所と密約をしているのでは…と言われていた事だった。これに関しては噂ばかりが 浮上して、一時期は掲示板でも削除要請があった位である。当時は該当記事の削除のみで周囲への広がりは限定的だったのだが、アヴェンジャーの動きが活発に なった辺りで噂が浮上し始めていた。

『これは、ガーディ アンにとっては有利な展開になる事は間違いないだろう。超有名アイドル商法だけではなく、超有名アイドルを殲滅しようとしているからな―』

『彼らが超有名アイ ドルを嫌う理由が知りたい位だ。まるで、超有名アイドルが巨悪の根源や詐欺グループ等であるかのような…』

 ガーディアンの目 的、それは超有名アイドル商法以外にも全てをシャットダウンする事である。何故、このタイミングでガーディアンの動きが活発になったか―。

『北千住でイザナギ が現れた一件、あれに関係していたという情報もある。ソースは有力な所からきているから間違いないが―』

 イザナギが北千住 に現れた事件、あの事件をきっかけにアヴェンジャーの存在やミュージックユニオン、音楽業界が今置かれている現状等がピックアップされる事になり、一連の 事件は超有名アイドルに依存していた日本を象徴した物で会ったのは間違いない。一連の事件は、超有名アイドルによる日本支配から脱却する為に起こるべくし て起きたとネット上で語られる事もあった。

『アレは確か、ア ヴェンジャーが市役所に出向いて認められた行動だったのをミュージックユニオンが横やりを入れた…』

『実際は、ミュー ジックユニオンは横やりではなく過激派の行動を鎮圧する為…と言う事にされていたような気がする』

『そこへ更にイザナ ギの乱入があった―』

 最終的には、イザ ナギが作動させたシステムによって両者ともに行動不能、退却を余儀なくされた。しかし、イザナギが理由なしで行動するとは考えにくい―。

『イザナギは、音楽 業界全体の再生を考えている。それは超有名アイドルも含めた上での再生らしい。超有名アイドルのシャットダウンを考えているガーディアンにとっては都合が 悪い―?』

『ガーディアンは音 楽業界の再生には賛同をしているが、イザナギやシオンの考える全てのジャンルを含めた再生だけを反対していると言う認識で大丈夫か?』

『ガーディアンの言 う超有名アイドルの排除と言うのは、オートパイロットで動くバス等の運用を今すぐに実行するべき…と言うのと同じ位に無茶な物を感じる。確かに超有名アイ ドル関係した事件が皆無というのは否定しないが、あの言い方では…』

『例のアレか―』

『アカシックレコー ドを超有名アイドルのプロデューサーが全て握っている…と要約できる例の発言だな。一歩間違えると超有名アイドルが悪の組織であり、ガーディアンは彼らか ら日本の平和を守る為に現れたヒーロー…と言った図になる可能性もある』

『ガーディアンの狙 いは、超有名アイドル以外にも別にあるように思える。例えば、超有名アイドルに便乗して色々な商法を展開してきた企業、超有名アイドルを利用して詐欺や転 売等を繰り返す業者―』

『仮に別の狙いが あったとしても、ガーディアンが超有名アイドルを根絶やしにしようと考えているのは事実だろう。音楽業界の改革を掲げる勢力としては、シオンやイザナギ程 の力がないとしても過激とも言えるような発言は週刊誌等でも話題にもなる。彼らの狙いは、そこにあるのかもしれない』

 

【今、音楽業界の全 ては超有名アイドルを生み出した1人のプロデューサーが全権を握っていると言っても過言ではない。彼に反旗を翻そうと考えている人物は、次々とスキャンダ ル等に偽装して音楽業界から消されている可能性もある。彼の手からアカシックレコードを取り上げない事には、日本の音楽業界は変わらないだろう。下手をす れば、地球だけではなく全銀河にも超有名アイドルを広めようと動くかもしれない。それだけの計画を行う為の資金がどこから出ているか、それはCDの売り上 げではなく―】

 冒頭だけでも『妄 想』や『頭がおかしい』等というツッコミが入りそうな文章の一部だが、これがオーディーンと言う人物によって書かれている物だとしたら…。文章を書いてい る人物が違うだけでも、その信ぴょう性は劇的に変化する。

『現実世界でも同じ プロデューサーによる超有名アイドルが同日にシングルをリリースという話がある。どう考えても、話題取りの為だけの茶番―』

『同じプロデュー サーならば、結局はどちらが売れても彼の元に莫大な金が手に入ると言う事か』

『別の世界では、超 有名アイドルのCD売上等が1京円という国家予算の何十年分に相当する売り上げを記録した世界もあるとか―』

『1京はやりすぎだ ろう。地球全土に同じような超有名アイドルがいて、その総合計と言うのであれば話は見えてくるが…』

『下手をすれば、無 限円まで稼ごうと考えるプロデューサーを話にした架空戦記とか出てくる気配が…。それだけ、超有名アイドルが金の卵を産む鶏と認識され、誰でも超有名アイ ドル商法をすれば確実に売れる…という世界になってしまった証拠なのかもしれない』

『音楽業界は金とコ ネで出来ているという認識になってもおかしくはない―超有名アイドルが確立させた商法は、まさにオーディーンにとってはアニメや特撮等における巨悪その物 と判断したのだろう』

 

 一連の掲示板まと めをチェックしていたイザナギは、予想通りの展開だったと確信をしていた。

「超有名アイドル肯 定派と反対派で論争が繰り返される事は想定されていたが、まさか彼がここまでの勢力になっていたとは―」

 そして、イザナギ は音楽業界を変える為にも一部の偏見を持った勢力を何とかしなければ…と思うのであった。

 

         2―2

 

 決勝当日の午後1 時、会場入りしていた6人の前に現れたのは…予想外の人物だった。

「お前は、まさ か…?」

「アヴェンジャー が、こんな所にまで―」

《悪いが、お前達を 会場入りさせる訳にはいかない。既に、超有名アイドルのCD転売等の容疑がかかっている―》

 覆面をした人物は アンノウンにそっくりではあったのだが、体格などに若干の違いがある。北千住に現れた人物と比べても身長が10センチは違うようにも…?

「お前の正体は―」

 参加者の1人が正 体に気付いたが、時は既に遅く…彼が事前に用意していた催眠ガスの入ったグレネードで眠らされてしまった。

「後は向こうに任せ るか。こちらの目的は掲示板で名指しされていた不正転売者を発見してガーディアンに報告する事だけ―」

 覆面を外して、周 囲の様子を見ていたのは何とアヴェンジャーのチェイサーだったのである。何故、彼がガーディアンに協力しようとした理由は不明だが…。

「アヴェンジャーの 名をかたり、都合よく超有名アイドルを悪者に仕立てようとする人間が存在する事は分かっていたが―」

 チェイサーも驚い ていた。超有名アイドルと男性アイドルグループは事務所間でも良い話と言うのは聞かれていない。その原因にはファン同士での争いが理由の一つに挙げられて おり、CDチャート1位を取る為であればグレーゾーンを超える部分の行動もおこすと言う展開が続き、遂には両社ともガーディアンの言う巨悪に指定された経 緯がある。更にはアヴェンジャーの名前をかたり、悪質なCD転売やグッズ販売、偽の握手会チケットを売りさばく等…これが原因でアヴェンジャーも同じ巨悪 に扱われる事を、アンノウンは嫌っていたのである。

「今回は、オー ディーンに感謝をするか―」

 本来はオーディー ンとアヴェンジャーは敵同士なのだが、今回の一件に関しては一時的な協力体制を取った。超有名アイドルを語って大事件が起きた時には、それこそ超有名アイ ドルが追放されるような事態が起こる。その一方で、オーディーンも超有名アイドルのシャットダウンが目的と語っているが、超有名アイドルに関する負傷者が 出るような大事件に発展した後に政府が即日規制をするような展開は望んでいないように見える。

「だが、オーディー ンの本当の狙いは―」

 その一方、今回の オーディーンが取った行動に関しては疑問を持っていた。普通に泳がせておいて、ミュージックユニオンの番組内で暴露すれば良い事を、あえて取らなかった事 に別の狙いがあるのでは…と。

 

 午後4時、テレビ 局の巨大スタジオ内ではリハーサルを兼ねた番組の準備等が行われていた。その中で、選手6人が棄権をしたと言う情報もスタッフの耳に届いていた。

「ホームページの方 には、選手の変更に関しては通達しましたが…間に合いますかね?」

 男性スタッフの1 人が既にスタジオ入りしていたシオンに尋ねる。

「間に合うだろう。 今回の件は、我々も知らないような巨大な勢力による物である可能性も否定できない。ミュージックユニオンを中止にすれば、その勢力に屈服したような印象を 与えるのは明白だ―」

 シオンは、下手に ミュージックユニオンの放送を中止にする事でアヴェンジャーやその他の勢力に屈服したような印象を与えるのを避けたい…と思っていた。それとは別に、掲示 板では《ミュージックユニオンが隠し続けている秘密を暴露する》と言う脅迫状にも似たような怪文章がつぶやきサイト等で拡散しており、これらも何かの予兆 なのでは…とシオンは考えていた。

「プロットを作り込 んでも、予期せぬアクシデントや想定外の情報1つで予定していた展開とは異なる流れになる―。これが世界線変動と言う事なのか」

 シオンは当初に想 定していたスケジュールを若干変更しなくては…と考えていた。

 

【本日予定していた 決勝に関して、6名分の空席が出ると言う流れになりました。それに伴い、今回は特例としてファイナル進出者と既に会場入りしているフリーズ、明日川セナの 2名を除いた過去の大会参加者に敗者復活と言う異例とも言えるチャンスを与える事になりました―】

 公式ホームページ に書かれている文章を簡略化すると、こうなる。

『6名分の空席に関 して、今までミュージックユニオンに参加していた参加者でファイナルの権利を得ていないメンバー、既に会場入りをしている2名以外で飛び入りを考えている 人物は、スタジオに午後7時までに集まって欲しい―』

 番組の放送は午後 8時、スーツ等の準備で時間がかかるメンバーは午後7時よりも前にスタジオ入りをしないと間に合わない計算になる。

『実際、飛び入りを 考えるメンバーがいるのか問題だな。ただでさえ、フリーズとセナという2人と戦う事になる以上、相当な実力者ではないとファイナルの椅子を取る事は非常に 難しいだろう…』

『それにしても、6 人も当日欠場とは…怪我で出場辞退とは考えにくいが?』

『そう言えば、大会 規約には超有名アイドルの関係者は出場禁止のような項目はなかった記憶が…』

『オーディーンが先 手を打ったか、それとも別の勢力がミュージックユニオンの妨害を狙っての行動に出たか―』

『どちらにしても、 フリーズとセナが無事と言うのは不幸中の幸いと言うべきか』

『しかし、6人が一 挙に欠場と言うのは今までに例がないぞ。過去に焔が予選で腕の痛みを訴えて離脱、本戦ではテレビでオンエアーされていない部分でドクターストップが出たり したが―』

『おそらく、週刊誌 に掲載されていた超有名アイドル商法が規制されている裏で別のアイドルで同じような転売商法を展開していたと言う記事があっただろう。あれの関係かと思わ れる―』

『オーディーンが ガーディアンを利用して大量に検挙していると言うアレか。政府は今回の事件等を重く見て、規制の幅を広げようと考えているらしい―』

『今まで表に出てこ なかったのは、芸能事務所かレコード会社から賄賂を貰っている連中だろう。オーディーンもあぶり出すのに時間がかかると言う話をしていたが―』

『どうやら、6人が 出そろうようだ…』

 掲示板では色々な 話が流れている中で、欠場した6名に代わるメンバーが決まった。

『バスターハンター は予想通りだったが、まさかブラックエッジが来るとは―』

『それ以外の4名も 焔と争っていた人物等を含めて、堅い布陣だな』

『それでも、フリー ズにとっては朝飯前と言う事になるのだろうか』

『そろそろ、セナに もチャンスが巡ってくるとありがたいのだが―』

 

 番組冒頭、今回の 6人が欠場する事になった事態に関してアナウンサーから説明が入った。大体が公式ホームページに書かれていた事で新規で判明した事実はないと言う―。

『下手に何処かの勢 力が口実に利用するのを避けて事実を隠したのか、それとも―』

『超有名アイドル関 連は既に規制法案以外にも商法自体の禁止を前提とした法律がスピード運用される可能性が出ているからな。下手に刺激して禁止法案が成立するのを防ぐと言う 事もあるのだろう―』

『超有名アイドルが 引き金となって、完全に自由が失われた規制だらけの音楽業界が実現すると言う事か―』

 ネット上でも、今 回の説明に関して不足部分があるのは百も承知だが、事情が事情だけに全てを明かす事は音楽業界にとっては自滅になると判断したのだろう…と一定の理解を示 しているユーザーが半数以上を占めた。

『しかし、今回の件 は週刊誌も有力情報を掴んでいたと言うのに―』

 その一方で、内容 の全てを公表すべきと考えるユーザーも少なくはない。全ての意見を統一する事の難しさ…それが浮き彫りになった形である。

『金の力で意見を集 約させる手段を使った事で超有名アイドルが非難を浴び、最終的には規制法案が作られるに至った。結局、強引に意見を一つにまとめる流れになれば…反発が出 る事は避けられないだろう。結論を急いで意見を無理に集約させるよりも、時間をかけて説明する方が良い場合もある―』

『それこそ、日本全 体のアカシックレコードが超有名アイドルのプロデューサーに全て握られている…と言う話が現実になる可能性も否定できなくなる。そんな事になれば、世界の 音楽業界も今までの悲劇を繰り返す事になり…それこそ超有名アイドルの無限ループを繰り返す事になる―』

『つまり、超有名ア イドルのプロデューサーが日本の全てを動かしている。そして、彼に都合の悪くなった人物は―』

『そこまではあり得 ないとしても、彼の都合のよい日本に作り替えられている…という解釈は可能だろうと言う仮定の話だ。これが別の世界で実現しているか―それが全くの空想話 であるかどうかは定かではない』

『しかし、超有名ア イドル商法も次々と規制がかかるような状況になっているのは、一部ジャンルに商法が定着しなかったという事ではなく、超有名アイドル商法が行き過ぎてし まったと言う事が一番の原因だろう。最近になってソーシャルゲームでアイテム課金型が一部の問題になっていて、遂には未成年者の課金を一切禁止する所まで 出てきた。更にはアイテム課金なしの有料タイプやダウンロードコンテンツを撤廃したパッケージソフト等も息を吹き返している所を見ると、ゲーム分野で超有 名アイドルのノウハウは完全に失敗したと言っても過言ではないだろう―』

 オーディーンの発 言が確実にネット上でも浸透していると言う証拠なのだろうか―。彼のアカシックレコード発言は、一部の人物だけが知っていると言うレベルではなく、超有名 アイドル反対派ならば半数は知っていると言う域にまで達しようとしていた。

 

「アレを公表した所 で、政府が超有名アイドルを追放する流れになるのは当然―。ここは不用意に混乱させるのは得策ではない…」

 テレビを自室で見 ていたのはオーディーンだった。彼は事前に週刊誌とは違う情報網を利用して、不正転売をしているグループの存在を突き止め、メンバーの確保をチェイサーに 命じたのである。

「全ては日本経済を 超有名アイドルが立て直したと言う間違った幻想が生み出した―その過ちを全て無かった事にしなければ、日本経済だけではなく日本その物が超有名アイドルの 広告塔となるのは火を見るよりも明らかになっている―」

 オーディーンは超 有名アイドルが日本経済を立て直したとするアナリストの発言を未だに信じようとは思っていない。むしろ、彼らは超有名アイドルの広告塔に利用されてしまっ たのだ…と。

「超有名アイドル依 存から日本を開放する事が必要とされている―」

 

       2―3

 

 決勝に勝ち残った のは予想通りとも言える4人だった。フリーズの動きに付いていくのがやっとだった4名は決勝を前にして姿を消してしまった。ネット上でも、フリーズの動き を研究していたとしても実戦では別物である…と言う事は指摘されていたのだが―?

『バスターは実力の ある人物としては当然の人選だが、ブラックエッジが残るのは意外としか言いようがない』

『彼は、もともと ショップのイメージキャラで本戦等は未体験と言う事を考えると―』

『セナに関しては、 フリーズの対抗馬として名前が挙がっていた。彼女が決勝に残らなかったという事になると、別の事件が起こったと考えるしかなくなる』

『しかし、アーマー の能力をほとんど使わずに決勝まで残るとは…。黒沢のように後から能力を使用したメンバーとも違う、そんな展開が起こるのでは…。フリーズ、その正体は一 体―?』

 

 決勝の内容は、バ トルロワイヤル。最終的に残った1名がファイナル進出の椅子を獲得する事が出来る。

「単純明快なルール だな…」

 バスターがトマ ホークを取り出して、戦闘態勢に入る。

「最初に狙うのは、 ただ一人―」

 ブラックエッジも 狙うべき人物は既に決まっており、右腕の大型アームを構える。

「あの人―もしかす るとイザナギの…」

 アーマーを装着し ていたセナは、フリーズの方を見てイザナギの正体がフリーズなのでは…と思い始めた。

「最初にセナを狙う のは得策ではないか―」

 フリーズは、決勝 前に用意したアタッシュケースを開き―そこからクリスタルのような材質でできたブレードを両足のアーマーに装着した。

『あれがフリーズの 本気か―』

『他にも隠し玉があ ると思うが…』

『他のメンバーより も装備が少ないのも気になる所か―』

 ネット上でもフ リーズの取り出したブレードに関しては初めて見る者が多く、未知数とも言えるフリーズの本気を…と誰もが思っていた。

 

「最初に動きだした のは、何とブラックエッジ―。彼はフリーズの方へと向かって行くようです…」

 アナウンサーの実 況を聞いて、視聴者も驚くのだが更に驚いていたのは黒沢をはじめとしたミュージックユニオン参加者である。

「これで、どう だ!」

 SFに登場するガ ントレットを連想させるような巨大な右腕をフリーズに向かって振り下ろすのだが…。

『一体どうなってい る?』

『ここまで来ると、 特撮の領域だな―』

『これがフリーズの 本気か?』

 テレビ画面には、 フリーズが左足だけでブラックエッジの大型アームを受け止め、更には弾き飛ばした後に右足のブレードで彼を吹き飛ばすと言う一連の動きがスローで再現され ていた。ブラックエッジは、吹き飛ばされた後に気絶し、最初の離脱者となった。

「実際、スローにし なければ彼女の動きは常人に判別する事は不可能―」

 テレビ画面を見て いたオーディーンは、フリーズの繰り出した一連の動きがアスリート等の動きとは全く違う事に驚いていた。

「これが、フリーズ の実力―」

 自宅でテレビを見 ていたツバサも、フリーズの動きに関して何か違う物を見るような眼で見ていた。ファイナルで対戦するかもしれない人物を研究するような―。

 

「勝った方が、向こ うと戦う事になる―」

 セナはフリーズの 方を見ている。今戦うべき人物はバスターのはずだが…。

「向こうも待ってく れている。決闘に水を差したくない…という配慮か」

 バスターはフリー ズがブラックエッジを倒した後には全く動かなくなった事を確認、改めてセナに決闘を挑もうとしていた。

『こいつは見物だ な』

『バスターもセナ も、お互いにファイナルへ行けるだけの実力を持っている―』

『両方とも悲運と言 われていたが、どちらかがフリーズと戦う事になる』

『そして、フリーズ に勝てればファイナルの椅子を獲得できる』

 お互いのファン は、全力を持って応援する事にした。どちらが勝ってもおかしくはないという状況の中で―。

 

『始まったようだな ―』

『お互いに接戦だ な。これはどちらが勝ってもおかしくはない。CDチャートや音楽番組等のような投資目的のファンや芸能事務所の思惑などで意図的に演出されていた物とは全 く違うガチバトル…それがミュージックユニオンの狙いなのかもしれない』

『音楽業界に限ら ず、テレビでも視聴率に引きずられて打ち切りになる番組が多い。その原因は色々あるのだが、悪質な物だとデマ情報を流した人物が悪いと責任転嫁をするよう な例もあるらしい。自分達の実力不足等を素直に認めるケースはあるが―』

『超有名アイドル規 制が出る前からも、出てからも結局は金が全て…と言う事か』

 バスターとセナの 接戦とも言えるバトルが展開している中、ネット住民はとある発言で火が付いたかのように今の音楽業界を含めた全てが金の為だけに動いている…と言うような 話で盛り上がっていた。

『遂には真面目に働 くよりも、超有名アイドルのグッズを転売した方がもうかる…と判断した一部の人間が超有名アイドルグッズの販売方法を売る…という事で問題になった事も あったな。まるで、競馬や宝くじで【確実に当たる】と宣伝している迷惑メールのテンプレ文章と同じレベルで―』

『つまり、日本経済 の全ては1名の超有名アイドルプロデューサーが育てた…と言う事で間違いないのか。それでは、オーディーンの言っていた世界線そのままではないか!』

『超有名アイドルが 銀河系だけではなく、歴史その物を上書きしようとしている―そんな事はアニメやゲームだけの世界と思っていた時期もあったが、アレを見ていると―』

『この戦いを見てい ると、CDチャートのアレが全て超有名アイドルプロデューサーの筋書き通りと言う気がしてならない。日本経済だけではなく、地球上のありとあらゆる事象が 彼一人の手で…とは思いたくないが』

『総選挙等があった としても、それらは全て出来レース―実際は、彼が1000京円を超えるような年商を上げるようなビジネスモデルを作る為に実験を繰り返しているジオラマに 過ぎないと言う事だ。1000京円と言う規模は国家予算だけではなく日本の国債を超える莫大とも言える資金だ』

『あのプロデュー サーは、無限とも言えるような資金源を得る為のビジネスモデルを作り出そうとしていたのか…それこそオーディーンの言っていたアカシックレコードの掌握と いう行動に出てまで―』

 白熱したやり取り の中、10分以上にも及ぶ長期戦は幕を閉じた。実際に掲示板のやり取りがどうなったのかは不明だが、バトルの方はセナが僅差でバスターを撃破する事に成功 した。そして、フリーズとセナが一騎打ちをする事になったのだが、ここで一つの問題が発生した。

『まさか、放送時間 内に決勝が中継できなくなるのか?』

『スポーツ中継の場 合は延長と言うケースもあるが、ミュージックユニオンは放送時間内に終わっていたケースが半数以上―』

『この後の放送予定 は、夜のニュースとバラエティー番組…それにアニメが2本』

 ネット上でも放送 時間の延長の有無に関しては半数に割れていた。その中で―。

「明日川選手の回復 に若干の時間が必要な状況に加え、放送時間も残り僅かと言う状況ですが…ファイナルの座をかけた決勝という事を踏まえて、放送を延長する事が決定されまし た」

 普段ならエンディ ングが流れて番組が終了する時間なのだが、アナウンサーからの説明が入り、延長が決定されたのである。

『まさかの延長か ―』

『他の番組に影響が なければいいが…』

『この後はニュース が入るらしい。その後はバラエティーに関しては休止、アニメの方はそのまま放送のようだ』

 ニュースに関して は15分と言う短い時間でのニュースと言う事もあってか、そのまま放送される事になった。その後に放送される1時間のバラエティー枠を、そのままミュー ジックユニオンの放送に当てる事になるらしい。

 

「あのフリーズに… 勝たないと―」

 休憩室に入ったセ ナはアーマーを外し、細かい部分のチェックを行う。汗の方も気になるのだが、短い休憩時間内でシャワーを浴びている余裕はないだろう。

 

「もうすぐ、あの決 勝の舞台に―」

 アーマーを外し、 インナースーツを脱ぎだしたフリーズは身体に巻きつけていたサラシを締め直していた。直した後は、すぐにインナースーツを着て臨戦態勢に備える。

「テレビに出演する のも、賞金も本来の目的とは関係ない。私の目的はイザナギと同じ舞台に立つ事―」

 フリーズは、何か の決意を持って休憩室を後にした。

 

「次のニュースで す。政府は、現在施行されている超有名アイドル規制法案の規制強化案を今国会に提出を検討している事が―」

 ニュースで流れた のは、誰もが耳を疑うようなビッグニュースだった。どうやら、一連のアヴェンジャーや小規模ながら1京円ビジネスにしようと画策している芸能事務所の動き 等を見て、次の国会で審議対象と考えていた超有名アイドル規制法案の強化案を今回の国会で提出し、即時発動を考えている事が判明したのである。

『即時…と来たか』

『1京円という夢を 見るのもいいが、それで市民生活が向上するのか…現実を見て欲しい所だな』

『下手に規制法案の 強化案が国会で成立すれば、同人楽曲や音楽ゲームの楽曲が音楽業界を主導する存在になるのだろうか…他の世界線のように』

『最低でも超有名ア イドルのような突出した存在は音楽業界から確実に消えるだろう。しかし、どの業界でもカリスマ的存在を求める傾向がある以上、安易な規制はかけないで骨抜 きになる可能性もある』

『だが、今回はオー ディーンが何度か暴徒と化したファンクラブを警察に引き渡している実例もある。他のニュースでは、けが人が出たというケースも報道されている。それらを踏 まえると、本気で規制をする事も可能性としてはありえるだろう―』

『こうなる事を芸能 事務所は想定出来ていなかった…という言い訳は通じないだろう。この世界線での技術を考えれば、どう考えてもアイドルのファンクラブ同士で戦闘になる事も 考えられたはずなのに―』