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1:白銀の人物

 

 6月、第3回 ミュージックユニオンの第1次予選と第2次予選がダイジェストで放送されると言う中、ゲストとして呼ばれていたはずの人物はスタジオにいなかった。

「ゲスト出演を断る とは―どういう事か?」

 代わりに呼ばれて いたのは、第1回大会の優勝者でもある黒沢来都だった。彼以外にも特別ゲストとしてバスターハンターが普段着とは思えないような衣装で解説者席にいたので ある。

「焔に関しては、経 歴さえも不明の人物となっている。ひょっとすると、仕事等で欠席を強いられているのだろう―」

 バスターは、朱槻 焔が経歴不明と言うデータを見て、もしかすると…と思っていた。

「お前が何故、この ゲスト席に?」

 黒沢はバスターが 特別ゲストとして呼ばれた理由が分からなかった。第1次予選を前にして予備予選に落ちた様子もなく、身体の方も怪我で途中棄権をしたような外傷は特に見当 たらない。では、どういった理由で…。

「理由は、この結果 を見れば分かる―」

 黒沢に一枚の DVDを手渡すと、そのケースのラベルには《第1次予選》と書かれているのだが…?

「では、中身を―」

 バスターに手渡さ れたDVDを黒沢が手持ちのノートパソコンで再生する。

「何だ、この選手は ―」

 黒沢は、そこに 映っていた選手を見て驚きを隠せずにいた。この動きは、自分が過去に予選で見せた動きと似ている…と。

「自分がスコア差で 予選落ちしたのは―彼女が異常なスコアを叩きだしたからだ。結果を見れば、それが分かる」

 

 その一方、朱槻焔 はスタジオとは別の場所にあるゲームセンターにいた。

「あいつ凄いな―」

「おいおい、この曲 は段位を持っているプレイヤーでも苦戦する曲だと言うのに…」

「一体何者―?」

 周囲のギャラリー が1台のゲーム筐体の周りに集まっていた。

 先程のギャラリー を遠目から夏乃ツバサが見ていたのである。彼女も別の用事で焔と同じゲーセンへ向かっていたのだが、まさか遭遇する事になるとは計算外だった。

「これは偶然と言う べきなのか―」

 プレイを終えた焔 が近くにいたツバサの方を振り向く。どうやら、焔にはお見通しだったようである。

 

「まさか、同じゲー センに来ていたとは―」

 ツバサはゲーセン 内の休憩スペースで焔と話をしていた。

「ミュージックユニ オンのテレビ出演は、特に強制力がないとシオンに―」

「こちらも同じ理由 だ。自分の場合は、外部にプロフィールを一切公開していない所も大きかったのかもしれない」

 2人の会話は盛り 上がるのだが、ツバサが本題を切りだした。

「掲示板で妙な噂を 聞いたけど…」

 ツバサがノートパ ソコンで1つのニュース記事を開き、それを焔に見せる。

【お笑いグループ A、バラエティー番組で右足を骨折し、全治3週間―】

 記事の内容は、 ミュージックユニオンの裏で放送されている同じようなアトラクション型バラエティー番組で、参加者として出演していたお笑いグループのメンバーが右足を骨 折したという記事だった。

「ミュージックユニ オンのアレは、どう考えてもテレビアニメや特撮の世界とも言うような技術で出来ている。それを下手に真似しようとすれば、こうなるのは当然だろう。おそら くはシオンも同じ事を考えて、簡単に模倣されないように色々と対策をしていたのだろう。ミュージックユニオンを真似ようとした地点でテレビ局側は失敗した のかもしれないだろう―」

「どちらにしても、 バラエティー番組でアトラクションを扱う物には事故が付き物…という考え方ですか?」

「ミュージックユニ オンでも不正な改造を施したパーツの使用を禁止しているのは、事故防止と言う観点から…と言われている。実際には違う理由で禁止していると言う話を掲示板 でも聞く位だ―」

「どんなものにも、 取り扱いを誤ると重大な事故や事件につながる…ミュージックバーストも使用者次第では悪魔の兵器にも変化すると言うのはウソでは―」

「超有名アイドルが 一度の不祥事が影響して即座に解散、アレの裏には何かあるのは事実だと思うが…超有名アイドルに偏見を持っている一部の別グループファンか芸能事務所辺り が誘導したのでは―」

 焔の話を聞いたツ バサは、掲示板でも同じような事を聞いた事のあったようなデジャブを思い出した。

「掲示板で聞いた話 だと、別の世界では超有名アイドルが出演したドラマで特定の人物や思想を批判するような発言があったとか…そんな話も聞いたような気配がするけど―」

「別の世界…その原 理を【世界線】と呼称している掲示板を見かけた事がある。難しい内容ばかりで理解するのは難しかった」

 並行世界の考え方 として世界線という単語が使われるようになった…とされているが認識度合いはパラレルワールド等と比べると広まり方としては弱い部類になっている。

「世界線…そう言っ た理論がある事は聞いた事はあるけど、並行世界か―」

 ツバサは考えてい た。超有名アイドルが存在しない世界、超有名アイドルばかりで音楽業界が崩壊してしまった世界、超有名アイドルが…。

「タイムパラドック スの考え方も、一種の並行世界なのかもしれない。それを踏まえると掲示板に書かれていた世界の可能性や世界線の概念、そう言った部分も自分達の世界とはか け離れた存在なのかもしれないだろう」

 焔は他にも言い残 そうと考えていたが、時間も少なくなっている為か、家へ帰る事にした。時間はいつの間にか8時になっている。

「この世界とは違う 考え方―」

 ツバサは焔の話を 聞いて何かが引っかかっていた。超有名アイドルという型に当てはまらない音楽業界の可能性を…。

「超有名アイドルに 依存を続ける日本は、いつかニュージェネレーションを生み出そうとしても結局は同じ展開になってしまう。ならば、いっそ…」

 

 本戦が放送される 前日、西新井近辺にて破壊活動を行っているデジタルクリーチャーを目撃したという掲示板の情報があった。当初は誤報の類と思われていたのだが、昼の情報番 組では一部のテレビ局を除き、全てが同じニュースを報道していた。

『おいおい、あの話 は本当だったのか―』

『この期に及んで、 アヴェンジャーは何を考えている―』

『超有名アイドルに 悪いイメージがはられるのは明白か―』

『もしかすると、超 有名アイドルを排除しようとしている男性アイドルグループのファンや演歌勢の陰謀かもしれない』

『さすがに陰謀説は ないだろう。しかし、この事件は音楽業界以外の分野でも深い爪痕を残す可能性があるだろう―』

 掲示板では色々な 話が書かれ、遂には超有名アイドルがこの世から消えて…と思うような一般市民もいた位である。

 

「超有名アイドルの 復活を企む悪の組織を確認、これから排除を開始します―」

 西新井に姿を見せ たのは、黒髪のショートヘア、青いジャケットと同じカラーで構成されたウエストポーチ、大型の槍、キャップにはHAYATOと英語で書かれている―。

「貴様、ガーディア ンか?」

 彼の存在に気付い た1人がデジタルクリーチャーを彼に差し向ける。しかし、彼がデジタルクリーチャーを見てひるむような様子には全く見えない。そして、彼は槍を構え―。

《エクストラコー ド:ヴァルキリーランス》

 ミュージックユニ オンで見かける量産型や簡易型ミュージックバーストとは明らかに違うようなシステムボイス…それを聞いた周囲のメンバーは恐怖する。

「こいつ、ミュー ジックユニオンの参加者とは全く違う…話が違うじゃないか!」

 デジタルクリー チャーを一瞬で消滅させた青い閃光―ヴァルキリーランス―が一直線に自分めがけて飛んでくる。予測可能、回避不可能とも言えるようなスピードに防御の体勢 を取ったのだが…。

「馬鹿な…ミュー ジックバーストはデジタルクリーチャーにのみダメージを与える武器だと聞いていたが、実際の人間にもダメージを与える事が出来るのか?」

 別の人物は、目の 前にいた人物が吹き飛ばされたのを見てミュージックバーストとは全く別物である武器の出現に恐怖した。

「ガーディアンは超 有名アイドルと日本を不況へと導こうとする悪の存在を許さない。超有名アイドルを復権させようと考えているのならば、ガーディアンが全てシャットダウンす るまで!」

 わずか20分弱で 今回の事件を主導した犯人グループを全て撃破、更には首謀者を警察とは別のガーディアン組織に引き渡して事件は30分弱と言うハイスピードで解決をしたの だが…。

『あいつの武器、本 当にミュージックバーストなのか?』

『明らかにデジタル クリーチャー以外にもダイレクトでダメージを与えているように―』

 掲示板等で一連の 実況を見ていたネット住民は、彼の槍がミュージックバーストなのか…と言う部分に疑問を持っていたのである。

『あれがミュージッ クバーストの違法改造された場合の威力なのか?』

『違法改造にプラス して、オリジナルの能力とすると…相当だな』

『あれだけの威力が あれば、戦争も軽く起こせるレベル―?』

人間には一切ダメージを与えない仕様となっているミュージックバース トとは真逆のコンセプトで作られた謎の人物が使用した謎のミュージックバースト…。この件に関しては多くの仮説がネット上で出回ったが、どれも真実に近づ いている物は存在しなかった。

 

 本戦の放送当日、 一連の事件に関しては朝のニュース等でも大きく取り上げられた。さすがに週刊誌等は間に合わなかったが、新聞では記事の差し替えで今回の事件を一面に掲載 する等の対応を取った。

「予想は出来ていた が、こうも対応が早い物なのか―」

 このニュースを見 て驚いたのは、アヴェンジャーの腹心とも言えるチェイサーだった。

「下手をすれば、ア ヴェンジャーも彼らと同じ低レベルの組織と認識される事も時間の問題と言う事か」

 チェイサーは彼ら の早まった行動がアヴェンジャーの認識を変え、超有名アイドルをこの世界から完全に排除しようと言う流れを呼び起こす結果になるのでは…と。

 

「これがガーディア ンのやり方か―政府に超有名アイドルを完全排除させようという誘導をしているようにも見える…」

 今回の事件に関し て、シオンは超有名アイドルを完全排除して別のジャンルが音楽業界を牽引させるような誘導を仕掛けているのかもしれない―そんな流れをガーディアンの行動 等から読み取っていた。

「あの掲示板でも、 超有名アイドルの行き過ぎた商法に疑問を持つ世界が複数あり、超有名アイドルを完全撤廃した世界や超有名アイドルだけに50%を超える消費税を加える等の 可能性が示唆されていた。彼らの世界と同じ末路をたどるのか、それとは別の可能性を見出す事が出来るのか…。ガーディアンは完全撤廃の可能性を歩もうとし ているのは―」

 シオンが考え事を している途中、メールが届いた事を知らせる着信音が鳴った。

《予想外の人物が現 れた》

 メールの本文も、 いたってシンプルで件名以外にはURLアドレスが貼られているだけだった。アドレスを見ると、有名動画サイトの物らしいが…。

「この人物は確か ―」

 該当アドレスの動 画を見ると、そこには常識を春香に上回る速さで動く1人の人物が映し出されていた。

 

 動画に登場してい た人物の名前は、フリーズと言う。別の世界でも同じような名前の人物がいたような気もするが、それは気のせいだと思われる。

「この動き…只者で はないか」

 動画を見ていた黒 沢が驚く。フリーズと言う名前は、動画サイト以外でも有名な人物である為に目にする機会は多い。この人物はダンス動画等でも、同じ業界にいればその名前を 知らない者は希少とまで言われる…それほどのレベルを持つ有名人だった。

「あの身長で、この 動き…」

 シオンが驚いたの は、この人物の身長だった。男性でも長身と言われる推定190センチ…それで、あの素早い動きを可能としているのである。体格もスマートであり、何処に素 早い動きを再現できる体力があるのか…と思わせる。

「あの身長では、相 当の筋肉が付いていたりしないと体力は足りない。しかし、この人物の体格を見る限りでは―」

 黒沢もフリーズの 体格には疑問を抱いていた。パワードスーツを着て、あの動きならばミュージックユニオン限定の話ではあるが納得がいく。しかし、この動画はミュージックユ ニオンの予選風景であるのは事実だが、この人物がアーマーを装備しているような風には全く見えないのである。

「あの服の裏に仕掛 けがあるとしても、あの体格では隠しきれない。別の何かを持っているのは間違いない事実か―」

 シオンはフリーズ を泳がせ、事の真相を探ろうとも考えていた。

 

 ネット上ではフ リーズ以外にも話題となっている単語があった。

『オークション規制 法案か。確かに超有名アイドルのCD特典だけを転売する出品者の存在も超有名アイドルにとってはマイナスポイントだったからな。これは歓迎すべきか』

 オークション規制 法案、それは超有名アイドルのCD特典である握手会の参加券や生写真と言ったグッズ等を大量に転売する事等を禁止し、警告を無視して違法出品を繰り返した 者を永久追放する事が可能な法案だった。

これによってオークション離れを起こしてネット通販を利用している 100%に近い99%のユーザーを安心させる…としている。実際に可決したとしてこれを守るユーザーがいるかどうかは疑問視される。

『結果として、大手 を含めてオークションサイトは完全撤廃、残るのはネット通販サイトや大手の中古ショップ辺り―この法案の狙っている所は、そこだろうな。行き過ぎた超有名 アイドルの支配下から脱却する為に―』

この規制法案が狙っている所は別の箇所にも存在していた。超有名アイ ドルグッズを餌にして他の商品を抱き合わせで買わせようとするユーザーが大量に出没した事、それらを先導している業者の存在も明らかとなっており、警察も オークションサイト全部を家宅捜索している最中である。

 

『こっちのソーシャ ルゲーム規制法案も超有名アイドル絡みとはいえ、ここまでするのかと言う内容になっているな―』

 ソーシャルゲーム 規制法案の方は、大体の部分で超有名アイドルが原因と思われる部分もあったが、それ以上に未成年者が1万円以上の超有名アイドル絡みの課金アイテムを複数 買いこんでオークションで転売するケースが後を絶たなかった。素案では、ソーシャルゲーム用のIDカードをログイン時に必須とし、カードの取得は15歳未 満では習得不可能とする厳しい物になっていた。その上、違反者は実名公表、生体認証の実装を義務化する事等も明記されている。

『生体認証か…。最 近はありとあらゆる物に生体認証を導入すべきと叫べば、一般市民が同調して規制を強化してくれると勘違いしているような人物も存在している―』

『ありとあらゆる物 に免許制を…と言うのも聞いた事がある。全てが超有名アイドルの影響と言う訳ではないが、【超有名アイドルが一番悪い】と叫べば都合よく処理されるのも危 険な思想と言うか―』

『どれもこれも、超 有名アイドル商法に便乗して急成長した分野ばかりじゃないか。自業自得と言われれば、それまでなのだろう』

 それ以上に騒がせ ていたのは、一連の事件やニュース等でもなじみの深い存在となっていたガーディアンだった。

『そんな超有名アイ ドルに頼り切った現状を打破しようと考えたのが、あのガーディアンだったというのが一番の驚きか―』

『今の音楽業界とい うよりも、ほぼ全体の9割近い業界が超有名アイドルに依存しきっている。彼女達が解散した場合の事は全く考えずに事業等を拡大した結果、ガーディアンに代 表される反超有名アイドル商法の受け皿を作ってしまった事を―』

『噂によると、過去 にも反超有名アイドルを掲げる思想の人物は出てきた。ガーディアンより規模は劣るが―。それでも超有名アイドルが今まで残って来た理由はなんだ?』

『こういう事は言い たくはないが、全て金の力で黙殺しているのが大体の予想だろう。他の世界では違う手段が使われたと言うが―』

『さすがに暗殺のよ うな事をすれば、間違いなく大事件になるか。それこそ、超有名アイドルは誰の目から見ても滅亡する』

『超有名アイドル1 組で、1京という国家予算10年分以上の莫大な金が動いたと言う噂も聞く。超有名アイドルに依存するな…と仮に言ったとしても、既に手遅れだったという事 なのか』

『超有名アイドルを 利用した投資詐欺、CDチャートの誘導、ファンクラブによるCD買い占めでミリオン連発、遂には他のアイドルのCDに超有名アイドルの握手会のチケットを 入れる等の抱き合わせ商法…グレーゾーンも超有名アイドルが関係していれば無罪放免という情勢―それ自体が正義の行動とゆがめられてしまった事も原因に ―』

 ネット上でのやり 取りは続く。中には別の世界では犯罪であるような事まで語られ、それはミュージックユニオンの放送が始まるまで続いていた。

『この掲示板のやり 取りが、全て架空の出来事や外れる事が前提の予言であれば…こんなに不安と思う事もないのに―これらは全て現実に起ころうとしている。これでは、同人楽曲 や音楽ゲーム楽曲の方が…』

『最近では、有名な ランキング会社が超有名アイドルと男性アイドルグループの2組だけの独占的な広告塔になり下がっていると言う話もある。これでは、音楽業界離れが起きるの も当然の話だろう―我々の求めている音楽は動画サイトで活躍するプロデューサーの楽曲や同人楽曲、同人ゲームの楽曲だけになると言う事になる』

『それ以上に、 K―POP勢も日本に進出している事を考えると、ますます同人楽曲や音楽ゲーム楽曲の方に流れる音楽ファンが急増するようにも見えてくる。別の世界でも似 たような事は既に出始めている―』

『他に話題になった と言えば、同人ではないゲーム作品の架空アイドルがCDチャートに旋風を巻き起こした事だろう。超有名アイドルばかりのチャートに風穴を開けたのは非常に 大きな意味を持つ事になると思う―』

 これらの出来事は 全て予言等であって欲しい…と考えるユーザーは多かった。ありとあらゆるものが免許制となり、習得するには20歳にならなければいけない。更には事故や犯 罪等が起こる可能性のある者は全て規制され、行動が全て制約を受けてしまう事も…。

『こうなってくる と、魔法や錬金術等が日本でも主流になるのだろうか?』

『それが一番あり得 ないだろう。第一、魔法が使えたとして、それを制御できる技術を作り出す事が日本に可能なのか―』

『そういえば、話の 流れを切ってしまうのを百も承知で聞くが、イザナギの使っていた技術を科学で証明出来るのか?』

 イザナギの名前が 出てくる頃には、既に放送がまじまっており、何人かの参加者が登場した後だった。

『あの技術を証明す るには―』

 別のユーザーが説 明を書くが、その頃には注目選手が登場し―。

 

「次に登場するのは フリーズ選手―」

 このアナウンス に、スタジオからは驚きの声もあった。

 

         1―2

 

 フリーズ、この人 物も黒沢と同じく音楽業界の未来等はどうでもよい一方、賞金目当てでもない珍しい参加者でもあった。

「目的はイザナギを 見つける事―」

 

 フリーズに関し て、動画サイトで踊ってみた動画をアップしている以外で特に目立った活動は不明となっている。そして、踊ってみた動画で常人では難しいと言われるようなス ピーディーな動きを披露しているのだが…。

『男性じゃないの か?』

『あの動きを見る限 りは女性に見える』

『どちらにしても動 きは超人クラスじゃないか―』

 動画に付けられた コメントを見ると、この人物が男性か女性か…という部分で議論が展開されているように見える。

『そんな動きをスー ツなしで披露しているとなると、スーツを装着した時の動きがどうなるのか見者ではあるか…』

 

 北千住に現れた謎 の人物であるイザナギしか興味がない―と判断されても仕方のない事をフリーズは、とあるつぶやきサイトで発言した事でも話題となっていた。

《音楽業界には興味 がありませんが、北千住に現れたイザナギと言う人物…自分は彼を超えたいと―》

 イザナギが見せた 異常とも言える動作、更には美しさよりも強さを重点に置いたデザイン…フリーズは一目ぼれをしていた。

「イザナギは、私が 超えるべき存在―」

 そして、フリーズ の競技が始まったのである。イザナギを超えた先に、フリーズは何を目撃するのだろうか…?

 

 今回の競技はス ピード&シューティングという200メートルの直線距離を完走する事が最終目的になる。しかし、左右からは無数のターゲットが出現、ターゲットを撃破しな がらゴールを目指すか完全無視でゴールをするか…その選択が求められる。制限時間が10分となっており、ゆっくり敵を撃破していても時間切れで失格になる と言う―。

「既にフリーズ選手 以外には、2名が残っている訳ですが―」

 アナウンサーはゲ スト席にいる黒沢に話題を投げる。それに対して黒沢は…。

「彼の予選風景を見 る限りでは、残っている2名でも決勝の椅子が確実に手に入るとは限らないでしょう。それほどにフリーズの動きは一般常識では測れない部分があると言う事で す―」

 フリーズが持って いた武器は、何と自分の背丈を超えるような狙撃用ライフルだった。

『あんなライフルで 敵を撃つ気か?』

『狙撃で敵をある程 度撃破、その後に200メートルを走ると言う事だろう』

『よく見ると実弾発 射式ではなく、ビーム発射型のようだ。どちらにしても重量の影響で走るスピードは落ちるだろうが―』

フリーズが持っていたのは、実弾を発射するようなタイプではなくビー ムライフルと同じと言う事らしい…。折りたたむと2メートル弱なのだが、砲身を含めて全て展開した場合には3メートル以上になる。単純な重量計算をしても ―。

『そう言えば、武器 にも重量規定があったような気が…?』

『重量は鈍器にもな るような形状の武器に限って殺傷力を持つレベルで重くしてはいけないと言うのは設定されているが、あれは射撃武器扱いだからな―』

『どちらにしても、 途中で武器を投げ捨てて走り抜ける事も事実上は可能―』

 ネット上では、フ リーズの狙撃ライフルでは走る部分で大きなマイナスがあるという結論になっていた。敵の撃破に関しては、時間切れに近くなったら諦めると言う選択肢もあ る。

「これは…正気で しょうか?」

 実況も兼ねている アナウンサーが、フリーズの行動に疑問を持っていた。彼は先程準備した狙撃用ライフルとは別のアサルトライフルを用意したのである。狙撃用ライフルを両手 持ちにすると考えていたネット住民や観客も驚きの声を上げる。

『その発想はなかっ た』

『狙撃用ライフルだ けでも重量が50キロ近くはあるだろう。そんな中で二丁拳銃か―』

『だが、あの体制で もよろけるようなリアクションを1つも取っていない』

 一番驚くべきは、 フリーズが超重量の狙撃用ライフルを持っていても体制が崩れる事無くスタート地点へ向かっている所である。

『狙撃用ライフル が、あの大きさで大幅な軽量化がされているとは考えにくい。一体、何者だ?』

『他の選手もトンデ モ兵器を使っていた事があるからな、何もおかしい所はない―』

『慣れと言うのも恐 ろしいな。CDチャートで超有名アイドルが当然のように1位を取っているのが当たり前だった事もあったが、今では同人楽曲が上位を独占している。セールス 的には超有名アイドルのソレとは全く違うが、ネット上の評判は良いと聞く。超有名アイドルがファンによる組織票で評価を稼いでいたのが目に見えて、ファン 以外が意図的に評価を下げるのを狙って最低評価を付けると言う展開が何度もあった。そう言った楽曲とは違う所での騒動が音楽業界その物を崩壊させてしまっ たという事を芸能事務所等は反省すべきだ―』

『フリーズと言う名 前に聞き覚えのあるような気配がするが…気のせいか』

 ネット住民等が見 守る中、フリーズの競技が始まろうとしていた。

 

        1―3

 

 フリーズの魅せた 動きは、会場にいた誰もが驚愕をした。ネット住民も言葉が出ない状態である。

『踊ってみた動画の 時に見せた動きと違いが見えないと言うか…あの狙撃用ライフルを持った状態で同じ動きが出来る物か?』

『自分の目の前に出 てきた敵だけを正確に撃ち落とし、そのまま走り抜けるとは―』

『これは考察動画の 必要性が出てくるレベルになりそうだな。あの動きは、他の参加者にとっても脅威となりうる』

 

「今の動きを、もう 一度ご覧ください―」

 アナウンサーもフ リーズがゴールをしてから数秒間は言葉も出ない状態だった。そんな中で、スロー映像でフリーズの動きを振り返る事になった。周辺の観客も動きが早すぎて目 が付いていけない人も何人か確認されていた。ゲスト席の黒沢達はかろうじて確認出来るレベルだったが…。

「これだけの動き、 スーツの補助がなければ不可能に近い…」

 スロー再生を見た 黒沢は、その素早い動きに驚くしかなかった。ライフルの重量がどれだけあるのかは不明だが、仮に50キロや100キロと言う規模になると、あのスマートな 体格で支えられるのか…という問題も浮上してくる。

「資料によると、背 広の裏に強化型スーツを着ているらしいと言う事ですが…重ね着をしているような風には―」

 アナウンサーの手 にした資料を見る限りでは、強化型スーツは装着しているらしい。その上で…踊ってみた等でも披露している魅せる動きを完ぺきにこなしている。まるで、何か に刺激を受けた―。

 

「只者ではないよう だけど―僕には到底及ばない。僕は、超有名アイドルを全て抹殺するという目的があるが―」

 観客席から大分離 れた舞台裏、そこには一人の人物がいた。帽子に書かれたHAYATOというロゴを見る限りでは―。

「予想外の客が、 ミュージックユニオンに来ているとは予想外だった―」

 彼の目の前に現れ たのは、本物のイザナギだった。北千住に出没したパワードスーツは装備していないが、彼の着ている背広に付いているネームプレートにはイザナギとはっきり 書かれている。まるで、正体をオープンにして何かを狙っているかのように―。

「イザナギ―。僕の 考えは今も変わる事は全くない。君の目指す音楽業界は理想論の押し付けに過ぎない―」

「だからと言って、 超有名アイドルと男性超有名アイドルを完全排除する事が…果たして正しいのかどうか―。そんな魔女狩りのようなやり方で音楽業界が変わると本気で思ってい るのか?」

「他の世界線では音 楽業界が全ジャンル共存で立て直した世界もあるだろう。だが、この世界では他の世界と違って超有名アイドルは音楽業界に害なす存在になっている。今の内に 政府が超有名アイドル関連事業に200%を超える税金を付ける等の追加策を立てなければ、間違いなく音楽業界は崩壊する」

「平行線か―オー ディーン」

 オーディーンとイ ザナギに呼ばれ、彼はイザナギを鼻で笑ったような仕草をした。

「オーディーンか… 悪くない。これからは空野ハヤト改め、オーディーンと名乗るか」

 空野(そらの)ハ ヤト、彼は過去に何度も超有名アイドルがCDチャート上位を独占する度に、この傾向を続ける音楽業界は一度リセットするべきだ…と訴え続けていた。原因は 不明だが、アヴェンジャーのような組織やフーリガンや転売屋、投資目的が大半と言う超有名アイドルファンに対して憎悪を持っている事が、その原因とされて いる。そこまで彼が超有名アイドルを憎める事を羨ましく思う人間もいる一方で、彼と敵対する超有名アイドルファンは数多い。しかし、彼の正体が全く読めな い為に尻尾を出すのを待っていると言うのが現状である。下手に他のファンを巻き込んで、超有名アイドルだけが絶対悪になる事を恐れているのだろう。

 

しかし、現実は非情であった。

 

「彼のような存在を 生み出した事が、超有名アイドルにとっては誤算だったのかもしれないだろう。後に、一般市民は超有名アイドルの人気が本物なのか疑うようになり、独自に調 べた結果で彼の記事にたどり着いた。最終的には、超有名アイドルが政府の手によって規制されるまでに至った。ここまでの大事になるまで放置されていた事も 問題だが、ここまでの大事になってから過ちに気付いた芸能事務所も無能の集まりだったと―。こんな愚痴を言っても状況は変化しない。そこから再び全ジャン ル共存の道を作る、それが自分に与えられた使命―」

 オーディーンの 去った方向とは逆―会場の外へイザナギは向かった。その頃には全てのメンバーが競技を終了し、結果としてはセナとフリーズ、他数名という8人による決勝と なっていたのである。

 

「この8名から、最 後の椅子を手に入れる1名が決まります。果たして、栄光を獲得するのは誰なのか―来週をお楽しみに!」

 トリのマイクパ フォーマンスを展開しているのは、アナウンサーと一緒に司会を積めるユニオンと言う女性だった。ユニオンと言うのが偽名かどうかは不明だが、制服に付いて いる名札にはユニオンと書かれている。

『この8人だと、フ リーズが大本命だろう』

『そろそろ、セナに は最後の椅子を手に入れて欲しいと思っているのだが…今までが惜しい所まで残って脱落という事も―』

『他の選手も能力的 には優劣は付けづらいだろう。黒沢みたいなリアルチートがいるのであれば話は別になるが』

『それを考えれば、 黒沢が早い段階で椅子を獲得したのは喜ぶべき事なのか―』

『一度でもファイナ ルの椅子を獲得した選手は、どんな理由があっても残りの大会に出場は出来ない…だったか』

 ネット上でも、今 回の決勝に関しての議論がヒートアップしている。それを踏まえ、こんな意見が投げられていた。

『ファイナリストが 決まったとして、最終的にミュージックバーストを手に出来るのは誰なのか―?』

 ファイナルを勝ち 残った者が、ミュージックバーストを手にする事が出来る。大会の規定には、そう書かれていた。